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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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270.VS先遣隊 総力戦 その11

 真っ先に思ったのは、これ壊せるんだって事だった。

 マスターキーはシステムにおける最重要アイテムだ。

 それがまさかこうも簡単に砕けるとは思わなかった。あまりにも脆かった。


 ――まるで砕いて下さいと言わんばかりに。


 砕け散り霧散するマスターキーをリベルさんは表情を変えずに静かに見つめる。

 だが一瞬だけ、その眼に少し動揺が見えた。まるで何かに悲しんでいるように。


「……成程、やっぱりそういうこと」


「リベルさん……?」


 どうかしたのだろうか?


「なんでもないわ。ともかくこれでシステムに干渉する方法は消えた。目の前の馬鹿に集中しましょう」


 先程見た表情が見間違いだと思う程に、リベルさんの表情は鋭く、結界の中に居るランドルを射抜いていた。

 結界の中のランドルは震えていた。

 血がにじむほどに口内をかみちぎったのか口からは血が滲み、爪がはげる程にかきむしったのだろう。結界には血の跡が見えた。

 頭をガリガリと掻き乱し、鬼のような形相で、俺達を睨み付ける。


「貴様……貴様……貴様らああああああ! 何を! 自分達が何をしたのか分かっているのか! それにどれほどの価値があると、この世界を制御する唯一の道具になんてことを! 自分たちの愚行が理解出来ているのか!」


「……アンタがしてきた愚行に比べれば、遥かにマシでしょ」


「愚行だと!? 必要なことだ! 我らが生きる新たな世界の為に! 何故それが分からん!」


「分からないから、こうしてアンタと対立してんでしょーが。――『聖域回復』」


 リベルさんの手が輝き、その光が俺へと向けられる。

 一瞬で、腹に空いた傷が塞がった。


「問題ない?」


「ああ、大丈夫だ」


 むしろさっきよりも調子がいいくらいだ。

 体の調子を確かめていると、上空から新たな気配を感じた。


『すまない、遅くなった』

『待たせたな、カズト』


 ソラと……もう一体の赤い竜はフランメって言う竜か。アロガンツが蘇らせたっていう元竜王でソラの旦那さん。ソラのヤツ、旦那さんにものすごいぴったりくっついてるな。よくみたら尻尾もめっちゃぶんぶんしてる。


『……どうしたカズトよ? 我の方を見て』


「いや、なんかその……嬉しそうだなって」


『べ、別にそんなことはない。夫から事情は聴いている。再会できたのは確かに喜ばしいが、時と場所を選ばぬほど、我は愚かではない』


『……』


 そういいつつもさっきよりもくっ付いてる。それはもうぴっちりと。

 旦那さんもめっちゃ何か言いたげな表情。……うん、もう何も言うまい。

 実際、亡くなった夫にまた会えたんだ。その思いは俺なんかには推し量ることも出来ないだろう。


『フランメ、番いと一緒に来たということは剣聖の方は倒したのかい?』


『いや、倒してはいない。だが『取引』に応じてくれた。話の分かる奴で助かった』


『取引……? まあいい。片付いたならそれでいいさ』


 気配を探ってみれば、そちらに居た先遣隊の気配が消えていた。


「ボアが裏切っただと……? 馬鹿な、ならば何故奴は死んでいない?」


『貴様が仕掛けた自爆装置なら九条あやめの仲間が無効化した。『変換』とはずいぶんと便利な固有スキルだな。それにあやめの持つ『叡智』の固有スキルのおかげで交渉はスムーズに進んだ』


「え、ちょっと待って。九条あやめ? どういうこと?」


 なんでそこで俺のいとこの名前がここで出てくるわけ?

 確かに西野君やリベルさんとは別の結界に、確かに知らない気配がしてたのは気付いてたけど、あれってあや姉だったの? 俺なにも聞いてないんだけど?

