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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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223/274

223.過去と今、そして


 その日、西野は六花、柴田、大野も含めたいつもの面子でカラオケに居た。

 知り合いがバイトをしており、深夜まで居ても咎められることもなく、よく利用している店だった。

 曲を予約し、六花と二人でドリンクバーへみんなの飲み物を取りに行った時に、それは起こった。


「何だ?」

「地震?」


 突如として起こった激しい揺れ。

 立っていられないほどの揺れに、二人は床にしゃがみ込み、揺れが収まるのを待った。

 

「すっごい揺れたねー。電気消えてるじゃん」

「かなりの揺れだったからな。ブレーカーが落ちたんだろう」


 その時は、深く考えなかった二人だが、外を見て驚愕した。

 店のすぐ外の駐車場にオークやゴブリンが現れ、暴れまわっていたのだ。

 その光景に二人は我が目を疑った。


「な、何あれ……コスプレ?」

「いや、それにしちゃリアルすぎないか……?」


 西野は寒気がした。

 何かとんでもない事が起きているのではないかと本能が警鐘を鳴らしていた。

 それは正しかった。

 駐車場に居たゴブリンの一体が通行人に襲い掛かったのだ。

 馬乗りになり、手に持った刃でめった刺しにする光景はとても作り物とは思えなかった。


「え、ちょっ、今、人刺されなかった……? 嘘……」

「ッ……! 六花、来いッ!」

 

 西野は六花の手を取って急いで部屋へ戻った。


「あ、西野さん。さっきの揺れ凄かったっすね。電源も落ちちゃって、店員呼びます?」

「それどころじゃない! 今すぐここから離れるぞ!」

「はい……?」


 西野は先程の自分たちが見てきた光景を説明した。

 最初は半信半疑だった柴田たちも、西野の鬼気迫る様子と、実際に入り口付近に居たゴブリンやオークを見てようやく彼の言っていることが冗談でないことを理解した。

 バイトをしていた知り合いと共に裏口から外に出る。

 そこかしこから化け物の叫び声や人の悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんだこりゃ……」

「何が起こってるの……?」

「さあな。分からないが、とにかくどこかに避難するしかないだろ」


 だがどこに向かえばいい?

