220話 未来のテニス界を盛り上げるためには
『──未来のテニス界を盛り上げるために決まってるじゃない!』
テニス界が盛り上がらないと、賞金が減額されたりスポンサーからの契約料が減って、私の懐に入ってくるお金にもダイレクトで響いてくるんだよ。
お金という俗物的なモノは、選手にやる気を出させる、モチベーションに直結するということですな。
というか、テニス界が盛り上がらないと、裕福な家庭の出である私よりも、一般家庭出身で下部ツアーをドサ廻りしている、ランキング下位の選手の生活が苦しくなります。
その逆で、テニスの人気が上がれば、スポンサーからの契約料も上がって、それが大会の賞金にも反映されやすくなるのです。
グランドスラムの賞金を見直して、予選や本戦のR128、R64の賞金を手厚くしたのは、中堅以下の選手の待遇改善を図る意味においても、英断だったと思います。
まあ、その分のしわ寄せで、優勝賞金を減額してたのはいただけなかったけど。
現在プロツアーの最底辺は、ITFサーキットの15k大会ですけど、これは賞金総額が1万5千ドルの大会だから、15kと呼んでいるわけですね。
そして、この15k大会で優勝したとしても、賞金は2,352ドルしか貰えません。
R32の初戦敗退だと、たったの147ドルですよ?
移動の交通費とホテル代だけで、大赤字になります。
なんだか、私の前世の最後のほうがそんな感じで、ヒイヒイ言っていたような気もしましたけど、虚しくなるからもう忘れましょう。
それで、15kから40kまでのグレードの大会で、どれぐらいシングルスで賞金が貰えるのかといいますと……
15k
W 2,352
F 1,470
SF 734
QF 367
R16 294
R32 147
25k
W 3,935
F 2,107
SF 1,162
QF 672
R16 408
R32 244
40k
W 6,095
F 3,258
SF 1,789
QF 1,029
R16 623
R32 370
こんな感じで、単位はUSドルになります。
40k大会の賞金は、そこそこ貰える感じもするけど、やっぱ15k大会は少ないよなぁ。
15k大会で初戦敗退ばかりだと、週給147ドルでっせ?
日給じゃなくて週給で147ドルは、いくらなんでも厳しすぎる。
そら、八百長の誘いに乗ってしまう選手が時たま出てくるわけだよ。
現実問題として、テニスで稼げないんだもんね。
そして、15kや25kのドサ廻りから抜け出せない選手の大部分は生活が苦しいから、それなら普通に就職して働いた方がマシだと、さっさとテニスに見切りをつけて引退してしまうのですよね。
これでは、テニス界の底辺が広がらないから、将来的に先細りしてしまう可能性があると思います。
もっとも、プロの世界は弱肉強食の世界で、才能のない弱い選手は淘汰されるのがプロの摂理で、新たにプロの世界に入ってくる若い選手との入れ替えという役目を、15kと25k大会が担っている側面も否定できないんだよね。
しかしそれでも、もう少しドサ廻りをしている選手の待遇を改善したほうが、テニス界にとってプラスになると思うんだよなぁ。
そう、底辺の裾野が広いほうが、頂点も高くなるはずだからね!
つまり、私の利己的な考えをオブラートに包んで、利他的なおためごかしにしちゃおうということですな。
そうか、偽善とは、こうやって生まれるんだな。
一つ勉強になったよ。
しかし、やらない善よりやる偽善ということで、ITFサーキットに新たなグレードとして、40k大会も新設されたことだし、既存の25kを40k大会に、15kを25k大会に格上げできないものですかね?
そうしたら、ひいこらひいこらと汗水たらして、ドサ廻りをしているランキング下位の選手の生活も、多少は改善されるような気がするんだけどなぁ。
私がグランドスラムで活躍して発言力を持てるようになったら、私の自腹でも構わないから、15k大会に1万ドル上乗せして、25k大会として開催できるように、ITFに掛け合ってみるのもいいかも知れません。
ポイント的に15k大会の開催が譲れないのであれば、交通費の補助やホテル代とかのホスピタリティが付く+Hの大会があるように、賞金をプレミアで特別に増額した+Pの大会を新設するとかの方法もありそうですね。
そうすれば、現役でドサ廻り中の選手からの支持はうなぎ上りで、将来的にたまきちゃんの、ITF会長の座は間違いなしだと思います!
でも、私が自分から率先してポストを要求するとか、そんなあからさまな行為はしないけどさ。
まあ、金で名誉を買う行為に近いのは、認めるけど……
しかし、下部ツアーの賞金の増額には、八百長を防ぐという意味合いも含まれているのですよ。
もっとも、15kの賞金が25k並みになったところで、たかが知れているとは思いますけど、手をこまねいていて何もやらないよりはマシでしょう。
日本国内で開催される女子の15k大会は、年間で8~10大会程度だったかな?
