187.ペオニー攻略戦 その5
作戦の前に、まずはソラとアカの治療だ。
二人が作戦の要である以上、あの巨大マリモから受けた毒をどうにかしないと、何も始まらない。
「ソラ、どうだ?」
『……効果ハ無イナ』
ソラには予めストックしていたHPとMPの回復薬を両方を飲ませてみたが、やはり効果は無いようだ。
通常の回復薬じゃ解毒効果は無しか……。
となれば――、
「おい、そこをどけ」
「え?」
振り向けば、後ろに柴田君が立っていた。
他の高校生メンバーも居る。六花ちゃんだけでなく、他のメンバーもこっちに駆け付けてきたらしい。
俺をどかして、柴田君はソラに近づく。
「俺のスキルでコイツの状態を見る。だから、そこをどけや」
……スキル?
あ、そうか。柴田君の職業は『医者』だ。
確か患者の状態を見るスキルも持ってるって言ってたな。
成程、それならソラの毒も……ん? 柴田君は何故かこっちを見た。
「……触れても喰われねぇよな?」
「大丈夫ですよ……多分」
「多分とか言うなよ!」
やっぱりちょっと怖いらしい。よく見ると、肩がちょっと震えてた。
ソラの方を見ると、コクリと頷く。
大丈夫だと伝えると、柴田君はあからさまにホッとしたのだった。
「んじゃ、触るぞ。――『診察』」
柴田君がソラの傷口に触れると、その部分が淡く輝いた。
へぇ……実際に見るのは初めてだな。
アレが柴田君のスキル『診察』か。
患者の状態――ゲーム風に言えば状態異常なんかを調べるスキル。病気や傷の症状、その治し方もLVに応じて解読可能らしい。便利なスキルだ。
「パ、パーティーにヒーラーは必須、です……げほっ」
「……ナッつん、それその瀕死の状態で言うセリフ? ほら、回復薬飲ませたげるから」
「あ、ありがと……」
一之瀬さん、わざわざ突っ込むために無茶しないで……。
にしても、真面目にソラの状態を調べてる柴田君を見るとホント、ギャップが凄いなぁ。あの見た目で医者だもん。
「……今はああですけど、中学の頃は割と真面目な性格だったんですよ。ただ、まあ……俺もそうですけど、高校に入ったあたりで、親と反りが合わなくなってきてケンカしちゃったんですよね。それで気が付けばこうなってたって感じですかね……」
俺の疑問に答えるように、西野君が隣で説明をしてくれた。
あの……心とか読んでませんよね?
すると西野君はくすっと笑って、
「顔に書いてましたから」
そ、そうですか……。
「……今思えば、なんであんなつまらない事でケンカしてたんだろうって思いますよ。今この状況に比べたら、全然大したことじゃなかった。でもその時の俺たちにとっては、それが人生の全てのように思えて……馬鹿みたいでしたよ」
「……誰にでもありますよ。そういう時期は……」
ぎゅっと拳を握りしめる西野君を見てると、以前の何気ない日常が本当にかけがえの無い物だったんだって思い知らされる。
そんな風に西野君と話をしていると、柴田君の診察が終わったようだ、
「……おい、クドウ――さん、ガーゼと消毒液だしてくれねぇか?」
「え? ああ」
俺はアイテムボックスから言われたものを取り出し、彼に渡す。
「結論から言えば、この毒は体に染み込むタイプのもんじゃねぇ。浴びた箇所を爛れさせて、少しずつ周囲を腐らせるタイプのもんみてぇだ。だから触れた箇所さえ切り取っちまえば、それ以上悪化はしねぇ」
それってつまり、傷口を切り取るって事か?
