224.分断
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。
そして遅れてすいません。更新再開します
前回のあらすじ
西野君の回想が終わったら知性ゾンビが攻めてきた。以上
渦のように拡張する闇の中で俺は思考を加速させる。
どうして奴が――モンスターが『安全地帯』に入る事が出来る?
いや、モンスターであっても例外的に『安全地帯』に入る方法は存在する。
モモやアカのように人間のパーティーメンバーに入る事だ。
(――誰だ?)
誰がアイツを――この知性ゾンビを『安全地帯』に引き入れた?
裏切り? いや、五十嵐会長のような洗脳系のスキルを使えば、無理やり誰かのパーティーメンバーに入る事も可能なのか……?
(それともあの女王蟻か……?)
いや、女王蟻はあくまでも俺の影に収容しているから、例外的にこの中に居るだけ。
影から出せばすぐさま外に弾かれるし、その仲間だって同じはずだ。
でも仲間の中に一人でも人間がいれば可能か……?
くそ、検証が不十分だった。
そもそもやるべき事、優先すべき事が多すぎて、どうしてもそっちは後手に回ってた。
それでも市長の『町づくり』のLVが上がれば、その辺も対策出来るはずだった。
はずだったのに――、
「――いけないね。戦いの最中に考え事は」
「ッ――!?」
ガンッ! と頭を殴られたような衝撃。
脳が揺れ、視界がぐらつく。
見れば、知性ゾンビが手足に鎧のように闇を纏わせていた。
「ぐっ……」
「まだまだ」
広がる闇を足場にして、ヤツは俺に肉薄する。
咄嗟に影を纏ってガードするが、『影』のスキルでは、『闇』を防ぎきるのは難しい。
それでも感知スキルを併用することで、何とか奴の攻撃を捌く。
(ともかく一旦距離を取らないと……)
アイテムボックスや忍術が生かせる間合いじゃない。
かといって影真似を使うには負担が高すぎる。
だったら、
「――どうにかして距離を取る。そう考えてる表情だね」
「――」
俺の考えを読んだかのように、ヤツは笑う。
「言ったろ? 君は分かりやすいって」
ざわっと寒気がした。
知性ゾンビが腰に下げた剣を抜く。
禍々しい光を放つそれは闇の中に在って尚、異質な存在感を放っていた。
ほぼ水平に。
振るわれた剣が、空気を揺さぶる。
ゾンッ! と空間が爆ぜた。
「――はっ、はっ、はっ、はっ……!」
危なかった。
一瞬でも回避が遅れてたら、今頃俺は真っ二つになっていた。
見れば、奴が剣を振るった先の建物が軒並み真っ二つになっていた。
(……広範囲に斬撃を拡張するスキルか……)
厄介だ。
もしあの斬撃がガードを無視できるなら、分身でもアイテムボックスでも防げない。
避ける以外に防ぐ方法が無い。
「凄いだろ、この剣。私の居た世界の武器なんだが、所有者のステータスを増加させるだけでなく、こんな風にスキルも使う事が出来るんだ」
「自慢かよ」
「サービスだよ。このくらい、話したところで私の『優位』は揺るがない」
奴の足元から更に大量の闇が泥のように溢れる。
「……その闇、ダーク・ウルフのスキルか?」
「ああ、私の足元に居る。気になるかい?」
ぱちんっと奴は指を鳴らす。
すると足元の闇が広がり、一体の黒狼が姿を現した。
「ウゥ……グルルルル……」
その姿は紛れもなくダーク・ウルフ――狼王シュヴァルツであった。
だが、その首には銀色に光る首輪と、そこから繋がる鎖のようなものがあった。
鎖はだらんと垂れ下がり、足元の闇の中へと続いている。
(あの鎖と首輪でシュヴァルツを従えてるのか……?)
リベルさんは『傲慢』には他者を従属させる効果はないと言っていた。
だとすれば、アレはヤツの持つ別のスキル……?
でも、だとすればなぜ鎖は、ヤツの手や体ではなく闇の中に続いている……?
