ep.60『Dreams』
野田たちに挨拶を済ませ、スタジオを出る一同。
冷たい風が頬を撫で、緊張感の中にも少し解放されたような空気が流れていた。
末吉は2人の発した作戦名に、いまだ疑問と戸惑いを拭えず、思い切って問いかける。
末吉:「ねぇ。さっきの“美人ホイホイ作戦”って一体どんな作戦なんだい?」
礼堂:「前にも話しましたが、俺たちは紗和さん似の女性を追ってます。
亡き富士田の活躍によって、なんとか川端とその女性が会うであろう情報を掴みました。」
末吉:「富士田くんは疲れ果てたのか……。頑張ったんだね。ご愁傷様です。」
冬月:「その女性も恐らく事件と関係してると踏んでいます。
そこで――ボウさんを復活させ、その女性を誘き寄せ問い詰めるという作戦なんです。」
末吉:「つまり僕は囮ということなんだね。」
礼堂 & 冬月:「そうなんです!!」
末吉:「……ははは。君たちって人に身体張らせるの得意だよね。」
末吉は肩をすくめて苦笑する。その目には呆れ半分、面白がっているような光も浮かんでいた。
礼堂:「なんとかお願いします!末吉さん!」
礼堂は勢いよく頭を下げる。声には必死さが滲んでいる。
冬月:「お願いします!コイツ土下座させますんで!」
冬月はにやにやと笑いながら、隣の礼堂を指で突きながら言う。
礼堂:「お前もしろや!バカやろうー!!」
慌てて突っ込みを入れる礼堂。
そんな2人の様子を見て、末吉は少し目を細める。
笑みを浮かべながらも、その表情には静かな決意がにじんでいた。
末吉:「ははは!分かった。まぁ復活ライブのボウさんの代わりっていう大役を任せてもらえるしね。是非協力させて頂くよ。」
そう言うと、末吉は背筋を伸ばし、ほんの少し誇らしげに胸を張った。
礼堂と冬月の表情が一気に明るくなり、その場の空気がぐっと前向きなものへ変わっていった。
冬月:「さすが末吉アニキー!一緒に川端のやろうぶっ飛ばしましょう!」
礼堂:「ほんとお前は調子いいな……。末吉さんホントありがとうございます!!」
末吉は口元に笑みを浮かべ、静かに頷いた。
3人はそのまま川端の家の近くへ移動する。
街灯がポツポツと灯り始め、辺りに夜の気配が広がっていた。
末吉:「ところで、その女性はいつ現れるのかな?」
礼堂が腕時計をちらりと見やり、冷静に告げる。
礼堂:「20時待ち合わせなので、まだ少し時間ありますね。」
冬月:「末吉さん、一回その革ジャン脱いで貰っていいですか?」
唐突な提案に、場の空気が一瞬止まる。
末吉:「あ、、あぁ……うん。」
戸惑いながらも、末吉はゆっくりと肩から革ジャンを外す。
重みを感じさせる衣服が音を立てて冬月の手に渡る。
礼堂:「おい、何してんだ冬月。」
冬月は革ジャンを片手にキラキラと眩しい笑顔を浮かべる。
冬月:「いや〜俺もこれ着てみたかったんだよね〜!
よっしゃ、これで俺もジャンク・バスターズの一員だ〜!」
革ジャンを着ようとする冬月の手を、礼堂が慌てて押さえる。
礼堂:「これは野田さんの大事なもんだ!お前が着ていいもんじゃないんだよ!」
革ジャンを挟み、2人は睨み合いながら引っ張り合う。
冬月:「別に一回着るくらいバチ当たらないだろ!離せ礼堂!!」
礼堂:「お前が離せ!」
冬月:「いやお前が離せ!」
革ジャンを奪い合う両者。力が入りすぎて額に汗がにじむ。
礼堂:「うぉー!!!」
冬月:「だぁー!!!」
末吉:「ちょっと!そんな引っ張ってたら革ジャンが壊れちゃうよ!」
バランスを崩した2人は勢いよく転び、床に倒れ込んだ。
礼堂は必死に腕を伸ばし、革ジャンだけは地面につかないよう高く掲げていた。
末吉:「はぁ……2人とも大丈夫かい?」
礼堂:「大丈夫です!見ての通り革ジャンも無事……ん?あれ?なんかおかしいぞ?」
冬月:「おかしいのはお前の頭だろ!どんだけ強い力で引っ張ってんだよ!」
礼堂:「なぁ冬月。お前、それ、片手に何持ってんだ?」
冬月:「え?……これって……革ジャンに着いてたパッチ……。」
礼堂は額に手を当て、ため息をつく。
礼堂:「だから言っただろ!!どうすんだよ!もう野田さんに合わせる顔ねーよ!」
冬月:「お前が強く引っ張りすぎたんだろ!お互い様だ!」
礼堂は冬月の手からパッチを奪い取り、貼ってあった部分をじっと見つめる。
礼堂:「なぁ……冬月。これ。」
冬月:「ん?なんだそれ?そこに縫ってあったのか。」
礼堂:「まぁいい。とりあえず今日終わったら俺が持ち帰る。後日業者に直してもらう。野田さんには当然言うなよ。」
冬月:「あぁ分かってるよ。言えるわけないだろ。」
礼堂:「末吉さんすみません。とりあえずこのまま着てください。」
その時、末吉がふと目線を逸らし、表情を引き締めた。
夜の街角を指差し、声を低くする。
末吉:「ねぇ……あれじゃない?美人さん。」




