86話 山田家の騒動
俺はダンジョンを出た後、母さんの入院している病院に直行した。
病室に入ると読書をしている母さんの姿があった。
「母さん、来たぜー、具合どうだ?」
「あら、哲也!わざわざありがとう。急にどうしたの?」
「ちょっと予定空いたからさ、お見舞いきた!てかさ、いい物持ってきたんだ!見てくれよ」
俺は収納からガルシアで手に入れた中級ポーションを取り出した。
「なあに?その瓶は」
母さんは不安な顔をして尋ねてくる。
「これさ、ダンジョンで手に入れたポーションだ!病気少し良くなると思うから飲んでみろよ!」
俺は強引に母さんの手元に押し込んだ。
「こんな怪しいもん飲めるわけないでしょ!?」
「いいから!俺だって飲んだことあるから大丈夫だって!それにさ、浩也だって母さんが家にいないと悲しむだろ!早く治せよ、、、」
俺は頑固な母さんについ強く当たってしまった。
これは俺の悪い癖だ。
無言が続く。
「哲也、わかった。ちょっと一晩考えるわ。今日は来てくれてありがとうね、私のために。」
「別にいいよ、そんくらい。」
俺は病室を後にする。
病院から家に帰る途中のスーパーに立ち寄って俺と浩也の分のお惣菜とアイス、明日の朝のパンを買い帰宅した。
「ただいまぁ、浩也いるかぁ?」
「にぃちゃんおかえり!ジュンにぃも帰ってきてるよ!」
リビングには弟の浩也と、離婚した父親について行って家を出たはずの兄、純也がいた。
「おい、クソ野郎、何でここにいんだよッ!浩也もコイツを家に入れるな!」
俺は怒りのあまり大声で怒鳴ってしまった。
「おいおい、そんなこと言うなよぉ、俺は母さんが心配でわざわざ東京から来てやったんだぞ?」
「そうだよ、テツにぃ!」
浩也はクソ野郎を庇いやがった。
「浩也!コイツのせいで母さん倒れたんだぞ!」
「えっ、、、ジュンにぃそうなの?」
浩也は懐疑的な眼差しでクソ野郎のことを見た。
「んなわけねぇだろ?浩也ぁ、俺のこと信じろよ」
俺は咄嗟に真実を口にした。
「浩也!コイツはなぁ、母さんが一生懸命働いて稼いだ金を持ち逃げした挙句に、その後も何度も母さんに金を借りに来てたんだぞ!?」
「ジュンにぃマジかよ。最悪。」
「ちっ。まぁいい、金だけよこせ。財布は?」
「おい、ウチに余裕なんかあるわけねぇだろ、今母さん入院してんだぞ!」
「あれれ?有名YoTuberさんが金持ってないわけないだろう?新米冒険者、さん!」
クソ野郎はニマッとした気持ち悪い笑顔で馬鹿にしてくる。
「ちっ、、、おい!これ受け取ったら二度と俺たち家族の前に現れるなよッ!!!」
俺は収納から大金の入った封筒を取り出して、クソ野郎の胸元に投げつける。
「こわい、こわい、わかりましたよぉ。まぁ、でも一応良心はあるんだ、母さんとこには寄って行ってやるからなぁ」
「早く出ていけ、クソ野郎!」
俺はムカムカする気持ちを吐き出した。
〜〜〜〜〜
「よぉ、母さんいるかぁ?」
「んだよ、寝てんのかよ、、、ん?何だこの瓶。」
「どこかで見たことあんな。写真検索してっと、、、お?これポーションに似てないか?」
「あぁ、哲也か。はぁこんなところに置いておいたら盗られちゃうぞぉーっと。俺が守っとかないとな。」
〜〜〜〜〜
その日の夜、晩ご飯を食べ終わりテレビを観ながらゆっくりしていると母さんから連絡が来た。
母さん:ねぇ、哲也、申し訳ないんだけどさっき貰ったポーション?あれどこにも見当たらないのよ、知らないかしら?
哲也:いや、知らねぇよ?
母さん:どこやったのかしら。見つかったら連絡するわね。
まさか、あのクソ野郎か?
お見舞い行くって言ってたし。
哲也:なぁ、病院の面会に純也来てないかフロントで聞いてみてくれよ。アイツかもしれない。
母さん:確認したらさっき私が寝てる間に来たみたい。ごめんね、また迷惑かけて。
哲也:母さんのせいじゃなくてアイツが全部悪いだけだから。
くそっ、アイツのせいでまたポーション取りに行くハメになっちまったな。母さんのためにも早くしないと。明日1人で取りに行ってくるか。
〜〜〜〜〜
数日後、夜の歌舞伎町。
雑居ビルが立ち並ぶその中の一際怪しいビルにある一室では違法カジノが行われている。
そのカジノの事務所には40代くらいの黒いスーツを着た強面の男と気弱そうな私服の男がいた。
私服の男はニヤニヤしながらスーツの男に話しかける。
「アニキ!アニキ!ヤバいもん見つけたんですけど、これ売れないっすかね!?」
「なんだ?この瓶」
「これ、ダンジョンからでてきたポーションってものっすよ!絶対高く売れますよ!」
「ほお、詳しく聞かせろ」
このあと、歌舞伎町ではこのポーションをめぐってニュースになるくらいの大騒動が起きたのだ。
私服の男はこの騒動の中心であり、他方面に大勢の敵を作ってしまい、最後には大怪我をし、無惨な姿で病院に運び込まれたのであった。
この男には因果応報という言葉が似合うだろう。
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