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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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265/274

265.VS先遣隊 総力戦 その6


 アロガンツの『魔王礼賛』が発動する。

 漆黒の闇が周囲を覆いつくし、全てを黒一色に染め上げる。

 そしてアロガンツの周囲の空間が歪む。


「なっ……」

「なん、だと……?」


 アイヴァーは目を疑った。

 ベルドすら目を見開き、目の前の光景を疑った。

 アロガンツの周囲の空間から這い出るように現れたのは赤銅色のオークだった。

 更に巨大な建造物が繋ぎ合わせて出来たような岩の巨人、人の上半身に蟻の下半身を持つ女王蟻、天を突くほどの巨大な大樹、そして真っ赤な鱗を持つ美しい竜が現れた。

 アロガンツは現れたモンスターの名を呼ぶ。


「ハイ・オーク『ルーフェン』、ガーディアン・ゴーレム『ティタン』、クイーン・アント『アルパ』、エルダー・トレント『ペオニー』。そして――竜王『フランメ』。かつて彼と死闘を繰り広げたネームド達だ。……ああ、フランメだけは別枠だがね」


「ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」


 ハイ・オーク『ルーフェン』が吠える。


「ルゥゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」


 ガーディアンゴーレム『ティタン』が大地を震わす。


「ァァアアアアア……キッシャアアアアアアアアアアアアアッ!」


 クイーン・アント『アルパ』が産声を上げる。


『ふぅむ……ここは?』


 そしてただ一体――赤い竜『フランメ』だけが首をかしげている。


「初めまして、竜王フランメ。君まで召喚されるとは予想外だったよ」


『君は……? 私は……確かペオニーに食われて死んだはずでは……?』


「まずはこちらの手伝いをしてほしい。状況と情報は君たちの脳へ直接送る」


 脳に情報を送られた瞬間、フランメは震えた。


『こ、これは……。私の妻に名前が……。それにシロちゃん、だと……!? なんという可愛さ……。流石、私とソラの子だ……』


「……蘇って最初に言う感想がそれかい?」


 ソラといい竜という種族は皆親バカなのだろうか?

 アロガンツは場違いな感想を抱く。


「ともかくだ。君たちも状況は把握しただろう? ルーフェンとアルパは第二結界へ、ティタン、ペオニーは第三結界へ、それぞれ向かってくれ。私の闇を経由すればすぐに移動できる」


 蘇ったネームド達は素直にアロガンツの指示に従い、それぞれの結界へ向かう。

『魔王礼賛』によって蘇ったモンスターはアロガンツの命令には逆らえない。

 それはネームドといえどそれは例外ではない。


(まあ、状況が状況だ。命令せずとも素直に従ってくれたとは思うがね……)


 アロガンツは残ったフランメを見る。

 

「フランメ、君にはここに残って私の手伝いをしてもらう。番いや子供との再会はまだ我慢してくれよ?」

『承知した。妻子に会える機会を与えてくれた義理は果たそう。我が竜王の力、存分に使うがよい』

「……話の分かる方で助かったよ」


 ――妻と違って、とは間違っても言えないがとアロガンツは心の中で思う。


「ッ……」


 かつての竜王の参戦に、ベルドも顔を引きつらせる。

 先ほどまで有利だった戦況が、ここに来て一気にひっくり返ったのだから。

 六王の一角『竜王』とはそれ程の戦力なのだ。


「……いや、ハッタリだ。そんな都合のいい展開などありはしない。幻術かもしくは偽物だ! そうだろう?」

「なら試してみるといい。フランメ、とりあえず君の力を見せてくれないか?」

『承知した』


 フランメは大きく息を吸う。


(ブレスだと!? まさかこの距離で?)


 竜王フランメのブレス。

 確かにそれは途轍もない威力だろう。

 だがそれをこの距離で行うのは自殺行為に等しい。

 ブレスの爆発にベルドだけでなく、アロガンツや下手をすれば己まで巻き込んでしまうからだ。


「――構わないよ。自由にやるといい」


 だがアロガンツ。

 動じることなくそう命じる。


(ブレスの前に仕留めて――いや、あのスケルトンが邪魔だ!)


