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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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219/274

219.闇を飲み込む傲慢なる楔

シュヴァルツのお話です



≪――経験値を獲得しました≫

≪シュヴァルツのLVが56から57に上がりました≫


 頭に響くアナウンスを聞き流しながら、シュヴァルツは今しがた倒したモンスターの魔石を貪る。


『……』


 咀嚼し、飲み込む。

 大して美味くない。

 味は薄いし、量も少ない。

 

『久々ニ面白い相手ニ出会えるト思ったノダガナ……』


 相手はスケルトンの上位種だった。

 剣とどこからか手に入れたのか、人間の銃を使う興味深い相手だった。

 とはいえ、所詮は名無しの上位種。

 シュヴァルツの闇によって一薙ぎで沈んでしまった。


『知恵ヲ付ける者モ少しハ現れたカ……』


 悪くない。

 人だけでなくモンスターも、この世界に適応し始めている。

 過酷な生存競争の中で成長するのは人だけの特権ではない。

 命を持つ生物全てに平等に与えられた権利だ。

 

『サテ、我ガ群れハどうなったカ……』


 気配を探る。

 シュヴァルツの群れは現在バラバラに分かれ、各々がレベルを上げるために日々精進していた。

 そのやり方は、個々に任せている。

 既に群れの者たちはシュヴァルツの地獄の訓練を卒業し、『この程度なら、まあ一人で行動しても大丈夫か』レベルまでは育っているからだ。


『……育っているナ』


 探った群れの者たちの気配は、それぞれがより強大なものとなっていた。

 シュヴァルツが課した『縛り』を破った様子もない。

 その勤勉さに、彼は感心した。


『さて、次ハ……』


 今度は別の気配を探る。

 ここから遥か数千キロは離れた場所に在る気配だが、シュヴァルツにとっては問題なく探る事が出来る。

 これは彼の持つ固有スキル『深淵領域』の効果だ。

 彼が行った事がある場所に『闇』があれば、気配を探る事も、そこへ移動する事も可能なのだ。

 モモの『影渡り』、アカの『座標』の完全上位互換と言える能力。

 以前、彼がカズトの元へ駆けつける事が出来たのも、このスキルがあったからである。


『……以前ヨリ更に育っているな……』


 あの人間――カズトと柴犬モモ、その群れの者達。

 以前はカズトとモモ、銃を持った番い程度しか強い気配が無かったが、今は違う。

 強い気配がかなり増えているのだ。

 特に鬼のような気配と、屍のような気配はかなりのものだ。

 個としても、群れとしてもより高まっている。


『フッ……』


 シュヴァルツは笑う。

 この分ならば、自分の予想していた時期よりも遥かに早く決着を付けられそうだ。

 おそらくは向こうもそれを望んでいるはず。

 

『それでこそ、ダ』

  

 ああ、楽しみだ。

 その時が、楽しみで仕方ない。 

 互いの全力を、全ての技と駆け引きを、存分に競い合い、殺し合う事が出来る。

 その果てに在る結末ならば、たとえどんな結果であっても受け入れる事が出来るだろう。

 それが己の敗北や死であってもだ。


「――ゥゥウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」


 高らかにシュヴァルツは遠吠えを上げる。

 月の夜空に響き渡る音の波。

 振り返れば、そこには群れの者達が整列していた。


『――戻ったカ』

『ハイ……』


 代表して声を上げたのは、蟻のモンスターだ。

 シュヴァルツに拾われ、地獄の訓練を生き抜き、進化したその姿は、以前とは完全に別物であった。

 彼女の母――女王蟻が西野や六花との戦いの際に進化した姿に似ているが、その強さは別物と言っていい。

 未だに『名』は与えられていないが、そう遠くない内に彼女にも『名』が与えられるとシュヴァルツは見ている。

 いや、彼女だけではない。

 進化した黒狼たちにも『名』が与えられるだろう。

 上位種のネームドを複数体有する群れ。しかもその長は六王の一角。

 聞く者が聞けば震えあがるだろう最強の群れが完成しつつあった。


『数モ増えた』


 群れの数も増していた。

 黒蟻や黒狼の後ろには、さらに多くのモンスターが控えていた。

 オークやゴブリン、巨大な蛇や、蜘蛛、鷲のようなモンスター。

 種族は様々だが、彼らが軍門に下った理由はたった一つ――長であるシュヴァルツの圧倒的な強さ故だ。

 種族は違えど、その強さに魅入られれば、膝を折らずにはいられない。

 彼らの絶対的な忠誠を受け、シュヴァルツは声を上げる。


『――往くぞ、決戦ダ』


 あの人間との決着を着けよう。

 正々堂々、お互いの全てを賭けて。

 気配で分かるのだ。向こうもそれを望んでいる。


「「「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」」


 その言葉に、群れの者たちは叫びを上げる。

 弱肉強食の道を歩む彼らモンスターにとって、シュヴァルツの歩む道は堪らなく心地よいのだ。

 見たいのだ。我らが長の往く道の先を。

 共にありたいのだ。我らが長の立つ戦場に。

 熱狂に導かれ、彼らは戦いへとその一歩を踏み出そうとした――その瞬間だった。

 




