85話 俺の習慣
俺たちは暑さのあまり一旦ガルシアに避難して作戦会議をすることにした。
「今回なんか疲労感が凄い気がするわ」
てっちゃんが気だるそうに強化合宿を終わらせようと言う雰囲気をかもしだした。
「そうだね、あの暑さはこたえたよね、、、」
トシくんは気だるそうにてっちゃんに同調した。
「そうだな、俺もちょっとやりたい事あるから今回はいったん合宿終了するか」
俺は気だるそうに空気を読んだのだった。
そして、その結果俺たちはすぐにダンジョンを出ることにし、今回の強化合宿は6日間の探索となり、約1週間ぶりに現代社会へ戻ることになった。
「じゃ!おつかれっ!まだ昼だから俺、母さんのお見舞い行くからまたなっ!」
「お疲れ様!お母さんアレで良くなるといいね!」
「てっちゃん、おばさんに俺のお母さんが心配してたって伝えといて欲しい、よろしくな」
「おう、了解!トシもありがとな!じゃ!」
そう言っててっちゃんは颯爽と帰って行った
「トシくんもお疲れ様。また何日か休んだらこっちでの仕事も一緒に捌いていこうか。」
「お疲れ様!そうだね、てっちゃんねるの動画は相川さんともう外注もしてるから大丈夫そう、基本サロンの方かな!それじゃあね!」
「了解した。俺はちょっともう一回だけダンジョンであのオヤジと戦ってから帰るから先帰っててくれ、じゃあな」
俺とトシくんも別れてお互いの行く方向に歩いて行った。
俺は再びダンジョンへ入り、砦へと転移した。
そこにはいつもの奴らがいて、その後のボスのアイツもいつも通りいる。
アイツ、ほんとに体術めっちゃ強いんだよな、なかなか圧勝とはいかない。
レベルアップによる身体能力向上の影響が出ないよう力の加減をして、スキルなしで戦えば戦うほど訓練になる気がする。
何だかダンジョンって優秀な教育システムな気がしてならないんだよな。
俺は今日もコイツと稽古をする。
総大将と初めて殴り合ってから、俺は毎晩格闘技の動画を漁った。
柔道、合気道、空手、相撲、少林拳、太極拳、テコンドー、ムエタイ、マルマディ、ブラジリアン柔術、カポエイラ、MMA、ボクシング、サブミッションレスリング、システマ、クラヴ・マガ、自衛隊徒手格闘術、ロシア軍徒手、フランス軍格闘術、陸軍徒手格闘術。
片っ端から観て、真似して、次の日には総大将に殴られながら実践。気付いた時には動画も殴り合いも習慣になっていた。
「おぉ?何だぁガキ!いい雰囲気出てんじゃねぇか、テメェ全力でこいよぉ」
髭を揺らしながらニヤリと笑う。あの余裕の笑みを崩したかった。
合図も無しに総大将が突っ込んでくる。拳を振り上げ、斜め上から振りぬく。その瞬間、俺は空手の受けで拳の軌道をわずかに外し、間合いを詰めて相撲の突っ張りを胸に叩き込む。ドンッと重い衝突音。だが総大将は笑いながら俺の腕を掴み、柔道の払い腰のように体を預けて投げてきた。
「くっそ!」
投げられながらも受け身をとり、起き上がりざまにテコンドー式の高い回し蹴り。総大将は腕でガードするが、今度はバランスが揺れた。すかさずムエタイの膝蹴りを叩き込もうと踏み込むが、逆に胸倉を掴まれた。
「うっ、、」
その瞬間、太極拳のいなす動きで力を受け流し、掴まれた腕を逆に抱え込むように体を回す。総大将の体がわずかに傾いたところで、ブラジリアン柔術の足払いからタックル。倒れ込む勢いのまま腕を巻き込み、サブミッションレスリングの腕ひしぎ十字、、、寸前でブチッと嫌な音が鳴る前に手を振り解かれた。
総大将が笑って立ち上がる。余裕が消えてきた。
「テメェ、オレを知ってるなぁ?楽しいぜぇ、、、かなりの回数やってる気がするな、、、オレのこと好きなのかぁ?」
「うっせぇ、黙れヒゲ。いくぞッ!」
そして、仕掛けるのは俺。
カポエイラの踏み込みから低い回転蹴り。かわされた瞬間、拳が飛んでくる。今までの俺なら正面から殴り合っていたが、今日は違う。
ボクシングのダッキングで潜り抜け、顎にアッパー。追撃はしない。
総大将が後退した一瞬の間合いを詰め、クラヴ・マガの急所狙いの掌底を胸骨めがけて叩き込む。総大将は大きく息を吐き、足が止まる。
そこを逃さず、自衛隊徒手格闘術の前進連打。システマのように滑らかに姿勢を変えて死角へ回り込み、ロシア軍徒手の肘打ちを肋骨へ。反応が遅れた。追撃のタックルで倒す。
総大将が地に倒れ込む。
だが、倒れた瞬間、その巨体が爆発したみたいに暴れ出した。
「まだまだァァッ!!」
巨木の様な腕が振り下ろされる。
避けきれない、、、そう思った瞬間、身体が勝手に動いていた。合気道の転換で力を逸らし、マルマディの急所突きを鳩尾に刺す。
総大将がその場で動きを止めた。
「テメェ、オレと互角くらいじゃねぇか、結構スゲェじゃねぇか」
肩で息をしながら、総大将が笑った。
「まだ勝ってねぇけどな」
「ハッ!そういうこと言えりゃ十分よ。まぁオレが勝つがなぁ!」
「こっちもそのつもりだ」
殴り合いの中で学んで、倒されて覚えて、また殴って。俺のモノマネ格闘技は統一された流派でも美しい型でもない。ただ目の前のヤツに勝つために組み上げた、俺だけの戦い方だ。
総大将は目を細め、また拳を構える。
「テメェ、、、オレのナックル早く付けろよ」
、、、俺は拳を握り返す。
トゲ付きのナックルは、まだつけていない。
素手で勝ちたい。
俺たちは笑って、また地面を蹴ったのだった。
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