表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/274

251.VS先遣隊 忍神シュリ その3


 ――完全に油断していた。

 

 モモの暗黒弾は威力だけなら、ソラのブレスに匹敵するレベルの代物だ。

 それを何十発もまともに浴びれば俺どころかリベルさんやシュヴァルツでさえ危うい。

 だから少なくとも直ぐには動けない。だから傷の手当てを優先した。そうしなければ俺は死んでいたから。

 なのに――、

 

「――死ね、猿が」


 足首を掴むシュリの姿に俺は吞まれた。

 その気迫に、鬼気迫る表情に、底冷えする程の冷たい声音に。

 回避は出来ない。

 掴まれてる状態では影に逃げても同じ。

 咄嗟に、忍刀で相手の手を切り落とそうとするが、間に合わなかった。

 

 次の瞬間、シュリを中心に巨大な爆発が巻き起こった。


 こんな忍術、俺は知らなかった。

 おそらくは異世界人の――本家本元のスキルを持つ彼女だけが使える超級忍術なのだろう。


(ああ、畜生……。あれだけ油断するなと言われておきながらこれだ)


 本当に俺はどうしようもない馬鹿だ。

 こんなつまらないミスでやられるなんて。

 周辺の建物もすべて吹き飛ばし、爆心地となったその光景を、俺は少し離れた場所から眺めていた。

 あんな爆発を喰らったら、いくらなんでも死んで――、


「……え?」


 いや、ちょっと待て。

 なんで?

 なんで俺は生きてるんだ?


「ふぅ、間に合ったわね」


 すぐ隣から聞こえる声。

 見れば、リベルさんがそこに居た。


「ウゥゥ……ガォゥ」


 同時に爆心地から一体の巨獣が、黒こげになって現れる。

 リベルさんの召喚獣――ベヒモスだ。

 ベヒモスはそのまま倒れると光の粒子となって消えた。


「……もしかして俺と召喚獣の位置を入れ替えた?」

「正解」


 自分と召喚獣以外でも交換可能なのかよ……。

 本当にとんでもないスキルだな。

 

「でもなんでここに……? 皆への連絡や戦闘準備はまだ時間が掛かるはずじゃ……」

「もう終わったわ。いや、正確には任せてきた。澗正が全部引き継いでくれたの。あのお爺さん、人を動かす事にかけては天才的ね」


 澗正……? あ、上杉市長のことか。

 そうか市長が代わりに……。

 そのおかげで予想よりも遥かに早くリベルさんがここへ来る事が出来たのか。

 

「ナツはもうすぐこっちに合流するわ。六花や他のメンバーもすでに配置についてるし、十香と狼王の方も応援が向かってる。シュラムの結界もきっちり機能してるし、あとは――」


 そう言いかけて、リベルさんは前を見つめる。

 燃え盛る黒煙の中から、一人の少女が現れた。


「ゲホッ……ふぅー、ふぅー……」


 服は焼け焦げ、体のあちこちにひどい火傷を負っている。

 やはり今の忍術は自爆技だったらしい。明らかに瀕死状態。

 それでもその眼に宿る闘志はいささかも衰えていない。


「ハァ……ハァ……る」

「いい感じに焼けたわねー、シュリ。イメチェンかしら? 久しぶりね」

「……べる」

「んー? なになに? 聞こえないんだけどー?」

「……ベル……リィィイイイイイベエエエエエエルゥゥゥウウウウウウウッッ!」


 叫びと共に、シュリは突貫する。

 それをリベルさんはまるでつまらないものを見るかのように、溜息をついた。


「暗殺者が正面から突撃しかけてどーすんのよ」


 いつの間にかその手には杖が握られていた。

 リベルさんはその杖で、シュリの足を突き、あっさりと転ばせる。

 

「あぐっ……」

「アンタの本分は『奇襲』と『暗殺』でしょうが。姿を見られたら即撤退。常に相手の死角に潜み、隙を窺い、一撃で仕留めるのがセオリー。自分で自分の首絞めるような戦い方してどーすんのよ?」

