230.VS傲慢 前編
遅れてすいません。
前回のあらすじ
葛木 は 洗脳 された!
葛木 が 仲間 に なった!
十香「計画通り……」
黒と赤に染まる空間の中で、俺とアロガンツは戦いを続けていた。
『落日領域』は半径十キロを強制的に夜に変化させ、『影』と『闇』系統のスキルを大幅に強化するスキル。
とはいえ、他のモンスターの気配もあるので、周囲にあまり影響を与えないよう、効果範囲を五十メートル程に抑えている。
アロガンツとの戦いに集中するならば、このくらいの範囲で問題ない。
ちなみに元々が夜であってもスキルは発動する。
どうやら『落日領域』によって発生する『夜』は、普通の夜とは別物になるらしい。
「うぉぉおおおおおおおおお!」
『落日領域』によるスキル強化、『超級忍術』と『超級忍具作成』によって武装した忍刀、どのような地形、環境であっても俺の速力を維持できる『疾風走破』、更に『勤勉』によってそれらすべての職業スキルをさらに強化する。
そしてアイテムボックス、集中、予測、激怒、演算加速、剣術、身体能力向上、渾身、危険回避、あらゆるスキルを同時発動させる。
これが今の俺個人で可能な最大戦力だ。
「はっ! これは凄いね! 気を抜けばすぐにでも殺されてしまいそうだ!」
だがそれでも、アロガンツは倒れない。
むしろ平然と俺の動きを上回り、反撃を加えてくる。
「シッ!」
「ぐっ……!」
俺の『影』や『アイテムボックス』が奴の動きを阻害しようとすれば、逆に奴の周囲に浮かぶ『血』や、血が付着した物体がそれを阻害する。
(――大体理解出来てきたぞ、『鮮血領域』の効果)
おそらくは『鮮血領域』はアロガンツ自身の血液を自在に操作し、更に血液が付着した物体を自在に操るというもの。
その効果範囲は俺の『落日領域』とほぼ同等で、調節可能。
血が通っていないゾンビが血液を生み出せるってのはおかしな話だが、スキルがあればどうとでも説明がつく。
そもそもアイツはこれまでの攻防で、大量の血液を雨の様に降らせている。
(血液切れを待つってのは無理だろうな……)
ペオニーのように理性を失ったモンスターであれば、ガス欠狙いの持久戦に持ち込むってのも可能だが、あいにくとコイツには理性がある。
俺と同じように思考し、観察し、常に相手の裏をかこうとする。
(――やりにくい……!)
ハイ・オークのような戦闘狂とも違う。
シュヴァルツのような圧倒的な力を振りかざすわけでもない。
ただひたすらに相手の嫌がる戦法を取り続ける。
「――言ったろ、君と私は同類だ」
「ッ……!」
アロガンツの魔剣と、雷遁を纏った忍刀が交差し、火花が飛ぶ。
「勝つために手段を択ばない!」
刹那、赤い斬撃がアロガンツの持つ魔剣から周囲に拡散する。
嘘だろ? ゼロ距離でこれを使えるのかよ?
「くそっ!」
斬撃が拡散するのとほぼ同時に、俺は後ろに飛ぶ。
アカとキキが居れば防御できただろうが、あいにくと今は影の中だ。
避けきれずに攻撃を喰らってしまう。
「――『絶影』!」
即座に斬撃を受けた部分に影を纏わせ止血し、ヤツの血を吐きだす。
もし奴の血液が生物も操る事が出来るのであれば、体内に入った瞬間終わりだ。
だが血液による操作は僅かなタイムラグがある。
斬撃を喰らっても、すぐに血液を外に排出すれば影響は受けない。
まあ、メチャクチャ痛いけど。
「正解だ。もし私の血が君の体内に侵入すれば、その時点で私の勝ちだった」
「ペラペラと余裕だな」
「だからこその『傲慢』だよ。驕りや慢心もまた私の力を高める要因だ」
アロガンツは手を天に向けてかざす。
掌から大量の血液が放出し、周囲へ雨のように降り注ぐ。
(これで三度目……!)
俺は『影』でガードできるが、もはやこの周辺にヤツの血が付着してない物はないだろう。
すると血液が付着した瓦礫が集まり、無数のゴーレムへと変化した。
「次は数だ」
「舐めんな!」
いくらゴーレムの形になろうが、ティタンのような本物とは全くの別物。
ステータスもスキルもないただの瓦礫の塊だ。
それをあえてぶつけて来るって事は、囮かもしくは時間稼ぎ。
リベルさんが『神聖領域』に閉じ込めてるシュヴァルツが解放されるまでの――、
(させるかっ!)
