43.狙撃
レベルアップのステ振りはちゃっちゃと済ませるとしよう。
今回もジョブの方は『暗殺者』を上げる。
LV8にして、5ポイントは温存だ。
順調にいけば、あと二回レベルアップすれば、LV10になる。
そうなれば、おそらく次の上位職へ上がれるはずだ。
『暗殺者』の上位職ってなんだろうね?
……物騒な予感しかしないけど。
まあ、その時になってからでいいや。
次にスキルの方は、『危機感知』をLV8に、『敵意感知』をLV6へ上げる。
これで残りはゼロ。
スキル使用してるけど、中々熟練度上がらないな。
そろそろ『剣術』や『急所突き』辺りは、上がっても良いと思うんだけど。
地道にモンスターを倒していくしかないか。
さて、移動しますかね。
あ、そう言えばこの辺りには生協があったな。
ついでに、物資も頂いて行こう。
―――歩く事数分。
生協に到着する。
『索敵』に反応があった。
モンスターじゃない。人間だ。
どうやら、先客がいたらしい。
近くに隠れて、様子を窺うと、店内に居たのは学生たちだった。
あれは……西野君のグループか。
数は全部で四人。その内の一人は眼鏡君だ。
彼らは笑顔でリュックや買い物カートに、食材を詰め込んでいる。
ようやく食料を見つけたんだろうな。かなり嬉しそうだ。
「やべー、超食い物一杯あるじゃんよ」
「ぷはー、コーラ超うめえ!ぬるいけど!ハハハハ」
「おい、ポテトも食おうぜ!どうせ全部は持っていけねーんだしよ」
「み、みんな……食べてないで、早く運んじゃおうよ……」
「あ?大野、てめー誰に指図してるんだ?」
「そーそ。西野の眼もねーんだし、少しくらい役得があったって良いじゃねーか。あ、チクったら殺すから。ぎゃはははは」
「い、痛っ。やめてよ、肩叩かないでよ……!」
「別に触っただけだろうが、いちいち大袈裟なんだよテメーは」
「そーそ。あ、大野、ポテトとって」
うわー……典型的ないじめっ子といじめられっ子の会話って感じがする。
眼鏡君、可哀そう。助けないけど。
一人で黙々と荷物詰めながら、彼らのパシリしてる。
しかし、買い物カートに荷物詰めてるけど大丈夫なのかね?
それ結構動かす時、音響かない?
途中で、モンスターに襲われる可能性が高くなる気がするけど……。
まあ、俺が気にする事じゃないか。
とりあえずここでしばらく待つか。
数分すれば、彼らも出ていくだろう。
その後で、俺も物資を回収すれば良い。
それから数分後―――。
ようやく彼らが荷物を詰め、立ち去ろうかとしたその時、『索敵』に反応があった。
「ん……?」
少し離れた所に居る気配……人じゃないな。
モンスターだ。
少し身を乗り出して『望遠』で確認すると、見つけたのはレッサー・ウルフ二匹。
少しずつこちらへ接近してきている。
よりにもよって、コイツらか。
また俺か?俺の方に来るのか?と思ったが、どうやら違ったようだ。
レッサー・ウルフたちは店内に居る学生たちに狙いをつけたらしい。
俺の方には目もくれず、生協の方へ向かってゆく。
「お、おい!アレを見ろ!」「マジかよ……モンスターじゃん」
「アレって、昨日戦ったヤツじゃね?」
眼鏡君たちもようやくレッサー・ウルフの存在に気付いたようだ。
ずいぶん慌てている。
『索敵』系のスキルを持ってる奴はいないのか?
よくそれで探索に出ようと思ったな。
というか、そこまで慌てなくても、モンスターの襲撃くらい予想出来るだろ。
西野君、人選ミスじゃないか、これ?
