240.子供の成長は早い
喋った? 今、この新芽喋ったよな?
聞き間違いじゃないよな?
『お腹が空きました。ご飯を下さい、お父さん』
やっぱり聞こえる。
聞き間違いでも空耳でもなかった。
「この声って……お前だよな?」
『お前と言うのが、僕を指しているのならその通りです、お父さん』
「……なんでお父さん?」
『種だった僕を土に植えて、水を与え、こうして命を与えてくれたのです。父親と呼称して問題ないと思いますが?』
幼稚園児っぽいちょっと舌足らずな声音の所為か、背伸びして難しい言葉を使ってるお子ちゃま感が半端ない。
生まれたてだから仕方ないと言えば仕方ないのか?
「えーっと色々聞きたいことがあるが、とりあえずご飯って言われても何を与えればいいんだ? 悪いけど人なんて無理だぞ。いちおう野菜や果樹用の肥料ならあるけど」
俺はアイテムボックスからホームセンターで手に入れた肥料を取り出す。
するとペオニー(仮)から嬉しそうな気配が伝わってくる。
どうやらこれで良いらしい。
良かった。トレントって人間を襲って栄養源にしてるし、そっちを要求されたらどうしようかと思った。
「液体と固体とあるけどどっちがいい?」
『僕はまだ小さいので液体の方を下さい』
「はいよ」
液体肥料をペオニー(仮)から少し離れた所に注す。
ちょっと斜めにしてやると良いんだっけ?
するとペオニー(仮)は心地よさそうに揺れた。
『あー……良いです。これ、凄く良いです。ありがとうございます、お父さん』
「……どういたしまして」
……これ傍から見れば植物に話しかけてるヤバい人だな。
すると後ろから人の気配がした。
「……あ」
振り返ると、一之瀬さんが何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「あの……誰にも言いませんから。そ、そういう時期って誰にでもありますよね。分かります」
「分からないで下さい。ていうか、分かってて言ってますよねっ」
たまに一之瀬さんがネタで言ってるのか、本気で言ってるのか分からなくなるから止めて欲しい。心臓に悪い。
一之瀬さんはくすっと笑うと、こちらへやってくる。
「もう芽が出たんですか?」
「ええ、それだけじゃなくはっきりと意思を持ってます。今しがたもお腹が空いたから肥料をくれってせがまれました」
「……シロちゃんもそうでしたけど、生まれた時からはっきりと意思疎通が出来るって相当潜在能力が高くないと出来ないんですよね? ……一応確認ですけど、『暴食』は持ってないですよね?」
「……持ってませんね」
下位神眼を発動し、ペオニー(仮)のステータスを見る。
持っているのは他のトレントと同じようなスキルばかり。
『暴食』以外にも、攻撃系やあの豊穣喰ライを生み出すような凶悪なスキルも軒並み消えていた。
念の為、後で五十嵐さんにも『鑑定』してもらおう。
(この感じじゃペオニーだった頃の記憶も憶えてなさそうだな……)
それはそれでコイツにとっては幸せかもしれないけど。
するとペオニー(仮)は一之瀬さんの方をじっと見て――いや、新芽だから眼とかないんだけど何となくそんな感じがした。
『おはようございます、お母さん』
「ふぇ!?」
一之瀬さんの事をお母さんと呼んだ。
コイツ、何言ってんだ?
「お、お母さんっ? な、なんで?」
『一般的に産んでくれた男女をお父さん、お母さんと呼称するのでは?』
「は、はわ……く、クドウさん大変です! 私、この年でお母さんになっちゃいました!」
「なっちゃったわけないでしょう」
一之瀬さんは顔を真っ赤にして慌てふためく。
だが何かを決心したかのように真面目な表情になると、ペオニー(仮)に顔を近づけた。
「ち、ちなみにお父さんって?」
『お母さんの隣に居る男性です』
「そ、そうですか……。ふーん、へー、ほーん?」
何を確認してるんですか。
そして何でなんかちょっとまんざらでもない顔してるんですか。
「つ、つまりこの子、わ、私とクドウさんのこ、こここ、ここここここ」
「そんな訳ないから落ち着いて下さい。真に受けないで下さい」
ああ、もう。なんで一之瀬さんはこんな動揺してるんだ。
そういうの勘違いしそうになるから止めて欲しい。
「ともかく落ち着いて下さい。こんなところ誰かに見られたら――」
すると背後に気配が。
振り向けば、そこには西野君と六花ちゃんとリベルさんと五十嵐さんの姿が。
「……クドウさん、おめでとうございます」
「よ、よかったね、ナッつん。順番は逆だけど、これでおにーさんと結ばれたね」
「ほぉー、へぇー。……ぶふっwww」
「……………………」
