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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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225/274

225.極上の悪意



「そぉれっ!」


 知性ゾンビは大振りに剣を振るう。

 距離は関係ない。

 奴の魔剣は斬撃を拡張する。

 ならば注意すべきは剣の軌道。


「ッ――!」


 それを先読みして、ヤツの斬撃を躱す。

 同時に背後や周囲の建物が切り裂かれ、倒壊する。


(さっきの斬撃は五十メートル近くあった……。今のは精々十メートル程度)


 距離は任意で変更可能とみるべきだな。

 俺の忍術みたいに消費MPで威力を調節できるとかか?

 問題は最大距離。流石にこの『安全地帯』全域をカバーできるとは思いたくないけど……可能性は考慮すべきか。

 

「まだまだっ!」

「ちっ」


 ヤツは再び魔剣を振るう。

 しかも今度は連撃だ。

 連撃も可能なんて増々厄介だな、おいっ。

 咄嗟に後ろに飛び、斬撃の隙間を縫って躱す。

 

(――距離を詰めさせない気か……)


 確かに接近戦に持ち込めば、あの魔剣のメリットは激減する。

 中距離から遠距離がヤツの斬撃が一番活かせるのは間違いない。


(とはいえ、それはコッチも同じだ!)


 すぅっと息を吸い込み、忍術を発動させる。


「火遁の術っ!」


 発生した巨大な炎弾が知性ゾンビへ向けて放たれる。

 

「はっ、いいね!」


 するとヤツは手を前にかざす。

 同時に奴の足元から闇が溢れ出し俺の火遁を『相殺』した。

 

(……シュヴァルツの闇だと……? 本体と分断させてもある程度は使えるのか)


 だが本体でない分、性能が落ちるのは間違いない。

 本来の威力なら、俺の火遁など軽く飲み込み、そのままこちらへ押し寄せていたはず。


「……驚いたかい? 例え狼王と分断されてもこの程度――おっと」


 無駄口を叩く知性ゾンビへ向けてクナイを投擲するが、躱されてしまった。

 でもそれで問題ない。


「火遁の術!」


 再び俺は火遁を使う。


「同じ攻撃を――」


 当然、知性ゾンビは闇でガードする。

 先程と同じやり取り。

 だが、今度はこっちが仕掛ける番だ。


「この程度の攻撃で――ッ!」

「ちっ」

 

 これも躱されたか。

 でも距離は縮まった。

 一瞬で背後に現れた俺に、知性ゾンビはさぞかし面食らっただろう。

 種明かしをすれば、さっき投げたクナイは、アカの擬態したクナイだ。

 火遁で奴の視界を一瞬塞ぎ、その隙にモモの『影渡り』でクナイの位置に移動しただけ。

 

「この距離ならっ!」

「くっ――!」


 今度は至近距離での応酬だ。

 この距離なら、ヤツの魔剣に比べ、俺のクナイに分がある。

 

(――距離を取ろうとした時点で、接近戦は分が悪いと自ら吐露してるも同じ)


 こちとらリベルさん相手に毎日近接戦で地面に転がされたんだ。

 その程度の剣術で、俺の攻撃を捌けると思うなよっ!


「ッ……!」


 クナイがヤツの頬と首筋をかすめる。

 一撃で仕留めようと思うな。

 まずは敵のバランスを、リズムを崩す。

 確実に仕留められる状況を作り上げろ。


「シッ!」

「ぐっ……!」


 知性ゾンビもなんとか急所を避け、剣で対応するがだんだんとそのリズムが崩れてきた。

 連撃、集中、疾走。

 畳み掛ける!

 奴に攻撃を許すな。

スキルを使わせる隙を与えるな!


「このっ! いい加減に――」

「遅いっ!」


 奴は魔剣のスキルを使おうと剣を振り上げた。

 ここだ!

 焦りと苛立ちで、ヤツは最もやってはいけない悪手を指す。

 その刹那、索敵が反応した。


「ッ――!? なっ!?」


 その直後、何かがヤツの足を貫通した。


「シッ!」


 知性ゾンビが驚くが、俺は即座に理解した。

 一之瀬さんの狙撃だ。

 おそらく外に出た後、ずっと狙撃のタイミングを見計らっていたのだろう。

 相変わらずベストタイミングです、一之瀬さん。

 足を撃ち抜かれ、バランスを崩した隙に、俺はクナイで、魔剣を握りしめる奴の右手を斬り落とした。


「がっ――」

「まだまだっ!」


 次いで、今度は首を狙う。

 だが紙一重で躱される

 後ろへ飛び、距離を取ろうとするがそうはさせるか!

