181.『■■■■』
「……モモ、お前いつの間に固有スキルなんて手に入れてたんだ……?」
「わふん?」
モモは良く分からないといった風に首をかしげる。可愛い。
とりあえず『質問権』で調べてみるか。
さっそく『質問権』に『共鳴』と打ち込んでみる。
『スキル:共鳴』
二つの世界が融合した新たな世界で、一番最初に魔石を摂取した生物に与えられるスキル。
この世界で一番最初に魔石を摂取……?
そう言えば、最初にモモに出会ったあの日、パーティーメンバーになったモモは既にLV2になっていた。俺と出会う前にもモンスターと戦ってたってことだ。
まさかあの時、既にモモはスキルを手に入れてたって事か? そう言えば最初に会った時もやたら魔石を欲しがってた。食べても安全な物だって――いや、自分が強くなれるって分かってたからか。
「はは、凄いじゃないか、モモ」
「うわー、モモちゃん、凄いですね」
「わふぅーん。わんわんっ」
俺と一之瀬さんに褒められて嬉しいのか、モモは体を擦り寄せて甘えてくる。
勿論、撫でる。一之瀬さんもめっちゃ撫でてる。
らぶりー、癒されるわー。
しかし最初に魔石を摂取した者に与えられるスキルか……。なんとなく取得条件が俺の『早熟』と似てるな。『早熟』も取得条件は『最初にモンスターを倒した者』だったはずだ。
(……でも一体どういう効果なんだ?)
『質問権』に出てきたのは、取得条件だけ。そのほかの詳しい効果については記載されていない。くっそ、こういうところだよ、『質問権』の嫌なところは。
(それだけじゃない。その下には『■■■■』のスキルも出てる……)
モモ、アカ、キキ、ソラ。
全員の固有スキル欄には『■■■■』のスキルが表示されていた。
ソラに至っては二つもある。
昨日、五十嵐会長が『鑑定』したときには一つだった気がするけど、見間違いか? それとも昨日の今日で増えた? もし増えたとしたら条件はなんだ?
「モモ、『■■■■』はいつ出たんだ?」
「くぅーん? ……わん」
モモは「たぶん、きのう」と答える。
昨日か……。変化があったとすれば、それは……、
「竜を仲間にした事、か……?」
竜を仲間にすることで発現する固有スキル?
でもそれならソラのステータス欄にもこれが表示されたのはどうしてだ?
竜の場合は逆に誰かとパーティを組むことが条件だから?
くそ、判断材料が少なすぎるな……。
「く、クドウさん!」
すると突然、一之瀬さんが慌てたように声を上げる。
「どうしたんですか、一之瀬さん?」
「こ、これっ! 見て下さい、私のステータスっ」
「落ち着いて下さい、ステータスは他人には見えないでしょう」
「あ、そ、そうでした。すいません……」
「一体どうしたんですか? なにか変化があったんですか?」
「ですです。今、なんとなく自分のステータスを確認したんですが、私の固有スキルの欄にも『■■■■』が表示されてるんです!」
「なっ……!?」
それを聞いて俺は絶句した。
まさか一之瀬さんのステータスにも表示されただと?
「さっきここに来る前には無かったんです。それが今になって突然――」
「なんだって……? ――まさかっ」
もしやと思い、俺も慌てて自分のステータスを確認する。
クドウ カズト
新人レベル5
HP :782/782
MP :338/338
力 :379
耐久 :396
敏捷 :803
器用 :775
魔力 :185
対魔力:185
SP :42
JP :23
職業
忍頭LV3
追跡者LV3
漆黒奏者LV3
修行僧LV4
固有スキル
早熟
職業強化
■■■■
――あった。
俺の固有スキルの欄にも『■■■■』のスキルが表示されている。
さっき『質問権』を打ち込んだ時には無かったはずだ。
それが今になって突然現れた。
なんで? どうして?
(もし仮に竜を仲間にすることが条件なら、昨日の時点で俺や一之瀬さんのステータスにも表示されているはず……)
それが今になって現れた? 時間差? もしくは『念話』? 竜と会話した事? もしくは竜に認められたこと?
