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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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77.混乱


 西野と六花は校内の食堂に居た。

 探索メンバーとの顔合わせの為だ。

 椅子に腰かけ、メンバーが来るのを待つ。

 他の生徒たちが忙しそうに駆けまわっている中、こうして何もせずにただ待つだけというのは、中々もどかしい。


「まだかなー」


 足をプラプラさせながら、退屈そうに六花が呟く。


「もう少ししたら来るだろ。それまで俺たちはここで待っていればいい」


「はぁーい……」


 そのヤル気のない態度に西野は苦笑する。

 それから他のメンバーを待つ間、とりとめのない雑談を交わす。

 そうしていると、入口の方から数名の学生たちがやってきた。

 その先頭に居る人物を見て、西野は内心嫌な顔をする。


「……ふん、遅れずに集合するとは、不良にしては殊勝な心がけじゃないか」


 開口一番憎まれ口を叩く宮本に、西野は内心苦笑する。

 なんでこいつはわざわざ人と軋轢を作りたがるのだろうかと。

 いや、それともわざと挑発し、自分達に手を出させるのを待っているのだろうか?

 だとしたら乗るわけにはいかない。それがどれだけ見え透いた挑発であっても。


「それはどうも。それでなんでお前がここに居るんだ?俺たちは、探索班との顔合わせだって聞かされていたけれど?」


「ああ、そうだ。だが、内容が変更になった。君たちは僕達と共に学校周辺の不審者を探すメンバーになって貰う。そして、その指揮を僕が取る事になった。それだけの事だ」


 宮本の説明に、西野は首を傾げる。


「……不審者を探す?どういう事だ?」


「会長は、今回のモンスターの襲撃は、人為的な物であると考えられている。その犯人捜しを行うと言っているんだ」


「なんだと……?」


 その言葉に、西野は目を丸くする。

 詳細を聞かされていなかったのか、後ろに控えていたメンバーも僅かにざわめいた。


「ふん、想像もしていなかったという顔だな。低能の不良が。五十嵐会長は、今回のモンスター襲撃に不審な点があると仰っていた。そして、裏で操っている人間の存在に気付いたのだ」

 

「へぇ……成程な。てか、その言葉通りなら、お前も気付いてなかったんだよな?『低能の不良』の俺たちと同じように」


 あえて挑発するように言うと、宮本はカッと顔を赤くした。


「う、うるさい!黙れ!気付いていたに決まっているだろうが!だ、だが僕はあえて言わなかっただけだ!」


 どうやら、人を小ばかにすることは出来ても、自分に言われるのは我慢できないらしい。煽り耐性の低い男だ。西野は内心うんざりする。

 その態度が、ますます癇に障ったらしい。

 宮本はいらだたしげに眼鏡のズレを直す。


「ともかくだ!その魔物使いを探すメンバーに貴様らは選ばれたのだ。……本来なら、貴様らの様な不良と共に行動するなど、想像しただけで虫唾が走るが、お前と相坂だけは五十嵐会長から是非メンバーに加えろとのご命令だ。無下にするわけにもいかん。ふん、お前らの様な不良が、この僕と共にあの方のお役にたてる名誉を得たんだ。泣いて感謝するんだな!」


「……ニッシー、こいつぶん殴っていい?つーか、殴る。顔へこませる」


 宮本の上から目線の物言いに、とうとう我慢の限界を迎えた六花が立ち上がり拳を握る。放たれる殺気は、宮本を怯えさせるには十分だった。

 ヒィッと情けない悲鳴を上げる。


「止せ、六花」


「なんで止めるの、ニッシー?」


「今ここで、コイツを殴っても何の意味も無い。……それに五十嵐会長の迷惑になるだけだ」

 

「……それこそ、意味わかんないんだけど。そんなのどーでもいいじゃん。てか、なんで、そこであの女の名前が出てくるわけ?」


 妙にあの生徒会長の肩を持つ西野を不思議に思いながらも、とりあえず六花は拳を下ろした。

 

「ふ、ふん。まったくなんて野蛮な……。ともかく、行くぞ!」


 明らかに虚勢を張る宮本は、さっさと移動しようと踵を返す。

 他のメンバーもそれに続く中、それにしてもと西野は考える。


(モンスターを操る存在か……厄介だな……)


 それもあれほど強いモンスターを操る事が出来る程のレベル。

 相当な脅威だ。

 確かに、速やかに調べ上げる必要があるだろう。

 会長の為に。

 

(そうだ、何としてもあの会長を守らないと……)


 大切な、大切な存在なのだから。

 …………はて?なんで、大切な存在だったんだっけ?

 何だろう?何か、腑に落ちない。

 どうして自分は会長の事をこんなに大切に思っていたのだっけ?


「どうしたの、西野君?」


 声をかけられ、西野の思考は現実に引き戻される。

 見れば、隣に学校指定のジャージを着たショートカットの女子生徒が居た。

 ショッピングモールで再会した少女、葛木だ。


「ああ、葛木さん。いや、別に何でもないよ」


「そう?なんか、凄く難しそうな顔してたから」


「はは、ありがとう心配してくれて。……ところで、葛木さんも探索に?」


 やや強引に西野は話題を変える。


「あ、うん。レベルは低いけど、状況が状況だし、私もみんなの役に立ちたいからさ。さっきは、ごめんね、二人とも。嫌な思いさせちゃって……。宮本さんも悪い人じゃないんだけど、その、どうにも不良が嫌いみたいで……」


「大丈夫。別に気にしてないよ」


 西野がそう言うと、葛木はほっとしたような表情を浮かべた。


「あ、葛木っちも一緒なんだ。よろしくねー」


 肩に腕を回しながら、スキンシップを取る六花に、葛木は一瞬怯みつつもすぐに笑顔になる。


「う、うん。相坂さんもよろしく」


 そう言って、握手を交わし合う二人。

 西野も微笑ましそうに二人を見つめる。


(そうだな、今はとりあえずモンスターを操っている存在を探すのが先か)

 

 そう思い、西野は先程感じたささやかな疑問を棚上げする。


「よし、俺たちも行くか」


「だねー、あんまし話ししてたら、またあの眼鏡に嫌味言われるだろーし」

 

 クイッと眼鏡を上げる真似をしながら六花がそう言うと、違いないとばかりに彼らは笑いあう。

 その直後だった。


「……ん?」


 ふと、六花が首を傾げた。

 

「どうした、六花?」


「いや、今なんか、おかしな声が聞こえてさ。『メールを受信しました』って」


「メール?」


「うん」


 一体何だろうかと思い、六花はとりあえずステータスプレートを開く。

 レベルアップの時と同じ声だったので、もしかしたら何か情報が書いているかもしれないと思ったのだ。

 すると、案の定、画面が変化した。


「え、なにこれ?……メールメニュー?未読……一件?」

 

 初めて見る画面だった。

 その中で、未読と表示された部分が点滅している。

 おもむろに、その部分に触れると、再び画面が変化する。


「差出人……イチノセ ナツ。え、ナッつん?え、あ、え?」


 差出人の名前を見た瞬間、六花の混乱はさらに深まる。


「おい、どうしたんだ、六花?」


 怪訝そうな西野の声も、今の六花には届かない。

 意識は既に、目の前のメール画面にくぎ付けになっていた。

 次に目に入ったのは件名。


「件名……逃げて?」


 そして、最後に、本文。


 そこには、端的に一文だけ記されていた。






 ―――今すぐソイツから離れて、と。



「……え?」


 直後、小さな発砲音と共に、隣に居た葛木が吹き飛ばされた。


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