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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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263/274

263.VS先遣隊 総力戦 その4


(――そもそも俺は最初から乗り気じゃなかったんだよなぁこの作戦……)


 ガシュマシュ・マリエール。

 向こうの世界で『氷帝』と呼ばれた男は疲れたような表情を浮かべた。

 彼はかの死王リベルですら「戦いたくない」と言わしめるほどの男である。


(コイツら普通の人間じゃねーか。どこが劣等種の猿だよ、ランドルの大嘘つきめ。あー、ホント嫌だ。マジで面倒だ。あー、やりたくない……)


 彼は元々この作戦に反対だった。

 いや、反対というよりはやる気が出なかったという方が正しいか。

 元々戦いを好まない気質で、戦わないで済むならそれに越したことはない。


 だから――基本的に彼は自分から攻撃を仕掛けない。


 戦うのは決まって相手が攻撃してきた場合だ。

 手を出されたから仕方なく自衛として彼は戦い、そして常に勝利してきた。

 そうして戦いたくないが戦っている内に、気付けば彼は最強になっていた。

 向こうの世界でただ一人、六王の一角『幻王』に単独で勝つほどの存在になっていた。

 だが彼はそれを誇る事はしない。

 戦わないに越したことはないし、戦いたくもない。

 平和と平穏が何よりも好きな男なのだ。


(そんな俺を何で先遣隊に選ぶかねぇ……)


 先遣隊に必要なのは絶対的な強さだ。

 故に自分が選ばれたのだとすれば、それはミスチョイスだ。

 何故ならガシュマシュにはランドルへの忠誠心など毛ほどもない。

 そんな彼が先遣隊に参加したのは、ひとえに知り合いである拳王リアルドが誘ってきたからだ。

 

 ――強い奴と戦えるらしいぜ、共に行こうぜ。


 知らんがなと、最初は断った。

 だが断っても、断っても、しつこく誘って来たから仕方なく参加しているのだ。

 最初から戦う気などさらさらないし、なんなら途中で抜け出してこの世界をのんびり観光でもしようかと考えていた程だ。

 彼にとってこの戦いとは『その程度』だった。

 しかし――、

 

(……どういう事だこれ? 確かに避けたと思ったけど……当たってるな)


 彼の額には風穴があいていた。

 手で払いのけたと思った銃弾が、手の平を貫通し、あろうことか自身の頭を貫通している。


(間違いなく何かのスキルだと思うけど何だろう? ま、問題ないけど……)


 本来であれば即死の致命傷。

 それでも彼の意識は消えていない。

 撃ち抜かれた眉間が即座に氷りついてゆく。

 氷が傷を覆い尽くすとパリンッと音を立てて割れる。

 そこには無傷のガシュマシュが居た。


「……あっちか」


 そのまま彼は何事もなかったかのように遥か彼方に居る一之瀬を見た。


「ねー、これ、君の能力? それと『当てた』のはその隣に居る小さい竜の力かな? とりあえず痛いし、もう撃たないでくれる? これ以上撃つなら、俺も戦うしかないし。面倒だけど」


 ガシュマシュは撃たれたと言うのに動じる事も、怒る事もなく、ただ忠告をした。

 逆に一之瀬の方が動揺してしまう。


(どうして……? 確かに撃った。致命傷のはずなのに……?)


 理解出来ない恐怖が一之瀬を襲う。

 逆にガシュマシュは一之瀬の追撃が来ないと判断すると、彼女から視線を逸らして周囲の気配を探る。


「……ふーん。リベルさんは捕まってるのか、まあ、オリオンたちが相手だしな。ベルドは意外苦戦してんな……。まあ、アイツも兄貴相手じゃ本気にもなれねーだろ。一番意外なのはボアの居る結界だな。相手からもボアと同じ『剣聖』の力を感じるし、あと近くに居るもう一人……いや、もう一匹か? こりゃ猫か? なんで戦場に猫がいるんだ? ランドルのクソ馬鹿は……へぇ」


 そこでガシュマシュは笑みを深める。

 ランドルはまだ戦っていない。

 こちらの世界の戦士と牽制しあっているようだ。


「あ、痛っ」


 また一之瀬の銃弾が彼の頭を貫通する。

 更に心臓。次に首、脳幹、鼻先、ついでに股間。次々にクリーンヒット。


「ちょ、痛い、痛い、痛いって。容赦なさすぎない?」


 だがガシュマシュには効かない。

 すぐに命中した部位が再生する。


「だから無駄だからやめた方がいいって。俺は戦う気はないから仲間の方をサポートしなよ」

「ッ……」

 

 ひらひらと一之瀬に手を振りつつ、ガシュマシュは考える。

 隣で戦ってるリアルドは今のところは優勢。だが相手はかなり食らいついている。

 オリオン、リジー、ナルスはリベルを封印中。

 ベルドは割と満身創痍。

 ボアも互角の相手に苦戦しているときた。

 

(うーん、これ、ひょっとしたらひょっとすることもあるかな……?)