いや、それとも知らない間に何か別の固有スキルの条件を満たしていた?
そもそもこのタイミングでパーティーメンバー『全員』に現れたってのも気になる。
(それに俺たち全員に表示されたこのスキルは『同じ』ものなのか?)
この表示は以前俺のステータスにも出た事がある。
ハイ・オークを倒した時だ。
あの時、ステータスをチェックした時、固有スキル欄に『■■■■』の表示があった。
最初は何のスキルか分からなかった。このスキルにきちんと名前が表記されたのは、魔物使いの少女が死んだ時だ。彼女が死んだ瞬間、『■■■■』のスキルは、『職業強化』に変化し、その効果を発揮した。
俺は彼女のそれまでの言動から、魔物使いの少女が元々の『職業強化』の取得者で、彼女が死んだことで、そのスキルが俺に移ったと考えていた。
――固有スキルは重複しない。
条件を満たした者が複数いる場合、先に条件を満たした者に固有スキルが与えられる。早い者勝ち、それが俺の仮説だ。
おそらくこの推測は間違っていない。
(だとすれば俺たち『全員』が何らかの固有スキルの条件を満たした……?)
モモとアカだけなら可能性として高いのは俺と同じ『職業強化』……。でもモモたちには『職業』が存在しないからこれは考えにくい。類似スキルか? 万一『職業強化』だとしても、俺が死なない限り確かめようがないからどうしようもないけど。
(もしくは全く別の……全員に別々の固有スキルが発現した?)
可能性は低いが、ゼロじゃない。
でも、じゃあなんで『■■■■』と表示される?
既に取得者がいるから? それとも何かまだ条件が未達成だから?
くそ、なんでこういう事には答えてくれないんだよ、『質問権』!
「現状、判断材料が少なすぎます。それにどの道、このスキルはこのままじゃ使い物にならない」
「……保留って事ですか?」
「そうするしかないでしょう」
ペオニーとの決戦が控えたこのタイミングで不安要素を残しておきたくないが、こればかりは仕方ないか……。
「で、でももしこれが使えるようになれば私達の戦力もかなり上がるんじゃ――」
「一之瀬さん、そういう希望的な観測は辞めた方が良いですよ」
都合よくペオニーとの決戦の時にスキルが覚醒する――なんて事あるわけがない。それに今までの戦いを考えれば、スキル一つ目覚めた程度で戦力差を覆せるとも思えない。そんなあやふやな物に頼るよりも足元を固める方が重要だ。
「あ……そう、ですよね。すいません、変な事言って」
「謝らないで下さい。変な事なんて何も言ってないですよ。俺の方こそ、頭から否定してしまってすいません」
一之瀬さんの肩に手を置き、出来るだけ安心するように話しかける。
すると一之瀬さんも俺の手に、自分の手を重ねてきた。
「それに『■■■■』以外にも、俺たちにはまだ出来る事がたくさんあります。そうでしょう?」
「ッ……で、ですね。となれば、まずはモモちゃんたちのスキルの把握ですか?」
「それもありますが、一番はモモたちのSPですね。これを既存スキルに割り振る事が出来れば相当な戦力アップになります」
ポイントの残量から言って、おそらくアカ、キキ、ソラの三匹は今まで一回もSPを使っていない。
おそらくスキルのレベルも使い続けてレベルを上げたんだろう。
ソラに至ってはそれでLV10まで上がってるんだから、一体どれだけスキルを使い続けたのか。それだけ生存競争が激しい世界だったのかもしれない。
モモはポイントの残量からしてどれかのスキルを上げるのに使った可能性はあるけど、それでも十分なポイントが残ってる。
『ポイントノ割リ振リトハ何ダ?』
「ああ、今から説明するよ。まず――」
「てか、その前にいーかげん手ぇ離したら、お二人さん」
「「え?」」
六花ちゃんにそう言われて、ようやく俺は一之瀬さんの肩に手を置きっぱなしにしてたことに気付いた。
「ッ~~~~~!」
「あっ、す、すいません……」
「い、いえいえ、私の方こそ、ごめんなさいです。はい……」
慌てて手を放す俺と一之瀬さん。顔が真っ赤だ。
ヤバい、普通に触ってた。これセクハラとかじゃないよね?
