60.合流
棚の影に隠れながら、入ってきた女性二人を眺める。
一人は以前俺の隣の部屋に住んでた新婚新妻さん。
……そう言えば、名前知らないな。なんていうんだろ?
もう一人は、学校指定のジャージを着たショートカットの女の子。
多分、高校生かな。スポーツ少女と言った感じの少女だ。
二人は刺又を構えながら、ゆっくりと店内を進んでゆく。
「だ、大丈夫ですよね……?お、オークたちは居ないですよね?」
女子高生の方はだいぶ怯えてるようだ。
武器を持つ手が震えている。
「大丈夫よ、居たらとっくに襲われてるわ……多分」
「多分とか言わないで下さいよー!」
新婚新妻さんの方は、表情は硬いものの、その足取りはしっかりしている。
意外と肝が据わっているのか、それとも年下が居る手前強がっているのか。
うーん、大丈夫だろうか?
見た感じ、二人ともそんなにレベル高そうには見えないけど。
というか、何しに来たんだ、この二人?
物資の補給……って感じじゃ無いな。
さっきの発言から察するに、生存者を探しに来たのか?
「大丈夫ですよ、石澤さん。きっと旦那さんも逃げてますって。だから、ね?早く戻りましょうよー……」
あ、やっぱり生存者を探しに来たのか。
それと新婚新妻さんの名字は石澤さんと言うらしい。
スポーツ少女の方は必死に石澤さんを説得するが、彼女はどんどん奥の方へ進んでいく。
あ、確かこのまま進むと……アレがあったよな。
嫌な予感がするなーと思いつつ、二人を見ていると案の定、彼女達は『それ』を見て悲鳴を上げた。
オークたちが積み上げていた死体の山だ。
「な、なんですか、これ?……うっぷ、おぇぇぇ……」
スポーツ少女の方は、直視できないと言った感じで思いっきり吐いている。
あー、やっぱ普通はそうなるよな。
俺だって、『ストレス耐性』とかなければ一生モンのトラウマ景色だもん。
「そ、そんな……嘘でしょ……」
一方で、石澤さんの方は茫然とした様子で死体の山を見ている。
正確に言えば、死体の山の一点。
一人の男性を見て。
「なんで……嘘よ。いや、アナタ……いや……いやあああああああああああああああああああ!」
石澤さんは叫びながら、男性の死体に駆け寄る。
確か、あの人って初日にココで戦ってた人達の一人だ。
そっか、旦那さんだったのか……。
「ああ、アナタ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
石澤さんは死体を胸に抱き、しばらく泣き続けた。
スポーツ少女の方は直視できないと言った感じで目を逸らしてる。
……正直、見ていてあまりいい気分はしないな。
そろそろ時間だし、気付かれない内に立ち去ろう。
彼女たちがどこから来たのか興味はあるけど、イチノセさんとの待ち合わせの時間が迫っている。
流石に遅れるわけにはいかない。
「……くぅーん?」
いいの?とモモが問いかけて来るが、答えは決まってる。
「……良いんだよ。俺たちが無理に首を突っ込む必要はない」
顔見知りでお隣さん同士ではあったが、それだけだ。
「……頑張って生き延びて下さいね」
彼女達に一言だけエールを送り、俺たちはショッピングモールを後にした。
たった三日で変わってしまった世界。
モンスターが溢れ、命が軽く、死が身近になってしまった世界。
それは至る所で、こういった悲劇を生み出しているのだろう。
……だからこそ、死なない様に頑張って生き延びなきゃいけないんだ。
そして、その数分後。
同じくショッピングモールを訪れる者たちが居た。
「お、やっぱニッシーの予想通りだね。オークたち居ないみたいだよ」
「ああ、良かった。学校に行くにはここが一番近道だからな」
二人の学生、西野と六花は駐車場からショッピングモールを眺める。
「どうする?中、見ていく?」
「……止めておこう。中にある物品は魅力的だが、今は少しでも早く目的地に向かいたい」
「んー、まあそだね。……て、あれ?誰か出て来るよ?」
「何だと……?」
二人が視線を向けると、ショッピングモールの中から二人の女性が出て来た。
その内の一人は、彼らの知る人物だった。
ジャージに身を包んだショートカットの少女。
彼女を見た瞬間、二人の表情が変わる。
「もしかして……葛木さんか?」
急に自分の名を呼ばれ、ビクッとする少女。
そして駐車場に居る西野たちを見た瞬間、大きく目を見開いた。
「……え、嘘?西野君?それに、相坂さん?い、生きてたの?本当に?」
驚きとかすかに安堵の混じった声を上げるショートカットの少女。
葛木と呼ばれたこの少女は、西野と六花のクラスメイトだったのだ。
駆け寄り、再会を喜び合う三人。
「葛木っち、久しぶりー。無事だったんだねー」
「相坂さんも……心配したんだよ。二人とも、あの日学校に来てなかったから……」
「……うん、そうだね。ねえ、葛木っちは今日までどうしてたの?あと、そっちの人は?」
「ああ、うんそうだよね。えっと、どこから話せばいいか―――」
スポーツ少女、葛木は今までの経緯を二人に話した。
三日前、世界が変わった日、彼女は学校に部活で残っていた事。
そこで、モンスターの襲撃に遭い、他の生徒と協力して生き延びていた事。
そして学校の近くにはモンスターが少なく、今では避難所として人が集まっている事などを掻い摘んで説明した。
「……そうか、大変だったんだな」
「西野君たちも……。大野君や柴田君も無事だったらいいね」
「ああ。きっと生きてる」
「ねえ?二人はこれからどうするの?もしよかったら、私達と―――」
「勿論、一緒に行動させてくれ。どの道、学校へ向かう途中だったからな」
力強く頷く西野に対し、葛木は安堵の表情を浮かべる。
その頬は少し赤い。
「良かった。それなら、一緒に行こう?」
「ああ、分かった」
こうして西野と六花はクラスメイトと再会を果たし、学校を目指すことになった。
「あ、そう言えば二人ともモンスターは倒したんだよね?職業とかスキルって何にしたの?」
何気なくされた質問。
一瞬だけ、二人の顔に陰りがさした。
「……えっとぉ、私は―――」
「俺が『交渉人』、六花は『冒険者』を選んだよ。だから、戦闘は六花に任せてるんだ。……男としては情けないけどな。どうやら、一度選んだら変える事は出来ないみたいだし」
「ふーん、そうなんだ」
特に疑う様子も無く葛木は頷く。
それを見て、西野はほっと胸をなでおろした。
「……いいの?」
こっそりと、西野にだけ聴こえる声で六花は訊ねる。
「……ああ。何があるか分からないんだ。一応は隠しておいた方がいいだろう、俺たちの『本当の職業』は」
「……だね」
「二人ともーどうしたのー?早く行こうよー」
「ああ、今いくよ」
二人は会話を打ち切る。
そう、知られるわけにはいかないのだ。
自分達の本当のレベルや職業、そしてなにより『あのスキル』に関しては。
ニシノ キョウヤ
LV8
職業
指揮官LV4
スキル
統率LV2、交渉術LV2、戦闘支援LV2、命令LV3
生存本能LV2、危機感知LV1、幸運LV1
同族殺しLV2
アイサカ リッカ
LV9
職業
狂戦士LV5
スキル
狂化LV3、勇猛LV2、戦闘続行LV1
斬撃強化LV2、打撃強化LV1、肉体再生LV2
同族殺しLV2