 考えていると、背後から寒気がした。


「ギッシャアアアッ!」

「ッ……!」


 近くにいたゴブリンが襲い掛かってきたのだ。

 その叫び声、迫力に思わず西野は硬直する。


「ッ……! 西野さんに触れんじゃねぇ、化け物があああ!」


 代わりに動いたのは柴田だった。

 持っていたエナメルバッグをゴブリン目掛けて振りかぶる。


「ギギャッ!?」


 その衝撃にゴブリンは耐えきれず、吹き飛ばされ電柱に激突し、そのまま動かなくなった。


「ハァ……ハァ……やったか?」

「柴田、すまない。助かった……」

「別に礼なんていいっすよ。それより怪我は――ッ!?」

「……? どうした、柴田?」

「いや、なんか今、変な声が聞こえて……。レベルが上がったとか、経験値がどうとか……」

「何言ってんの、柴っち?」

「いや、俺だってよく分かんねーけど……」


 最初は柴田の空耳だと誰もが思った。

 だが次に六花が、大野が、そして最後に西野がモンスターを倒し、アナウンスを聞いたことで、それが幻聴でも空耳でもなかったと理解する。

 ステータス、職業、そしてスキルの存在は彼らをさらに混乱させた。


「ねえ、これって世界がゲームみたいになったってこと? 冗談でしょ?」

「い、異世界とか? は、はははまるでラノベみたいだね」

「いや、ありえねーだろ、こんなん……」

「だがこの職業やスキルの効果、それにあのモンスター共は本物だ。少なくとも俺たちみんな仲良く集団催眠にかかったってわけじゃなさそうだ」


 信じられないが、どうやらそういう世界になったという事だけは理解できた。

 西野たちは近くのホームセンターへと向かった。

 モンスターとの戦闘で使えそうな武器や物資があると思ったからだ。

 既に逃げたのか、それともトレントの被害にあったのかは定かではないが、ホームセンターはもぬけの殻になっていた。

 これ幸いと、彼らは店内に身を潜めた。

 こうして一日目が終わった。

 そして夜が明け、二日目に事件は起きた。



「――それじゃあ、手分けして周囲を確認しよう」

「うっす」


 夜が明けて、西野達はホームセンター周辺の状況を確認することにした。

 西野と六花、大野と柴田、それ以外に分かれて行動する。


「夢じゃなかったんだねぇ……」

「ああ、そうだな」


 一夜明けても状況は変わらなかった。

 周囲にはモンスターが蔓延り、人を襲い、物や建物は破壊され、あちこちで火の手が上がっている。

 地獄のような光景が広がっていた。


「……他の皆、大丈夫かなー」

「無事を信じるしかないだろ」

「うん」


 探索は順調に進んだ。

 何度かモンスターとの戦闘になったが、スキルを手に入れたおかげで難なく倒す事が出来た。


「だ、誰かー! 助けてくれー」

「いやああ! 止めてええええ!」


 悲鳴が聞こえた。

 見れば二人の男女がゴブリンに襲われていた。


「ニッシー、あれ! 人がモンスターに襲われてる!」

「ゴブリンが二体か、六花いけるな?」

「うんっ」


 二人はすぐさま助けに入った。

 難なくゴブリンを倒し、襲われていた人たちに声を掛けた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、助かったよ……うぐっ」

「怪我をしてるみたいですね。早く手当てをしましょう」

「あ、ありがとう」


 西野は鞄から包帯や消毒液を取り出す。

 ホームセンターの休憩室にあったものを拝借してきたのだが、持ってきておいてよかった。

 応急処置については柴田からやり方を教わっていたため、なんとかなった。


「ふぅ、一先ずはこれで――ッ!?」


 不意に、西野は寒気に襲われた。

 スキル『危機感知』の効果だ。


「ギッシャアアアアアア!」


 次の瞬間、隠れていたゴブリンが彼の背後から襲い掛かったのだ。


「ッ!」

「ニッシー!」


 六花ともう一人の女性は少し離れたところに居た。

 六花が駆けるが、間に合わない。

 

(大丈夫だ、落ち着け! 今ならまだギリギリ避けられる)


 西野は冷静に状況を把握する。

 今ならまだ男性を庇いながらでも、ゴブリンの攻撃を躱す事が出来るだろう。

 そう思った次の瞬間、不意に彼はバランスを崩した。


「え……?」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 突然誰かが自分を突き飛ばしたような――、

 

「あ、ひぁ……す、すまん……」

「ぁ……」


 男性はそのままよたよたと傷を庇いながらその場を離れようとする。

 それを見て、西野は理解した。

 彼は自分を突き飛ばしたのだ。

 背後に迫っていたモンスターに恐怖し、咄嗟に西野を囮にして逃げる為に、

 

「ニッシー! ちょっと、オッサン、アンタ何を――きゃっ!?」


 それに気づいた六花が声を上げる。

 だが次の瞬間、彼女もまた助けた女性に突き飛ばされてバランスを崩した。


「……わ、悪く思わないで……。あ、アナタ! 早く! こっちよ!」

「あ、ああ!」


 よたよたと必死に逃げようとする二人を、六花は何とも言えない表情で見つめていた。


「ちょっと! 私達はアンタ達を助けようとして――ッ!」

「ギシャアアアアア!」

「ギィイイイイイ!」

「ギャッギャガガガ!」


 言葉は最後まで続かなかった。

 隠れていたゴブリンは他にも居たのだ。

 もし『索敵』系のスキルがあれば簡単に分かっただろう。

 だが、西野も六花もその手のスキルは持っていなかった。

 そんなスキルがある事も、モンスターが身を隠してだまし討ちをする知恵がある事も、この時の彼らはまだ何も知らなかったのだ。


「ギギィイイイイイイイ!」

「くっ、このおおおおお!」


 襲い掛かるゴブリンに六花は必死に鉈を振るう。

 

「ニッシー!」

「だ、大丈夫だ!」


 西野は大きく息を吸い、スキルを発動させる。


「――『動くな』!」

「ギッ……?」

「ギギイ……?」


 その瞬間、西野の『命令』を受けて、ゴブリン達は硬直した。

 