リベルさんは稼げる時間はせいぜい十五分といった。
残り時間は後三分程度。
速攻で片付ける。
「水遁の術」
俺は即座に『超級忍術』を発動させる。
水遁の術は文字通り水を発生させる忍術。
発生した大量の水が周囲へ波及する。
こんな市街地じゃ殺傷能力の低い忍術だが、狙いは別だ。
俺の水を浴びたゴーレムもどき共は次々に形を失い、元の瓦礫へと戻ってゆく。
「……成程、水で付着した血を洗い流したのか」
そう、スキルで作り出した血なら、同じくスキルで作り出した水で洗い流す事が出来ると踏んだのだ。
予想が当たってよかった。
「驕ったな、アロガンツ……」
「なに……?」
いくら自分の『優位』を保つためとはいえ、油断し過ぎだ。
水気の満ちた戦場では、この忍術が更に強力になるとは予想しなかったのか?
「――雷遁の術」
刹那、青白い光が戦場を覆い尽くす。
「ぐッ……!」
仕留めきれるとは思ってなかったが、それでもアロガンツの動きは一瞬硬直する。
だがその一瞬で十分!
「――疾風走破」
即座に、俺は奴に肉薄、忍刀を振るう。
今度こそ、これで仕留める!
「甘いっ!」
だが硬直の解けたアロガンツは即座に魔剣でカウンターを決めようとした。
その反応の速さ、反撃までの動きは驚嘆に値するモノだった。
(嘘だろ? これでもまだアロガンツの方が速いのか――)
分かる、理解出来てしまう。
俺が先にヤツの急所を貫く前に、アロガンツの魔剣が俺を切り裂く。
「終わりだ! 早熟の所有者よ!」
ああ、畜生……。
奴の笑みが憎たらしい。
……負けるのか?
全力を出して尚、俺ではこいつに勝てないのか――?
そう思った瞬間、頭の中に声が響いた。
≪――メールを受信しました≫
「……は?」
「えっ……?」
その瞬間、『何か』が変わった。
今までその場を支配していた『何か』が消え去ったのだ。
「がはっ……」
気付けば、俺の忍刀がアロガンツの胸を貫いていた。
先に攻撃を当てたのは、俺だった。
理解出来ないと言った表情を浮かべるアロガンツ。
「ぐ……ぁぁああああああああああああああ!」
「ッ――!」
俺は即座に忍刀を手放し、カウンターを躱す。
距離を取り、アロガンツを見ると、ヤツの顔には先ほどまでの余裕が消えていた。
「これ、は……?」
己の体の具合を確かめるようにヤツは拳を握る。
胸に刺さった忍刀よりも、よほど重要とでもいうように。
「まさか……そんな、馬鹿な……あ、あり得ない……!」
一方で、俺はアロガンツから視線を外さずに、指先だけを操作してメールを確認する。
送り主は一之瀬さんだった。
書かれていた内容を見て、俺はヤツの身に起きた変化を理解する。
(そうか……一之瀬さんたちは勝ったのか……)
あの魔物使いの少女が生き返っていた事にも驚きだが、それ以上に五十嵐さんが進化していた事の方が驚きだった。
(レベルを偽って申告していたとは彼女らしいな……)
でも同時に疑問もわく。
どうして彼女はアロガンツの『鑑定』を欺く事が出来たんだ?
五十嵐さんは俺と違い、『鑑定妨害』を持っていない。
いくら虚偽の報告をしようとも、ステータスそのものは嘘をつけない。
なのにのどうやってアロガンツの『鑑定』を欺く事が出来たのか?
少し考え、俺はハッとなる。
(そうか、大野君の『嫉妬』……!)
