90話 閑話6 ライオネル 後編
挿絵あります。
ピロンッ
《参加を選択した者を戦闘エリアに転送します。参加人数減少のため、第一エリア、エリア内統合をいたします》
オレが戦闘エリアにきた時にはレオニードと、新しく耳の長い白い肌のヤツ、動物の特徴を持ったヤツ、髭のチビが同時に各二名現れた。
ソイツらと共闘し、目の前の敵を倒してまた魔神の侵攻を退けた。
だが、この世界は徐々に魔神の侵攻の影響で暗黒大陸が広がり、ヒューマンが住む場所はもうほとんどなくなっていた。
そして、レオニードから聞いた話では戦績が良ければダンジョンに一万人と一緒に避難できるらしい。
そう言う半透明の板の知らせが来たんだと。
オレには来てねぇぞ、オイ。
レオニードはそれを使い、サイラス領の領民を保護してダンジョンに永住するそうだ。
次の戦闘エリアに行った時、レオニードは真剣な眼差しで話しかけてきた。
「先輩、私は領民を守ります。今回の戦いでこの世界を去ることになると思います。もし良かったら先輩も一緒にいきますか?」
「ハッ、オレが行く訳ねぇだろぉが!オレは何より戦う事が好きな人種だぜぇ?」
「ですよね、聞いてみただけです。そして、こんな状況じゃあの件の罪滅ぼしもまともにできなくて申し訳ないです。先輩の無事を祈ってます。今までありがとうございました。」
そう告げられた。
「おう、まぁ、ありがとなぁ。テメェもぜいぜい死なねぇようにな」
オレはこの一つの別れを惜しむことはない。
まだまだこれから戦えることの方がオレにとっては優先順位が高かったのだ。
そして次の戦いへと駒を進めることとなり、戦闘エリアに行くと、もうレオニードの姿はなかった。
そこからはエリア統合された奴らと共に戦っていくが、そいつらもダンジョンに永住するんだと、徐々に姿を消していく。
最後にはオレだけになっていた。
この世界のどこを見渡してもヒューマンはもう見当たらねえ。
ダンジョンに移り住んだ奴らに置いてかれた奴はもう暗黒大陸のモンスター共に殺されている。
次の戦いまでオレは一ヶ月間モンスターをひたすら殺して、また戦闘エリアで興奮する戦いをし、また戻ってきて殺しまくる。
この繰り返しだ。痺れるねぇ。
ああ、オレはもうヒューマンじゃねぇな。これは。
ついにバケモンの仲間入りか。
だが、楽しくて辞められねぇ。
ピロンッ
《参加を選択した者を戦闘エリアに転送します》
オレは一人、目の前には御伽噺にでてくるドラゴンが山の如し雄大に存在している。
山肌のような鱗を体に纏い、見上げるほどにデカいソイツは羽虫を見る様な目でオレを見下ろしている。
「クソッ、ぶっ殺す、、、」
オレは全力で駆け出し、死闘に挑む。
〜〜〜〜〜
「ハッハッハァ、クソっ死んだぜぇ。これか、アイツらが言ってたのは。ホントに生き返ってやがるなぁ」
ピロンッ
《カルマ値が一定の数値に到達しています。ダンジョンのモンスターとして自身を登録する事が可能です。実行しますか?※それに伴いライオネル・ブラッドに帰属するモンスターを生成する事が可能です。YES NO》
オレの目の前に半透明な板が出現する。
オレらをダンジョンに登録して何をするのかは謎だが登録しちまうか。もうそろそろこの世界も終わりそうだしなぁ。
もうこの世界には思い残すこともねぇ。
お?そうだ、モンスターになりゃあ、また強えやつと戦えるんじゃねぇか?