ソラの毒を浴びた場所は尻尾と足の先端部分だ。
確かに切っても致命傷にはならないけど、そんな簡単に出来るわけ――
『――ナラバ問題ナイ。フンッ』
「って、おい、ソラッ!?」
「え? おいおい、何やってんだよ!?」
『グッ……!』
俺たちが悩んでる間に、ソラは己の爪を使い、さっさと傷口部分を切ってしまった。その顔が苦悶に歪む。
「い、言わんこっちゃない。すぐに止血を」
「無茶しやがるぜ、この竜さんはよぉ……!」
柴田君はすぐに細い糸のような物を取り出し傷口部分を縫合した。
すると傷口は塞がり、あっという間に血が止まる。
物凄い手際だったが、あれもスキルなんだろうか?
「『縫合』ってスキルですよ。止血用の糸を造りだし、それで傷口を縫う事で止血するだけでなく、傷の治り自体も早くするスキルです。ちなみに、縫合の腕自体はアイツの才能です。元々手先は器用なヤツなんで」
「な、成程……」
再び俺の考えを読んだかのように西野君が補足してくれる。
と、とりあえずこれでソラの方は大丈夫か。
後はアカだけど……
「……(ふるふる)」
と、そんな事を考えていると擬態を解いたアカが足元で震えだした。
「~~~ッ!(ふっるふるっ)」
そしてポンッ! とアカの中からなにやら妙に濁った小さい塊を弾き出す
「……もしかしてこれって毒に感染した部分か?」
「……(ふるふる)」こくり
アカは「そうだよー」と震える。
……この子、自分で解毒しちゃったよ。最近、アカが優秀すぎる。
何はともあれ、これでソラとアカの応急処置は済んだのだった。
「――それじゃあ、後は作戦通りに」
「ええ、クドウさんも気をつけて」
作戦内容を再確認し、俺たちは再び行動を開始する。
『ソラ、頼んだぞ』
『アア』
ソラに跨る。
今度は俺一人だ。
ここからは西野君たちとは別行動。
飛び立とうとすると、足元の『影』が震え、モモが顔を出す。
「……くぅーん」
「……大丈夫だよ、モモ。こっちは俺とソラで何とかするから、一之瀬さんたちを頼んだぞ?」
「……わんっ」
モモはこくりと頷き、力強く返事をした。
次に六花ちゃんに抱えられる一之瀬さんの方を見る。
「それじゃあ、一之瀬さん、往ってきます」
「……はい」
「相坂さんも頼みましたよ」
「任せてよー。ナッつんも、皆も、私が時間までちゃんと守ってみせっから」
「それは心強いですね」
グッとサムズアップする六花ちゃん。
後ろで柴田君や、五所川原さんらも力強く頷いて見せる。
……大丈夫だ。皆の力を合わせれば、なんとか『一時間』は耐え抜いてくれるはず。
だから後は、俺たちの仕事だ。
手綱を握り、ソラに合図を送る。
翼を広げ、ソラは大空へと舞い上がった。
眼下に広がる緑の大軍。
そして、その向こうにそびえる巨樹に向けて俺は言い放つ。
「――ペオニー、決着を付けよう」
ソラが吠える。
それに応えるように大気が震え、無数の巨大マリモと根の大軍が俺たちに襲い掛かった。
――腹ガ減ッタ……。
ペオニーは飢えていた。
――熱イ……痛イ……体ガ治ラナイ……。
傷つき、燃え続けている己の体。
燃え続ける体が、治らない痛みが、じくじくと眠っていたペオニーの『自我』を呼び起こす。
「ゲゲゲ!」「食ワセロ」「喰ワセロ」「腹ガ減ッタ」「――シィ」「ゲゲゲゲゲゲッ」「――ケテ」「ゲゲゲゲゲゲゲゲッ!」「喰イタイ」「嫌ダ」「喰イタイ」「タイ……」「喰イタイ」「喰イタイ」「嫌ダ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」「喰イタイ」
周囲に無数に点在する分身――『豊穣喰ライ』が己の意思を代弁する。
このスキルを使ったのも久しぶりだ。
出来ることなら、このスキルは使いたくなかった。
何故なら、このスキルで作り出された分身体はペオニーの一部でありながら、ペオニーから独立した存在だからだ。
蔓や根と違い、この分身体が食べた栄養はペオニーに還元されない。
それどころか、喰えば勝手に自壊して周囲を汚染してしまう。
ペオニーにとってみれば、自分の畑を食い荒らし、更に畑そのものを駄目にしてしまう害虫の様な存在なのだ。
矛盾に満ちた己の分身を生み出すスキル。
それが『豊穣喰ライ』である。
だが、それでも――
――イライラスル……。
ペオニーは苛立っていたのだ。
使いたくないスキルを使わざるを得ない程に。
――アイツラ、邪魔。
前方から感じる二つの強大な気配。
一つは人、もう一つは竜。
ペオニーからすれば羽虫の如き矮小な存在のくせに妙に強くてしつこい二つの気配。
アイツらが自分の『食事』を邪魔するのだ。
どうしてそんなひどい事をするのだ。
自分はただ食べたいだけなのに。
お腹一杯ご飯を食べたいだけなのに。
どうしてそれを邪魔するのだろう?