「み、みんな、何してるんだよ!早く逃げようよ!」
学生たちが武器を構える中、一人異を唱えたのは眼鏡君だ。
彼は食料の入ったリュックを大事そうに背負いながら、逃げようと声高に叫んでいる。
「ハァ?大野、お前ビビってるわけ?相手はたった二匹だぞ?らくしょーだろ?」
「そうだぜ!昨日、レベルも上がったし、今度は負けねーよ」
「で、でも昨日みたいに、仲間を呼ぶかもしれないんだよ?そ、そうなったら僕らじゃ無理だよ……」
眼鏡君は、昨日の様にレッサー・ウルフが仲間を呼ぶことを警戒しているらしい。
それは正しいな。
あの行動には、俺もえらい目に遭わされた。呼ばれた個体が何故か俺の方ばっか来るし。
だが、他の学生たちはそうは思わなかったらしい。
「ハッ!だったら、その前に倒せばいいだけだろうが!」
「そうだぜ!せっかくだし、レベル上げよーぜ。六花の馬鹿に、ずっと偉そうにさせる訳にはいかねーんだよ!」
「うらあああああああああ!死ねえええ!」
彼らは駆け出し、レッサー・ウルフへと向かってゆく。
仲間を呼ばれる前に倒せばいいか。
うわぁー……何という脳筋理論。
つーか、無理だろ、それ。
コイツら、ホントに現実見えてるのか?
昨日、あんな地獄を経験して、何でそんな言葉が出る?
それとも、それが出来るくらい彼らはレベルが高いのか?
「うらああああ!死ねええええええ!!」
「ガルルルルルッ!!」
レッサー・ウルフと学生たちの戦いが始まる。
眼鏡君は参加してないから三対二か。
数の上では有利だし、もしかして本当にレッサー・ウルフたちを瞬殺……出来てないな。
めっちゃ苦戦してるし、むしろ押されてる。
うん、これ現実見えてないだけだ。
どう見たって、彼らのレベルは高くない。
スキルも、それほど大したものは持ってないんじゃないか?
それでよくそんなデカい口叩けたな。
西野君から、食料や安全第一でとか言われてないのか?
そんな彼らの様子を見て、眼鏡君の表情はどんどん青くなってゆく。
彼は急いでリュックを背負う。
「っ……!ご、ごめん!」
「あ、おい!大野、てめえ!?」
「逃げんな、コラッ!」
眼鏡君は、仲間を見捨てて、逃げ出した。
その姿はどんどん小さくなってゆく。
逃げ足速いなぁー……。
まあ、でも正しい判断か。
彼ら、どうやったって眼鏡君の言う事、聞かなさそうだし。
あと多分勝てないだろうし。
それなら多少なりとも食料持って、自分だけでも逃げ延びた方がいい。
うん、何も間違っちゃいない。
少なくとも、俺ならそうする。
さて、彼らはどうなるかね?
「ハァ……ハァ……クソがッ!」
「おい、如何すんだよ……?このままじゃ……」
「うるせえ!ここまで来たら、やるしかねーだろうが!」
学生たちは徐々に傷つき、疲弊していく。
これ、多分死ぬな。
「うらあああああああ!」
学生の一人がレッサー・ウルフに突撃を仕掛けた。
だが、レッサー・ウルフも楽々と躱し、そのまま彼の首に噛みつこうとする。
あ、これ死んだな。
そう思った瞬間、パン!と小さな発砲音が聞こえた。
「……え?」
突然、レッサー・ウルフの頭が爆ぜた。
「は……?」
学生は何が起こったのか分からないと言った表情を浮かべる。
俺もそうだ。
何だ?今、何が起こった?
再び、パン!と小さな発砲音が聞こえた。
すると、もう一体のレッサー・ウルフの頭も爆ぜた。
……もしかして、今のって狙撃か?
でも、一体どこから?
あの眼鏡君のスキル?
いや、多分違う。
音がした方向は、彼が逃げたのとは全く別方向。
場所は―――。
俺は音のした方を見る。
百メートル以上離れた場所に在る高層マンション。
その屋上で、何かが不自然に光った。
あそこか。
「お、おい!何かしらねーけど、今の内に逃げようぜ!」
「あ、ああ!」
「ひいいいいいいいいい!」
学生たちは必死になって逃げてゆく。
その情けない姿よりも、俺の関心は既に向こうの高層マンションに集中していた。
あそこから撃った?
だとすれば相当な距離だぞ?
銃?……でも、この日本で?
いや、何らかのスキルか?
様々な疑問が頭を駆け巡る中、天の声が響いた。
≪メールを受信しました≫
……は?