心臓がすっげーバクバク鳴ってる。ごめんなさい、一之瀬さん。
「初々しいねー」
「……ふん」
それをニヤニヤ見つめる六花ちゃんと、どこか不機嫌顔の五十嵐会長。
『オイ、説明ハマダカ?』
「あ、ああ。今話すよ」
空気を読まずに急かすソラがこの時はありがたかった。
時間はかかったが、俺はソラにスキルの詳細を一から全部説明した。
ソラも真剣に聞き、スキルの効果を確かめるように、何度か試し打ちをする。
SPの使用も問題なく出来たようで、ソラは初めて見る自分のステータスプレートに驚いていた。それがちょっと面白かった。
「ポイントの使用も問題なく出来るようですね」
ソラは溜まっていたポイントを使い、『息吹強化』、『息吹超強化』、『爪撃強化』、『竜鱗強化』、『飛行速度強化』などに割り振り、地力を上げた。
ただ新しいスキルを獲得する事は出来なかった。
どうやら俺たちと違い、モモやソラのステータスには『初期獲得可能スキル』や『取得可能スキル』という項目が無かったらしい。
なので貯めたポイントは今までのスキルのレベル上げに使う事にした。
モモたちと一緒に慎重に考え、いくつかのスキルのレベルを上げることに成功した。戦力としてはかなり上がったはずだ。
「あとは西野君からの連絡待ちか……」
「ん? ニッシーから?」
「ええ」
西野君は今朝早くから、藤田さんたちとの話し合いを行っている。
どうやらペオニーとの決戦に向けて、思いついた作戦があったようで、それが実行可能かどうか確認しに行ったのだ。
それともう一つ。これが一番大事だ。
――俺たちにあとどれくらい時間が残されてるのか?
決戦の為の準備期間。
いくら『安全地帯』に守られているとはいえ、その守りは有限だ。なにせ食料が少ない。
ペオニーにずっと張り付かれたままでは、外にレベル上げに行く事も、まともに食料を取りに行く事もままならないのだ。
(俺のアイテムボックスに入ってる分と市役所の残存分)
それを全部合わせた残量が、すなわち俺たちに残された時間という訳だ。
無論、全部を全員に平等に配布するわけじゃない。レベルの高い者には優先的に配布し、戦いに参加しない住民には我慢をしてもらう。
決戦の時に腹が減って動けないじゃ、シャレにもならないからな。
もし不平不満が出ても、五十嵐会長がいる。彼女の力を使えば、その辺を上手くコントロール出来るだろう。
『メールを受信しました』
――来た。
頭の中に響くアナウンス。
メールの受信ボックスを確認すれば、そこには西野君からのメールがあった。
中を開いて確認する。
「……」
内容をじっと見つめ、俺は一之瀬さんたちに振り返る。
「今、西野君からメールがきました」
その一言で全員の顔つきが変わる。
「……なんて来たんですか?」
「西野君が考えた『例の作戦』、どちらも実行可能だそうです」
「ッ……! ほ、本当ですか?」
「ええ」
一之瀬さんたちがざわめく。
五十嵐会長も驚いている。
「凄いねー。ていうか、藤田さんたちもよくオッケーだしたね」
「背に腹は代えられませんからね。とはいえ、これで今後の方針は決まりました」
俺も西野君からその作戦を聞いた時は流石に驚いた。
よくまあ、そんな作戦を考え付くものだと感心したものだ。
ネックになっていた部分も、どうやら問題なさそうだし、かなり大がかりで手間もかかるが、作戦の実行自体は可能になった。その分、俺が相当大変になるんだけど、それはまあ仕方ない。
ただ、問題は――時間。
俺たちに残された日数だ。
「け、決行は……何時になったんですか?」
一之瀬さんの問いに、俺は少し間を置き答える。
「――三日後です。三日後、俺たちはペオニーに決戦を挑みます」
俺たちに残された準備期間は三日。たった三日だ。
それまでに全ての準備を終わらせなければいけない。
鍵となるのは竜、そして――アカだ。
絶対に成功させる。
勝って、皆で生き残るんだ。




