201.第五職業とガチャ再び
さて、どれを選ぶべきだろうか?
鍵となるのはやはり『忍神』、そして『勤勉』だよな。
既存の職業も含めて、組み合わせ次第ではかなり強くなれるはずだ。
そうなると候補は絞られてくる。
単体で強力そうなのはやはり『竜騎士』だが、これは常にソラかシロと行動を共にしなければ意味がない。
ソラの力は強大だ。
間違いなく俺たちの仲間では最強の存在だろう。
その戦力を、より強力に出来るのも、非常に魅力的だが、その力に頼りきりになってはいけない。
ペオニー戦の最後の時のように、ソラが途中で抜ける、もしくは自分たちの力だけで勝ち抜かなきゃいけない場面だってきっとある。
肝心なところで機能しなければ意味が無い。
(……これから先の戦いは、おそらくそういう場面が増えてくる)
確証はないが予感はある。
そして嫌な予感はいつも当たるんだ。
ソラの力に頼り切らず、とはいえお互いの力を相乗出来るような組み合わせを考えるべきだろう。
(やはり候補としては『黙劇者』か『守護者』だろうな……)
説明文から見て、攻撃面なら『黙劇者』、防御なら『守護者』ってところか。
でも実際のところ『守護者』は、第四職業の『修行僧』と効果がダブっているところがある。
『修行僧』をレベルアップしていけば、おそらく『守護者』と似たようなスキルも手に入るはず。
となれば――
「第五職業は『黙劇者』にしようと思うのですが、どうでしょうか?」
俺は一之瀬さんやモモたちの方を向く。
「黙劇者ですか……。相手のスキルを模倣する職業。うん、良いと思いますよ」
「わんっ」
一之瀬さんやモモも賛成のようだ。
「でも意見を求めるなら、私達よりリベルさんを頼った方が良かったんじゃないですか? その……スキルの一部もあの人が創ったんですよね?」
「ええ、ですが――」
「……?」
言い淀む俺に、一之瀬さんは首をかしげる。
「何となく……こういうのに関しては、自分達で決めた方が良いような気がしまして……」
「え?」
いや、まあ、俺だって頭では分かってるんだよ。
自分達で考えるより、リベルさんに聞いた方が確実なんじゃないかって。
確かにリベルさんは、システムに干渉し、いくつかのスキルを作り出した人物だ。
職業やスキルに対する知識や理解の深さは俺たちでは及ぶべくもない。
(でも一度頼ってしまえば、多分もう止まらなくなる気がするんだよなぁ……)
ソラと同じだ。
頼りきりになってしまえば、いざという時に自分の考えで動けなくなる。
そしておそらく彼女もそれを望んでいない。
聞かれた事にはある程度答えてくれるだろうが、最終的な判断は俺たちに委ねる筈だ。
「ふーん……。まあ、クドウさんがそう決めたのなら、それでいいと思いますよ。こういう時の勘って凄く大事ですしね」
「わんっ」
モモや一之瀬さんも直感を重視するタイプだし、異論は無いようだ。
というか、ちょっと嬉しそうなのはなんで?
それじゃ、最後の職業を選ぶとしようか。
≪第五職業が『黙劇者』となりました。スキル『模倣』を獲得しました≫
獲得したスキルは一つだけか。
影法師の時と同じく、上位職になれば増えていくパターンかな?
さっそく質問権でスキルの効果を確認する。
『模倣』
他人の職業スキルを一つ選んで使用することが出来る。LVが上がるごとに模倣できる数が一つ増え、模倣の精度が上がる。ただし固有スキルや適性のないスキルは使用できない。
職業の説明文にあった通りだな。
他人の職業スキルを使う事が出来るスキル。
LVマックスになれば最大で十のスキルを模倣できるって事だな。
これは『勤勉』との相性が凄く良さそうだ。
(適性の無いスキルってのはどういう事だろうか?)