――ダカラ、消ス。
アレはもはや『餌』ではない。
自分にとって明確な『敵』だ。
敵は排除しないといけない。
安心して、お腹一杯ご飯を食べる為に。
――食ベルノ、邪魔スルナ!
体全体を震わせて、ペオニーは『動いた』。
確実に敵を排除するために。
――動いた。
その光景を、俺は瞬きもせずに見つめていた。
山が動く――そんな表現がふさわしいだろうか?
いや、あの巨体は山よりも大きい。
その巨体がズルズルと体を揺らしながら、前へ前へと動いているのである。
――トレントの上位種は『移動』が出来る。
それは『質問権』で予め知っていた情報。
ペオニーと出会う前、『花付き』と戦う時にも見た光景。
分かっていた。知っていた。
でも、それでも目の前の光景は圧巻としか表現しようがない。
「とんでもない威圧感だな、こりゃ……」
速度としては人が走るのと同程度。
だがその速度で移動しているのは、山を越える巨木だ。威圧感が半端じゃない。その上、敵意と殺意をビシビシと感じる。
「……とはいえ、手間が省けたな」
『ウム……』
俺たちにとって最大の問題はどうやってペオニーを『移動』させるかだった。
その懸念が、まさか一番最初に解決するとは思わなかった。
ならば後は作戦通りに進むだけ。
手綱を握り、ソラに合図を送る。
『了解』とばかりに、ソラは身を翻し『後退』した。
――逃ゲルナ。
ペオニーはまたしても苛立った。
無数の枝、蔦、根、葉っぱ、そして『豊穣喰ライ』。
その全てを駆使して攻撃しているのに、敵はまだ死んでない。
――当タラナイ。
その全てが流され、いなされ、躱されてしまうのだ。
これだけの手数を駆使して、なぜ当たらないのか?
その理由がペオニーには分からなかった。
もしペオニーに戦場を客観視する『思考』があったなら、敵が『回避』のみに専念してる事に気付けただろう。
だが、多少の『自我』を取り戻した程度のペオニーではその変化には気付けない。
――避ケルナ!
