231.VS傲慢 後編
力が溢れてくる。
固有スキル『英雄賛歌』。
その効果は全ステータスとスキルの威力上昇と、パーティーメンバーへの固有スキル付与。
ステータスは四倍まで引き上げられ、スキルもLV10であっても、それ以上の威力を発揮する。
まさしく破格にしてチートの権化ともいえるスキルだ。
「モモッ!」
「わんっ!」
モモが吠えると足元から濁流のように闇が溢れ出す。
溢れ出した闇は勢いを増し、瞬く間に周囲を埋め尽くす。
「雷遁の術」
再び俺は忍刀をアイテムボックスから取り出し、忍術を使う。
そして――次の瞬間、俺とモモはアロガンツの背後に移動した。
「ッ――何ッ!?」
「ハッ!」
完全に隙を突いた一撃。
雷遁によって切れ味を増した忍刀は抵抗なくアロガンツの右腕を切り裂いた。
「ぐっ――このっ!」
「わんっ」
更にモモが吠える。
刹那、再び俺たちはアロガンツの背後に回る。
「二度もっ!」
今度はアロガンツも対応が早かった。
即座に血による防壁を展開。
俺の斬撃を弾く。
更に切れて落ちた腕を即座に血を伸ばして拾い上げくっ付ける。
おいおい、くっ付くのかよ。
「鮮血――」
「おっとっ」
「わんっ」
アロガンツが何か技を繰り出す前に距離を取る。
瞬時に、俺たちはアロガンツから数十メートルも離れた場所に移動する。
「影による移動じゃない……瞬間移動か」
「正解」
そう、これがモモの固有スキル『漆黒走破』。
その効果はパーティーメンバーの瞬間移動。
今までは一度影に入らなければ移動できなかったが、このスキルの発動中は、影や闇のある場所ならば誰でもどこにでも瞬時に移動することが出来る。
瞬時に距離を詰める事も、背後に回る事も思うがまま。
流石に敵の体内とか、腕や攻撃だけの部分転移とかは無理だけど、それでもモモの『影渡り』の究極版ともいえるスキルだ。
「わんっ……ぐるるる……」
「大丈夫だ、落ち着け、モモ」
「がるぉぉぉおおおおんっ!」
あ、駄目だ、これ。
モモ、メチャクチャ怒ってる。
「わんっ! わぉぉおおおおおおおおおおおおおんっ!」
モモがキレた。
その瞬間、モモの姿がブレる。
瞬間移動の連続によって、モモがあちこちに出現しては消えを繰り返す。
そしてモモが通過する度に、周囲に拡散した『影』や『闇』が大きく、より濃く膨らんでゆく。
「わぉんっ!」
更にモモの動きは止まらない。
密度を増した『影』と『闇』が一つにまとまり巨大な渦の様に変化する。
それはさながら小さなブラックホールの様であった。
「あれは――モモのスキル『暗黒弾』か……?」
確か本来は影を弾丸にして飛ばすスキルだったはず。
それが俺の英雄賛歌の影響を受けてより凶悪に変化したようだ。
恐ろしい程の密度と禍々しいエネルギー。
「わぉぉおおおおおおおおおんっ!」
「ぐっ――ぐあああああああああああああああ!?」
咄嗟にアロガンツも防御するが間に合わない。
攻撃範囲も広すぎて避ける事も叶わない。
モモの怒りを具現化した様な巨大な闇の渦によってアロガンツはボロボロになる。
だが死んではいない。再生はしているが、その速度は遅い。
「わんっ!」
モモはまだまだ!とばかりに、更に『暗黒弾』を創り出す。
「ぐっ……調子に乗るな犬っころがあああああああああっ!」
対してアロガンツも負けてはいない。