「――待った」




 無粋な声が、その場に響いた。


「悪いけど、戦うのはやめてくれないかな?」


 彼らの道の先、そこに誰かが立っていた。

 人の姿だ。

 だが気配は違う。モンスターの気配だ。

 

『貴様ハ……』


「やあ、あの時以来だね、狼王。私の事を覚えているかな?」


 そこに居たのは、いつぞやの知性ゾンビだった。

 腰に剣を下げ、貼り付けたような薄い笑みを浮かべている。


『……何ノ用ダ?』


 苛立たしげにシュヴァルツは問いかける。

 せっかくの高揚に水を差された気分だった。

 

「おいおい、そう殺気立たないでくれないかな? 別に私は君と事を荒立てに来たわけじゃ――おっと」


 途中まで言いかけて、彼は一歩後ろに下がる。

 刹那、彼の居た場所が闇に飲み込まれて消えた。


「やれやれ……。以前もそうだったが、せめて話くらいは最後まで聞いてくれないか?」

『……用件ヲ言えト言った筈ダ』


 それ以外の言葉を口にすれば殺す。

 余計な動きをしても殺す。

 シュヴァルツだけでない。

 既に群れの者全員が臨戦態勢に入っていた。

 

「……やれやれ」


 四方から発せられる威圧を受けても、彼は表情を崩さない。

 その態度が、尚更シュヴァルツの神経を逆なでする。

 無言でシュヴァルツは闇を放った。

 知性ゾンビの居た場所が闇によって抉り取られ、消滅する。

 時間を無駄にした。

 下らない問答で、消費した数秒をシュヴァルツは惜しんだ。

 だが、


「本当に話を聞くだけか……。私は余程君に嫌われているようだ」


 消滅したその場所に、彼は立っていた。

 何事も無かったかのように。


『……何故生きている?』

「理解出来ないかな? 私が君の攻撃を受けて生きている事が」


 再び、シュヴァルツは闇を放つ。

 今度こそ確実に葬る為に。


「――無駄だよ」

 

 だが、あろうことか今度は避けなかった。

 右手を前に突きだし、シュヴァルツの闇を受け止め、手で払ったのだ。


『ッ……馬鹿ナ……』

 

 ありえない。

 そんな事、出来るはずがない。

 シュヴァルツの闇は敵の防御を無視して、直接HPにダメージを与える究極の攻撃スキルだ。

 同等の防御スキルや膨大なHPが無ければ、防ぎきる事など出来ない。

 そんな事が出来るのは、同じ六王クラスのスキルを持つ者か、シュヴァルツが好敵手と認めたあの人間くらいのものだ。


(どういう事ダ……?)


 シュヴァルツは過去に二度、このゾンビと相対しているが、シュヴァルツの闇を防ぐことは出来なかった。

 仕留める事こそしなかったものの、取るに足らぬ存在だと思っていた。

 少なくともこの短期間の間に、これだけ急成長するなど考えられなかった。

 だが今は――。


(本当にコイツは以前出会った奴ト同じ個体カ……?)


 違う。

 あまりに違いすぎる。

 シュヴァルツの本能とスキルが警鐘を鳴らす程に、この知性ゾンビは力を上げている。


「成長したのさ。ようやく、そう――ようやくだ。私は自分の持つスキルの、『傲慢』の力の本質を『理解』出来た」


『……?』


「苦労したよ。でもその甲斐はあった。私の持つ『傲慢』は君の持つ六王に比べれば格落ちするスキルだ。正直、もう君とは会いたくもなかったし、戦いたくも無かった。でも、今なら――」


 彼は手を前にかざす。


『ッ……!?』


 たったそれだけの動作で、シュヴァルツの纏う闇が剥がされた。

 ほんの僅かではあるが、それは彼の攻撃がシュヴァルツに通じた事を意味する。

 彼は笑みを深くする。


「知ってるかい? 『傲慢』も『早熟』もただ経験値が増えるだけのスキルじゃない。あくまでそれは本来の力の付加価値に過ぎないんだ。『早熟』の所有者は無意識にその本質を理解していたのかもしれないが、私は才能もない平凡なモンスターだからね。気付くのにも、理解するのにも時間がかかった」