若干、引いた感じの西野君。
同じく頬をひきつらせながらも笑みを浮かべる六花ちゃん。
語尾に草でも付いてそうな、今にも噴き出しそうな顔のリベルさん。腹立つわぁ……。
そしてエジプトの壁画みたいな瞳で無言でこちらを見つめる五十嵐さん。
「くぅーん?」
「……(ふるふる)?」
「きゅー?」
「んー?」
そしてよく分かって無さそうなモモたち、動物組。ちなみにソラは外で寝ているので居ない。
唯一、我関せずと部屋の隅で静観を決め込むアロガンツ。
なんだこのカオスな状況。
「ていうか、全員事情分かってるでしょうが!」
説明するのに凄く疲れた。
あーもう、朝から最悪だよ……。
事情を説明し、誤解を解いた後、五十嵐さんに『鑑定』してもらう。
結果は俺が下位神眼で調べたのと同じだった。
ミニチュア・エルダートレントLV1
HP :3/3
MP :1/1
力 :1
耐久 :1
敏捷 :1
器用 :1
魔力 :1
対魔力:1
SP :36000
固有スキル
■■■■
■■■■
■■■■
スキル
成長LV10、意思疎通LV10、念話LV10、認識阻害LV1、忘却LV1、存在吸収LV1、地形同化LV1、異界固定LV10
ペオニー(仮)のステータスはこんな感じだ。
認識阻害や忘却は他のトレントや花付きも持っていたし、トレントと言う種族共通のスキルなのだろう。
ステータスは軒並み低いが、SPだけが異常なほどに多い。
これはもしかしてペオニーだった頃の持ち越し分なのだろうか?
更に気になるのは固有スキル欄の『■■■■』だ。
以前、モモ達にあったのと同じ表示である。
「この固有スキル欄の表示は……?」
「スキルを取得していても使用できない、もしくはスキルが完全にインストールされていない場合に表示されるやつね」
俺の疑問にリベルさんが答える。
どうやらこの『■■■■』は、何らかの形でスキルが完全ではない場合に表示されるものらしい。
「こういうケースは滅多にないんだけどね。でもペオニーや『早熟』を持ったアンタならあり得ない話じゃないのよ」
「というと?」
「成長が速すぎて、肉体が強すぎるスキルに適応できてないの。『早熟』の最大のメリットは大量の経験値取得とボーナスポイント。それは本来なら低レベルで取得できない筈のスキルにも手が届き、それが大きな武器になるんだけど、中には強すぎて今のままじゃ扱えないスキルもある」
「……」
「他にも限定条件下でしか発動しないスキルとかもそうね。『英雄賛歌』がいい例でしょ」
「あー、確かにモモ達の固有スキルは俺が『英雄賛歌』を発動した時のみ発現するタイプでしたね……。あれ? でもモモたちの固有スキル表示があったのは俺が『英雄賛歌』を取得する前だった気がしますけど……?」
「それが早熟のデメリットよ。本来ならカズトが『英雄賛歌』を取得したのはおそらく『新人』に進化した直後だったはず。でも肉体がスキルの強さに追いついていなかったからシステムはスキル取得そのものを保留にし、連動してモモちゃん達にも『■■■■』という形で固有スキルを発現させた。多分、ナツにもカズトと同じ時期に固有スキルの表示が出たんじゃない?」
「あ、ですです。ソラさんを仲間に入れた時、私にも固有スキルの表示が出てました」
一之瀬さんは当時の事を思い出したのか、こくこくと頷く。
てことはソラの加入は別に関係なかったのか。
そしてソラも俺のパーティーに入った際に、『英雄賛歌』の効果を受けて『青鱗竜王』を取得し、だが俺がまだスキルを完全に取得していなかったから『■■■■』という形で表示されることになったと。
あれってそういう事だったのか。
「じゃあこの子の場合は……?」
「まだ生まれたてで、持っているスキルの強さに、肉体が追いついていないのでしょうね。なんのスキルかまでは分からないけど……」
「『暴食』の可能性は……?」
「いや、それだけはないわ。もし保留になってるスキルが『暴食』なら、保留状態でも影響が出る。意識が混濁して、自我を保っていられなくなるはずよ」
本当に恐ろしいスキルだな、『暴食』は……。
でも違うと分かってちょっとほっとしている。
あんな苦しみを、二回もペオニーに味わわせるのは流石に酷だろう。
「てことは、この子は『暴食』以外にも三つも固有スキルを持ってるって事ですか? ……とんでもないですね……」
「でしょ。腐っても元神樹だもの。ま、今はこの状態だけどすぐに成長して――」
リベルさんはペオニー(仮)の新芽に手を伸ばそうとして――ぺしんっと弾かれた。
「……」
リベルさんはもう一度手を伸ばす。
ペオニー(仮)はちっちゃな全身を器用に使って、再びぺしんっと弾いた。