そもそも、ペオニーが『自我』を取り戻せたこと自体ある意味『奇跡』なのだ。
スキル『暴食』。
その効果は獲得経験値の増加と、食った魔石の『完全習得』。
魔石とは、モンスターが死した際に発生する魔力の結晶だ。
魔石にはそのモンスターが生まれてから死ぬまでの経験とスキルの全てが記憶されている。それを体内に取り込むことで、死んだモンスターの魔力や経験、そしてスキルを獲得するのである。
ただし本来スキルの習得には『適性』が存在する。
例えば、モモは『ルーフェンの魔石』を食べたことでスキル『咆哮』を獲得したが、もしアカがこれを取り込んでも、『声』や『発声器官』を持たないアカでは『咆哮』を獲得する事は出来なかった。
同じように、モモが『ミミックの魔石』を食べても、肉体そのものを別物に変化させる『擬態』は獲得できなかっただろう。
これはそれぞれがスキルに対する適性が高かったからこそ、魔石を摂取することで、そのスキルを獲得することが出来たのだ。
だが、ペオニーにはその法則が当てはまらない。
スキル『暴食』は自身の適性を無視して、そのモンスターが生前持っていたスキルや経験を丸ごとすべて自身の力に変える事が出来るのだ。
アカの『擬態』もソラの『ブレス』も、モモの『操影』も、カズトの『アイテムボックス』すら、ペオニーは使用することが出来る。過去に同じようなスキルを使う生物を喰らっていたからだ。
事実、カズトらと対峙した時点で、ペオニーの持つスキル数は優に二百を超えていた。
もし仮に、このスキル全てを駆使されていたら、カズト達に勝ち目など無かっただろう。
強力無比で反則的なスキル――それが『暴食』だ。
だが、だからこそ『代償』も大きい。
――アァ、腹ガ減ッタ……。
『暴食』の所有者は常に飢えと渇きに襲われる。
その飢餓感は凄まじく、どれだけ食べても決して満たされることはない。
食べた者の存在や、獲得したスキルすら記憶に残らない程の『飢え』が常に所有者に付きまとうのだ。そしてこの『飢え』は耐性スキルでも防ぐことが出来ないのである。
――腹ガ……減ッタ……。
故に、『暴食』の所有者に『意思』は無い。
ただ『食欲』の赴くまま、あくなき『飢え』を満たす為だけに行動する。
何十、何百、何千ものスキルを持っていようとも、決してそれを十全に扱う事は出来ないのである。
そう、今、この瞬間までは。
――アイツラ、邪魔ダ!
飽くなき『飢え』に支配されていたペオニーの『思考能力』が蘇る。
自分の食事を邪魔し、あまつさえ『死の恐怖』を与えたあの二匹を葬る為に。
考えろ、考えろ、考えろ。
どうやったら、アイツらを殺せる?
どうやったらアイツらを仕留める事が出来る?
薄く儚い自我で、ペオニーは必死に考える。
――と、そこでペオニーはある違和感に気付いた。
――……アレ?
それは僅かでも『自我』が、そして『思考』が蘇ったからこそ気付けた『違和感』。
あの目障りな二匹の前方――美味しそうな気配がたくさんあった場所。
――『壁』ガ無クナッテル……?
市役所周辺を覆っていた『見えない障壁』。
それがきれいさっぱり無くなっていたのだ。
――……?
何故だろう?
今まで入ろうとしても入れなかった場所。
美味しそうな餌の気配がたくさんしてたのに、入れなくて凄くもどかしかった場所。
だが、今その場所からあの『壁』の気配が消えた。
――ナンデ……?
理由は分からない。
だがあの『見えない壁』の中には、あの二匹の仲間がたくさんいた筈だ。
取り戻した僅かな『自我』がペオニーに囁きかける。
これは好機だと。
――喰ッテヤル。
自分の食事を邪魔したアイツらの仲間だ。
一匹残らず食い尽くしてやる。
「ゲゲゲ!」「食ワセロ」「喰ワセロ!」
「食ワセロ!」「喰ワセロ!」「食ワセロ!」「喰ワセロ!」
ペオニーよりもまず先に、『豊穣喰ライ』たちが一斉に『安全地帯』の中へ雪崩れ込む。
先を越されてなるモノか。ペオニーも急いで『安全地帯』の中へ触手を伸ばす。
『……?』
そこでペオニーは更なる『違和感』に気付く。
――……居ナイ?
あの美味しそうな気配がした餌たちがどこにも居ないのだ。
気配を探れど、姿を探せど、『安全地帯』の中はもぬけの殻。
人っ子一人居なかったのである。
「ゲゲ……?」
「ゲ?」
「食ワ……?」
己の分身である『豊穣喰ライ』たちも怪訝そうな声を上げている。
――……ナンデ?
逃げた?
でもどこへ?
そもそもどうやって?
