21.ゴブリン共を暗殺せよ
身をひそめ、壁伝いに移動し、生協のすぐ傍へ移動する。
ここまでくれば、建物全体が『索敵』の範囲内だ。
中に居るゴブリン達の気配がある程度理解出来る。
本当に便利なスキルだ。
「……レジの近くに一匹、精肉コーナーに二匹、そして青果コーナーにゴブリン四匹とホブ・ゴブリン一匹か」
売り場の配置は覚えてる。
ゴブリン達はそれぞれの場所からあまり動こうとしていない。
食事中か。
精肉コーナーに居るって事は、肉も食うんだな。
んで、レジにいる奴は見張りか。
ゴブリンの数は全部で七匹。
それに上位種のホブ・ゴブリンが一匹で、計八匹か……。
今までで一番多いな。
「でも、いつかは乗り越えなきゃいけない壁だよなぁ……」
「わん」
ゾンビやゴブリンの単体、いわゆる雑魚狩りを続けてきたが、それにも限界がある。
レベルアップに必要な経験値も増えてきてるし、ある程度の数や、強いモンスターを相手にしていく事も視野に入れなきゃいけない。
……欲を言えば、もう一人くらい仲間が居れば楽なんだけどな。
俺とモモのコンビは近距離、中距離専門だ。
もし仮に、遠距離攻撃が出来る奴が居れば、生存率はぐっと上がるだろう。
「ま、無い物ねだりをしても仕方ないか」
今ある戦力で頭を捻るしかない。
さしあたっては今回のゴブリン戦だ。
生協の入口は二か所。
青果コーナーの近くと、総菜コーナーの近くに設置されている。
入るなら総菜コーナーの方だよな。
そこから一匹ずつ削って、最後にホブ・ゴブリンと当たるのがベスト。
だが、二か所の入口の直ぐ傍にはレジカウンターがあり、見張りのゴブリンが外の様子を窺っている。
堂々と入ろうとすれば、すぐに見つかってしまうだろう。
「石を投げて、注意を引くか。その隙に店内に入ろう」
「わん」
モモも頷く。
「それじゃあ、モモ。作戦通り、俺の『影』に入ってくれ」
「わん」
俺がそう言うと、モモは俺の影の中に沈んでゆく。
これがモモの獲得した新たなスキルだ。
他人の『影』の中に潜む能力。
影の中に入っていても、こちらの声は聞こえるし、向こうの声も聞こえる。
そして潜んだ状態でも、ある程度影を操る事が出来るし、更に『他の影』に繋げれば、そこから出る事も出来るという便利なスキルだ。
ただし『出る』だけだ。影の中に入る時は、必ず俺の影から入らなきゃいけないって制約はあるが、それを差し引いてもメリットは大きい。
おかげで、戦術の幅が大きく広がった。
モモが完全に影に入ったのを確認し、俺も行動を開始する。
『気配遮断』、『無音移動』を使い、入口のすぐ脇まで移動し、身をひそめる。
「……ん?」
なんだ? 今一瞬、妙な視線を感じた様な……?
すぐにレジの傍のゴブリンを見るが、俺に気付いた様子はない。
周囲にも、モンスターや人の気配はしない。
『索敵』、『敵意感知』にも反応は無い。
……気のせいか?
いや、油断はしない方が良いな。
気を引き締めなければ。
俺は反対方向に向かって石を投げる。
「……ギィ?」
見張りのゴブリンが音のした方を向く。
―――今だ!
ゴブリンの気が向いた瞬間、俺はすぐさま入口から生協の中へ入る。
三桁まで上がった敏捷ステータスは、その威力をいかんなく発揮してくれた。
素早く店内に入り、物陰に身をひそめる。
大丈夫だ、気付かれていない。
見張りのゴブリンは、はて?と首を傾げている。
潜入成功。
「先ずは、精肉コーナーのゴブリン二匹だな」
レジのゴブリンは、青果コーナーからは丸見えだ。
それに比べて、奥の精肉コーナーはどちらからも死角になって、気付かれにくい。
『索敵』スキルをフルに活用し、売り場を移動していく。
売り物が床に散乱して歩きづらいが、『無音移動』のおかげで、音はならない。
惣菜コーナーの隅には、従業員らしき死体が放置されていた。
男性の死体だ。
かなり嬲られてはいたが、喰われた形跡はなかった。
ゴブリンって人肉は食わないのか。
そんな事を思いながら、精肉コーナーに居るゴブリン二匹に接近する。
ゴブリン達は俺に気付かず、パックに入った生肉を頬張っていた。
完全に油断しているようだ。
「……モモ」
俺が合図を送ると、モモは顔だけ影からでて、位置を確認。
すぐさま影を伸ばし、ゴブリン達の動きと口を封じた。
「「―――ッ!?」」
ゴブリンたちは驚いた表情を浮かべるがもう遅い。
俺は素早くゴブリン達に肉薄し、包丁で胸を貫く。
集中力が高まっていたのか、刃はゴブリンの胸に吸い込まれるように入っていった。
シュッと刺して捻る。
二匹のゴブリンはあっという間に小さな小石に変った。
≪経験値を獲得しました≫
「……と」
小石が床に落ちる前に何とかキャッチ。
すぐさま移動し、青果コーナーへ向かう。
「ギィ、ギギィィ」
「ギャッギャッギャ」
「ギギーギー!」
棚の隙間からゴブリン達の様子を窺う。
野菜や果物を食べながら、なにやら笑い合っている。
そして気になるホブ・ゴブリンはというと、売り場の台に座って胡坐をかきながらリンゴを齧っていた。
……まだ仲間がやられたことに気付いていないな。
じっと様子を窺っていると、一匹のゴブリンが立ち上がった。
精肉コーナーへ向かう気か。
チャンスだ。
仲間から十分に離れたのを確認して、モモが『影』で拘束する。
シュッと刺して捻る。
「―――ッ!?」
ゴブリンは何が起こったのかもわからず絶命した。
≪経験値を獲得しました≫
よし、これで残るはゴブリン四匹にホブ・ゴブリン一匹。
良いペースだ。
このままイケるかもしれない。
そう思った、次の瞬間だった。
「ギィィィィィ!!」
レジに居た見張りのゴブリンが、急に叫び声をあげたのだ。
他のゴブリン達が一斉にそちらを向く。
―――ッ、不味い。
気づかれたか?




