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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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95.魔石と野生動物


 そこに居たのは巨大なネズミだった。

 猫ほどのある大きさのネズミが、カサカサと壁際を動き回っている。

 普通のドブネズミとかを大きくしたらあんな感じになるだろう。


「うわぁ……キモ」


 思わず感想が口から洩れる。

 見慣れた生物がただ大きくなっただけというのは、予想以上に不気味な光景だ。


 初めて見るタイプだが、あれもモンスターなのか?

 いや……なんかそんな感じがしないな。

 この感じは……そう、どちらかといえば『モモ』に感じる気配に近い。

 モンスターと普通の動物の中間のようなあやふやな気配。


「あ……そうか、もしかしたら」


 そこまで考えて、ハッとなる。

 もしかしたらあのネズミもモモと同じように、モンスターを倒し、魔石を食べた動物なんじゃないか?

 モモという実例がある以上、その可能性は十分にある。


 というか、モンスターばかりを相手にしていた所為で、その可能性をすっかり失念していた。

 モモのようにモンスターを狩りレベルを上げたり、魔石を食べスキルを手に入れた動物が居ても、なにもおかしくないのだ。


 それに街には倒されたモンスターの魔石がいくつも転がっていた。

 人に拾われず放置されたままの魔石を食べた動物だって居るはずだ。

 あのネズミもその類いじゃないのか?

 しきりに鼻をひくつかせ、周囲を警戒しているし。


 何らかのスキルを持っている可能性が高いな。

 そもそも人間よりも動物たちの方が、ある意味『生き延びる』という点に関して言えば、優れていると言えなくもない。元々野生の中で生きているんだし、自分よりも強い生物に襲われるという環境にも慣れているだろう。

 さて、どうするか……。


「どうしたんですか、クドウさん?何が居たんですか?」


 俺がじっとしているのが不安に思ったのか、イチノセさんが口を開く。


「ああ、すいません。つい考え込んでしまって……。えっと、居たのはモンスターではなく、大きなネズミです」


「ネズミ……?」


「ええ、ただ普通のネズミじゃありません。おそらく魔石を食べて強化されてる可能性があります」


「ッ……!」

「え?なにそれ?どーゆーこと?ていうか、魔石ってなに?」


 イチノセさんの息をのむ気配が伝わってきた。

 対して、六花ちゃんは、俺の言った意味を理解していないようだ。


「魔石っていうのはモンスターを倒した後に落ちる石の事ですよ。それを他の生物が食べると、肉体が強化されたり、スキルが使えるようになるんです」


「マジで?あー、そう言えば、確かにモンスター倒した後に石が落ちてたねー。へーアレってそんな凄い物だったんだ」


 まあ、知らなくても無理はない。

 そもそも俺だって、アイテムボックスのリスト機能や、モモやアカの存在が無ければ名称やその使い方も分からなかったのだから。


「……狩るんですか?」


「そうですね……」


 そこで俺は少し考え込む。

 相手はモンスターではない。

 デカくなったとはいえ普通の動物だ。

 だが……。


「病原菌とかを持ってる可能性もありますし、人を襲う可能性もゼロじゃありません。……潰しておいた方がいいでしょう。―――モモ」


「わんっ」


 俺の合図と共に、モモの『影』がネズミに向かって伸びる。

 すると六花ちゃんが驚きの声を上げた。


「えっ!?か、影が伸びた!?なにこれ!?」

「モモのスキルです。危険はありません。静かにしてください」

「あ、はい、ごめんなさい。す、凄っ……」


 そうこうしてる間にも、『影』がネズミに迫る。

 よし、このまま拘束して、一気に叩く。


「チュッ!?」

 

 だが、ネズミは直前でモモの影に気付いた。

 そして恐ろしいまでに機敏な動きを見せ、モモの影を躱したのだ。


「なっ!?」

 

 その動きに、思わず目を見張る。

 嘘だろ?