「よし、六花! 今の内だ!」

「うん!」


 その隙を突き、六花はゴブリン達を一体ずつ仕留めてゆく。


「う、うわぁああああああ!?」

「な、なんで……? 体が動かない?」


「え……?」

 

 だが西野にとって予想外だったのは、自分達を見捨てて逃げようとした彼らまで『命令』の効果範囲に居た事であった。


「なっ……なんで……?」


 この時の西野はまだ知らなかった。

 彼はただ『動くな』と叫んだだけだ。

 対象を絞らずに『命令』を下せば、それは彼の声を聞いた全ての者に効果が伝わる事を知らなかったのである。

 唯一、六花だけが動けた事もその事に気付けなかった原因になっていた。

 六花には『戦闘続行』のスキルがある。

 効果範囲を絞らないあやふやな『命令』であれば、彼女の動きには全く支障が出なかったのだ。

 だがスキルを持たない一般人には、西野の『命令』は十二分に作用する。

 

「キッシャアアアア!」

「ひ、ひぃぎゃああああああああ! 痛い痛いいいいいい!」

「あ、アナタ? いやあああああああ!」


 モンスターとスキルを持たない一般人。

 どちらが西野の『命令』の効果が早く切れるかは明白だった。

 硬直の解けたゴブリンたちはまず傷ついて動きが鈍っていた男性に襲い掛かった。

 男性は抵抗する事も出来ずゴブリンに殺された。

 

≪経験値を獲得しました≫

≪一定条件を満たしました≫

≪スキル『同族殺し』を取得しました≫


(なんだ……? なんで今、アナウンスが――?)


 経験値はその場で戦闘に参加した者に等分される。

 システムは一連の流れを解析し、西野が『命令』で動きを阻害し、その隙にゴブリンたちが男性を殺したと判断した。

 その結果、西野にも男性が死んだ際に発生した経験値が分配されたのである。


「まさか、俺の……俺のスキルの所為で?」


 頭の回転が速かったからこそ、彼はすぐにその理由を理解することが出来た。いや、出来てしまった。

 気付かなかった方がどれだけ幸せだっただろうか。


「ッ……うおおおおおおおおおおおお!」


 六花の奮戦で隠れていたゴブリン達は全滅した。

 当然、残された女性は二人に詰め寄った。


「ねえ、今一瞬、体が動かなくなったのって、もしかしてアンタの仕業……? 『動くな』って言ってたわよね?」

「……」

「ねえ、答えなさいよ? アンタが……アンタの所為であの人が……」


 呆然とする西野に詰め寄ろうとする女性。

 それを六花が遮る。


「……何勝手な事いってんのさ、おばさん。そもそも助けた私達を見捨てて逃げたのはそっちじゃんか」

「うるさい! そんなの頼んでないわよ! そもそも助けるんならもっと早く助けなさいよ、この役立たず! そうよ、アンタ達のせいよ! アンタ達のせいで私の夫は死んだのよ! くそったれ!」

「ッ……!」


 余りにも自分勝手な物言いに流石の六花も苛立ちを隠せなかった。

 

「なにそれ……? 助けて貰っておいてその言い方はないでしょ!」

「うるさい! うるさい! うるさい! この人殺し! 返してよ! あの人を! 私の夫を返しなさいよ!」

「ちょっ、痛っ……はな――離してよっ!」


 己の襟首を掴んで罵声を浴びせる女性を、六花は思わず突き飛ばした。

 戦闘が終わったばかりの――『狂化』を解除していない状態で。

 

