69.隠密特化の不審者二人組
さて、学校へ向かう前に物資の調達をするか。
近くのコンビニやスーパーへ向かおう。
「……そう言えばクドウさん、食料についてなんですが」
「なんです?」
「スーパーとかもそうですけど、物資を大量にゲットするなら卸売市場とか、流通業者や農協の倉庫とか行った方がいいんじゃないですか?ほら備蓄米や出荷前の野菜とか、種とかもあるかもしれませんし……」
あー、確かに。
俺のアイテムボックスに入れておけば腐らないんだから、その辺も攻めてみるべきだろうな。
「そうですね……。でも、お恥ずかしながら倉庫の場所とかが分からないんですよ……」
農協自体は役場の近くにあるけど、倉庫や保管場所までは流石に把握してない。
探すには時間が掛かるだろう。
卸売市場に至っては、ここから都心部を抜けて更に向こう側だ。
こっちも時間が掛かる。
「―――『地図』」
ぽつりと、イチノセさんがそう呟くと、彼女の目の前に3D映像の様な立体的な地図が現れた。
彼女の持つスキル『地図』だ。
これもガチャで当てたらしい。
ある程度の検索が可能らしく、グー◯ルマップみたいだ。
というか、俺の事チート野郎って言ってるけど、イチノセさんも大概だと思うぞ。
ガチャの引きが良すぎる。廃課金勢からしたら、ふざけるなと言いたくなるような引きの良さだ。
「倉庫は……あー、結構遠いですね」
地図のいくつか点滅している地点が、農協の倉庫らしい。
どこもここから結構な距離がある。
んー、なら後回しかな。
俺みたいにアイテムボックスを持っていなければ、他の人が持って行くのは厳しいだろうし、仮にアイテムボックスを持っていたとしても、俺みたいにポイントボーナスが無ければ、レベルもそんな高くないだろうし。
「それじゃあ、やはり予定通りに行きましょう。その後でそっちへ向かう方向で」
「ですね」
そんな訳で、俺たちは周辺のコンビニから順に探索していった。
移動中は、俺がイチノセさんをおんぶしている。その方が速いからね。
ついでにおんぶして分かったのだが、イチノセさんの胸威の度合いはあってない様なものだ。気にする事はない。ふっ。
「……なぜでしょう。とても不愉快な気分になりました」
「気のせいです。爪を立てないで下さい」
ところで俺たちの見た目なのだが、銃と首切り包丁を持ち、フルフェイスのヘルメットを被った二人組という怪しさ満点の出で立ちだ。
日常なら、確実に通報案件だろう。俺なら通報する。
まあ、スキルとアカの擬態が働いてるから問題ないけどね。
しかし、流石中心街だな。
郊外とは人の気配が段違いだ。
それにモンスターの気配も多い。
先程から『索敵』がずっと反応している。
「外に出てる人も多いな……」
「ですね……」
殆どが避難場所を探している一般人だが、その数も多い。
まあ、彼らはスキルを持ってないだろうし、俺たちが気付かれることはまず無いだろう。
「本当に不気味なくらい気付かれませんね……」
「まあ、隠密に特化してますからね」
移動中は、『気配遮断』、『無音動作』、『無臭』働いてるし、店内ではイチノセさんの『認識阻害』の効果も加わる。
『認識阻害』は建物内ではその存在を認識しづらくなるという特殊なスキルなのだが、彼女に触れている状態だと、俺にもその効果が波及するらしい。
モモの嗅覚さえ欺いた強力なスキルだ。とても頼りになる。
あのハイ・オークやダーク・ウルフみたいに余程の例外でもない限りは、そうそう気付かれる心配はあるまい。
「あ、クドウさん、あれ……」
「ん?」
イチノセさんが指差す方向を見る。
そこにはモンスターが居た。
「……スライムか」
ゴミ捨て場に溜まった三匹のスライム。
相変わらずふるふるしながらゴミを取り込んでいる。
ここはアカの出番かな。
「アカ」
「……(ふるふる)」
スライムに近づき、アカが擬態の一部を解除し、触手の様に伸ばす。
そして、ちゅるんと三匹のスライムを取り込んだ。
「……掃除機みたいですね」
うん、確かに。
抜群の吸引力だ。
アカがスライムを取り込んだのを確認して、素早くその場を後にする。
その後、コンビニ、雑貨屋、スーパーなどを回り、物資を補給した。
中はかなり荒らされていたが、ある程度の物資は残っていた。
やはりアイテムボックス持ちは貴重なのだろう。
その後、順調に物資を補給した俺たちは高校へと向かった。
それから数分後、俺達は目的地である学校のすぐ近くまで来ていた。
大したモンスターにも出会わなかったため、予定よりもだいぶ早く着いたな。
ここからでも、既にかなりの数の人間の気配がする。
やはり避難民たちが集まっているらしい。
「……ちっ、壊れてなかったか」
イチノセさんが何かを呟いたが、スルーしよう。
それよりも、学校の中からは、かなり強い気配を感じる。
それも複数。
多分、スキル持ちが居るのだろう。
レベルがどの程度かは分からないが、良い情報が手に入りそうだ。
「ん……?あれは……」
陰に隠れつつ、『望遠』で様子を窺っていると、校門付近で見知った顔を見つけた。
西野君だ。
それに派手な女子高生……六花ちゃん、だっけか?