スッ。
ぺしんっ。
スッ。
ぺしんっ。
スッ。
ぺしんっ。
『近づかないで下さい。アナタは嫌いです』
「なんなのよコイツ! なんで私の事こんなに拒絶するわけっ!」
『お父さん、お母さん、なんか分からないけど、コイツすごーく嫌いです。僕に近づけさせないでください』
あらヤダ、この子ったらリベルさんの事、嫌いなご様子。
すると六花ちゃんがぽんと手を叩く。
「これってやっぱりあれじゃないの? ナッつんとおにーさんの子供だから二人以外には懐かないとか」
「り、リッちゃんっ」
六花ちゃんがそう茶化しながらペオニー(仮)に指を近づける。
……普通に触れた。
「……あれ?」
気まずそうな顔を浮かべる六花ちゃん。
続いて西野君が指を近づける。
『……♪』
普通に触れた。
最後に五十嵐さんも触れてみる。
『……♪』
普通に触れた。
もう一度、リベルさんが触れてみる。
『……』
ぺしんっ。
弾かれた。
「なんでよーーーーーー!」
ちょっと涙目になるリベルさん。
「あー、ひょっとしてリベルさんは異世界人だから、当時の事を覚えていなくても本能的に拒絶してるんじゃないですか?」
「……そうかもしれないわね」
ずびっと鼻水をすするリベルさん。
……アンデッドも泣いたり、鼻水出たりするんですね。
「ま、まあ! この際、私が嫌われてるのはどうでもいいわっ。ともかく、この子が成長すれば強力なスキルを覚えるの。それがあれば、先遣隊との戦いが有利に進む――いたっ」
見れば、ペオニー(仮)が鉢の中に在った小石をリベルさん目掛けて器用に飛ばしていた。
『うるさいです。僕はまだ子供なんだから近くで大きな声を張り上げないで下さい』
「この……っ」
ぷるぷると震えるリベルさん。
ほら、抑えて。子供のする事でしょうが。
「……カズト、今日の訓練、覚えておきなさい……」
その日の訓練は、いつにもまして厳しかった。
ペオニー(仮)に懐かれなかったからって、俺に八つ当たりは止めて欲しいなぁ……。
次の日、ペオニー(仮)は高さ三十センチほどの大きさまで成長していた。
昨日までは朝顔の芽みたいな感じだったのに驚きの成長速度である。
「この大きさじゃ、この鉢だともう小さいな……。地植えにするか。どこか希望はあるか?」
『よく日が当たるところが良いです』
「了解」
という事で、ペオニー(仮)をアパートの近くにある見晴らしのいい場所に植え替える。
隣に石化したアカの分身体を置いておけば、何かあってもすぐに対処できるだろう。
やはり鉢は窮屈だったのか、ペオニー(仮)は気持ちよさそうに体を揺らした。
ついでに水と肥料を上げると更にご機嫌になる。
『お父さん、ありがとうございます。こんなに良くして頂いて嬉しいです。このご恩はきっとお返しします』
「そんなに畏まらなくていいよ。生まれたばっかりなんだから、まずはきちんと大きく育つ事だ」
『はい。大きく育って、お父さんの役に立ちます』
「……まじめだなぁ……」
もしかしたら『暴食』に支配される前のペオニーも元々はこんな性格だったのだろうか。
森に恵みを与える神樹って呼ばれてたみたいだし。
するとペオニー(仮)が小刻みに震えた。……ダンシン◯フラワーみたいだ。
『お父さん、お父さん』
「どうした?」
『今、スキルを取得しましたって頭の中に声が響きました』
「お、マジか」
やっぱり成長がかなり早いんだな。
昨日の今日でもうスキルを覚えるなんて。
それとも元々持っていたスキルを使えるようになったって言うのが正しいのか?
固有スキル以外にも、ペオニーや神樹時代のスキルが相当あるだろうし……。
ともかく成長が速いのは良い事だな。
「おめでとう。どんなスキルを取得したんだ?」
『はい、『擬人化』ってスキルです』
……なんだって?
するとペオニー(仮)の体が淡い光に包まれる。
数秒で光は収まり、そこに居たのは――
『わぁ、自分で動けるようになりました♪』
小さな手足の生えた盆栽が居た。
手の部分は枝と葉っぱで、足の部分は根っこで出来てる。
あれだ。カー◯ィに出てくる木のボスモンスターみたいなやつ。
とてとて歩くさまはちょっと可愛いけど、これ擬人化なのか……?
『お父さん、お父さんっ。肩車してほしいですっ』
「はい、はい」
『わーい♪』
まあ、本人が喜んでるからいいか……。
……いいのか?
こんなんで本当に先遣隊との戦いは大丈夫なのだろうか……?
擬人化の要望が多かったので応えました。褒めても良いのよ?
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