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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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242/274

242.全ては我らが世界の為に

異世界側のお話しです


 カズト達が順調にレベルを上げ、戦力を拡大している頃、別の世界でもまた決戦に向けた準備が進められていた。


「はぁ……」


 とある王城の廊下。

 そこで一人の少女がため息をついていた。

 年の頃は十五、六くらいだろう。

 黒い修道服を身に纏い、その額には大きな十字の刺青があった。

 彼女の名はオリオン・カーラー。

聖櫃せいひつ』の二つ名を持つ、先遣隊に選ばれた英雄の一人だ。


「どうしてこんなことになったのでしょうか……?」


 それはただの独り言。

 先遣隊に選ばれてから――いや、もっと正確に言えば、世界の寿命を知り、別の世界への侵攻計画を聞いた時からずっと彼女の頭を悩ませている問題だった。


「話し合いもせずに侵攻するなんて……私には納得できません……」


 そもそも『侵攻』という行為自体、彼女からすれば到底納得できるものではない。

 自分達の世界が寿命を迎えたから、別の世界へ侵攻しそこを自分達の新たな世界とする。

 それは余りにも身勝手な理屈ではないか。

 

「……だからこそ、リベル様も我々を見限られたのでしょうね……」

 

 世界最高の魔術師と謳われた女性。

 彼女は自分達と袂を分かち、異世界へと行ってしまった。

 自分達の計画を食い止める為に。


「……出来る事なら私も連れていってほしかったです」


 そうすれば異世界人と会話が出来た。

 二つの世界を繋げる橋役として、もっと平和的に自分達の移住を訴える事も出来た。

 だが、その為には人である事を捨てなければいけなかった。

 賢者の作り上げたシステムは、人ではなくモンスターのみを先に向こうの世界へ送るようプログラムされている。

 リベルやアイヴァーのようにアンデッドに身を落とすことでしか、先んじて向こうの世界へ転移する事は出来ないのだ。

 そして彼女は『人』であることを捨てる事は出来なかった。

 リベルのように世界の全てを敵に回す事も、アイヴァーのように周りに黙って居なくなることも、彼女には出来なかったのだ。


「なんて中途半端なのでしょうか、私は……」


 どちらを選ぶことも出来なかったから、今もこうして悩んでいる。

 選ぶことが出来ずにズルズルとここまで来てしまった自分に嫌気がさす。


「またウジウジと悩んでいたのか」


 独り言に返答があった。

 振り向いた先に居たのは一人の美丈夫だった。

 赤い槍を携え、片方の目を眼帯で覆っている。

 名をベルド・レイブン。オリオンと同じく先遣隊のメンバーに選ばれた一人だ。


「ベルドさん……。貴方は本当にこれでいいと思っているのですか? 私には到底納得できません。彼ら――異世界人と話し合いの場を設けずに一方的に攻撃するなんて」

「仕方のない事だ」


 彼女の疑問を、ベルドと呼ばれた男性はバッサリと切り捨てる。


「俺達には時間が無い。話し合いの場を設けたところで、向こうの世界の奴らが俺達を受け入れるだけの準備など出来るわけがない。この世界が終わるまであとたった三カ月しかないんだぞ?」


「それでもやってみない事には分からないじゃないですか。きちんと話し合えばきっと……」


「その結果、全てが無駄に帰したとしてもか?」


「ッ……」


「俺はランドルを支持する。いけ好かない男だが、民の事を第一に考えているのは事実だ」


「……でもその民に、異世界人は含まれていない……」


「当然だ。俺たちは英雄であっても神じゃない。救える人は限られている。要は優先順位の問題だ。異世界よりも自分達の世界を優先するのは当然の事だ。異世界の奴らには悪いと思うが、それでも俺達にはほかに道が無かった。それだけの事だ」


「……」


「それに……俺は裏切り者を始末できればそれでいい」


 そう言った時、初めてベルドの表情が歪んだ。

 憤怒と憎しみの表情に。


「裏切り者……貴方の兄、アイヴァーさんが本気で我々を裏切ったと思うのですか?」

「当然だ。引退した身でしゃしゃり出ておきながら、あっさりと異世界の人間達にほだされ我々を裏切った。あれはもはや兄ではない。ただの一族の面汚しだ」


 ベルドの槍を握りしめる手に力がこもる。

 彼にとって世界の使命などどうでもいい事だ。

 彼の執着はただ一つ。一族の汚点であり、彼の実兄であるアイヴァーを殺すことだけ。

 それに比べれば全ての問題は些事に過ぎない。

 するとまた一人、会話に加わる者が現れる。


「はぁー、オリオンもベルドも難しく考えすぎだっつーの……」


 やる気のない、覇気の感じられない男だった。

 彼の名はグレン。

『炎帝』の二つ名を持つ、先遣隊の一人だ。


「俺らの仕事は異世界行って異世界人を殺すだけだろ。なんでそんな難しく考えるのさ」

「殺すだけって……。それが問題なのではないですかっ。異世界人も我らと同じ人間で――」

「あー、そういうのいいから。そういうのは仕事が終わった後にお偉いさん方が適当に考える事だし……。お互いの人権だ、領土だなんだってのは一回ぶん殴った後で適当に話し合えばいいんだよ。ほんと、面倒くさい」


 グレンはあくびをしながら、無精ひげをなぞる。

 覇気も無くやる気も感じられないその姿に、オリオンは頭を抱える。

 一体誰が信じられるだろうか?

