ep.59『Move Over』
長時間のリハーサルも終わり、
楽器や機材を片付けるメンバーたちの間に、少し気の抜けた空気が漂う。
礼堂:「みなさんお疲れ様でした!いや〜もう今からでもライブ出来そうですね!」
礼堂の声には興奮がにじんでいる。
その言葉に冬月が大きく頷く。
冬月:「マジでめっちゃ良かったです!流石ですよ!」
野田はギターを肩から外し、タオルで首筋を拭いながら笑った。
汗に濡れた髪が少し額に張りついている。
野田:「ありがとうよ!でもまだまだ良くなるよ。こんなもんじゃない!」
その堂々とした言葉に、場の空気がさらに明るくなる。
礼堂はふと末吉の方へ目を向ける。
彼の顔には、まだ“ボウ”の面影を色濃く残すメイクが乗っていた。礼堂は末吉に近づき話しかける。
礼堂:「あっ末吉さん。そのメイク落とさないでくださいね。」
末吉:「え?どうしてかな?」
振り向いた末吉は、まだボウそっくりの姿をしていた。
冬月:「まあまあ。末吉さんにはもう一仕事残ってまっせ。」
末吉:「えっそうなの?でもお店は大丈夫かな〜。」
片付けを見守っていた夜魔が、豪快に笑いながら末吉の肩を叩く。
夜魔:「ハッハッハ!末吉〜。だから気にするなって言っただろう。
それにしてもリハ見てたけど、なかなか様になってたぞ。ロックミュージシャンになった方がいいんじゃないか?」
末吉:「ははは。ありがとうございます。ところで夜魔さん。もうすぐオープン準備の時間じゃないですか?」
夜魔:「なに!?それはまずい!じゃあ俺はこれで失礼する!」
バタバタと慌てて出口に向かう夜魔。
末吉:「すみません、お店の方はよろしくお願いします。」
夜魔:「当然だ。俺オーナーだからな!」
礼堂が夜魔の後を追い、こっそり声を潜めて囁く。
礼堂:「夜魔さん、差し入れありがとうございました。あっ、約束忘れてないんで安心してくださいね。」
夜魔:「本当か?頼んだぞ。『2割』だからな。」
礼堂:「いや1割でしょ!ったくほんとせこいなぁ。」
夜魔:「ではこれで。お疲れちゃん!」
夜魔は片手を大きく振り上げながら、ドタドタと去っていった。
その時、紗和が慌てた声を上げる。
紗和:「あら、私もそろそろ出なくちゃ!……ってあれ?カバンがない。確かここに置いてたはずなのに。」
冬月:「紗和さん。おっちょこちょいは健在ですね。
ちょっと待ってください。俺のレーダーで見つけ出します。っはぁ〜!」
冬月が両手を前に突き出し、架空のエネルギーを周囲に放出するかのように目を閉じて回転する。
冬月:「……そこだ!!」
数秒後、椅子の下に置かれていたカバンを見つけ出し、紗和に渡す。
冬月:「姫!どうぞ。今日はありがとうございました。お気をつけて帰ってくださいね。」
紗和:「あら。冬月くんすごいわね♪そんなことできるの?
それなら仕事のミスも自分で見つけ出せるわね♪」
冬月:「こりゃ一本取られました〜!」
紗和:「ふふ♪嘘よ。ありがとう。じゃあ皆さんお疲れ様〜♪」
軽やかに手を振りながら、紗和は去っていった。
彼女の背中を見送りながら、礼堂がポツリと呟く。
礼堂:「なぁ冬月。」
冬月:「ん?」
礼堂:「それ使えばホントにミスなくなるんじゃないか?」
冬月:「んなわけあるかー!紗和さんは許すがお前がそれ言うのは許さんぞ!」
礼堂と冬月の掛け合いに、末吉が苦笑しながら割って入る。
末吉:「盛り上がってるところ悪いけど、これから何をするんだい?」
礼堂と冬月は顔を見合わせ、一拍置いて声を揃える。
礼堂 & 冬月:「美人ホイホイ作戦です。」