何か引っかかるな……。
「苦労したんだよ? コイツ、中々言う事を聞いてくれなくてね。だから、色々と工夫させてもらった」
「工夫、だと……?」
「すぐに分かるさ――おっと」
知性ゾンビとシュヴァルツが後ろへ飛ぶ。
直後、奴の居た場所に巨大な火柱が昇った。
アレは確か火炎魔術LV8で覚えるスキル――『獄炎火葬』だ。
という事は――、
「ごめん、遅くなったわ」
「ゴルゥゥゥ……」
「リベルさんっ」
火柱の上空からリベルさんが降り立つ。
急いで駆け付けたのか、ローブの下はジャージ姿だった。
なんて締まらない格好なんだ。
だが手には戦闘用の杖を持ち、背後には召喚獣のイフリートまで控えている。
戦闘モードなのは間違いない。
「……アレが、アンタ達の言ってた知性ゾンビ?」
「ええ、そうです。経緯はまだ不明ですが、ヤツは『安全地帯』の結界を通り抜けた」
「そう……、先手を打たれたわね……」
ちっとリベルさんは舌打ちする。
「ナツや他の皆は無事?」
「ええ、おそらく今頃、モモが外に出してると思います」
「そう……」
無事な事を伝えると、リベルさんは安堵の表情を浮かべた。
『影檻』はモモの影とも通じている。
モモならばすでに動いて、今頃は別の場所に出ているはずだ。
「なら遠慮なく暴れられるわね。被害は気にしなくていいわよ。こっちに来る前に藤田や上杉に住民の避難を頼んでおいたから」
上杉……? あ、市長か。
一瞬、誰かぴんと来なかったわ。
でもあの人たちなら大丈夫だろう。
(皆が動いてくれてる。なら、俺は目の前の敵に集中できる……)
「グルル……」
シュヴァルツが呻り声を上げる。
ピリピリとしたプレッシャーの中に僅かに混じる感情。
苛立ち、そして屈辱感。
(どう見ても、無理やり従わされてるようにしか見えないな……)
ならばこの状況を突破するにはやはり奴とシュヴァルツの繋がりを断つことか。
(でもどうやって……?)
スキルの効果を封じる、もしくは弱体化させるスキルはいくつか存在する。
一番強力なのはリベルさんの『神威』だ。
リベルさんが作り出す光の剣で斬った回数分だけ、相手のスキルを使用不可能にする反則級スキル。
だがこれは今は使えない。
相葉さんの『再現』の暴走を抑える為に力を割いているからだ。
もう一つは大野君の『嫉妬』。
相手のスキルのレベルを下げるこれまた反則的な効果を持つスキル。
だがこれは大野君が『嫉妬』した相手にしか使えない。
知性ゾンビに対し『敵意』は抱けても、心の底から嫉妬できるかと言えば微妙なところだ。
そもそも大野君は知性ゾンビやシュヴァルツを相手にするには力不足だ。
下手をすれば人質にされる危険がある。
「――来るわよッ」
「ッ! はいっ!」
知性ゾンビとシュヴァルツが前に出る。
同時に溢れ出す大量の黒い泥。
それは濁流のように俺たちに押し寄せてきた。
「アイテムボックス!」
即座に俺は空中に足場を作り、泥を回避する。
俺たちの居た場所を黒い泥が通り過ぎ、全てを飲み込んでゆく。
あの泥に触れれば終わりだ。
絶対に触れてはいけない。
「『狼王』の攻撃は全て回避するしかないわ。闇系統のスキルは防御を無視して相手のHPを直に削る。まともに喰らえば一巻の終わりよ」
ゲームでいうところの貫通ダメージというやつだ。
最初に学校で戦った時にガードできていたのは、奴自身がまだ力を使いこなせていなかったからだろう。
だが、時間を重ね、己のスキルの本質を理解した『狼王』の攻撃はもはや回避する以外に手はない。
「まだまだ!」
「ちっ!」
更に知性ゾンビが剣を振るう。
くそ、空中じゃ回避は間に合わない。
(一か八か――)
俺は咄嗟に忍術を発動させた。
「火遁の術!」
紅蓮の炎がヤツの斬撃と衝突する。
直後、足場にしていた重機や周囲の物が切り裂かれた。
だが俺自身は斬られていない。
どうやら予想は当たってくれたらしい。
「カズト! 無事?」
「ええ、大丈夫です」
当たり前のように宙に浮かぶリベルさんに面食らうが、今はそんな状況じゃない。
「あの知性ゾンビの剣にも広範囲に斬撃を浴びせる力があります。でもスキルでの攻撃なら相殺できるようです」