調べてみると、身体的に無理があるスキルは使用できないとの事らしい。
例えば翼がなければ飛べないし、尻尾がなければ振る事も出来ない。あとアカのように体をドロドロにしたり、分裂したりする事も出来ない。それに六花ちゃんの『鬼化』なんかも該当するらしい。
要するに自分とかけ離れた種族の肉体に依存したスキルは模倣できないと言う事のようだ。
まあ、忍術で似たような事は出来るし、そこまで大きな欠点という事も無いだろう。
あとは既存のスキルと職業のステ振りだな。
残りのポイントはSP199ポイント、JP82ポイント
やっぱりまず上げるべきは、『忍神』と『黙劇者』のスキルだな。
『超級忍術』と『超級忍具作成』、『落日領域』、『疾風走破』をLV7まで上げる。
そして次に『忍神』をLV10まで上げる。
職業スキルは職業がLVが3、6、9になるごとにレベルが一つ上がるからな。これで四つのスキルも全てLV10まで上がる。
以前、新人に進化した時はJPがカンストできるほどの量が無かったから取れなかった手法だけど、今回はポイントが大量にあるからな。こんなポイントの節約手段も取る事が出来る。
……ポイントが大量にあるから、ポイントを節約できるとはこれいかに?
次は黙劇者だな。
でも漆黒奏者にもポイントを振り分けたいんだよなぁ。
ペオニー戦で『影檻』や『影真似』の強力さが身に染みたし。
とりあえず『模倣』はLV7まで上げて、『黙劇者』をLV3まで上げるか。
付随して『模倣』のレベルも一つ上がる。
次に『絶影』、『影真似』、『影檻』をLV8に、そして『漆黒奏者』をLV6まで上げる。
これで同じく、こっちのスキルのレベルも一つ上がる。
とりあえず今回はこんなところか。
残りのポイントは一旦温存しておこう。
ステータスはこんな感じになった。
クドウ カズト
新人レベル16
HP :1012/1012
MP :452/452
力 :539
耐久 :536
敏捷 :1121
器用 :1101
魔力 :205
対魔力:205
SP :17
JP :8
職業
忍神LV10
追跡者LV3
漆黒奏者LV6
修行僧LV4
黙劇者LV3
固有スキル
早熟
英雄賛歌
勤勉
スキル
超級忍術LV10、超級忍具作成LV10、落日領域LV10、疾風走破LV10、HP変換LV10、MP消費削減LV10、投擲LV6、無臭LV7、無音動作LV7、隠蔽LV6、暗視LV5、急所突きLV6、気配遮断LV7、鑑定妨害LV7、追跡LV4、地形把握LV9、広範囲索敵LV7、望遠LV4、敏捷強化LV8、器用強化LV5、観察LV10、聞き耳LV4、絶影LV9、影真似LV9、影檻LV9、忍耐LV6、渾身LV6、HP自動回復LV5、MP自動回復LV6、模倣LV8、身体能力向上LV7、剣術LV6、毒耐性LV1、麻痺耐性LV2、ウイルス耐性LV1、熱耐性LV3、危険回避LV5、騎乗LV4、交渉術LV1、逃走LV4、防衛本能LV1、アイテムボックスLV10、メールLV2、集中LV8、予測LV7、怒りLV5、精神苦痛耐性LV8、演技LV4、演算加速LV5、威圧LV3
パーティーメンバー
モモ 暗黒犬 Lv10
アカ クリエイト・スライムLV11
イチノセ ナツ 新人LV9
キキ カーバンクルLV9
ソラ エンシェントドラゴンLV2
シロ リトル・ホワイトドラゴンLV1
『忍神』や『黙劇者』の影響か、ステータスも上昇している。
敏捷と器用なんて100近くも上昇してるぞ。凄いな職業効果。
以前よりも更に力が漲るのを感じる。
これはスキルの効果を試すのが楽しみだな。
「クドウさん、クドウさん」
ポンポンと一之瀬さんが肩を叩いてくる。
どうしたのかとそちらを向けば、彼女の隣には『ガチャ』が出現していた。
……また回したのか、ガチャを。
「その……せっかくだし一回だけ、ガチャを回したんですけど、熟練度が上がったみたいで、ガチャのLVが9に上がったんです」
「はぁ……」
「そうしたらですね、何と新しい『ガチャ』が出たんですよ」
「なんですと……?」
「その名も『十連ガチャ』。なんとSP3ポイントでガチャを十回回す事が出来るんですよっ。凄いですよね、お得ですよ、お得」