「あがっ……おご……げっ……」


 仰向きに倒れたシュリの喉に、リベルさんは容赦なく杖の先を突き立てる。

 何度も、何度も。

 喉だけでなく足や腕も叩く。鈍い音がなり、曲がらない筈の方向へ手足が曲がる。

 その激痛に、堪らずシュリの表情が苦悶に歪んだ。


「見たところ分身でもなさそうね。いや……もう忍術を使う力も残ってないか。カズトを――この世界の人達を甘く見過ぎよ」

「だ、まれ……」

「……あん?」

「黙れ、裏切り者が!」


 カヒュー、カヒューと奇妙な呼吸音を立てながら、シュリはリベルさんを睨み付ける。

 血が滲むほどに、リベルさんの杖の先を握りしめていた。


「私達を裏切っておいて! よくそんな事が言えるなっ!」


「先に裏切ったのはそっちでしょうが。師匠が残したシステムを自分達に都合がいいように改ざんして。はらわた煮えくり返ってるのはこっちの方だってぇのっ!」


 リベルさんはみぞおちに杖を叩きつける。

 鈍い音が静かに響いた。


「げほっ……ふざ、けるな……それはコッチのセリフだ!」


 ボロボロの体で、それでもシュリはリベルさんを睨み返す。

 その瞳には憎悪が――いや、それ以外の感情が渦巻いているように見えた。


「アナタは英雄なのに! 私達の世界を救った最高の英雄になれたのに! なんでアナタが敵にならなきゃいけないの! 必要な犠牲だって割り切れば良かったじゃん! ずっと私達と一緒に居てくれれば良かったのに! なんで! なんでよ!」


「……」


「こんな世界の人達より私達を大事にしてよ! ずっと一緒に居たかったのに! 仲間だと思ってたのに! アナタが! アナタがこの世界の人達も救いたいって思ってたなら――」


「……」


 それは今までの毅然とした暗殺者としての姿ではなかった。

 ただ感情をぶちまける見た目よりもずっと幼い少女の姿だった。


「それなら、なんで……なんで私に相談してくれなかったんですか……リベル様……」


「……」


「アナタがそれを望むなら……私は……私は……」

 

 それ以上の言葉は無かった。

 気を失ったのだろう。

 死んではいないだろうが、瀕死の状態。

 リベルさんは彼女を抱きかかえると、その額に指をかざす。

 すると黒いひし形の模様が現れた。


「……それは?」

「封印よ。シュラム特製のね。スキルの使用を不可能にして、ステータスを大幅に弱体化させることが出来る。先遣隊レベルだと、これくらい弱ってないと使えない意味のないスキルだと思ってたけど、念の為用意しといたの。……どうせもう動けないでしょうし、私の影にでもしまっておくわ」

「リベルさん、それって――」

「勘違いしないで。別に殺す価値も無いだけよ、こんな馬鹿な子……」


 リベルさんは少しだけ俯いて、やがてどこか遠くの空を見つめる。


「……本当に馬鹿なんだから」

 

 リベルさんは異世界人だ。

 向こうの世界でどう生きて、どんな交流があったのかは俺は知らない。

 それでも彼女を慕ってくれる人も居たのだろう。海王様や相葉さんのように。

 もしくはこの忍神の少女――シュリのように慕っていたからこそ、その想いを憎悪に変えてしまった者もいた。

 散々俺を猿だなんだと罵っていたが、そう思わなければ彼女は戦えなかったのかもしれない。リベルさんや、彼女が守ろうとした存在と戦うには、そう思うしかなかったのだ。


「念のため言っておくけど、先遣隊のメンバー全員がこの子みたいだと思わない事よ。話し合いで済ませる事は絶対にない。戦うしかないの、彼らと私達は」

「ああ、分かってるよ」


 先遣隊はまだ九人も居るんだ。

 こんなところで足を止めてる暇はない。


「シュラムの結界はまだ機能してる。ナツと合流して、狼王の所へ向かうわよ」

「ああ、分かった。相手は確か……」

「『炎帝』グレン。シュリと同じランドルの側近。コイツも一筋縄じゃいかない相手よ。なにせ――」


 その瞬間、遠方で巨大な火柱が上がった。

 空を焦がすその様相は、俺がくらった爆遁の更に数十倍もの火力である事は容易に理解出来た。


「なっ……」


 だが俺が驚いたのはそこではない。

 火柱と共に空に打ち上げられた一体のモンスターだ。

 黒煙の中でもはっきりとその姿を捉える事が出来るその姿は――、


「――シュバルツッ!」


 共闘を約束した最強のモンスター、狼王シュヴァルツのボロボロの姿だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
書籍7巻3月15日発売です

― 新着の感想 ―
先遣隊としては、足の早い2人が結界から先に出たのは完全に悪手では? 先遣隊がどの程度こちらの戦力を確認できていたのかはしらないけれど、忍神と炎帝の二人が出られたところで最低限敵対されている死王と海王に…
[良い点] 面白い! [気になる点] まずそもそも、レベルが頭打ちになった後 仲間たちと模擬戦を行ってレベルを上げていたんですよね? だったら、シュリを殺せなくとも戦う過程で レベルが上がっても良いは…
[一言] 冒頭で回復優先した理由が死にそうだからってあるけど、別にわんこに攻撃させてても自分の回復はできるのでは…何で攻撃止めたんだろ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