魔剣による斬撃でモモの暗黒弾を相殺する。
周囲に波及する巨大な衝撃破と粉塵。
「ふぅーふぅー……ぐるるるる」
「お、落ち着けモモ、怒ってるのは分かるが、前に出過ぎだ」
「わんっ! わんわんっ!」
モモは「早くアイツをぶっころすの!」と急かしてくる。
操られていた事が余程頭に来たらしい。
うん、まあそれは俺も同意だ。
「アカ、キキ」
「~~~~ッ!(ふるふる~)」
「きゅーーー!」
次に発動するのは、アカの『完全模倣』とキキの『反射装甲』。
二匹とも、モモと同じように怒り心頭なご様子。
「~~~~~~ッ!(ふるふるふるー)」
アカの体が光り輝く。
次の瞬間、俺の周囲に無数の『俺』が現れる。
「ハッ、分身程度で今更――ん? いや、これは……?」
アロガンツは鼻で笑おうとして、首を傾げる。
分身たちの違和感に気付いたのだろう。
「そう、俺は忍術を発動させてない。コイツらは――擬態したアカの分身体だよ」
「なに……?」
「~~ッ!(ふるふるっ)」
アカ(本体)の合図で、俺に擬態した無数のアカがアロガンツへと突撃する。
「わんっ」
更にモモの漆黒走破によって、分身たちは瞬時に距離を詰める。
「たかが分身程度で――なっ!?」
アロガンツは俺に擬態したアカの分身体を、即座に魔剣で斬り裂こうとする。
だが、それは出来ない。
アカの分身体たちがいつの間にか、忍刀や破城鎚、オークの包丁など様々な武器を装備していたからだ。
更にそれだけでは終わらない。
「――雷遁の術」「火遁の術」「爆遁の術」「「火遁の術」」「「「破城鎚」」」「「絶影」」「影真似」「絶影」「急所突き」「破城鎚」「雷遁の術」「剣術」「分身の術」「火遁の術」「爆遁の術」「絶影」「絶影」「雷遁の術」「疾風走破」「破城鎚」「破城鎚」「影真似」「風遁の術」「風遁の術」「影縛り」「影真似」「身体強化」「アイテムボックス」「渾身」「急所突き」「剣術」「模倣」、「雷遁の術」「火遁の術」
アカの分身体たちは俺の持つスキルや忍術を発動させる。
爆発、爆風、放電、衝撃、家電圧殺。
凄まじい破壊がアロガンツを中心に炸裂した。
「なっ――ば、馬鹿なっ! ぐああああああああああああああっ」
様々なスキルが一気に発動したその威力は、先ほどのモモの『暗黒弾』にも劣らない。
これがアカの固有スキル『完全模倣』。
今までは生物には擬態できなかったアカが英雄賛歌の発動中のみ、生物にも擬態する事が出来る。但し、パーティーメンバー限定。
更に、擬態したパーティーメンバーの持つ固有スキル以外のスキルも再現することが出来る。
俺(本物)に比べれば、その威力は七割程だが、アカは俺と違い分身全てがスキルを使える上、肉体の一部を武器に変化させることもできるという大きなメリットがある。
同時に複数のパーティーメンバーに擬態する事までは流石に出来ないが、実質的に英雄賛歌の発動中、アカは俺たちパーティーメンバーの――固有スキルを除く――全てのスキルを発動できるという事だ。
流石、海王の後継と言わざるを得ない。
手数の多さならば、英雄賛歌中のアカは俺たちの中でも随一だ。
「駄目押しだ。キキッ!」
「きゅーー!!」
任せてとばかりに、今度はキキがスキルを発動する。
「ッ……なんだ、この分身たち……攻撃が通らない?」
アロガンツは必死にアカの分身たちへ攻撃しようとするが、その攻撃が通らない。