少し興奮した感じで一之瀬さんが説明する。
今までがSP1ポイントでガチャを三回回せてたから、一回分多く回す事が出来るのか。
「それだけじゃないんです。なんとこのガチャ、『保証』も付いてるみたいなんですよ」
「保証ですか……」
十連ガチャは単発ガチャと違い、青玉以上が確実に三回以上出る仕様になっているらしい。
なんか増々ソシャゲ感が強くなってきたな。
いや、保証で青玉三つならソシャゲより余程優しい仕様か……。
ついでに天井もあり、一之瀬さんの統計によると九十回に一回は確実に黒玉がでる仕様らしい。
(九十回回せば、確実に職業かスキルが手に入るスキル)
こう聞けばかなり強力そうに思えるが、実際にはそう上手くいくはずもない。
何せガチャを取得出来る職業『引き籠り』はほぼ全てのステータスが1になる上、その後のレベルアップでも殆どステータスが上がらない仕様なのだ。
もう一つの『認識阻害』も屋内限定の効果だし、ポイントを得るためのレベルアップ行為自体が非常に難しい。
一之瀬さんのように一発目のガチャで『狙撃手セット』のような当たりを引かない限りは、自殺と変わらない職業と言える。
ちなみにレア度のおさらいだが、
白玉 一番レア度が低い。食料や日用品が出る
青玉 白玉よりレア度が高い。SPやJP、回復薬などが出る。
黒玉 青玉よりレア度が高い。職業やスキルが出る
こんな感じである。
ちなみに『質問権』によれば、『黒玉』の更に上には『金玉』というのも有るらしい。
これはまだ一之瀬さんも出したことが無い超超超レアガチャで、なんと固有スキルや、上級職、強力な武器なんかが手に入るらしい。
それを聞いた一之瀬さんはガチャを引くたびに、「『金玉』出ろ……『金玉』出ろ……」とちょっと危ないセリフを吐くようになった。
そう言えば、社畜時代は二条のヤツがその手のゲームにハマってたな。昼休みに休憩室で『また爆死した……保証つけなさいよ、クソ運営……』って呟きながら、特売の弁当を食べていたのを覚えている。
「という訳で、SPはまだ余裕がありますし、一回だけ十連の方を引いてみようと思うんです、はい」
「ええ、どうぞ……」
止めはしないよ。
ポイントの使い方は一之瀬さんの自由だし、実際彼女の『ガチャ』のおかげで救われた場面が何度もあるしな。
ポイントの大部分をガチャに費やしているとはいえ、それでもやはり一之瀬さんは相当運がいいと思う。
「では――行きます」
一之瀬さんはガチャのレバーを引く。
その結果――
「白玉六個、青玉三個、黒玉一個ですか……。やっぱり運がいいですね。黒玉は何が出たんですか?」
「スキルですね。『ダメージ軽減』でした。それに青玉の方がSP3ポイントに、JP1ポイント、回復薬三個なので、収益プラスですよ」
「ですね」
実質ポイント無しでガチャを十回引けたようなもんだしね。
「という訳で、ポイントが手に入りましたし、もう一回十連引きましょう」
「え、またですか?」
「ですです。なんか次は『金』が出そうな気がするんです。というか、出してみせます」
止めなさい、その思考は廃人のそれだ。
ちなみに『ダメージ軽減』は、相手の攻撃だけじゃなく銃の反動とかも軽減してくれる効果があるらしい。やっぱ運がいいよ、一之瀬さん。
「わんわんっ」
「ん? どうしたモモ?」
モモの方を見れば、モモも前脚を地面にペしぺししていた。
そしてドヤ顔で俺の方を見つめてくる。
どうやら何かしらの新しいスキルを取得したらしい。
見るのが楽しみだな。
とりあえずは撫でて褒めて癒されて、と。
(後で五十嵐会長に頼んで、新しいステータスを書き起こしてもらわないとな)
パーティーメンバーであっても、ステータスプレートを直接見る事は出来ない。
一之瀬さんはまだしも、モモやアカのステータスは彼女に頼まないと正確なステータスは分からないからな。
彼女なら多分、ぐちぐち文句言いながらも書いてくれるだろう。
「それじゃあ、新しいスキルの練習がてら、周囲の探索に向かいますか」
「ですです」
「わんっ」
「きゅー」
「……(ふるふる)」