 なんてスピードだ。

 モモの影を躱すなんて、レッサー・ウルフ……いや、シャドウ・ウルフ並みの速さだ。


「チチチッ!」


 更にネズミは壁を水平に走りながら、巧みにモモの『影』を躱す。

 あれは明らかに『スキル』だ。

 それに多分、感知系のスキルも持ってる。

 『危機感知』か『敵意感知』かは分からないが、そうでなければ、あの直前でモモの『影』を躱すなんて不可能だ。


「チチッ!チューッ!」


 ネズミは『影』を振り払い、そのまま逃げ出した。

 あっという間に、その姿が見えなくなる。

 

「……逃げられたか」


「くぅーん……」


 モモが悔しそうな声を出す。


「大丈夫だ、モモ。こっちに被害は無かったんだし、別に構わないさ」


 ポンポンとモモの頭を撫でる。

 逃げたって事は、あのネズミ自体の戦闘能力はそれほど高くないのだろう。

 『危機感知』もあまり警鐘を鳴らしていなかった。

 多分、強さ的にはゴブリン以下なのは間違いない。

 おそらくは『敏捷』や『逃亡』に特化して強化されてると見るべきだろう。

 というか、そうでなきゃ困る。


「他に気配はありませんね。もう大丈夫だと思います」


 そう言うと、二人の緊張も解ける。

 それにしても、魔石で強化された動物たちか。

 厄介だな……。

 モンスターも脅威だが、こっちも十分に脅威になりうるぞ。

 野良猫や野良犬。それにカラス。

 街の中に居る動物は数多く居るのだ。


 もう既に五日も経っている。

 モモやあのネズミのように強化された個体もどんどん現れるだろう。


 もし仮に森の中に居るクマやイノシシ、毒蛇なんかが強化されたらどうなるんだろうか?

 素で強い動物たちが魔石でさらに強化される……。

 それってもはやモンスターと変わらないんじゃないか?

 また一つ、心配事が増えたな……。


「それにしても……魔石か」


 モンスターや動物が食べることで、肉体が強化されたり、スキルを手に入れる事が出来る代物。


 でも……本当に使い道はそれだけなのだろうか?


 もしかしたら、俺たちが知らないだけで、他にも有効な使い道があるんじゃないか?

 ゲームなんかじゃ、武器や能力強化の定番アイテムなんだし……。

 そもそも動物は魔石が食えるのに、俺たちは食えないってどういうことだ?

 ああ、やっぱ鑑定が欲しいなぁ。

 落ち込むモモをモフりながら、俺はどうにか『鑑定』を手に入れられないかと考えるのであった。




 一方その頃―――。


 怖イ、怖イ、怖イ。

 ネズミは必死に走っていた。

 突然、自分に襲いかかってきた黒い何か。

 アレはヤバいとすぐに分かった。

 だから逃げた。

 必死に逃げた。

 やはり気まぐれに地上に出たのが間違いだった。

 妙な石を食べ、体が大きくなったり、妙な力を手に入れた。

 何でも出来る気になっていた。

 でも、それは間違いだったのだ。

 上には上がいるし、怖い思いはしたくない。

 やはり、今まで通り地の底で慎重に憶病に暮らそう。

 そう思い、ネズミは必死に走る。


「チチチ」


 自分が這い出てきた『穴』が眼前に迫る。

 もう少しだ。

 もう少しで帰れる。

 その安堵から、ネズミは一瞬気を緩めた。

 そして、それは致命的な隙を生んだ。


「チッ!?」


 ぴたりと、その動きが止まる。

 いや、正確には強制的に止められた。

 何故だ?動けない。

 必死に体を動かすが、もがけばもがくほど、ネズミの身体は動かなくなってゆく。

 そこでようやくネズミは自分の身体に絡みついている『ソレ』に気付いた。

 それは目に見えぬほどに細い無数の糸だ。


「チチ!?チチチチチッ!」


 よく見れば、その糸は、ここ周辺に大量に張り巡らされていた。

 そして、ネズミの眼前にそれは現れる。

 自分が帰ろうとした穴。

 そこから、カサカサと不気味な音を立てて、一匹の蜘蛛が現れた。

 

「~~~~ッ」


 ネズミの本能が全力で警鐘を上げる。

 怖イ、怖イ、怖イ怖イ怖イ。

 死ニタクナイ、死ニタクナイ、死ニタクナイ!


 だが、もう遅い。

 既に捕食者は自分の眼前まで迫っていた。

 鋭い爪と牙、そして僅かに見える『穴』の中に散らばる無数の骨。


 それがネズミの見た最期の光景だった。


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