魔剣による斬撃も、鮮血領域による血の弾丸や物体操作も、一切ダメージは通らない。
その全てが『反射』され、無効化される。
キキの固有スキル『反射装甲』。
その効果は、パーティーメンバーへの持続的な『反射』の付与。
斬撃、魔法、精神汚染、外敵からのありとあらゆる攻撃を反射、無効化する最強の盾だ。
物理以外も防げるし、英雄賛歌発動中はその効果は永続。
同時に二種類以上の攻撃は反射できないという弱点はあるが、一種類の攻撃であれば、どんな攻撃であっても反射し、無効化することが出来る。
「何故だ……何故、攻撃が……」
冷静に観察すれば、二種類以上の攻撃を同時に与えれば、どちらかは通ると理解出来るのだが、そんな余裕、今のアロガンツにはないだろう。
「最後は――一之瀬さん」
『はいっ』
俺の声が届いたのかは分からないが、次の瞬間、一之瀬さんの放った弾丸がアカの分身たちを『すり抜け』てアロガンツへと被弾した。
「ぐああああああっ」
一之瀬さんの固有スキル『流星直撃』。
マーキングした対象を、遮蔽物を無視して狙撃する事が出来る。
分かりやすく言えば、ターゲット以外、彼女の銃弾は透過するのである。
故にフレンドリーファイアを一切気にすることなく、常に相手の死角から、遮蔽物を無視した狙撃を行える。
「……味方ながらエグイな……」
遮蔽物を無視しての狙撃、更にモモの『漆黒走破』によって瞬間移動してまた狙撃の無限コンボ。
ある意味、一番えげつない攻撃手段かもしれない。
やられる方にしたらたまったもんじゃないだろう。
『フハハハ! 皆、中々ヤルではナイか! デハ、我モ――』
『シロもー』
更にソラとシロも戦いに参加しようとするが、俺はそれを手で制する。
『ム? ドウシタ、カズトよ?』
「もう十分だよ。これ以上はアロガンツを『殺して』しまう」
モモの暗黒弾を喰らい、アカの一斉攻撃を喰らい、一之瀬さんの連続狙撃を喰らい、もはやアロガンツはボロボロで立っているのもやっとの状態だった。
これだけの攻撃を喰らってもまだ死んでいないのは驚嘆に値するが、もうコイツに逆転の目はない。
その証拠に、
「……『鮮血領域』、消えたみたいだな」
「がはっ……ハァ……ハァ……」
もはや領域スキルを維持する力も残っていない。
放っておいてもこのまま死ぬだろう。
だが、止めを刺すのは俺がしなければいけない。
(一之瀬さんからのメールから察するに、コイツは自身にも『置き土産』を仕掛けてる可能性がある)
だから他の皆に、コイツを殺させるわけにはいかない。
ステータスも高く、耐性スキルも多く持っている俺が止めを刺すのが適任だ。
だがその前にどうしても、コイツに聞いておきたいことがあった。
「アロガンツ、一つだけ聞かせてくれ」
「……なんだい?」
「お前は……何がしたかったんだ?」
「……」
それはコイツの本当の目的。
コイツは俺を殺すことが、この襲撃の目的だと言った。
だが、本当にそれだけだったのか?
この襲撃には他にも何か目的があるんじゃないかと思ったのだ。
「……は」
アロガンツは一瞬、目を伏せると、どこか観念した様な表情を浮かべた。
大きく息を吐く。
「……赤ん坊が大人になるまで誰かが育てなくてはいけない……」
「は?」
いきなり何を言ってるんだ、コイツは?