『……』


「そして理解出来れば、これ程に強大な力はなかった」


 彼は手を振り上げる。

 次の瞬間、シュヴァルツは百メートル以上も吹き飛ばされた。


『ガッ……!?』


 何が起きたのか、理解出来なかった。

 

『長ヲ守レ!』

『殺セ!』

『敵ヲ排除シロ!』


 群れの者達が彼の前に立ちはだかる。

 これ以上、指をくわえてみている事など出来ない。

 誰しもが理解したのだ。

 コイツは群れが総力を挙げて葬らねばならぬ『敵』だと。


『――止めろッ!!!』


 だが群れのモンスターたちが動き出そうとする前に、シュヴァルツが声を上げる。

 ピタリと群れの者たちは動きを止めた。


「良い忠誠心だね。羨ましいよ」


『コイツらヲ貴様ニ殺させル訳ニハイカヌ』


 この知性ゾンビに立ち向かったところで、群れの者たちではただ殺されるのがオチだ。

 勝てない戦いと敗北は同じではない。

 無駄な犠牲を群れに強いるのは長の名折れだ。


「……私と違い、君は弱くなったね、『狼王』シュヴァルツ」

『何ダト……?』

「弱点が増えたと、言っているんだよ」


 知性ゾンビが手をかざす。

 すると、その手には一体の黒狼の首が握られていた。


「ガゥ……グルルルッ!」


 黒狼は必死にもがくが、抜け出すことが出来ない。


『貴様……!』

「ほらね。これだけで、君の動きは鈍る。人間との戦いを望むあまり、君は守るべきものを増やし過ぎたんだ」


 ぐっと知性ゾンビは手に力を込める。

 黒狼が苦しげな声を上げる。

 

『ッ……!』


 ギリリとシュヴァルツは歯噛みした。

 同時に、手を出せない己の甘さを痛感した。


『長ヨ、我ニ構ワズ……』


『貴様ハ黙っていろ! 自害スル事モ許さぬ!』


 影を操り、自死を選ぼうとした黒狼を、シュヴァルツは引き留める。

 

「……本当に弱くなったね。歴代の狼王は決して群れをつくらなかった。その理由がこれさ。君一人なら、今の私であっても殺す事が出来ただろうに……。たとえ君が最強であっても、君の仲間は別だ。足手まといの役立たずだ。はっ、哀れだね」


 失望と、そして己の望む通りの展開に、知性ゾンビは歪んだ笑みを浮かべる。


「まあ、仲間を盾にせずとも、君を御する事は出来たんだけどね」


 空いた手で、知性ゾンビは懐から何かを取り出す。

 それを見た瞬間、シュヴァルツの顔色が変わった。


『貴様……! どうして貴様ガそれ・・を持ってイル?』

「『協力者』のおかげさ。ふふ、理解したかな、狼王。どの道、君には選択肢など無かったんだよ」

『ッ……!』


 ギリギリとシュヴァルツは歯ぎしりをする。

 

「とはいえ、安心しなよ。私の目的と君の目的はそう違わない。ただ、タイミングを『我々』に合せてもらいたいだけさ」

 

『タイミングだと……?』


「そうとも。戦いたいんだろう? 『早熟』の所有者と。ならば我々と共に戦おうじゃないか。我々が手を組めば、彼らの計画は全て瓦解する。『狼王』である君と、『傲慢』を持つ私、そして彼ら――『先遣隊』が手を組めばね」


 生き延びるために足掻くのは、誰にでも平等に与えられた権利だ。

 だが同時に、悪夢や不運もまた全てに平等に降りかかるのである。

 本来ならば組むはずの無かった厄災同士が手を結び、抗えないうねりとなってカズト達を飲み込もうとしていた。


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ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
書籍7巻3月15日発売です

― 新着の感想 ―
[気になる点] 早熟の本質は何だろう?早く育つ為には人でも植物でも環境が大事な気がする。と言うことは主人公が過酷な目にあっているのは早熟の効果で厳しい環境が生き残る為には必要だった。主人公の回りに強者…
[一言] やばくね?!この三組が組んだらカズトたち死ぬんじゃね?!カズトがんばれ!!
[気になる点] 毎回思うけど状況が主人公イジメにしかみえねぇw 傲慢ゾンビも何らかの手があるんだろうけど、カズト達がさらに厳しい状況になったなぁ
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