92話 新入部員たちの夏休み
小田急線の駅である本厚木駅、その近くにあるカラオケルームの一室は学生でなければ耐えられないであろう温度まで下げられていた。
そこには普段制服を着ているが夏休みとあって私服の5人の男女が集まっている。
先輩3人はダンジョン遠征中。だから新入部員の私、野崎さん、山口くん、田口くん、ルイーズさんの5人で緊急ミーティングと称して集合している。
でも歌う気なんて誰もなく、テーブルの上にはスマホと飲み物だけ。
まだカラオケの初期画面が残ったまま、誰もマイクには触れようとしない。
「じゃーさっそくだけど議題いこーよ!」
明るく声を上げたのは野崎さんだった。
巻き髪でネイルも派手、笑うたびにキラキラしてて完全に陽キャ。けど悪い子じゃない、むしろ誰よりも空気を読んでいる。
「このままの流れでなんとなく活動ってのはヤバいっしょ?うちら新入部員だけの方針固めとこ」
「そうだね。迷ったまま動くのは危ないし」
田口くんが柔らかい声で続く。彼は部の中でも一番優しい性格で、誰が話しても否定しない。
「、、、別に俺は何でも」
山口くんはそっけない。けど女子を見ると露骨に目をそらすクセがあるから、ツンツンしてるけどたぶん人見知りなんだろうな。私と一緒かも。
「ウチ、議題まとめてきたよーっ」
ルイーズさんがタブレットをどん!と置いて笑う。遠慮のないテンションとハキハキした喋り方で場を元気にしてくれる。
「えっと、活動内容、SNS、戦闘訓練、ダンジョン探索、最後にこのメンバーでパーティを組むかどうか、かな」
田口くんが内容を確認した。
全員の視線が、なぜか私に向く。
「っ、な、なんで私見るの、、? 私話し始めるの苦手だって言ったじゃん、、、」
「いや葵ちゃん何か、まとめ役できそうな雰囲気あるじゃん!」
野崎さんはノリで言っている気がするな。
そんな器用じゃないのに、、心臓がうるさい。でも、逃げるのも嫌だった。
「ん〜じゃ、じゃあ、、、まず私たち今後どんな活動するか、から話そうか」
「SNSはさ、優香の玲央が軸でやるのがいいと思う!」
ルイーズさんが元気に宣言する。
「だよね〜♡あたし顔しか取り柄ないけど、映えるから! がんがん投稿するし!」
野崎さんはキラキラ笑いながら言った。
「別に俺は頼まれたらやるけど、、、」
山口くんは女子からの視線を避けながらも、まんざらじゃなさそうだ。
「えっと、その、私の話なんだけどさ」
みんなの注目が向いてきて心臓がまた暴れだす。でも、逃げないと決めてきたんだ。
「わ、私は戦うのあんまり得意じゃないと思うからサポートに回りたいの。動画編集とか、収益とか、そういう裏方の、、、」
一瞬カラオケルームの冷気を感じるほどの静寂。
やっぱり空気壊して迷惑だよねって過った時田口くんがすぐに言った。
「それ面接で言ってたよね!絶対必要な役割じゃん。大歓迎だよ」
その声は優しくて、体の力がふっと抜けた。
「動画編集できるとか最強じゃん! あたしと玲央、顔は良いけど編集力ゼロだからね!」
野崎さんが肩をぽんっと叩く。
「別に、足引っ張るとか思ってねぇよ」
山口くんはこっちを見ないで言う。でもそれはちゃんと肯定の言葉だった。
「サポーターがいないチームはすぐ崩壊するからねっ!」
ルイーズさんが親指を立てて笑う。
私の胸の奥にあった怖さが少しずつ溶けて消えていくのを感じた。
次は戦闘訓練の話。
「田口くんの家って柔道場って言ってたよね?使えたりする?」
「父さんに相談するけど、、、たぶん大丈夫だと思う。初心者向けの護身もできるし、自分も基礎とかなら教えられるよ」
田口くんは控えめだけど頼もしい感じがする。
「それと、昨日までフランスのお父さんのダンジョン関連会社見てきたんだけど、装備とかサポートできるかも! 装備レンタルとか購入とか、格安にできるはず!」
ルイーズさんの明く言った。
「じゃあ、野崎さんと山口くんは探索者資格あるから、、、先にダンジョン入って経験積むのもあり?」
自分で提案しながらドキドキしていた。
二人は顔を見合わせて同時に笑った。
「入るっしょ〜! やる気満タン!」
「危なくねぇ範囲で、行く。足手まといにはならねぇ」
「危なかったら絶対撤退だよ? 無茶はしない方がいい」
田口くんの優しい声に、二人はしっかり頷いた。
最後の議題はこの5人でパーティを組むかどうか。
静寂が訪れて、誰もふざけなかった。
「自分は組みたい。信頼できる仲間の方が安全だし」
一番最初に言ったのは田口くんだった。
「もちろんあたしも! 絶対楽しいもん」
野崎さんが笑う。
「まぁ、チームで動いた方が色々効率いいだろ」
山口くんは目をそらしながらも、ちゃんと乗り気だ。
「ウチはみんなとずっと成長したい! だから賛成っ!」
ルイーズさんは本当に嬉しそう。
そして視線が私に向く。
逃げたくなる。でも逃げたくない。
「わ、私は足手まといになるかもしれないし、戦えないけど、それでも一緒にいたい。役に立ちたい」
一瞬の沈黙。
でもすぐに、田口くんが優しく言った。
「相川さんがいてくれると助かるよ。戦闘だけが強さじゃないから」
「そーそー! 戦えるだけが正義じゃないんだよー♡」
「だから別に問題ないって言ってんだろ」
「サポートあってのチームだもんっ!」
顔が熱くなって、涙がこぼれそうになったけど笑ってごまかした。
「じゃあ、よ、よろしくお願いします」
「はーい! 乾杯ターイム!!」
ルイーズさんがメロンソーダを掲げて叫び、全員が乗っかった。
「結成記念だ!!」
「夏はウチらの時代にすんぞっ!」
「騒ぎすぎだろ、、まぁいいや、乾杯」
「葵ちゃん、これからよろしく♡」
グラスがぶつかった音が、やけに大きく響いた。
歌って、笑って、写真撮って、気づけば最高の夏休みになっていた。
でも胸の奥では、もっと熱いものが燃えていた。
今日が、このパーティが始まった日。
ここから、みんなで強くなる。
5人で未来を作っていく。
あぁ勇気をもってチャレンジしてよかった。
私にとってはこの部活に応募しただけでも頑張った方かなって思ったけど、今日ここにきて、喋って、その先には何があるんだろうか。
ワクワクが止まらない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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