37.他人との比較
ホームセンターに着いた。
近くへ隠れて、様子を窺う。
「昨日より見張りが少ないな……」
……入口に二人。
それに見張りの一人が学生じゃない。なんか老けてるし、服が違う。
多分、避難してきた人だ。
昨日学生に混じってモンスターと戦ってた人かな。
レベルが上がって、スキルを手に入れて、彼らに仲間って認められたって事かね。
「もう少し近づいてみるか……」
『索敵』のレベルも上がってるし、今なら壁際まで接近すれば中に何人いるかもわかるだろう。
『気配遮断』と『無音移動』のおかげで、見張りの人達が気付く気配はない。
楽々と昨日と同じ、侵入した窓の傍に到着する。
「……随分、人の気配が少ないな」
『索敵』の範囲内に感じられる人の気配はせいぜい5~6人。
昨日に比べて、明らかに少ない。
この辺の物資が少なくなったから、捜索範囲を広めたのかな?
昨日、西野君がそんな事言ってたし。
というか、西野君の気配もしないな……。
彼も外に出ているのだろうか?
矢面に立って探索するタイプには見えなかったけど……。
「どうすっかなー……」
俺としては願ったりかなったりな状況。
さっさと物資を頂いて、トンズラするに限るんだけど……。
「昨日の今日だし、警戒されてるよな……」
昨日の話し合いで、西野君は明らかに『物資を持って行った存在』―――すなわち俺の事を警戒していた。
そしてホームセンターに現れる可能性が高い事も示唆していた。
それをみんなの前で公言している。正確には学生たちへ。
そんな中で、のこのこ入っていっても大丈夫だろうか?
昨日のモンスター戦で、レベルが上がり探知系のスキルを得た奴がいる可能性だってあるし。
うーん、でもせっかく来たんだし、何の収穫もないのもな……。
工事現場で結構いいものが手に入ったから、正直余裕はある。
『保存機能』が手に入ったおかげで、食料に困る事はなくなったんだし。
欲張ってリスクを冒す必要はない……か。
それともばれないように少しだけ貰って行くとか?
外に置いてある園芸用の杭や角材。
この辺りならたくさんあるし、少しばかり失敬したところで気づかれる事も無いだろう。
「―――か……スキルを―――……」
「……ん?」
少し離れた場所から話し声が聞こえた。
それも『スキル』やら、『職業』などの単語も聞こえる。
「売り場の方か?」
慎重に壁伝いに移動すると、売り場の一角に数名が集まって何かを話しているのが分かった。
一応、周囲に人が居ない事を確認する。……大丈夫だな。
壁に耳を当てて、『聞き耳』スキルを発動させる。
「―――それじゃあ、もう一度確認すっぞ。先ずは全員、ステータスプレートを開け。心の中で『ステータス』と念じれば、出てくるはずだ」
「うお!ホントだ、ホントに出たぞ!」
「は、君、何言って……ホントに出てきた!?」
「不思議な板だな……どういう仕組みになってるんだ?」
「あー、一応俺たちはステータスプレートって呼んでる。自分のプレートは他人からは見えない様になってる。注意してくれ」
……これは。
もしかして、レベルが上がった人たちにスキルのレクチャーをしているのか?
声の主は、昨日の不良っぽい生徒の一人だろうか。
入口の見張りをしてた中にこんな声の奴がいた気がする。
「各項目は後で説明すっから、先にレベルとSP、JPってところを見てくれ。全員、レベルは1って表示されてるか?」
学生は避難民たちに訊ねる。
返事はないが、多分頷いているんだと思う。
「昨日、西野さんも言ってたと思うが、誰でもモンスターを一体倒せば、それで必ずレベルが1になる。そうすれば、このステータスが見える様になる。みんな、頭の中に声が響いたろ?『経験値を獲得しました』って」
「あ、ああ……。だが、それがなんなんだ?」
「大事なのはこっからだ、おっさん。項目の下にSP、JPって項目があるだろ。これでスキルとジョブを選ぶことが出来るんだ。早い話、モンスターと戦える力を手に入れる事が出来る」
「た、戦える力……?」
「そうだ。SPが2ポイント、JPが1ポイント入ってる筈だ。皆、間違いねーな?」
「あ、ああ入ってる」
「俺も……」
「私も」
「それで職業を一種類、スキルを二種類選ぶことが出来る。スキルと職業の欄をクリックしてみてくれ。そこに表示されたのが、アンタらが獲得できる能力や職業だ」
再び、学生が確認を取る。
……ん?というか、ちょっと待て。
SP2ポイントに、JP1ポイントだと?
確か、俺の初期ポイントはそれぞれSP10、JP10だった筈だ。
この差は何だ?
今の口ぶりからすると、個人差は無く、全員初期のポイントは共通しているのだろう。
どうして、俺のポイントは多い?
考えられるとすれば……。
「―――『早熟』の効果か……?」
経験値補正(推測)と、獲得するポイントの増加。
それが『早熟』のもたらす効果なのだとすれば―――。
「ど、どれを選べばいいんだ、これ?」
「えっと、私には『会社員』、『市民』、『冒険者』、『ゴルファー』とか色々でてきたんだが……?」
「あ、あの……私のスキルの項目なんだけど色々あって―――」
「えーっと、じゃあ悪いけど、紙に書いてくれないか。くれぐれも嘘は書くなよ。もう少ししたら、西野さんも帰って来るし、相談して決めた方がいい。あの人なら、生き残る為に最善の選択をしてくれる筈だ。とりあえず、スキルや職業はまだ勝手に選ばないでくれ」
避難民たちは学生と己のスキルや職業について話し合っていく。
聞いた限りじゃ、珍しい職業やスキルを持ってる奴は居なさそうだな。
アイテムボックス持ちも居なかった。
もしかして相当にレアなスキルなのか?
というか、今まで比べる対象が無かったから何とも言えなかったけど、ひょっとして俺って相当幸運な部類に居るんじゃないか?
『早熟』と『アイテムボックス』。
この二つを最初に手に入れる事が出来たんだし。
「……ん?」
『索敵』に反応があった。
この気配は……西野君たちか。
どうやら帰ってきたようだ。
結構有意義な情報も手に入ったし、引き上げるか。
移動し、園芸用の杭や角材などをばれない範囲で少し拝借する。
学生たちに見つかる前に、俺はその場を後にした。




