232.世界の真実 追記
遅れてすいません
前回のあらすじ
英雄賛歌でゾンビをフルボッコにしたらレベルめっちゃ上がって管理者権限手に入れた件
≪――カオス・フロンティアシステムサーバーより通達≫
≪クドウ・カズトへ『招待状』が届いています≫
≪カオス・フロンティアシステムサーバーへとアクセスしますか?≫
「……」
初めて聞く単語に困惑する。
イエスを選択すればどうなるんだ、これ?
「……気になるけど、リベルさんが出てくるのを待った方が良いか……」
彼女なら何か知っているだろう。
もうすぐ『神聖領域』から出て来るだろうし、その時に相談すれば――、
≪確認しました≫
≪カオス・フロンティアシステムサーバーへとアクセスします≫
「……は?」
なんで?
俺まだ何も返事してないのに。
すると、ぐにゃりと景色が歪み、俺の意識は暗転した。
「……どこだ、ここ?」
気が付くと、俺は奇妙な空間に居た。
無数の歯車が宙に浮かび、その間を同じく無数の光の線が飛び交っている。
足場は無い。ふわふわと宙に浮かんでいるのに不安も無く、しっかりと立っているという実感がある。
≪ようこそ、カオス・フロンティアシステムサーバーへ≫
声がした。
いつもアナウンスで聞くあの声だ。
いつもなら頭の中に響くその声が、今は足元から聞こえる。
見れば、そこには小さな少女が居た。
長い銀髪に、金色の瞳の真っ白な少女だ。
どことなくリベルさんに似てる気がする。
するとぺこりと、白い少女は頭を下げた。
≪こっちです≫
白い少女は俺の前をてくてくと歩く。
「あ、ちょっと……」
俺もその後を追いかける。
足場が無いのに歩けるって変な感覚だな。
しばらく歩くと、より大きな歯車と、無数の額縁が浮かぶ空間が現れた。
「なんだこれ……?」
無数の額縁には様々な映像が映し出されている。
ハイ・オークが戦っている映像。
魔物使いが学校を蹂躙する映像。
ティタンが投擲で市役所を壊滅させる映像。
ペオニーが俺たちの町の全てを喰い尽くす映像。
どれも俺が戦った事があるモンスターばかりだ。
でも……、
(俺が映ってない……?)
いや、それどころかモモやアカも、一之瀬さんも映っていない。
それに映し出されている状況も違う。
ハイ・オークはショッピングモールで西野君や六花ちゃんと戦っている。
魔物使いはシュヴァルツを使わず、数の暴力で学校を蹂躙している。
ティタンは最初から分身を使い、物量で市役所を瓦礫の山で埋め尽くしている。
どういう事だ、これは……?
≪これは分岐。アナタが『早熟』を取得しなかった世界の可能性≫
すると前を歩いていたはずの白い少女が隣に居た。
何時の間に隣に?
「分岐って……もし俺が『早熟』を取得してなかったらこうなってたって事か?」
≪あくまでも可能性。消えた分岐であり、ありうべからざる世界≫
並行世界みたいなものだろうか?
≪世界は可能性に満ちている。現時点での世界を参考に、分岐を予測することで、今後、システムに起こりうる損傷を最小限抑える事が目的。特に五大スキル、六王スキル、七大罪スキルの保有者は世界への影響も大きい≫
……スパコンの予測演算みたいなものなのだろうか?
天気予報とか災害警報みたいな。
≪その認識でほぼあってる≫
合ってるらしい。
というか、ナチュラルに人の思考を読まないでほしい。
≪思念伝達の方が口頭伝達よりも早く認識の誤認も少ない。効率を重視する≫
「はぁ、そうか……。で、俺をここに呼んだ理由はなんなんだ? そもそも俺はイエスを選択してないのに何でよばれた? さっき取得した『管理者権限』ってのが関係してるのか?」
≪あちらを≫
白い少女はある一点を指差した。
そこには一際大きな額縁があった。
そこに映し出されていたのは、今までとは明らかに異なる光景だ。
現代の日本とは違う、どこか中世のヨーロッパを思わせる景色。
≪あれはこれから混ざり合うもう一つの世界≫
「もう一つの世界――それってリベルさんや相葉さん、モンスターが元居た世界か……?」
白い少女は頷く。
全ての元凶であり、リベルさん曰く、もうすぐ寿命を迎える世界。
でも映し出されている人々にはとてもそんな悲壮感は見られない。
映像は何度も切り替わるが、どの映像でも人々は笑顔で幸せに過ごしているという印象を受ける。
(世界の寿命や異世界を知らされているのは上層部だけってことか?)