「あきゃっ――」


『狂化』によって六花のステータスは上昇していた。

 スキルを持たない一般人では抗えない程の圧倒的な力の差。

 その結果、六花にとっては軽く突き飛ばしただけでも、女性にとっては車にはねられたような衝撃だった。

 とてつもない勢いで突き飛ばされた女性は、そのまま壁に頭を打ち付けて動かなくなった。


「……え? ちょ、ちょっと――?」


 慌てて六花は駆け寄るが、女性は動かない。

 後頭部に触れると、べっとりと赤い液体が手に付着した。


「ひっ……」


 青ざめる六花の頭に残酷なアナウンスが響く。


≪経験値を獲得しました≫

≪一定条件を満たしました≫

≪スキル『同族殺し』を取得しました≫


「何、今の声……?」


 頭に響いたその声の『意味』を、六花は反芻する。

 経験値、同族殺し――それが意味することは……。


「あ……」


 自分のした行いに、六花は頭を抱えて震えだした。


「いや、ちがっ、わ、私……そんなつもりじゃ……」

「六花!」


 これはマズイと西野は直感した。

 既にこの異常事態でギリギリの綱渡りをしているのだ。

 下手をすれば、六花の精神は壊れてしまうかもしれない。

 そう感じた彼は咄嗟にこう言ったのだ。


「六花! 君は悪くない! 君は……お前は俺に『命令』されたんだ! そうだろ?」

「……え?」

「これは俺が君に『命令』してやらせた。君は俺のスキルに逆らえなくて無理やりやらされたんだ。そう思え! 思うんだ!」

「え……? あ……うん、そう、だったね……」


 とっさに西野は彼女に『命令』を使った。

 本来、『命令』は対象の意に沿わぬ命令であった場合その効果は薄い。

 だが対象が受け入れれば、その効果はさらに高まる。

 精神が決壊寸前の、心の逃げ道を欲していた六花にとって、西野の『命令』は通常以上に強く作用した。

 心が冷え、西野や柴田、仲間以外などどうでもいいと思える程に。


「人を殺しても経験値が得られるなんてな……。こんな事、誰にも知られるわけにはいかないな」

「……そう、だね」


 西野と六花は急いでその場を後にした。

 人を殺しても経験値が得られる。

 そして『同族殺し』というスキルを与えられる。

 知りたくもなかった情報を、彼らはこうして知ったのである。





「――以上が事の顛末です」

「……」


 西野君は話し終えると、大きく息を吐いた。

 

「……すいません。本当はもっと早くにお話しするべきだったんですが……」

「いえ、そんな。……でもなんでそんな大事な事を俺に?」


 確かに衝撃的な話だったが、どうしてそれを俺に話すのか分からなかった。

 西野君は俯き、コーヒーカップを見つめながら、


「……分かりません。でもずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。六花も、ずっと苦しんでいたみたいでしたから……」

「相坂さんには確認したんですか? 俺にこの事を話すのを?」

「……はい。アイツも今頃は、一之瀬に同じことを話していると思います」

「一之瀬さんに?」

「アイツから言い出したんです。今夜、話そうって……」


 そうだったのか。


「もしかしたら次の戦いが最後になるかもしれないので。だから、知っておいてもらいたかったんです。俺たちの罪を……」

「最後って……。縁起の悪い事言わないで下さいよ」


 そのセリフは完全に死亡フラグだ。止めて下さい。


「それに罪と言いましたが、殆ど事故みたいなものじゃないですか。正直、俺には西野君や相坂さんが悪いとは思えません」

「それでも……俺や六花が人を殺したことには変わりありません。最初の頃は必死でそんな事、考える余裕もなかった。でもここで暮らすようになって少しずつ心に余裕が生まれると、どうしても考えてしまうんです。どうしたら俺は罪を償えるのかって」

「西野君……」

「あの後も、俺はどうかしてました。仲間を助けるためとはいえ、平気で他人を切り捨てるような作戦も考えて……。心のどこかで思ってたんです。助けても結局裏切られるんじゃないかって……。ならいっその事、自分達の為の捨て駒程度に思うのが一番いいんだって。そう、思って……」


 ホームセンターでの事を言っているのだろう。

 ハイオークに襲われ、バラバラになって逃げたと彼は言っていた。

 その時に、避難してきた人達を囮に使ったのだろう。


「……西野君」

「はい」

「俺はそれを別に悪い事だとは思いません」

「……は?」


 この際だ。

 西野君が自分の事を話してくれたのなら、俺もぶっちゃけてしまおう。


「人が出来る事には限りがあります。好き嫌いもあります。誰だって自分が一番大切だし、よく知りもしない人たちと親しい仲間、どちらかしか助けられないのなら、俺は迷わず後者を選びます」

「し、しかし――」

「西野君、俺たちは全てを救うヒーローでも、ましてや神様でもない。限られた力で、自分に出来る精一杯をするしかないんです。西野君はそれを果たした。十分に立派だと思いますよ?」