「この世界は……カオス・フロンティアは砂上の楼閣だ。生まれたばかりで酷く脆い……。誰かが守らなくてはいけないんだ……」
「……」
「傲慢はシステムに干渉できるスキルだ。私はこの世界の事が知りたくて何度もシステムにアクセスし、この世界の真相を知った……死王と賢者、そして『向こうの世界』の事もね」
「知ってたのか……」
口ぶりからしてそんな気はしてたが、どうやらアロガンツは俺たちが思っている以上に、この世界の事を調べていたようだ。
「私は……私なりのやり方でこの世界を守ろうとしていただけだよ……」
「守るだと……?」
それまでの奴の行動とは、まったく結びつかない言葉に俺は面食らう。
アロガンツはそんな俺の反応が面白いのか、ふっと笑った。
「ああ、君たちを殺し、力をつけた後、私は六王を従え、彼らを――『先遣隊』を殺すつもりだった」
「なっ――!?」
今度こそ、俺は眼を見開く。
コイツ、先遣隊の事まで知ってたのか。
「上手く連中に取り入り、隙を突く算段も付いていたんだけどね……はは、まさかその準備段階で躓くとは思わなかったよ……」
「ちょ、ちょっと待て? じゃあ、何か? お前も先遣隊を倒すために今まで行動してたってのか?」
「ああ、そうだ」
「どうして?」
「そんなの決まってるだろう?」
アロガンツはそこで一旦言葉を区切り、
「――私がこの世界に生まれたモンスターだからだ」
はっきりと、そう言い放った。
「君たち人とは違うが、私もこの世界に生まれた命だ。誰かの都合で殺され、使い捨てられる存在じゃない。……私はこの世界に生まれた命として、この世界を守りたかった……」
「だったら――」
「君たちと手を組めばよかったとでも? 笑わせる。言っただろ、君は人で、私はモンスターだ。決してその存在は相容れる事はない。君の仲間が例外中の例外なだけだ」
アロガンツは視線でアカたちの方を見る。
少しだけ、その視線には羨望が混じっているように見えた。
「私は人を騙すのも、人を汚すのも、人を殺すのも好きで好きで堪らない。そんな存在が、どうして君たち人間と手を組み、戦う事が出来る?」
出来るはずがないとアロガンツは断言する。
モンスターとしての確固たる自分があるのだと。
人と手を組むことを拒み、あくまで『傲慢』にモンスターとして戦ってきたのだと。
「今更、生き方は変えられないし変える気もない。……私は……私の望むままにこの世界を生きてきた……」
震える手で、アロガンツは自分の胸に手を突っ込む。
大量の血液が溢れ、血塗れの手には紫色の魔石が握られていた。
「ッ……お前!」
「安心しなよ、『置き土産』なんて仕掛けていない。君の――君達の勝ちだ」
アロガンツは手に力込める。
パキンッと魔石は砕けた。
「あーあ……もっと好き勝手に暴れたかったなぁ……」
「……」
アロガンツの体が少しずつ霧のように消えてゆく。
「もう、すぐ……最後の戦いが……始まる。精々頑張りな、よ……クドウ……カズト――……」
そう言ってアロガンツは消えた。
最後まで傲慢に、俺たち人間と相容れない存在として。
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クドウ カズトのLVが27から28に上がりました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クドウ カズトのLVが28から29に上がりました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クドウ カズトのLVが29から30に上がりました≫
≪種族LVが最大値に達しました≫
≪上位種族が選択可能です≫
≪ネームドモンスター『アロガンツ』の討伐を確認≫
≪討伐参加者を解析――MVPを選定≫
≪MVPをクドウ カズトに認定します≫
≪討伐ボーナスが与えられます≫
≪『質問権』を最終段階へ移行≫
≪『管理者権限』を取得しました≫
≪カオス・フロンティアシステムサーバーへのアクセスが可能になりました≫
大量の経験値獲得を告げるアナウンス。
戦いが終わったという事実にほっと胸をなでおろす。
しかしなにやら随分と気になるアナウンスが流れてきたな。
「管理者権限……?」
すると、軽い頭痛と共に、何かが繋がった感覚があった。
「これは……」
頭を押さえていると、再び脳内にアナウンスが流れる。
≪カオス・フロンティアシステムサーバーより通達≫
≪クドウ・カズトへ『招待状』が届いています≫
≪カオス・フロンティアシステムサーバーへとアクセスしますか?≫
なんだと……?
読んで頂きありがとうございます。
本作もだいぶ終わりが近づいてきました。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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