つまり、最大で年間10万ドルの出費ということになります。
いまの私だったら、10万ドルの出費は別に痛い金額ではありませんので、数年のうちには+P大会を新設してみたいですね。
グランドスラム本戦の初戦で敗退したとしても、10万ドル近く貰えちゃいますもんね。
あと、砂入り人工芝で開催される場合は、ノーセンキューにさせていただきましょう。
砂入り人工芝は、ATP/WTAでは公式に認められてないサーフェイスだもんね。
砂入り人工芝を開発したオーストラリアでは、とっくの昔に廃れているサーフェイスなのに、まだ日本では主流サーフェイスなんだよなぁ。
もう完全に、日本独自のガラパゴスサーフェイスになっちゃってますよ。
私は砂入り人工芝って、てっきり日本が独自に開発したモノだとばかり思って勘違いしていましたしね。
欧米人でも昔を知る年配者以外は、日本独自のサーフェイスだと勘違いしているぐらいですからむべなるかな。
それぐらい、砂入り人工芝のコートは日本に馴染んでしまっているということです。
どうしてこうなった? やっぱ日本は雨が多いせいかな?
それでも、最近は日本国内でもITFサーキットの大会は、ハードコートで開催される大会のほうが多くなってきたことは、朗報だと思います。
もしかしたら、新規で大会を開催する場合は、砂入り人工芝での開催をITFが認めてないのかも知れませんね。
まあ、詳しいことまでは知らんけどさ。
でも、私がITFの会長だったら、絶対に認めないでしょう。
あと、ジュニアの大会は、まだまだ砂入り人工芝で開催される大会も多いんだけどね。
それにしても、仮に私の案が通ったとしても、日本だけじゃなくて他の地域でも、+P大会を開催しろとか言われそうな気がしないでもない。
公平性を期すためにも、ほぼ確実に言われるんだろうなぁ。
でも、他の地域は、その地域のトッププロの縄張りだと思いますので、正直に言えばクリスやシュタイナー、ウィンストンとかの大物選手に、お任せしたいところですね。
男子のほうは、知らん。
男子は男子のトッププロに頑張ってもらいましょう。
というか、こういった話は本来であれば、新米プロで子供の私が心配するよりも、男子のトッププロでテニス界の大御所が音頭を取って、やらなければいけない話だと思います。
でも、外人さんって、「貧乏が嫌なら早くドサ廻りを卒業して這い上がって来い!」とか、スパルタの感じがするんだよなぁ。
最初は自分もドサ廻りを経験してきているのだから、それを熟すのが当たり前で、成功した者のみが大金を掴む権利があるという、文化の違いなんだろうね。
外人さんって、オールオアナッシングとか好きそうだもんね。
それに比べて、日本人は多少過保護なのかも知れません。
そう考えると、貧乏な生活に耐えながらドサ廻りを経験しないと、ハングリー精神が育たないという欠点に繋がるのか?
ハングリー精神の欠如は、勝利への飽くなき欲求が低下するとかのデメリットがありそうですね。
まあ、私の場合は、いきなり100kとWTA250で優勝しちゃったから、ドサ廻りの経験すらしてないんだけどね。てへっ。
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『テニス界の未来を盛り上げるねぇ。タマキはそこまで考えていたんだ。ちょっと見直したかも』
『アナスタシアは、私をどういった目で見ていたのかな?』
小一時間ぐらい正座させて、懇々と問い詰めてやろうかしら?
『テニスに勝てて楽しければ、それでいいみたいな?』
『プレーをしていて楽しくなければつまんないから、それも否定はしないよ』
『それで、私にクリスやシュタイナーみたいな選手に成れと?』
そこまでは言ってませんがな。
『私がいるから、アナスタシアは準優勝が多くなるとは思うけどね』
『言うじゃないのよ…… まあ、タマキらしいとは思うけど』
つまり、残念ながらもアナスタシアは、私の引き立て役ということですな。
主演も助演がいなければ、成り立たないからね!
『それで、私はヒッティングパートナーのサナダさんと練習するだけの予定だったから、アナスタシアさえ良ければ私は構わないんだよ』
『そうね、私としては助かるから、お願いするわ』
『まあ、ファンバステンとシュタイナーに似ているかどうかまでは、わかんないけどね』
『あはは、そりゃそーだ』
アナスタシアには反対の山で頑張ってもらって、少しでもシュタイナーとか有力な選手を消耗させておいてもらいたいところです。
ゲスなたまきちゃん発動?
いいえ、違います。
未来のテニス界を盛り上げるための深謀遠慮で、高度な戦略なんだよ!