「……」

「それを言えば、俺の方が最低ですよ? 火事場泥棒上等だし、他人がどうなろうと知ったこっちゃない。俺は俺が大事だし、モモや一之瀬さん、大事な人たちを守れるなら、他はどうなっても構わないし、どうでもいい。今でもそう思ってます」

「く、クドウさんはそんな――」

「そんな人間なんです、俺は。その程度のちっぽけな人間なんですよ」


 どうにも西野君は俺の事を過大評価し過ぎている。

 だが俺はそんな風に尊敬される人間じゃないし、ヒーローでもない。

 どこまでいってもちっぽけな凡人でしかない。


「ただ必死だっただけです。目の前の事を何とかしようと必死に足掻いて、足掻いて、頑張って、皆の力を借りて、なんとか乗り越えてきた。それだけです。……それは西野君だって同じでしょう?」

「……」

「だから俺は西野君を責めませんし、ましてや裁くつもりもない。ただ悩みや愚痴を聞いた程度にしか思えません」

「……本当にクドウさんは変わった人ですね。普通の人はそんな事言いませんよ?」

「そりゃまあ、人殺しだって言われた時は驚きましたけど、絶対に何か理由があると思いましたから」

「……」

「それに今更何を言われても、西野君は俺たちの仲間です。それは絶対に変わりません」

「クドウさん……」

「話してくれてありがとうございます。そして、これからも変わらずお付き合い頂ければ幸いです」

「そんなのこっちからお願いしたいです。……ありがとうございます、クドウさん」


 西野君や六花ちゃんの過去に何があったとしても、俺の考えは変わらない。

 それはきっと一之瀬さんだって同じ筈だ。


「全部話してすっきりしましたか?」

「そう、ですね……」

「なら、それでいいじゃないですか。愚痴って、ぶっちゃけて、吐きだして、それですっきりしたなら、また明日頑張ればいいんです」

「また、明日……」

「ええ。明日からあの知性ゾンビや狼王を探すために忙しくなります。だから頑張りましょう、絶対に勝って、また皆で明日を迎える為に」

「……そうですね。ええ、その通りです」


 俺が差し出した手を、西野君はしっかりと握り返した。

 その表情は、迷いを感じさせないすっきりしたものだった。

 これならもう大丈夫だろう。

 そう思った。


 その時だった。




「――呆れるね。本当に明日が来ると、そう思っているのかい?」




「「ッ――!?」」


 突然、男の声が響いた、

 聞き覚えのある、忘れるはずのない声だった。

 声のした方を振り向けば、窓の外にあの知性ゾンビが居た。


「なん、で……?」


 なんでお前がここに居る?

 ここは『安全地帯』の中だ。

 なのにどうして――、


「判断が遅いね」


 直後、ゴッ!! と知性ゾンビを中心に闇が噴き出した。

 一瞬にして部屋が吹き飛び、瓦礫が嵐のように舞い上がった。


「ッ……!」


 ギリギリ、間に合った。

 西野君と一階に居た一之瀬さんと六花ちゃんをなんとか『影』に沈める事が出来た。

 俺も何とか影でガードしたけど……この攻撃は、まさか――。


「うん、中々の精度だ。やはり彼女には才能がある。この世界でこそ花咲く素晴らしい才能じゃないか」

「……何を言っている?」

「ん? なにって、そりゃあ――」


 にやりと、知性ゾンビは笑い、



「――勝利宣言だよ」



 次の瞬間、全ての景色が闇一色に染まった。

 これは……まさかダークウルフの……?


「終わりにしようか、早熟の所有者よ。今度は君を殺す」

「ッ……させるかよ!」


 轟!! と俺の忍術と闇がぶつかり合う。

 知性ゾンビと狼王。

 最悪のタイミングで、最凶の敵との戦いが幕を開けた。


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【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
[一言] しまった。 女王蟻が狼王の傘下のままだったとしたら、そこから辿られたか?
[良い点] 勝利宣言は勝った後に行いましょう
[一言] なんで外伝と絡めちゃうかなぁ〜。 主人公2人もいたら駄目だろ。 てか、そもそも本編の同世界で外伝主人公が最強しちゃうのも正直言って余りにもナンセンスなんだけどな この展開で一気にこの作品が駄…
2020/12/22 13:08 退会済み
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