いや、多分そうだ。
そもそもそんな情報、市民に伝えても余計な混乱を招くだけだろう。
何も知らずに普通に暮らす異世界の人々に俺は複雑な感情を抱く。
ただ状況や世界が違うだけで、そこに映し出された人々は、俺たちと同じ普通の人間にしか見えなかったからだ。
「……ん?」
すると映像がブレた。
映像が切り替わり、次に映し出されたのは、それまでとは全く異なる映像。
殺風景な部屋に、二人の男女が映し出された。
『――どうして? どうして母さんが死ななきゃいけないの? ねえ、どうしてっ!?』
『いい加減にしろ、リベル。もう決まった事だ。早く彼女から離れろ!』
『嫌よっ! こんなやり方納得できないッ! こんな方法を選ぶくらいなら私は――』
一人はリベルさん。もう一人は若い金髪の獅子を思わせる鋭い目つきの青年だった。
いつも冷静なリベルさんらしくもなく感情をむき出しにしている。
対して青年の方は冷静だ。
だがあのリベルさんを羽交い絞めにして動きを押さえている時点で、相当な強者であると理解出来る。
青年はリベルさんを説得するように叫ぶ。
『我々が滅びを免れるためにはこうするしかない! お前だって納得したはずだ!』
『そのために師匠を――母さんを犠牲にするだなんて聞いてなかったわ! それに基盤になる世界だって私達を受け入れてくれるとは限らないじゃない! こんな不確定要素が多すぎる計画上手くいくわけないっ!』
『その為の策はあると言っただろうが! くそっ! シュリ! グレン! 彼女を拘束しろ! 儀式が終わるまで絶対に此処に近づけるな』
『『ハッ!』』
『ランドル! アンタふっざけんじゃ――がはっ』
突然現れた赤い髪の男性と、黒い髪の女性がリベルさんを拘束する。
金髪の青年がリベルさんを気絶させ、二人は彼女を連れて部屋を後にした。
残された青年は息を整える。
『全く……君の娘は、どこまでも君に似たのだな、愚かな賢者よ』
彼の視線の先には、もう一人の女性が居た。
リベルさんにそっくりの、だが少しだけ歳を重ねた姿の女性が。
女性には無数の鎖が巻きつけられ、周囲にはおびただしい量の魔術陣のようなものが浮かんでいた。
(賢者ってリベルさんの母親だったのか……)
何となくリベルさんや相葉さんの口ぶりからそんな気はしてたけど。
けどこれで確信した。だからリベルさんはあんなに怒っていたのか。
『世界よりもたった一人の肉親を選ぶなど愚か極まりないと思わないか? むしろたった一人の犠牲で我らの世界が救われるのだ。代われるのならば、私がその役目を代わりたいくらいだ』
そう言って、金髪の青年は目の前の女性に手をかざす。
『そして……これから私が行う事も、君や彼女は許しはしないのだろうな……』
すると無数に浮かぶ魔術陣の一部の柄が変わった。
『先にこの世界に住まうモンスターだけを転移させてもらう。基盤世界の住民たちがどれだけ削れるかは分からないが、しないよりはマシだろう。それに海王や竜王、神樹や刃獣も上手く殺し合ってくれるかもしれない』
「ッ……!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全身の血が沸騰したかのような激しい怒りが湧きあがった。
――師匠は完璧なシステムを作ったつもりだったわ。でも、それを扱う人たちは完璧じゃなかった。それどころか酷く利己的で愚かだった。
かつてリベルさんはそう言っていた。
誰かが賢者のシステムを改竄し、自分達に都合のいいように塗り替えたと。
(そうか……コイツか……コイツの所為で……!)
震える拳を必死に抑える。
映像の中では、金髪の青年が次々に魔術陣――おそらくはシステムを改竄していく様子が続く。
そして全ての改竄が終わり、青年が部屋を出たところで映像は終わった。
「……君はこれを見せる為に、俺をここに呼んだのか?」
≪……≫
白い少女は答えない。
だが小さく首を横に振った。
≪これを≫
白い少女は手をかざす。
すると彼女の掌に真っ白な球体が現れた。
白い球体はふわふわと宙をただ漂うと、俺の体に吸収された。
「い、今のは……?」
≪以上で『管理者権限』の譲渡を完了します≫
管理者権限……? 今、俺の体にはいった光の球体が?