「そのようね。闇のスキルに、魔剣の斬撃、か……。随分といいカードを揃えたわね。『傲慢』らしいわ」
「ええ、ですがあのシュヴァルツが素直に奴に従っているとは到底思えません」
やはり叩くべきは、シュヴァルツではなくあの知性ゾンビだ。
どうにかして奴とシュヴァルツの間にある繋がりを断つ事が出来れば、状況は逆転する。
「……」
リベルさんはしばし瞑目し、次いで俺の方を見た。
「カズト、私が『狼王』を引き受ける。その間にアンタがあの知性ゾンビを何とかしなさい」
「シュヴァルツを引き受けるって、何か手があるんですか?」
「私の『神聖領域』に閉じ込める。アイヴァーへの影響も考えれば十五分ってとこかしら。その間に奴を倒すか、狼王との繋がりを何とかしなさい」
「……分かりました」
どうやって? とは言わなかった。
俺に方法を伝えなかったって事は、リベルさんにも具体案が無いと言う事。
だが彼女が俺を信頼していなければ、こんな時間稼ぎは提案しない。
ならば、その期待に応えるのが筋ってもんだ。
俺の覚悟を感じ取ったのか、リベルさんはふっと笑い、
「良い返事よ。そんじゃ、頑張んなさい」
軽やかに地面を踏みしめると、一瞬でシュヴァルツと知性ゾンビへと接近する。
その余りの速さに、知性ゾンビとシュヴァルツの反応が一瞬遅れる。
「ちっ、狼王」
「ッ……ガルルルルル!」
咄嗟に、知性ゾンビはシュヴァルツを盾にする。
だがその行動こそ、リベルさんの狙い。
リベルさんはシュヴァルツの前で手を組み、スキルを発動させる。
「――『神聖領域』」
まばゆい光がリベルさんとシュヴァルツを包み込む。
闇と光が渦巻き、凄まじいエネルギーが周囲を覆い尽くした。
これがリベルさんの持つ三つの固有スキルの一つ――『神聖領域』。
実際に見るのは初めてだ。
光が収まると、そこには知性ゾンビだけが立っていた。
「……死王と狼王の姿が消えただと……?」
知性ゾンビが不思議そうに呟く。
だが直ぐに気付く。
リベルさんとシュヴァルツの居た場所にはボウリングの玉ほどの大きさの光る玉が浮かんでいた。
おそらくはあの光る玉がリベルさんの『神聖領域』なのだろう。
俺の『落日領域』は現実の空間を強制的に夜に変えるスキルだが、彼女の『神聖領域』はどうやら現実ではなく別の空間を作り出し、そこに相手を閉じ込めるタイプのようだ。
「そうか……これが領域スキルか。職業や種族を最大まで上げた者にのみ取得できる最上級スキル。成程、死王を冠する彼女ならば使えて当然か……」
知性ゾンビは忌々しげに吐き捨てると、俺の方を見た。
「戦力を分断されたようだね……。だが結末はなにも変わらないよ? 私が君たちを倒し、狼王が死王を殺す。ただそれだけだ」
「それはやってみないと分からないだろ」
それに援軍もやってきた。
「ガルォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!」
大気を揺らし、ソラがその姿を現す。
『遅クナッタ』
「いや、いいタイミングだよ」
「カズトー! シロも一緒に戦うー」
ぴょんと、シロが俺の頭の上にしがみ付く。
「竜か……。いいね、是非戦力に加えたい」
その言葉にソラがピクリと反応する。
『随分生意気な屍ダナ……。カズトならいざ知ラず、貴様如きニ我ヲ従わせラレル訳ナカロウ』
「挑発だよ、気にすんな」
でもシュヴァルツの件もある。
迂闊にソラを前に出して、奴に隷属させられるのはマズイな。
「ソラ、援護を頼む。アイツの相手は俺がする」
『フンッ……良カロウ』
「アカ、変化を」
「……(ふるふる)」
服に擬態していたアカを武器に擬態させる。
アイテムボックスから忍具作成で作ったクナイも取り出す。
すぅっと息を吸い、集中。
「――今ここで、確実にアイツを倒す」
踏み込み、前に出る。
知性ゾンビが凶悪に笑う。
「――やってみろ、早熟の所有者よ」
魔剣を構え、奴も前に出る。
タイムリミットは十五分。
戦いが始まった。
読んで頂きありがとうございます。
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