 するとソラは怪訝そうな表情で俺の方を見る。


『なにも聞かされてなかったのか? 本人はお前の為にずいぶん張り切っていたぞ?』


「いや、聞かされるもなにも初耳なんだけど?」


 そもそも連絡の一つも来てないし。

 念の為にとメールを確認してみれば、鬼のように大量の一之瀬さんのメールに混じって、西野君から二通メールほど届いていた。

一つ目は援軍について、もう一つは数分前で先遣隊の一人の説得に成功した件についてと表示されていた。


「……」

 

 内容を開けば、あや姉とその仲間や事の経緯について詳細に記されていた。ここへ来た理由や、彼女や仲間のもつ固有スキル、どうして俺に直接連絡を入れらなかったのか、決戦前に会えなかったのか、どうして先遣隊の一人を説得出来たのか、そして何故、説得後すぐにここを離れなければいけなかったのか、その理由も含めて、全部ちゃんと詳細に記載されてた。


 ……ちゃんと情報来てたわ。一之瀬さんの大量のスパムメールで大事な情報流れてたわ。


(一之瀬さああああああああああああああああああああああんっ)


 俺は心の中で一之瀬さんに叫ばずにはいられなかった。

 いや、メールに気付けなかった俺にも責任はあるけどさ。それにしたってこんな酷い落ちはないだろうに。メールの通知をオフにしていたのが仇になった……。

 そして今この瞬間にも届き続ける大量のメール。


「どうかしたの、カズト?」

「……いえ、なんでも」


 ともかく、敵の一人が寝返ってくれたのならそれに越したことはない。

 これで先遣隊はランドルを含めて残り四人。

 ランドル、ガシュマシュ、リアルド、オリオン。

 そのうちの二人、ガシュマシュとリアルドは未だ、一之瀬さん、西野君、六花ちゃんらと交戦中。

 オリオンってやつはペオニーの巨体と結界に挟まれて身動きが取れない状態。


 つまり俺達はここに居るランドルだけに集中すればいい。

 マスターキーが無くなった以上、もうランドルのシステム干渉を警戒する必要もない。俺とアロガンツだけでは勝てなかったが、今はリベルさんも、ソラも、元竜王のソラの旦那さんも居る。

 戦力としては間違いなく俺達の方が有利なはずだ。

 ……ランドルにこれ以上の奥の手でも無ければ、だが。


「……はっ、余裕だな。もう勝った気でいるのか?」


 どうやらランドルも多少は平静を取り戻したらしい。

 先ほどまでの鬼のような形相は鳴りを潜め、冷酷ながらも、憎しみのこもった表情で俺達を見ている。その手には禍々しい黒い剣が握られている。


「まだだ。まだ終わってはいない。貴様らを殺し、もう一度、システムを゛しょぉァクシテ――……?」


「……?」


 なんだ? 今、なにか……?


「……なんダ?」


 ランドル自身もその異変を感じているようで、不思議そうに己の首に手を当てている。

 次の瞬間――ヤツの右腕がボコボコッと不自然に膨れ上がった。


「オ゛ゴェ……なっ――なんだ、これは!?」


 その異変は右腕だけに留まらず、瞬く間に全身に広がってゆく。

 胴体も、腕も、足も、全てが不自然に膨張し、膨れ上がってゆく。


「おごっ……ごぁ、な、なにが――……」


「やっぱりね。……反動よ」


 ボコボコと身体が膨張し続けるランドルに、リベルは冷たく言い放つ。


「な、に……?」


「マスターキーを使い続けた反動。あれだけの改変を行って、なんのリスクもないと思ってたの? マスターキーは無くなっても、システムの負荷は残ったまま。それを制御していたマスターキーが無くなったなら、その負荷(ツケ)はどこに向かうと思う……?」


「ぞ、ぞんなごどが……だ、だずげ、で……」


「無理よ。アンタだって危険は承知の上で、その力を使い続けたんでしょ? なら受け入れなさい」


「こ、こんなこど聞い゛デなイ……。い゛、嫌だ。わだ、私はごんなごどぉ、望んでわ゛ぁ゛いぃなあい゛い゛ぃぃ……わだじはこの世界をぁぁぁああ~~~……」


 ボコボコボコボコボコボコボボコッ!