 

「火遁の――」

「『闇撫』!」


 だが僅かに、ヤツの闇の方が早かった。

 大量に溢れ出す闇が火遁と、俺の追撃を阻害する。

 仕留めきれなかったか……。

 だが片手は潰し、魔剣は俺の背後。

 アイテムボックスには収納できないが、これで奴の厄介な斬撃拡張は無効化したも同然。

 とはいえ、油断はしない。

 一気に決める。


「わんっ」

「きゅーっ」


 すると、足元の影が広がり、モモとキキが姿を現した。


「モモ、キキ!」


 いいタイミングだ。

 俺の声に応じて、二匹は即座に行動に移る。

 モモは駆け出し、キキが俺とモモに支援魔法をかける。


(俺とモモ、一之瀬さんで奴の動きを押さえる。その隙を突いてソラのブレスを当てる)


 いかに知性ゾンビが強かろうとも、ソラのブレスを喰らってはただでは済むとは思えない。

 確実に当てるためには、やはりアレを使うべきだ。


(――『落日領域』と『英雄賛歌』を発動させるっ)


 MP消費が激しいが、ここが正念場だ。

 俺は二つのスキルを発動させようとする。

 その瞬間――、


「……くひっ」


 奴と――知性ゾンビと目が合った。

 ヤツは笑っていた。

 まるで、この状況を待っていたかのように。


「ステータスが下がった……劣勢のようだね」


 リベルさんは言っていた。

『傲慢』は自分が有利になればなるほど、ステータスが増加する効果があると。

 だがそれだけでは説明できない部分が奴には多い。

 寒気がした。

 なんだ?

 この状況で、ヤツは何を――?


「――さやか、やれ」


 その瞬間、ヤツの足元から禍々しい鎖が無数に溢れ出した。

 

(闇のスキルじゃない……? なんだこれは?)


 無数の鎖が俺たちへと襲い掛かる。

 速いが俺やモモなら避けれないスピードじゃない。

 

「モモッ!」

「わんっ」


 俺とモモは『影』を纏わせ、鎖を避ける。

 ……だが何か嫌な予感がする。

 

「モモ! いったん下がれ!」

「わんっ!」


 モモもそう感じたのだろう。

 鎖を避けつつ、影に身を沈ませる。

 だがその瞬間、予想外の事態が起きた。


「なっ!?」

「わ、わぉん!?」


 なんと鎖が『影の中』まで侵入したのだ。

 無数の鎖によって拘束されたモモが影から引きずり出される。

 

「モモッ!」

「わ、わぉ――ッ」


 モモは咄嗟に『叫び』のスキルを使おうとするが、鎖が絡まり、声を出す事も出来なくなった。

 俺は即座に駆け出し、モモを助け出そうとする。


「――ずっと考えていたんだ」


 知性ゾンビの声が聞こえる。

 くそっ! なんだこの鎖、切れないしびくともしない!


「君が最も苦しむことは何だろうって? どうすれば君が絶望してくれるのか考えたんだ」 

「お前……まさか……」


 おい、止めろ、何をする気だ……?

 知性ゾンビが手をかざす。

 それに呼応するようにモモに絡みつく鎖が血管のように脈動する。


「これが――その答えだ」

「止めろおおおおおおおおおおおお!」


 鎖が黒く光り輝き、モモを包み込む。


「モモッ!」


 光が収まると、鎖が消え、モモが地面に落下する。

 咄嗟に駆け寄ろうとするが、その瞬間、モモは俺から距離を取った。


「モモ……お前……」

「うぅ……ぐるるる……」


 モモの表情は黒く染まっていた。

 絶望に染まり、今にも泣きだしそうな顔で俺を見つめていた。


「……ステータスが上昇した。状況は逆転したようだね」


 知性ゾンビの声と共に、俺の脳内にアナウンスが流れる。


≪――申請を受理しました≫

≪パーティーメンバー『モモ』がパーティーから離脱しました≫


 その意味を、俺は即座に理解出来なかった。

 理解することを、脳が拒んでいた。

 知性ゾンビが笑う。

 極上の悪意を纏わせて、俺を見つめる。


「――君が最も信頼する仲間に、君を殺させる。さあ、モモ。君の力を見せてくれ」

「うぅ……わぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」


 知性ゾンビの声に応じ、モモが俺に襲い掛かってきた。

 

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書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
[一言] うわーーー( >Д<;)モモがーーー!! もうもう、ハラハラが止まりませんーーー! 知性ゾンビ嫌いーーー(ToT)(ToT)(ToT)
[一言] こういう時こそ「癒しの宝玉」を使う時だと思うけど・・・ただ使って元に戻しても、また洗脳されそうだからタイミングを考えないといけないなぁ
[一言] A絆パワーで解決 B拘束などで無効化してから本体を倒す Cモモは死ぬ この作品ではありえないと思いますが個人的にCが好きですね
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