113話 くんくん……
「環希、朝だよー! 起きなさーい!」
「うーん、あと五分……」
ガバッ!
「ほら、さっさと起きる!」
「あい…… ママ、おはよう」
「はい、おはようさん」
朝の6時15分に起床。というか、ママに布団を捲られて叩き起こされました。
このオバサンは、なんで朝からこんなにテンションが高いのでしょうかね?
年寄りは朝が早いとかいうヤツですかね?
まあ、季節は夏至間近なのだから、お天道様はとっくの昔に昇っているのですが。
「あん? なんか言った?」
「い、いえ、ナニモ言てません」
「噛んでるわよ」
相変わらず、ママの第六感は冴えすぎだと思います。
半分寝ぼけまなこで、洗面所に直行。トイレを済まして顔を洗ったら、目が覚めて頭が覚醒してきた。
ふと鏡を見ると、ややつり目がちで勝気な猫系の顔が鏡に映し出されている。
私はムニムニと笑顔を作ってみました。
「今日の私も相変わらず美少女だね。うん、たまきちゃんは可愛い」
むにむに……
ストレッチをしながら、ついでに自分の胸をムニムニと揉んでみる。
これも日課の一つです。
うん、こっちのムニムニも手に収まらないぐらいには、無事に育ってきているらしい。
なんで自分の胸を揉むのかは、未だに解明されない謎だけど……
でも、痴女ではないよ?
70のBはキツイ、75のCはしっくりこない。75のBもなんか馴染まない。
というわけで、暫定ではありますけど、70のCに落ち着いた感じでしょうか?
どうか、ホルスタインにはなりませんように。
でも、ママってかなり大きいからなぁ。75のFとかのタグが付いてるんすよ。
遺伝子的には、ちょっとマズいのかも知れない。
ママも身長が170cm近くあるから、べつに太っているわけではないのだけどね。
アスリートは筋肉質のガッチリした体形になりやすいのですよ。
まあ、私を身籠ってから、産んでから大きくなったのだと、そう考えておきましょうか。
ママも現役時代は、精々Dカップ程度だったんだと、そう思っておきましょう。
現実逃避かも知れないけど……
しかし、おっぱいの大きさが確実に遺伝するとは限らないのだから、たぶん大丈夫でしょう。
おそらく、きっと、めいびー。
ラジオ体操とランニングを済ませてから、サッとシャワーを浴びる。
それから、朝ご飯の時間です。
「いただきまーす!」
「はい、いただきます」
今日の朝食は、卵かけご飯! 生卵は日本以外では怖くて食べられません。最近は海外に遠征している時間も長くなりましたので、日本に帰国して生卵を食べられる機会には貴重なんですよね。
それで、卵かけご飯にのりたま。この組み合わせは最強だと思います。これを味海苔で包んでいただきます。
おかずはアジの開きに、きゅうりの酢の物と胡瓜の浅漬け。サラダはレタスとキュウリとトマトに昨夜の残りのポテトサラダです。
相変わらず我が家は、キュウリ三昧の気がしますね。
あと、表面に切り込みを入れた茄子を素揚げしたのを生姜醤油でいただきます。これがまた美味いんですよね。
お味噌汁は、わかめと豆腐と油揚げのオーソドックスな味噌汁になります。
このごくありふれた和食が朝ご飯だと、これだけで幸せを感じることができるのだから、不思議な感じがしちゃいますよね。
私って幸福と感じる上限値が低いのかな?
でも、ほんの些細な事で幸福を感じられるのだから、些細な事で幸福を感じられない人に比べたら、きっと幸せなことなんだろうね。
ご飯をお代わりをして、今度は卵かけご飯&ゆかりで食べます。これもまた美味しいんですよね。
最後に胡瓜の浅漬けをポリポリと齧って、ほうじ茶をズズゥ~っと飲んで、朝食の終わりとしました。
「ごちそうさまでした!」
「はい、おそまつさまでした」
歯を磨いて制服に着替えて、身だしなみも整えたら、今日はメイプルリーフ・ラグじゃなくて、ジ・エンターテイナーを弾きます。まあ、どっちもスコット神の曲なんだけどね。
エンターテイナーは小学校六年生ぐらいまでオクターブがキツかったなぁ。
~♪ ~♬ ~ ~♩ ~♫ ~ ~♪
でも、この曲も弾くと楽しくなって、朝から元気が湧き出てくるのですよね。
そう、今日も一日元気で頑張ろうって思えてくる曲なんだよね。
明日は同じくスコット神のイージーウィナーズでも弾こうかな?
~♪ ~♬ ~ ~♩ ~♫ ~ ~♪
「いってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい」
朝の7時40分、小机駅。いつもの磯子行きの電車がホームに滑り込んできた。
最後尾の一番端のドアが開くと、ドアの端に優梨愛ちゃんの顔が見えた。
「優梨愛先輩、ごきげんよう」
「はい、おはようさん」
おんや? 今日の優梨愛ちゃんは随分と塩対応ですね。
元気がないとも、少しだけイラついてるともいえるのかも知れません。
これは、アレかな?
「もしかして優梨愛ちゃん、セーラームーン?」
「セーラームーンって環希、アンタいつの時代の人間なのよ。違うわよ」
およ? 違ったんだ。
といいますか、ネタに着いてこれる時点で優梨愛ちゃんも大概でっせ。
「くんくん……」
うん、違うで正解みたいでしたね。
「嗅ぐな、変態!」
えへっ、ゲンコツ食らっちった。
「そっか。不機嫌そうだったから、そうなんだと思ったんだよ」
「なんとなく、空気がね?」
「ああ、そういうことか。先週までパリにいたから、余計そう感じるのかもね」
今の季節は梅雨です。ジトジト蒸し蒸ししているから、不快指数も跳ね上がります。
つまり、優梨愛ちゃんが何を言いたいのかといいますと、「電車の中が臭いんだよボゲェ!」そう言いたかったのでしょうけど、あからさまにはそれを言えなかったと。おそらくは、そういうことなのでしょう。
そう、人の汗や体臭に化粧や整髪料に制汗剤とか、色々とごちゃ混ぜになった臭いが漂っている気がするのですよ。
ガード下のドブ臭さというのか、すえた臭いよりかは、まだマシだとは思いますけど。
そりゃあ、こんな満員電車に毎日揺られていて、ストレスに晒されていたら、みんなの心も荒むよなぁ。
満員電車で通勤通学をしているサラリーマン、OL、学生のみなさん、毎日ご苦労様です。