 膨れ上がったランドルの肉体は遂に破裂し、結界内に飛び散った。

 ビタンッと、ランドルの醜く膨れ上がった頭が、結界にぶつかって地面に落ちる。

 その頭に、奴の持っていた黒い剣が突き刺さった。まるでそれまでの奴自身の因果が全て下ったかのように。

 あまりにもあっけないランドルの最期に、俺達は茫然とするしかなかった。


「……終わったんですか?」


「いいえ、まだよ」


「え?」


 リベルさんは杖を構える。

 同時に結界の中に飛び散ったランドルの肉片は更に膨れ上がると、また一つに集まってゆく。

 それは集まると同時に爆発的に膨張し、真っ黒な巨大な赤子の姿へと変貌した。


「ァァ……ギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~~~~~ッ!」


「ッ……」


 なんて咆哮だ。結界の外ですらこれだけの威圧感を放つなんて。


「リベルさん、あれはいったい……?」


「……システムのバグの集合体ってところかしらね」


「システムのバグの集合体?」


「前に言ったでしょ? マスターキーを使い続けたことで、システムはバグを蓄積していったって。どうやらマスターキーを壊したことで、そのバグがランドルの肉体を憑代にして、この世界に具現化したみたいね」


「なっ――!?」


 黒い赤子が結界に手を触れる。

 ぺたぺたと。


「……あぁ、ぴぎゅぁぁあああ……アァァァアアアアアアアアッ!」


 すると、シュラムの張った結界が、まるで薄氷のように砕け散った。


『海王の張った結界を壊しただと……?』


「おぎゃぁぁあああああああああアアアアアアアアアアアアアアア!」


 黒い赤子はそのまま俺達へと突っ込んでくる。


「ど、どうすればいいんですか?」

「どうするもなにも、倒すしかないでしょ」


 あっけらかんと言うリベルさんに、俺もアロガンツも唖然とする。


「倒すって……」

『……出来るのかい? バグの集合体ということは、それはつまりあれはシステム側の存在だということだ。我々にどうにか出来るとは思えない』


「出来る」


 リベルさんは断言する。


「あれはランドルの肉片を媒介にこの世界に実在してる。そしてランドルの肉体は異世界人とは言え、この世界の存在。――イフリート!」


 リベルさんが杖をかざすと、灼熱の精霊イフリートが姿を現す。


「焼き尽くしなさい」

「ギィガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 イフリートの口から放たれた巨大な炎が、俺達に向かおうとしていた黒い赤子を紅蓮の炎で覆い尽くした。


「ぎぃぃ……いぎゃぁぁぁあああああああああああああああ!」


 黒い赤子は、体を焼かれ、苦しそうに悶えている。


「効いてる……?」


「言ったでしょ? あれはバグの集合体とはいえ超常の存在じゃない。ちゃんと倒せるようにこの世界に『実在』しているの。そういう風にシステムに『設定』されてるのよ」


『……』


 リベルさんの言葉に、アロガンツはどこか考え込む仕草をする。


『……固有スキルを取得した時にも感じたが、ずいぶんと作為的なものを感じるな。まあ、その疑問は目の前のアレを片付けてからにしようか』


「……そうだな」


 俺は忍刀を、アロガンツは魔剣を、リベルさんは杖を、ソラとフランメさんも翼を広げ、ブレスの構えを取る。

 一斉に、俺達は黒い赤子へと攻撃を仕掛けた。


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【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
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書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
『黒い赤子』という表現は肌の色による差別と受け取られかねない。日本人でも肌の黒い赤子は生まれているだろう。そういう人の気持ちに立てば金色や銀色の赤子に変更した方が良いじゃないかなと思う。
スピンオフの猫の方の主人公だ。
ムカつくやつが無様に死ぬのはスカッとしますなぁ
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