 ガシュマシュは周囲の空気――正確には温度を通じて全ての気配を把握し、状況を完璧に把握する事ができる。

 故に彼は誰よりも早くその可能性を思い浮かべていた。


(ホント、お前は大馬鹿だよ、ランドル。リアルドさんみてーにさっさとコイツらを対等な敵として『認めろ』。じゃないと、本当に足元をすくわれかねねーぞ……)


 そう――自分達が『負ける』という可能性を。





 ――第四結界にて。


 アイヴァーはベルドの猛攻によって次第に追い詰められていた。


「ぐっ……」

「死ね! 死んでしまえ裏切り者め!」

「ベルド……君は……」


 アイヴァーは攻撃を捌くので手一杯だった。

 それまでの余裕が顔から消えていた。

 その理由は――、


「はっ! そんなに大事か? あの人間がっ」


 視界の端で倒れる男性――五所川原だ。

 ベルドによって心臓を貫かれ瀕死の状態。

 まだ生きているのが奇跡といえよう。

 彼を守りながらの戦いは、さしものアイヴァーでも厳しかった。

 次第に防戦一方となり、今では窮地に立たされている。


(私の『再現』なら彼を救えるのに……っ)


 アイヴァーの『再現』は暴走を抑える為にリベルの『神威』によってその力を抑えられていた。

 それは今も継続中だ。

 もしこの封印を解けば、彼の『再現』はたちまち暴走し、キャンプ場での悲劇を繰り返すばかりか、彼のスキルによって疑似的に蘇っている皐月達まで存在が危うくなってしまう。


(せめて彼を回収して仲間の元へ……)


 だがベルドがそんな隙など与えるはずもない。

 何より結界を抜けたベルドをこの場に留めておくことが出来るのはこの戦場では彼一人だけだ。

 

(どうする……どうすれば……?)


 このままでは負ける。

 そう思った次の瞬間だった。

 それぞれの結界で凄まじい光が発生したのだ。


「……なんだ、あの光は……?」

「あれは――」


 アイヴァーはその光に覚えがあった。

 アレはカズトの『英雄賛歌』の光だ。

 

(使ったのですか……あの切り札をここで……?)


 英雄賛歌の効果、及び持続時間はアイヴァーも聞き及んでいる。

 確かに絶大な効果だが、それでも先遣隊の戦力を上回るとは思えなかった。

 何せ固有スキルと莫大なパワーアップを得られるのはカズトを含めたった八名。

 ランドルを含め、残りの先遣隊を相手にするには余りに心もとない人数だ。


(――せめてカズトさんやリベル殿と同等の力を持つ者が他にも居れば……)


 本来であれば狼王と海王がそれを担うはずだった。

 六王の一角にして最強のモンスターであれば、その戦力を補う事が出来る。

 だが狼王、海王は共にグレンの自爆によって瀕死のダメージを負っている。


「成程、あれが貴様らの切り札か……。だが、もう遅い」

「っ……!?」


 アイヴァーの思考のほんの僅かな迷い。

 その一瞬の隙を、ベルドは見逃さない。

 ベルドの槍がアイヴァーの心臓を貫いた――はずだった。


「……何者だ?」


 槍は、その手前で止まっていた。

 禍々しい魔剣によって。


「何者か、ね……。少し前なら名乗る『名前』など無かったのだが、今はあえてこの名を名乗らせてもらおうか……」


 魔剣を持った彼には肉が無かった。

 真っ白な骨だけがローブの隙間から覗いていた。

 剥き出しの頭蓋骨。その窪んだ眼窩には青白い炎が揺らめいている。

 この世界で生まれ、この世界で最初に人を殺し、自身の持つ固有スキルを『名前』にした存在。

 そう、彼の名は――、


「――私の名はアロガンツと言う。初めまして、先遣隊の戦士よ」



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