ep.58『Live Forever』
作戦会議も終盤。重たい空気が流れるなか最終確認が行われた。
礼堂:「じゃあおさらいするぞ。
まず川端の家の近くで紗和さん似の女性を待ち伏せする。
女性が現れたら、ボウさんに扮した末吉さんを登場させる。
女性はきっとボウさんと勘違いして追いかけるだろう。
末吉さんは走って俺たちの所まで戻ってくる。
その瞬間、俺たちが問い詰める!
題して……。」
礼堂は一瞬間を置いて、腕を組んで唸る。
礼堂:「……う〜ん。なんかいい名前あるか?」
冬月が勢いよく手を叩く。
冬月:「題して、美人ホイホイ作戦!!」
礼堂:「……ダサくないか?もうちょい格好いいのがあるだろ。」
その時、机の端に座っていた富士田が、聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
富士田:「題して……会社崩壊への第一歩作戦。。」
礼堂と冬月が同時に固まる。
礼堂&冬月:「……。」
礼堂が無理やり笑顔を作る。
礼堂:「よ、よし!美人ホイホイ作戦で行こう!!相手は美人だ、気分上げていこう!」
冬月が慌てて富士田の肩を叩く。
冬月:「富士田!大丈夫だって!お前は仕事人だ!必ず良い就職先見つかるって!」
富士田は自嘲気味に笑い、目を伏せる。
富士田:「ははは……。転職活動、始めようかな。」
その場に気まずい沈黙が流れる。
礼堂は思わず声を張った。
礼堂:「富士田。今回の作戦は冬月と末吉さんで動く。
お前は何も気負うことはない!一回有休でも取って、思いっきりリフレッシュしてこい。」
富士田:「あぁ……そうさせてもらうよ。」
冬月が真剣な顔つきになり、言葉を続けた。
冬月:「でもな富士田。お前にはだいぶ助けられてるんだ、俺たち!もし事件が解決したらMVPは絶対お前だよ。その時はなんでも言うこと聞いてやる!」
少し間を置き、富士田が弱々しく返事をする。
富士田:「そうか……ありがと。
あぁそうだ...盗聴器は回収したから小型GPSと一緒に秀治さんに返しておいて。はいこれ。よろしく。。」
終始富士田を気遣いながら、ぎこちない空気の中でも、作戦会議は幕を閉じた。
そして翌週土曜日を迎えることとなった――。
復活ライブを目前に控え、一同はリハーサルスタジオに集結していた。
紗和:「う〜ん、こんな感じかしら!」
メイクを終えた末吉が、ゆっくりと振り向く。
照明を受けた横顔に、あの夜のステージに立つボウの姿が重なる。
一瞬、全員の呼吸が止まり――次の瞬間、歓声が上がった。
野田:「おー!!こりゃあ……!」
田村:「ボウが生き返ったー!」
横山:「すごい雰囲気でてるな!」
末吉:「ホントですか!やる気出ちゃうな〜。」
野田:「末吉くん、男前だから様になってるよ。なんならボウちゃんよりカッコいいんじゃねーか?ハッハッハ!」
スタジオの空気は一気に熱を帯び、誰もが笑顔を浮かべていた。
盛り上がっている中、スタジオのドアが勢いよく開く。
礼堂:「おっ!みなさんしっかりお揃いですね!お疲れ様です!!」
冬月:「お疲れ様でーす!!
って、え……あれ?ボウさんが生き返った!?
生き返ったぞー!!」
礼堂:「お前はバカか。末吉さんだろ。」
ボウに扮した末吉が、微笑みながらボウの声色を真似て話しかける。
末吉:「こんにちは。君が礼堂くんか。復活ライブ企画してくれてありがとう。楽しいライブにしよう。」
その瞬間、礼堂の表情が固まり全身が硬直する。
礼堂:「ボ……ボボ……ボウさん!??」
冬月:「お前はバカか。末吉さんだろ!」
スタジオ内は大爆笑に包まれた。
野田:「けどまぁ、2人が騙されるくらいだから本当にそっくりなんだな。紗和ちゃんのメイクのおかげだな!」
紗和:「そんなことないわ。末吉さんの元がいいからよ♪」
野田が思い出したように礼堂へ向き直る。
野田:「そういや礼堂くん。例のモノは持ってきたかい?」
礼堂はゆっくりとうなずき、預かっていた革ジャンを掲げる。
ライトに照らされ、黒い革が鈍い光を放つ。
礼堂:「ええ。もちろん。
末吉さん、是非着てみてください。」
末吉は革ジャンを受け取り、肩で大きく羽織る。
末吉:「どうかな?」
冬月:「やべー!!!これもう本当ボウさんだよ!」
礼堂:「末吉さん、めっちゃイケてます!!復活ライブは大成功間違いなしです!」
その言葉に、バンドメンバーたちは拳を突き上げる。
野田:「よーし!じゃあ気合い入れてリハーサルするか!!」
田村:「オーケイ!」
横山:「やるぞ!」
結束の輪が固まり、熱気がさらに高まったその時――。
スタジオのドアが再び開き、場の空気を切り裂くように大きな声が響いた。
夜魔:「お疲れちゃ〜ん!
夜魔特製サンドイッチお持ちしましたー!
差し入れだ……え……嘘だろ!?
まさか、ボウが生き返ったのか!?」
礼堂&冬月:「もういいわ!!」
夜魔が差し入れたサンドイッチを一同で分け合い、
腹を満たしたメンバーはそれぞれ楽器を手に取り、空気は自然と引き締まっていく。
こうして復活ライブに向けたリハーサルに臨んでいった。




