ep.53『SO YOUNG』
後日ーー。
オフィス街の昼下がり。
富士田は外のベンチに腰を下ろし、片手に野菜ジュースを掲げながらスマホに話しかけていた。
冷たい風がスーツの裾を揺らし、昼休みのざわめきが彼の愚痴をかき消す。
富士田:「いや〜。やっぱ盗聴なんか無理だろ〜。ってかやっぱ俺だけ危険な仕事多くないか?」
受話口から響く礼堂の落ち着いた声。
礼堂:「重要な任務を頼まれるってのは、期待と信頼の表れだよ。その評価を素直に受け取らなきゃ。ねぇ冬月くん?」
冬月の声が追い打ちをかけるように割って入る。
冬月:「そうそう。いつまでもわがまま言ってたって何も変わらないぞ。期待されている内が華。俺なんてミスが多いから重要な仕事は任されない。こうなったらお終いだぞ、、、ってコラ!!!俺のことバカにしてんのか!?」
礼堂&富士田:「いや、、何も言ってませんけど。」
富士田はムッとした顔で、ベンチから立ち上がり右手を振りかざす。
富士田:「っていうか1番わがままなのはお前らだろーが!!危険な仕事ばっか押し付けやがって!」
礼堂の声がすかさずツッコミを入れる。
礼堂:「なぁ、富士田。お前誰もいないのに右手振りながらツッコんでて恥ずかしくないのか?」
富士田:「え!?なんでわかるんだ?超能力か?」
礼堂:「いや、向かいのカフェでランチしながら見てるぞ。」
キョロキョロと視線を泳がせる富士田。通行人に変な目で見られ、慌ててスマホを口元に近づけた。
富士田:「見てたなら早く言えよ!」
礼堂:「悪い。」
冬月の声が重なる。
冬月:「なぁ、富士田。お前なんで野菜ジュース飲んでるんだ?健康意識してんのか?」
富士田:「えぇ!?超能力!!?」
周囲を見渡すと、少し離れたベンチに冬月が座っているのを発見。
富士田は少し疲れた表情を見せながらぼやく。
富士田:「……もう。なんでもええわ。」
冬月は苦笑し、手を軽く上げて謝る。
冬月:「悪いな。声かけようと思ったんだけどな。」
こうして、グループ通話の意味がないことを全員が理解した。
結局、冬月と富士田は礼堂のいるカフェへと足を運ぶ。
店内はランチの客で賑わっていたが、礼堂が手を振り、空いたテーブルへ二人を招いた。
席についた3人はアイスコーヒーを注文し、グラスに差すストローを揺らしながら雑談を続ける。
礼堂:「そういえば富士田、会社のプロジェクトはどうだ?」
富士田:「順調に進んでるよ。あともう少しで形になりそうだね。」
礼堂:「それは良かった。」
冬月:「まぁ富士田は頼まれた仕事はなんだかんだでしっかりとこなすやつだもんな〜。
それはそうと、秀治さんから預かったの?盗聴器。」
富士田はカバンの中を軽く叩き、声を落とした。
富士田:「うん。この間渡してもらったよ。あとはGPS搭載の小型機も、一応何かの役に立てばってくれたね。」
冬月:「だからなんでそんなもん持ってるんだよ。絶対マトモなことに使ってないだろ。。」
礼堂は小さく笑い、テーブルに肘を置く。
礼堂:「まぁ、有難いことじゃないか。富士田、とりあえず盗聴器は社長室のどこかにでもくっつけて欲しい。できれば川端さんのデスク付近がいいが、あまり無理はしなくていい。まずはバレないことが第一だ。」
富士田は深いため息を吐き、ストローで氷をかき回した。
富士田:「はぁ、、とりあえず次に社長室に行ったときに試してみるよ。」
礼堂:「悪いな助かるよ。あとは復活ライブの配信の件だが、チャンネルが人気になるように好きに使っていいからな。逆にライブ用のチャンネル作って富士田のチャンネルと連携して宣伝してもいいし、とにかく富士田には1番助かってるからな。自分のやりたいようにやってくれ。」
富士田は一瞬、表情を引き締めた。
富士田:「、、、、、そうだな。まぁ俺のチャンネルはいいんだけど、ライブ配信のことはしっかり考えないとな。。。」
冬月:「何言ってんだよ〜。フジキンをバズらせるために使いやがれ〜!俺ら散々富士田に助けられてんだからさ!」
その言葉に富士田はにっこり笑う。
富士田:「珍しいな!冬月までそんなこというなんて。分かった。最大限利用させてもらうからな!!」
3人は笑い合いながらグラスを掲げ、束の間の昼休みを楽しんだ。
やがて時計の針が現実へと引き戻す。各々は立ち上がり、それぞれの仕事場へと戻っていった。