 ベルドの槍の速度は先遣隊最速だ。

 だが反面、最速の一撃を放った後には僅かに隙が生じる。

 まばたきにも満たない程のほんの僅かな隙だが、それが同格同士の戦いではそれは致命的な隙となる。

 相手が一体ならばその隙を見せる前に仕留めて見せるが、二人以上ならば確実にその隙を突かれるだろう。


 故にベルドは一旦、距離を取った。

 間合いさえ取ればあのブレスにもアロガンツの追撃にも対応出来るだろう。

 ブレスが放たれた瞬間、回避し、一体ずつ仕留める。

 槍を瞬時に後ろへ伸ばし、収縮。

 一気にアロガンツとフランメから距離を取る。

 だがその瞬間、フランメの姿が陽炎のように揺らいで消えた。


「なっ――」


 ――蜃気楼。熱によって創られたまやかし。

 ブレスが来ると警戒していたベルドは一瞬、反応が遅れた。

 背後から迫る竜王の爪撃が、ベルドを容赦なく切り裂いた。


「がはっ……!? テメェ……!」

『なんだ? 私が奇襲を使う事がそんなに予想外だったか?』


 まさかのフェイント。

 幻を創りだしたフランメは、気配を断ち、ベルドの背後へと迫っていたのだ。

 モンスターが、それも六王の一角である竜王が、格下である人間相手に奇襲を使うなど、ベルドにとっては想像も出来なかった。


(まさか、こんな単純な手が本当に通じるとはな……)


 一方で、フランメもまた奇襲が成功した事に内心驚きを隠せなかった。

 当然、これはフランメの立てた作戦ではない。

 その立案者は、盛大に高笑いをしていた。


「アハハハハッ! 素晴らしいじゃないか、フランメ! そうとも! 正々堂々戦う必要などない! 必要ならばいくらでも卑怯な手を使えばいい! 勝てばいいんだよ、勝てば!」

『……』


 アロガンツの言葉に、フランメは若干渋い顔をする。

 とても味方が言う台詞には聞こえなかった。


「テメェ……」

「隙だらけだ! 喰らえ、先遣隊!」


 アロガンツの容赦のない追撃。

 血の斬撃がベルドをズタズタに切り裂いた。


「がはっ……」

「既にアイヴァーと五所川原に相当なダメージを負わされていたようだね。万全の状態だったら、あの程度の奇襲にも対応できただろうに。全ては君の慢心と油断が招いた結果だ」

「くそ、が……」


 地面に倒れるベルドを、アロガンツとフランメは見つめる。


『気を失ったようだな。どうするのだ?』

「止めを刺す――と言いたいところだがね」


 アロガンツはベルドの槍を取り上げると、アイヴァーへと放り投げた。


「ッ!?」

「アイヴァーといったか。これをどうするかは後は君に任せよう。私には血の繋がりは理解出来ないが、人間にとっては大事なのだろう?」

「……いいのですか?」

「構わない。これまでの戦いで分かった。先遣隊と謳ってはいるが、我々にとって本当に『敵』と言えるのはランドル一人だけだ。奴さえどうにかすればこの戦いは終わる」

「……」


 その言葉にアイヴァーは複雑そうな表情を浮かべる。


「さて、露払いは済んだ。本命ランドルの元へと――ん?」


≪――ザザ――ザザザ――ザザザザ≫

≪ザザザザ――接続――接続――成功≫

≪カオス・フロンティアより対象個体『アロガンツ』へ『リスト』を授与します≫

≪活用を願います≫

≪繰り返します≫

≪カオス・フロンティアより対象個体『アロガンツ』へ『リスト』を授与します≫

≪活用を願います≫


「何だこのアナウンスは……?」


 突然流れたアナウンスにアロガンツは困惑する。

 確認すると、ステータスに『リスト』という項目が追加されていた。


(これは……どういうことだ?)


 リストを開くと、そこには驚くべき情報が表示されていた。


(……もしこれが本当ならば我々の戦力は一気に逆転する。しかし、これはあまりにも我々に都合が良すぎる……。絶望的な戦力差を覆せるだけの手が実は我々に残されていただと……? 果たしてこれを偶然や奇跡で片付けていいものか……?)


 物事にはすべからく理由がある。

 奇跡と呼ばれる現象も全ては事象の積み重ねに過ぎないのだ。

 少なくともアロガンツはそう考えている。


(……まあ、いい。考えるのは後だ。今はこの情報をありがたく使わせてもらおう。全てはこの戦いを終わらせてからだ)


 すぐに彼はカズトへ念話を送った。

 ともかく今はこの戦いを終わらせる事こそ最優先。


「クドウカズト、誰か一人でいい。パーティーメンバーを脱退させ、あの男を仲間に加えろ。それで――我々の戦力は逆転する」


 逆転の為の最後の一手が今、行われようとしていた。



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