表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らダンジョン攻略部〜もしも現実世界にダンジョンができたら〜  作者: 一日千秋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/113

101話 大会のその後



大会から数日後、てっちゃんねるで動画が投稿されると世間はたちまちこの話題を取り上げた。



夜のニュース番組のスタジオは、いつもと変わらない落ち着いた照明に包まれていた。


画面中央、女性アナウンサーが、静かに原稿に視線を落とす。



「次のニュースです。人気ダンジョン系動画チャンネル、新米冒険者てっちゃんねる主催の武闘大会が現在大きな議論を呼んでいます」



背後の大型モニターに、大会の様子が映し出される。ただし、選手同士が激しくぶつかり合う決定的な瞬間には、粗いモザイクがかけられている。



「この大会は、ダンジョン内部での実戦形式によるトーナメント戦。しかし、配信された映像の一部が倫理的に問題があるのではないか、という声が上がっています」


アナウンサーの声は、感情を極力抑えたものだった。



「大会では、四肢の欠損を伴うほどの激しい戦闘が行われたとされています。ただし、主催者側は完全回復が可能な体制が整っているとして、安全性を強調しています」



ここで、スタジオに切り替わり、眼鏡をかけた中年の男性が画面に映る。ダンジョンを専門とする研究者だ。


「現在の再生医療とダンジョンの回復魔法などを組み合わせれば、四肢欠損は一時的な状態に過ぎません。医学的に見れば、選手の身体に長期的な後遺症が残る可能性は極めて低いと言えます」


続いて、別の専門家が紹介される。今度は社会倫理を研究する女性教授だった。



「問題は回復するかどうかだけではありません。視聴者がそれを娯楽として消費すること自体が、暴力への感覚を鈍らせるのではないか、という懸念もあります」



モニターには、SNS上のさまざまな意見

が映し出される。



『時代遅れの価値観だ』

『どうせ治るなら問題ない』

『命の扱いが軽すぎる』



「一方で、ダンジョンという特殊な環境が一般社会に浸透しようとしている今、価値観そのものが変化しているという見方もあります」



アナウンサーはそう言って、静かにカメラを見つめた。


「かつては考えられなかった完全回復を前提とした戦い。それをどこまで許容するのか。私たちは今、新しい時代の基準を問われているのかもしれません」



画面は、再びモザイクのかかった大会映像へと切り替わる。


「てっちゃんねる武闘大会を巡る議論は、今後も続きそうです」



淡々と、しかし重みを残したまま、ニュースは次の話題へと移っていった。




〜〜〜〜〜




アメリカ合衆国 ワシントンD.C


重厚な木製テーブルを囲み、ホワイトハウスの国家トップたちが顔を揃えていた。


大型スクリーンには、モザイク越しの武闘大会映像が静止している。



「正直に言おう」

最初に口を開いたのは、国防長官だった。




「私は見ていて興奮した」


場の空気が一瞬、緩む。




「我が国も、やるべきだ。国家主導でだ。強い奴を出来るだけ集めろ。軍人でも民間でもいい。賞金は破格にする。スポンサーも付けろ」



ある閣僚は腕を組み、低く唸る。


「つまり、囲い込みですね」



「そうだ。才能は奪い合いだ。ダンジョン時代に、甘い理想論は通用しない」



別の閣僚が即座に補足する。



「英雄は作れる。だが、野良の英雄は制御できない。ならば、最初から国の英雄にする」


誰も反論しなかった。




「大会形式にしろ。ショーアップも忘れるな。国民が熱狂し、世界が注目する形でやる」


アメリカは、すでに次の一手を描き終えていた。



〜〜〜〜〜



フランス パリ


ある一室では、軍の技術顧問と装備開発局の責任者たちが、映像を何度も巻き戻していた。



「この瞬間だ」


白髪交じりの技術者が、指で画面を叩く。



「この打撃の直前に発動しているスキル、あれは何だ?単なる身体強化ではない。尋常じゃない速さだ」



「主催者の装備も気になる」



別の人物が言葉を継ぐ。



「既存の装備系統と一致しない。素材が未知数だ」


そして、最も注目されていたのは、、



「この転送だ」


部屋の空気が一気に引き締まる。




「瞬間移動ではない。戦闘中に安全圏へ戻す制御が入っているのか?」


誰かが小さく呟いた。



「あれが量産できたら、戦争の形が変わる」



フランスは、興奮と警戒の狭間で、技術の正体を追い始めていた。



〜〜〜〜〜



中国 北京


人民解放軍の会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。


壁には自国のダンジョン攻略進捗が表示されている。

数字は、芳しくなかった。


「ぐっ、、遅すぎる」


幹部の一人が苛立ちを隠さず言う。


「他国は競技だの大会だの言っている間に、実績を積み上げている。こちらは、まだ街にすら到達していない」



「人材が足りない」


「装備もだ」


次々に出る報告は、どれも後ろ向きだった。



「日本の探索者だ」


誰かが言った。



「あの武闘大会に出ていた、あの探索者たちあれほどの戦闘能力を、なぜ民間が抱えている?」


焦燥が、会議室に充満していく。



「時間がない」


その一言だけが、全員の共通認識だった。



〜〜〜〜〜



日本 東京


首相官邸、会議室。

政治のトップと、防衛、経産、内閣官房の要人が集まっていた。



「話は早い」


官房長官が言う。



「大会に関わっていた企業だ。四菱ケミカル、日本マテリアル、吉木興業、UUUMOにすぐに連絡を取れ」



「探索者本人への接触は?」



「企業経由が一番安全だ。国として、正式に協力要請を出す」



防衛側の人間が、慎重に口を挟む。


「強制は避けるべきかと」



「当然だ」


首相が静かに頷く。


「だが、こちらも本気だということは伝えろ。技術、装備、探索ノウハウ、どれも国家レベルの話になっている」



一瞬の沈黙。


「もう、趣味のダンジョンではない」



誰かが、そう呟いた。


画面の向こうで行われていた一つの大会は、確実に世界の歯車をまた一つ動かし始めていた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ評価やコメント、ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