 このだらしない中年男性こそが、先遣隊で唯一あのリベルと互角に戦える男だと。


「それにさ、オリオンちゃんは俺らと違って最初から『仕事』が決まってるから楽でいいじゃねーか」

「ッ……」


 その言葉に、オリオンは言葉を詰まらせる。

 グレンの言う通り、彼女と他二名は、最初から役割が決まっている。

 というよりも、彼女と他二名はその役目の為だけに先遣隊に選ばれたと言っても良い。

 そうでなければ、いくら英雄とは言え彼女のような反対意見を持つ者が選ばれるわけがないからだ。

 

「それで、お前は何をしにここまで来たのだ?」


 それまで黙っていたベルドが問いかける。


「あー、そうだった。二人ともランドルが呼んでるぜ。多分、先遣隊全員に招集かかってるんじゃねーの?」

「それを早く言え、馬鹿者が!」


 三人は急いでランドルの元へ向かった。




 広間には既に他のメンバーが揃っていた。

 彼らのリーダー、ランドルが遅れてきた三人を睨む。


「遅いぞ」

「すまーん、ウンコが長引いた」

「お前……まあいい。これで全員揃ったな」


 全く悪びれないグレンに、ランドルは一瞬表情を顰めるが、すぐに持ち直す。

 ゆっくりと自分と共に異世界へ旅立つ九人を見渡す。

『炎帝』を筆頭に、九人全てがこの世界で英雄と呼ばれるにふさわしい者達。

 一人一人が六王や禁呪持ち、神樹といったモンスターとすら戦える力を持つこの世界の最高峰の者達だ。

 戦力としては十分すぎるメンバー。


 だが戦力は十分でも万全ではない。


 なにせ相手にはあの『死王』リベル・レーベルンヘルツが付いているのだ。

 今頃は、異世界人たちに自分達の戦術や対策を教え込んでいる最中だろう。

 確かに徹底的に対策を取られれば、例え力の差があったとしても覆すことは可能かもしれない。

 相性や戦術の重要性はランドルも十分に理解している。


「だがそれも、十分な時間があればこそ……」


 その前提を彼は覆す。

 そう、例えば――今この瞬間に、向こうへ転移する事が出来ればどうなるだろう?

 敵は準備不足に加えて、異世界の最高戦力による奇襲を受けることになる。

 確実な勝利を手に入れられるだろう。

 だがその為にはシステムの更なる改竄と莫大なエネルギーが必要になる。

 すでに二度の改竄を行っている今のシステムに更なる改竄を加えれば、システムはエラーを起こし、最悪システムそのものが崩壊する可能性がある。


「リベルよ、我々を裏切った事を後悔するといい……」


 ランドルは思い付いたのだ。

 システム改竄の抜け道と、それを補うためのエネルギーの補給方法を。

 彼は懐から紫色の水晶を取り出す。

 システムへ介入する為のマスターキーだ。

 掲げられた水晶はまばゆい光を放ち、システムへと彼の意思を伝える。

 自分達の転移時期を早め、今この時を以て彼の地へ転移するように、と。

 全てはリベルの裏をかき、自分達の勝利を確実なものとする為。

 先遣隊を前に、ランドルは高らかに宣言する。


「さあ、諸君、時はきた。異世界へと旅立とうじゃないか」


 斯くて侵攻は開始される。

 先遣隊には最高のタイミングで。

 そしてカズト達には最悪のタイミングで。


現時点で判明してる先遣隊メンバー

ランドル 先遣隊のリーダー

オリオン・カーラー 『聖櫃』。盲目の修道女

ベルド・レイブン 赤い槍の使い手

グレン 『炎帝』。リベルと互角に戦えるっぽい


外伝の方もよろしくお願いします

現在第二章、同族殺しの上位スキル判明 進行中


また書籍1~4巻&コミック1~5巻も発売中です

そちらも何卒よろしくお願いします



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【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
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書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 異世界側のお話しです、と冒頭にある一行ですが… 異世界側のお話です、が正しいのではありませんか? という本文外の誤字報告です。
[気になる点] 序盤のパンデミックあたりはハラハラした展開が多く、読み応えがあったが、後半はただのVRゲームものになってしまったのが残念。 ありえそうでありえない絶妙なリアルさが良かったのに、平行世界…
[一言] インディアンを討伐して映画の地盤を気付いたアメリカ然り。東インド会社など植民地政策で利益を得たイギリス然り。 誰だって、やることだけど。相手の犠牲を前提とするなら高い利益が得られるものなの…
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