それにショッピングモールで見かけた、新妻の石澤さんと、スポーツ少女も居る。
どうやら無事に生き延びたらしい。良かった。
西野君たちは、校門に居る見張りの人と話しをしている。
何を話しているのだろうか?
流石にこの距離じゃ、『聞き耳』でも聞き取れないな……。
話し合いを終えた西野君たちは校内へと入って行った。
「誰か知り合いでもいたんですか?」
「あ、いえ、知り合いって程でも無いですけどね」
「ふーん、そうですか。スキルが無い私じゃ、この距離は流石に見えませんね」
いやいや、『望遠』つかってる俺と同じように見えたら、それこそチートだよ。
とりあえず見張りの薄そうな場所から侵入するか。
校内に入ってしまえば、イチノセさんのスキルも発動するし。
さて、何か役に立つ情報が手に入ればいいけど。
期待しつつ、俺達は侵入できそうな場所を探すのであった。
一方その頃―――。
ダーク・ウルフは中心街を駆けていた。
傷口が痛む。油断した。
まさか、あの人間があれ程の力を持っているとは。
自分の予想を超えていた。
おかげで群れは半壊、自身も怪我を負った。
被害は甚大だ。
だが、収穫もあった。
世界が崩壊してからずっと探していた番いの気配。
それを遂に見つけ出す事が出来たのだ。
「アノ犬ダ」
あの人間と共に居た犬。
あの犬から自分の番いの気配を感じた。
「アノ犬コソ我ガ番イ」
間違いない。
ようやく出会えた。
「待ッテイロ」
必ず連れ戻す。
だが焦りは禁物だ。
今は傷を癒し、力を蓄える必要がある。
「マズハ群レノ者達ト合流スル……」
追跡を防ぐために、バラバラになって逃げたのだ。
嗅覚の優れた彼らにとっては大した問題じゃない。
すぐに合流できるだろう。
鼻をひくつかせ、群れの匂いを探していると、数匹のゴブリンが現れた。
「身ノ程モ分カラヌノカ?」
警告するが、ゴブリン達は武器を構え、虚ろな瞳でこちらを睨みつけている。
なんと愚かな。
だが、丁度いい。
今は少しでも力を回復する必要がある。
向こうもその気なのだから、文句はあるまい。
「死ネ」
ダーク・ウルフは『闇』を展開し、ゴブリン達を瞬殺した。
彼の足元にゴブリン達の魔石が転がる。
「デハ頂コウ」
魔石を喰らおうと、彼は首を伸ばした。
その瞬間だった。
突如、魔石から『鎖』が出現し、彼の首に巻き付いたのだ。
「ッ!!?」
何だ?
ジャラジャラと不快な金属音を奏でる不気味な鎖。
突然の出来事に彼は動揺する。
「何ダコノ鎖ハ!?」
千切ろうとしても千切れない。
振りほどこうとしても、振りほどけない。
「あっひゃっひゃっひゃ!いやー、ラッキーだぜ。まさか、こんな大物が手に入るなんて。俺ってば超ツいてるぅー」
不意に背後から聞こえた耳障りな声。
なんだ、この人間は?何処から現れた?
いや、それよりも、この鎖はまさかコイツの仕業か?
「グルアアアアアアアッ!!」
「おっと、振りほどこうとしても無駄だぜぇ?既に条件は満たしてるからよおー。これからは、俺がお前の主だ、犬っころ」
条件?
主?
なんだ?この人間は何を言っている?
不意に力が抜け、体の中を不快な何かが駆け巡ってゆく。
自分の意識が薄められ、違う何かに塗り替えられるような得体のしれない感覚。
「やっぱ、最高だぜ、この『魔物使い』って職業は。選んで大正解だ、あっひゃっひゃっひゃっひゃ―――……」
耳障りな声が遠のいてゆく。
だんだんと意識が薄れてゆく。
駄目だ、自分にはまだやらなければならない事がある。
迎えに行かねばならぬ者が居る。
懸命に意識を繋ごうとするも、駄目だった。
ダーク・ウルフは完全に意識を失った。
「よし、隷属完了だ。さて、学校へ戻るかな。急がねーとアイツらに怪しまれちまうからな」
その結果に満足し、その人物もその場を立ち去るのだった。