次々に湧き出す疑問。
混乱するペオニーに、更なる事態が襲い掛かる。
「――『巨大化の術』」
声が、聞こえた。
気配を探れば、『安全地帯』の遥か向こう――海岸線の方に、ここ最近何体も食べたあの『巨人』が出現していた。
――アノ巨人ダ!
ペオニーは歓喜した。
それはここ数日、何度も食したあの巨人。
僅かな間でもペオニーの『飢え』を満たしてくれる数少ない餌であった。
カズトは気付いていなかったが、『巨大化の術』で作り出された分身体は質量のあるただの幻ではない。
その巨体を維持する為、発動に消費された大量のMP――すなわちエネルギーが内包されているのである。
つまりペオニーにとって巨人は、莫大なエネルギーを宿した高級食材なのだ。
――喰イタイ!
再び『食欲』が『自我』に勝る。
敵の存在も、『見えない壁』の存在も、全てを棚上げし、ペオニーは触手を巨人に伸ばす。
だが――
――届カナイ。
傷付いた己の体。十全でない肉体ではあの巨人まで触手を伸ばす事が叶わなかった。
万全の状態であれば、数十キロ先の気配を探り、そこまで触手を伸ばす事が出来るのに。
ならば、動くだけだ。
触手が届く範囲まで移動するのだ。
『豊穣喰ライ』たちに先を越されてなるものか。
真っ直ぐに、それまで通れなかった『安全地帯』の中を通り過ぎようとして――
「――終わりだよ、ペオニー」
……?
今、何か声が聞こえた気がした。
そして次の瞬間――ぐらりと、ペオニーの巨体が揺らめいた。
『……?』
なんだ?
今、何が起こった?
『――……?』
そこでペオニーは気付いた。
自分の根元が、ごっそりとえぐれていることに。
『――? ――?』
なんだこれは?
燃えてる?
自分の根元が、外側も、内側も、どちらも燃えて抉れて、消し炭になっている。
それだけじゃない。根元に広がる市役所周辺が全て火の海と化している。
そう気付いた瞬間、激痛がペオニーの体を駆け巡った。
『~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!』
「どうだ? 内側と外側、両方から体を爆破された気分は?」
また声が聞こえた。
お前は誰なんだ?
そうだ、この声――餌じゃない敵の声ダ……。
「確実に爆弾を仕掛けられる場所はここしかなかった。キキのおかげで、この市役所の地下に広い空間が――爆弾を大量に仕掛けるのにもってこいの場所を見つける事が出来たからな。だから俺たちにとって、どうやってお前を大量の爆弾が仕掛けられたここに誘導するかが課題だった。いくら強力で数があっても、当たらなきゃ意味が無いからな」
痛い、痛い、イタイ。
苦しい、苦しい、痛い、痛い、痛い、痛い。
「でもそれだけじゃ駄目だ。仕留めきれない。だから一之瀬さんに頑張って貰った」
早く傷を治さないと……もっと食べ……ない、と……。
「銃弾に擬態したアカを五十四発分、お前の体に撃ちこんだ。消化しきれない『異物』はその場所からではなく、お前の体内を一度通って根から排出される。トレントの習性なんだろ? 『花付き』やトレントを倒した時、『消化』出来なかった骨が大量に地中にあったからな。それを利用した」
必死に動く。触手を伸ばす。
駄目だ、届かない。あの巨人を食べれない。
もっと伸ばさないと駄目だ。じゃないともう食べれなくなる。
「銃弾に擬態したアカは体内を通る過程で今度は『爆弾』に擬態して貰ったんだ。大変だったよ。俺たちの攻撃で、丁度外側の爆破と内側の爆破が重なるように、お前の再生や循環を調節するのはな」
駄目だ。それだけは駄目だ。
食べなきゃいけないんだ。
もっと食べて、もっと食べ尽くして、もっと――……。
「だから――たっぷり食ってくれ」
『ア……ァア……?』
そして、次の瞬間――ズドォォォンッッ! と。
轟音と共に、再びペオニーの体が根元から爆発した。