大野君の嫉妬は、対象のレベルやステータス、スキルの効果を下げる事が出来る。
それを使って、自分のレベルを意図的に下げていたのだ。
(全くとんでもない事を考えるな……。まさか敵の『鑑定』を逆手に取るなんて)
そして『鑑定』の情報を信じたアロガンツはまんまと一杯喰わされたわけだ。
おそらくコイツは、進化した俺や一之瀬さん、六花ちゃん以外は取るに足らない戦力だと考えていたのだろう。
だからこそ、足元をすくわれた。
西野君と五十嵐さん。
ただの人間だと思っていた二人が土壇場で『進化』したことで、計画が狂ってしまった。
俺に執着したばかりに、俺『以外』の誰かが戦況を逆転させる鍵になるなど考えなかったのだろう。
ある意味『傲慢』らしいな。
「馬鹿な……彼女が死んだのならば、スキルは私に譲渡されるはず……。籠絡された? ならば何故遠隔操作の自死が発動しない……! ありえない! こんな事はありえない!」
アロガンツは頭をガリガリとかきむしる。
どうやら魔物使いの少女が死んだ後も、何か仕込んでいたようだ。
だがそれも彼女が五十嵐さんに魅了されたことで無力化された。
そして魔物使いが無力化したって事は、シュヴァルツやモモも解放されたはず。
つまり駒は全て無くなり、アロガンツは丸裸。
「――状況は覆ったってわけだ」
「~~~~~~~ッ!」
俺の言葉にアロガンツは苦々しい表情を浮かべる。
歯が砕けそうな程の歯ぎしりの音がする。
「何故だ!? 何故、状況が逆転する! 不利な状況だった筈だ! 絶望的だったはずだ! なのに何故、私の優位が揺らぐというのだ!」
「はっ……」
まるで子供の疳癪だな。
思い通りにいかないと大声を出して喚き散らす。
そんなんでよくこれまで生き延びて――いや、違うか。
そうだからこそ、自分を絶対に正しいと信じてきたからこそ、自分の欲望に誰よりも正直に生きてきたからこそ、コイツはここまで生き延びて来れたんだ。
――だけど、一人ではそこから先には進めない。
一人で出来る事なんて、たかが知れてる。
だから仲間を作って、それを補う。
小さな一つ一つの歯車がより大きな歯車を回し、一人では成しえない大きな結果を生み出すんだ。
仲間を只の駒程度にしか考えてないお前には分からないだろうな。
「わんっ!」
「モモッ!」
影からモモが姿を現す。
モモは俺をじっと見つめてくる。
≪モモが仲間になりたそうにアナタを見ています。仲間にしてあげますか?≫
ああ、そうだったな。
パーティーメンバーから強制的に外されていたんだ。
当然、俺はイエスを選択する。
≪申請を受理しました。モモが貴方のパーティーに加入しました≫
「くぅーん……」
モモは体を俺にすり寄せる。
もうだいじょうぶだよ、と言っているようだ。
「……!(ふるふる)」
「きゅー!」
次いでアカ、キキも姿を現す。
魔物使いの少女が無力化した今、アカたちも隠れている理由もない。
『――ナラバ、我ラももう様子見をスル必要はあるまい?』
『カズトー! シロも一緒に戦うー!』
上空に控えていたソラとシロも参戦する。
≪メールを受信しました≫
一之瀬さんからだった。
『――私も居ますよっ!』
すでに狙撃の体勢に入っているのだろう。
勿論、ちゃんと頼りにしてますよ。
ああ、安心する。
一之瀬さんが、モモが、アカが、キキが、ソラが、シロが。
仲間がいるだけでこんなにも力が湧いてくる。
「ここまでだな、アロガンツ……」
「なに……?」
力を込める。
状況が覆った今、このスキルを温存する必要もなくなった。
今ならば、この瞬間ならば間違いなくこのスキルを最大火力で使用することが出来るはずだ。
「――『英雄賛歌』発動!」
まばゆい光が辺りを包み込む。
≪カオス・フロンティアシステムサーバより申請受諾≫
≪クドウ カズト 固有スキル『英雄賛歌』発動を確認≫
≪全ステータスが大幅に上昇します≫
≪全スキルの威力が大幅に上昇します≫
≪パーティーメンバー モモ 固有スキル『漆黒走破』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
≪パーティーメンバー イチノセ ナツ 固有スキル『流星直撃』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
≪パーティーメンバー アカ 固有スキル『完全模倣』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
≪パーティーメンバー キキ 固有スキル『反射装甲』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
≪パーティーメンバー ソラ 固有スキル『青鱗竜王』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
≪パーティーメンバー シロ 固有スキル『白竜皇女』を取得≫
≪全ステータスが上昇します≫
固有スキル『英雄賛歌』。
その効果は全ステータスの上昇とパーティーメンバーへの固有スキル付与。
反則的な効果を持つ俺の切り札。
「終わりにしよう、アロガンツ。お前を倒して俺は――俺たちは先に進む」
読んで頂きありがとうございます
次回で決着です
書籍1~4巻&コミック1~5巻発売中です。
そちらも何卒よろしくお願いします。




