ep.37『ハイブリッドレインボウ』
アリーナツアー初日ー。
半年間の準備を経て、ついに「Junkies Break the Horizon」ツアーの初日がやってきた。会場となるアリーナはすでに満員のファンで埋め尽くされ、開演を待つ熱気が外の空気までも揺らしている。
バックヤードでは、ジャンク・バスターズのメンバーがいつものように集合していた。長いツアーになる。アリーナ公演と、各地のライブハウスを巡り年間100本ものステージをこなす挑戦が今、目の前にある。
ボウは楽屋のモニターで客席を映すカメラの映像を見つめ、微笑んだ。そこにはバンドのTシャツやタオルを掲げ、ワクワクした表情で待つ「ジャンキーズ」の姿がある。野田は隣でストレッチをしながら、かすかに鼻歌を歌っていた。
野田:「すごい熱気だな。もう客席が揺れてるみたいだ。」
ボウは深呼吸し、軽く笑みを浮かべる。
ボウ:「ああ、半年間考え抜いたセットリスト、思い描いた演出、全部この日を目指してきた。いよいよだな。」
横山がギターのチューニングを確認しながら短く頷く。
横山:「ステージがでかいからって、萎縮しないでいこうぜ。俺たちなら大丈夫だ。」
田村はベースストラップを直しながら、控えめな声で言う。
田村:「うん、いつも通り、でもいつも以上の力でいこう。」
ボウは野田と目を合わせた。二人の目には、確信にも似た光が宿っている。初日の公演は、これから続く長いツアーの方向性を決める大事なスタート地点だ。ここで成功を掴むことで、残りの公演へ勢いをつなげたい。
野田:「初っ端から新曲で攻めるんだろ?観客、度肝抜かれるぜ。」
ボウは微笑み、頷く。
ボウ:「ああ、初期の曲は入れないって決めたけど、その分今の俺たちを丸ごとぶつける。ファンもきっと新しい俺たちを受け止めてくれるはずだ。」
野田は少しわくわくした様子で拳を握る。
野田:「そうだな。ジャンキーズはどんな俺たちも楽しんでくれるよ。大丈夫さ。」
スタッフがドアをノックして声をかける。
スタッフ:「あと10分でスタンバイお願いします。開演前に最終チェックしましょう。」
ボウは肩を回しながら、落ち着いた声で答える。
ボウ:「了解。行くか。」
メンバーたちは立ち上がり、廊下を抜けてステージ裏へと向かう。遠くから聞こえる観客の歓声が、次第に大きくなってくるような気がした。スポットライトの光が漏れ、ステージ袖で待機するクルーたちが笑顔と敬意のまなざしで彼らを出迎える。
田村が少し控えめに言う。
田村:「ここからが本番だ。」
横山が軽く笑いながら一言だけ添える。
横山:「行こう。」
ボウと野田はお互いの顔を一瞬見て、無言で頷き合った。その中にあるのは「絶対にやれる」という揺るぎない信頼と、「もっと先へ進む」決意。
ボウ:「……よし、ジャンキーズと一緒にホライズンを打ち破る時が来た。」
野田:「ああ、最高のスタートを切ろう。」
スタッフがカウントダウンを始め、照明が一旦落とされる。暗闇の中、メンバーたちは深呼吸し、笑みを浮かべる。
こうして、ジャンク・バスターズは「Junkies Break the Horizon」ツアー初日のステージへと踏み出していくのだった。
スタジオ裏からステージ袖へと進んだジャンク・バスターズのメンバーたちは、深呼吸をしながらスタートの瞬間を待っていた。客席からは、一斉に湧き上がる「ジャンク・バスターズ!」「ジャンキーズ!」というコールがかすかに聞こえてくる。
照明チームが最後の確認を終え、ディレクターがインカムで指示を飛ばす。やがて客電がスッと落とされ、会場は暗闇に包まれる。わずかな緊張と高揚が交錯する刹那、ボウはギターのストラップをしっかりと握りしめた。
野田は背筋を伸ばし、アンプから出力された静かなノイズを耳にしながら心の中でカウントを刻む。
野田(よし、行こう。これは新たな時代への一歩。)
横山が小さく「オーケー」とボウの背中を叩き、田村は微かな笑顔を浮かべて頷く。二人とも余計なことは言わないが、その表情からは期待と信頼が読み取れた。
場内アナウンスが響く。
アナウンス:「Ladies and Gentlemen… Please welcome, Junkies Break the Horizon Tour… JACK BUSTERS!!」
観客の歓声が一気に高まる。目を合わせたボウと野田は、声を出さずに頷き合った。そこにあるのは確かな絆と「今が一番音楽をぶつける時」という共通の意志。
スポットライトが一筋、ステージ中央を照らす。ボウがその光の中に踏み出し、野田がその後を追うように登場。続いて横山と田村も所定の位置につく。客席からの視線と声援は、まるで波のようにメンバーたちを包み込む。
ボウがマイクに口を近づけ、静かな声で言った。
ボウ:「みんな、待たせたな!今日から始まる、俺たちの新しい旅路…“Junkies Break the Horizon”、思い切り楽しもうぜ!」
その言葉に、観客の声援がさらに増す。野田はギターのペグを軽く回して最終調整をし、ボウと目を合わせる。新曲から始めることはすでに決まっている。半年かけて練り上げた、勢いと重厚感を兼ね備えたナンバーだ。
野田(ここで一気に観客を引き込むんだ。)
ボウはわずかに息を吸い込むと、ピックで軽く弦を鳴らす。その音に合わせて横山がシンバルを一度打ち、田村がベースの低音をうっすらと響かせる。空気が震え、会場にいる全ての人間が次に来る衝撃を待っている。
1…2…3…4…
野田が一気にギターリフを刻むと、ステージ上の照明が炸裂したように一斉に光り、衝撃的な音の洪水が観客に襲いかかる。ボウの声がマイクを通して跳ね上がり、広いアリーナを揺らす。
観客たちは歓声で応え、思い思いに腕を振り上げ、ジャンプし、声を張り上げる。音と光と声、全てが混ざり合い、ここに一つの世界が生まれていた。
ボウはステージ中央で笑みを浮かべたまま、全身でリズムを感じている。野田は激しいピッキングでギターを鳴らしながら、客席の端から端まで見渡す。横山は華麗なドラムプレイで音の洪水を支え、田村はベースラインで全てを繋ぎ止める。
ステージ脇で見守るスタッフたちは、その光景に目を見張りながら「大成功だ」と確信する。半年間の準備と迷いを経て、今この瞬間、新たなホライズンが本当に打ち破られたのだ。
ボウと野田は目を合わせ、気合の表情を交わす。これがスタートだ。100本に及ぶツアーの最初の一歩、この曲を皮切りに、バンドは"ジャンキーズ"と共に、新しい音楽の地平へと踏み出していく。
こうして、ツアー初日のステージが幕を開けた。アリーナいっぱいに広がる音と熱気、ボウと野田を中心に生まれる新たな音楽の渦。その全てが、今後のツアーの行方を明るく照らしていたようであった。