ソラに念話を送り、俺たちは拠点を後にした。
その後、俺のフードの中でスヤスヤ眠るシロを見て、ソラが『ぐぬぬ』と声を上げ、愛する我が子の気を引こうと色々頑張ったのだが、それは彼女の名誉の為、割愛しておこう。
そしてソラの背中に乗り、空を駆ける。
程よい速度で進んでくれるから、風が気持ちいいな。
ただ初めてソラに乗る一之瀬さんはちょっと……いや、かなり不安そうだ。
「だ、大丈夫ですよね、これ。た、高っ、怖っ……!」
ぎゅーっと背中にしがみついてくるので、俺としてはちょっと嬉しい。
乗る前はかなりワクワクしていた一之瀬さんだったが、実際に乗ってみるとその迫力は想像以上だったようだ。
「大丈夫です、アカがしっかり固定してくれているので、気を失っても振り落されることはありませんよ」
「は、はいぃ……」
『フン、軟弱ダナ』
「そう言ってやるなよ。あ、でも出来ればもう少しゆっくり飛んでくれると助かるな」
『……フンッ』
ソラは心底不満そうな声を上げつつも、高度と速度を落としてくれた。
うん、ありがとな。
なんだかんだで、ソラも一之瀬さんの事は認めてるからなぁ。
じゃないと絶対背中になんて乗せないだろうし。
さて、安全地帯を抜けて数分。
かなり離れた場所までやってきたが、まだモンスターの気配はない。
やはりこの周辺に居たモンスターは殆どが食い尽くされたか、既に遠くに逃げたのだろう。
しばらく周囲を捜し、ようやく俺たちはモンスターを見つける事が出来た。
「ギギィ……」
「ギッギッギ」
「ギギャ、ギギャガガ!」
山岳地帯で見つけたのはゴブリンの集団だった。
かなりの数だ。
その数は百匹近くおり、通常のゴブリンだけでなくホブ・ゴブリンもかなり多い。
そしてソイツらの中心には、見た事のないゴブリンも居た。
ホブ・ゴブリンよりも筋肉質で、体格も更に大きい。
一見すると大柄なオークと見間違うほどだ。
(ホブ・ゴブリンの更に上……上位種か)
キング・ゴブリンと言ったところか。なんか頭に王冠っぽいの付けてるし。
初めて見るモンスターだが、感じる威圧感はそれ程でもない。
いや、俺たちが強くなったからそう感じるのかもしれない。
(どちらにせよ、新しいスキルを試すにはもってこいの相手だな)
ちらりと後ろを向けば、一之瀬さんもこくりと頷いた。
影に入っているモモやキキからも同意の気配が伝わってくる。
ソラも俺の方を見てくる。
俺は頷くと、ソラも了解したとばかりに頷き返した。
レベルアップして以降、最初の戦闘だ。
息を整え、気合を入れる。
「よし、皆、狩ろ――」
「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「…………へ?」
俺が言い終えるよりも先に、ソラがブレスをぶっ放した。
それは吸い込まれるようにゴブリンの群れへと着弾し、大爆発を引き起こす。
熱風と衝撃の余波は上空に居る俺たちまで届き、巨大なキノコ雲が発生した。
「…………」
「…………」
「…………」
「……(ふるふる)」
呆然とする俺たち一行。
唯一、ソラだけが誇らしげにコチラを見つめてくる。
『フハハハ!ドウダ、カズトヨ! 進化シタ我ガ息吹ノ威力ハ! 凄マジイダロウ? アノ程度ノ群レナド物ノ数デハナイワ!』
うん、そうだね。
百匹近くいたゴブリンの群れは跡形もなく消滅してるね。
何となく強そうだなーと感じていたキング・ゴブリンさんも完全に死んじゃったみたいだね。
俺たちの出番、一切なかったね。
「……ソラ」
『ドウシタ、カズト? 別ニ我トシテハ大シタ事ヲシタツモリハ無イゾ? マア、ソレデモ、別ニ褒メタイノデアレバ、褒メテモ構ワンゾ? ナニ、他デモナイ貴様ダ。特別ニ我ノ力ヲ称エル事ヲ――』
「次にモンスター見つけたら、ブレスは禁止な」
『ナンダト!?』
何だとじゃねーよ、馬鹿野郎! 当たり前だろうが!
新しいスキルとか全然試せなかった上に、今の攻撃でこの周辺に居たモンスターの気配まで遠ざかってんじゃねーか!
とりあえず、アレだな。
スキルの検証も大事だが、もう少しソラとの意思疎通も頑張らないといけないなと、俺はつくづくそう思うのであった。