それってどんなことが出来るんだ?
≪カオス・フロンティアのシステムに介入、改竄、上書きをすることが可能です≫
つまり何でもできるって事か?
≪システム由来の事象であれば全て可能です≫
マジかよ……。
本当に神様みたいな能力だな。
≪但しマスターキーを持たない場合、管理者権限の発動は一度のみです。二回目以降はクドウカズトの肉体と脳が管理者権限の情報圧に耐え切れず破壊される可能性があります。また一度目の使用にも甚大な負荷が掛かります≫
一回だけか……。
それでも性能を考えれば破格と言うべきか。
ん? まてよ? 確かリベルさんがマスターキーのレプリカを持ってたよな?
それを使えば複数回の発動も可能なのか……?
好きなスキルを取る事も、ステータスをいくらでも上げる事も、いやそれどころか先遣隊をこの世界に来させない事も可能?
やばい、マジでこれとんでもない力だ。
≪……クドウカズト≫
すると、白い少女がこちらを見ていた。
≪過ぎたる炎は己の身も滅ぼします。アナタがその力を正しく使う事を信じています≫
それは今までとは明らかに異なる、俺を心配するような口調だった。
≪それと――≫
一歩、白い少女は前に出てその小さな手を俺の胸に置く。
≪あの子を――リベルを信じて下さい。これから先、あの子がたとえ何をしたとしても、アナタだけでいい。彼女を信じてあげて下さい≫
すると、俺の体は少しずつ消えてゆく。
「君は――まさか……」
言葉は最後まで続かなかった。
『またね』
白い少女はひらひらと手を振る。
再び、俺の意識は暗転した。
「ッ――!? 今のは……?」
周囲を見渡せば、そこは先程までと変わらないボロボロになった安全地帯の一角。
「くぅーん?」
「……?(ふるふる)」
「きゅー?」
モモたちが心配そうに見つめてくる。
(傷も、体の汚れもそのままだ……。意識だけがあの空間に飛ばされたのか?)
すると、ソラがちょっと険しい視線を俺に向ける。
『カズトよ、戦いが終ワッタとはいえ、一瞬デモ気を抜くとハ油断し過ぎではナイカ?』
「一瞬……」
あの空間に飛ばされたのは、ほんの一瞬の出来事だったのか?
カオス・フロンティアシステムサーバー。
あの白い少女に、管理者権限、それにリベルさんとあの青年の過去……。
(気になる事が多いが、今は目の前の事に集中しないとな)
もうすぐ『英雄賛歌』の効果も切れる。
リベルさんとシュヴァルツはまだ『神聖領域』から出てこないけど、おそらくもうすぐ出て来る筈だ。
意識を集中して、広範囲索敵を行う。
(……モンスターの気配はいくつかあるが、敵意はないな……)
残っているモンスターはおそらく一之瀬さんのメールに書いてあったシュヴァルツの眷属たちだろう。
だとすれば、あの保護したソルジャー・アントを向かわせた方が良いな。
「モモ、頼む」
「わんっ」
影の中に収納しているソルジャー・アントを一之瀬さんたちの方へ向かわせる。
戦意は無いようだし、大丈夫だろう。
「あとは、あれか……」
アロガンツが消え去った場所を見る。
そこには地面に突き刺さった魔剣が残されていた。
「一応、あれも回収しておいた方が良いか」
魔剣をアイテムボックスに収納する。
リストを見ると『魔剣アロガンツ』と表示された。
アロガンツって……なんで魔剣の名前がアイツになってるんだ?
「ん?」
すると突然魔剣が実体化する。
どういう事だ?
反射的に魔剣を掴むと、ドクンッと何かが俺の中に流れてきた。
≪新たな持ち主を確認しました≫
≪魔剣『アロガンツ』の持ち主をクドウ カズトに登録します≫
不意に脳内に流れるアナウンス。
これって俺がこの魔剣の所有者になったって事か。
すると、再び脳内に声が響いた。
『やれやれ……戦いが終わったとはいえ、『鑑定』もせずに魔剣に触れるなんて、危機感が足りていないんじゃないか?』
「……は?」
この声、まさかアロガンツか?
すると俺の思念を肯定するように、手に持った魔剣が怪しく光り輝いた。
『ああ、先程ぶりだね、クドウカズト』
キェェェェアァァァァシャベッタァァァァ!!
読んで頂きありがとうございます
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