そうと決まれば、オレはすぐにYESを選択する。
するとプツッと意識が途切れ、糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。
ピロンッ
《ライオネル・ブラッドをダンジョンのモンスターとして登録完了。これに伴いレベル調整・思考制御・記憶制御が行われます。14階層の特殊モンスターとして活用開始します。》
〜〜〜〜〜
オレはダンジョンのモンスターとして登録したことでこの砦がオレの家になったみたいだ。敵が来るのをここで待って、来たら戦う。それだけだ。
モンスターも生成できるらしいが、それがその扉の向こうにいる昔からの仲間だったアイツらだ。
だが、アイツらは多分人形みてぇなもんだな。つまらん。
そんなある日、ガキが来た。
「おい、テメェら外から来たのか?」
「外?あぁ砦の外からきたが?」
「ちげぇよ、ダンジョンの外からかって意味だ」
「なっ!?お前、ダンジョンの外の事わかるのか!?」
「まぁオレぁ、ちゃんと意思を保ってるからな、まぁ死んだら元通りだがなぁ、、」
「どういう事だ?」
「あぁ、めんどくせぇからさっさとおっ始めるぞ」
オレはやられた。
〜〜〜〜〜
そんなある日、ガキが来た。
ふと気付く、コイツが拳に付けているのはオレのナックルだ。
オレは瞬時に理解した。
「んだよ、オレぁ前回負けたのか?」
「ん?何でわかる?これつけてるからか?」
「まぁな、前回の記憶はないがなぁ」
「それはどういうことだ?」
オレはナックルを拳につけながら話す。
「オレらの世界がなくなる時にダンジョンに登録されちまったからなぁ、もうどうにもならん。だから、、、楽しく戦うだけだぁぁ、よっしゃ一丁やるかぁぁ!」
「いきなりかよっ!」
オレはこのガキに思いっきり吹き飛ばされた。
「おいおい、こりゃ負けるわけだ。おめぇなかなか強ぇな。どっかでちゃんとした格闘技習えよ」
「いちいちおせっかいだな、お前」
〜〜〜〜〜
そんなある日、ガキが来た。
このガキの戦い方、明らかにオレに合わせてきてるな。予想だが何回もオレと戦ってるはずだ。
でないと、この動きはありえねぇ、このオレが体術でこんなに読まれるなんてな。
しかもコイツ手加減してやがる。クソがッ。
〜〜〜〜〜
そんなある日、ガキが来た。
「おぉ?何だぁガキ!いい雰囲気出てんじゃねぇか、テメェ全力でこいよぉ」
髭を揺らしながらオレはニヤリと笑う。
合図も無しにオレは突っ込んでいく。拳を振り上げ、斜め上から振りぬく。その瞬間、ガキは拳の軌道をわずかに外し、間合いを詰められ突っ張りを胸に叩き込まれる。ドンッと重い衝突音。だがオレはガキの腕を掴み、体を預けて投げた。
「くっそ!」
ガキは投げられながらも受け身をとり、起き上がりざまに高い回し蹴りが来る。オレは腕でガードするが、今度はバランスが揺れた。ガキはすかさず何かを叩き込もうと踏み込むが、逆にオレが胸倉を掴む。
「うっ、、」
その瞬間、いなす動きで力を受け流され、掴んだ腕を逆に抱え込むように体を回された。オレの体がわずかに傾いたところで、足払いから抱え込まれる。倒れ込む勢いのまま腕を巻き込まれ、腕に巻きついてくる、、寸前でブチッと嫌な音が鳴る前に手を振り解く。
今の攻防がオレの闘争心に火をつける。自然と笑いながら立ち上がったがもう油断はできねぇ。
「テメェ、オレを知ってるなぁ?楽しいぜぇ、、、かなりの回数やってる気がするな、、、オレのこと好きなのかぁ?」
「うっせぇ、黙れヒゲ。いくぞッ!」
そして、仕掛けてきたのはガキだった。
踏み込みから低い回転蹴り。かわした瞬間、オレは拳を振り抜く。
ガキはオレの拳を潜り抜け、顎に一発をくらう。追撃はない。
オレか後退した一瞬の間合いを詰められ、ガキの急所狙いの掌底が胸骨めがけて叩き込まれる。オレは大きく息を吐き、足が止まる。
そこに追撃、拳の連打、滑らかに姿勢を変えて死角へ回り込まれる。肘打ちを肋骨へ。オレは反応が遅れ、追撃のタックルで倒された。
オレは地に倒れ込む。
だが、倒れた瞬間、オレは身体に鞭を打ち全力で暴れる。
「まだまだァァッ!!」
オレは拳を振り下ろす。
これで終わりだぜぇ。と思った瞬間、ガキの身体が動き、力を逸らされて、急所突きが鳩尾に直撃する。
オレはその場で動きを止めた。
「テメェ、オレと互角くらいじゃねぇか、結構スゲェじゃねぇか」
オレは互角に戦えるヤツとの戦闘で興奮しているのがわかって、ニヤリと笑う。
「まだ勝ってねぇけどな」
「ハッ!そういうこと言えりゃ十分よ。まぁオレが勝つがなぁ!」
「こっちもそのつもりだ」
ピロンッ
ガキとの会話中にあの知らせが届いた。
《登録名:ライオネル・ブラッドの意思が一定の数値達成を確認。思考制御・記憶制御が解除されます。1分後、設定コンバートを行いダンジョン深層へと転送されます》
オレは知らせの文字を読み、目を細める。そして、また拳を構えた。
そして、ガキがオレの使っているナックルをいつも装備していた事を思い出す。
「テメェ、、、オレのナックル早く付けろよ」
ガキは走り出し、それに釣られてオレもガキに向かっていく。
お互い攻撃しては受け流し、相手の力を利用しバランスを崩しては攻撃する。
先の読み合いが思考を加速させる。
ハッハッハァ、久々だぜぇ、この感覚。
「ガキぃ、次はダンジョン深層で本気の戦いをやろうじゃねぇかぁ!」
「なんだと!?どう言う意味だっ!」
「テメェのおかげでオレァ、本来の力を取り戻せるみてぇだ、ハッハッハァ!ありがとなぁ」
そして、オレの身体が青白く発光し、光はあたり一面を包み込む。
その瞬間、オレの意識はまた途切れたのであった。
ピロンッ
《登録名:ライオネル・ブラッドの設定コンバートが完了。レベル調整が解除されました。69階層の特殊モンスターとして活用開始します。》
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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