167.彼女から見た化け物
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前回のあらすじ
花付き「( ・`д・´)葉っぱカッター!」
カズト「(੭ु ‾ ω‾ )੭ु⁾⁾残念、火遁バリア~」
花付き「(; ・`д・´)つ、蔓の鞭!」
カズト「⁽⁽ଘ( ‾ ω‾ )ଓ⁾⁾はーい、空中回避~」
花付き「(´;ω;`)ふぇぇ…」
カズトが花付きと戦っていた場所から百メートル以上離れた場所にある廃墟。
そこで五十嵐十香はその光景を呆然と見つめていた。
(な、なんなの……あの男性は……!?)
信じられない光景だった。
あの巨大樹がモンスターであることにも驚いたが、それ以上にそれを圧倒するあの男性はいったい何者だ?
いや、名前は知っている。その素性も。
「確か、クドウカズトさん、だったわよね……」
西野君のグループに所属している冴えない青年――というのが十香の彼に対する印象だ。
実際、この市役所に来てから目立った活躍もなく、存在感も薄く特に意識はしていなかった。
(完全に予想外だわ。でも……どうして今まで見過ごしていたのかしら?)
これ程の力を持っているなら、市役所でも間違いなく話題になっている筈だ。
だが実際には話題どころか、噂の一つも立っていなかった。
それはなぜか?
少し考え、十香はハッとなる。
(そうか……西野君の仕業ね……)
果たしてそれは正解であった。
アルパ・ティタン戦以降、西野は徹底的にカズトの実力を秘匿してきたのである。
カズトはもはや西野にとって欠かすことができない重要な戦力だ。
加えてカズトが離れれば、彼のパーティーメンバーである一之瀬も自分たちの下を離れるだろう。そうなればまた六花が悲しむことになる。
カズトを手放したくない、六花を悲しませたくない。
そのために、西野は奔走した。
市長や藤田、清水や二条といった事情を知るごく一部の者には徹底的に緘口令を敷き、避難民にはカズトがなるべく目立たず、注目の的にならないように奔走したのだ。
市長や藤田としても、重要な戦力であるカズトにここを離れられる訳にはいかないからこそ、西野の提案を受け入れた。
カズトが戦っている現場を、目撃した者が殆どいない事も幸いした。
避難してきた人々にとっては『市役所にはティタンや竜を撃退する程の戦力がある』とは分かっていても、それが具体的に誰であるかは知らず、それをカズトと結びつけることが出来なかったのである。
(やってくれたわね……)
裏でコソコソと動いたのは自分だけではなかったということだ。
いや、むしろ彼女がいたからこそ、西野は最大限警戒し、動いていたというべきだろう。
(『魅了』をなるべく使わないようにしてたのが裏目に出たわね……)
『魅了』は強力なスキルだが、バレた時のリスクを考えれば諸刃の剣でもある。故に彼女は市役所に来てからは極力『魅了』の使用を控えるようにしていた。
もし市長や実の父である藤田にさっさと『魅了』を使っていれば、彼女はカズトの存在やその実力に気付く事が出来ただろう。でも『そこまで』踏み切る事は、流石に彼女にも出来なかったのである。
(でも僥倖だったわ……)
今、この場でクドウカズトの実力を知ることができた事実は大きい。
学校では葛木というイレギュラーのせいで失敗に終わったが、彼女はまだ諦めていなかった。今度こそうまくやってみせると誓ったのだ。
(ふふ、『宝探し』に来たついでにこんな大物に出会えるなんてね)
本来は別の目的で『安全地帯』の外に出ていたが、こうなっては予定変更だ。
情報収集は基本。まずはあの木の化け物と、カズトのステータスを確認するとしよう。
「まずはあの木の方から『鑑定』してみようかしら……」
フラワー・トレント LV9
HP :80/200
MP :20/44
力 :70
耐久 :290
敏捷 :21
器用 :90
魔力 :0
対魔力:280
SP :36
スキル
認識阻害LV6、忘却LV5、存在吸収LV4、追跡妨害LV2、索敵妨害LV1、地形同化LV5、葉刃LV4、根鞭LV5、移動LV3、受粉LV3、親木LV8、異界固定LV10
(な、なんてステータスなの……)
強い。
耐久、対魔力が200を超えている。
今まで彼女が遭遇したモンスターの中でも群を抜くステータスだ。
(それに認識阻害に忘却……? もしかして自衛隊の人が言ってたのってこれが関係してるのかしら……?)
何も覚えていないと言う、あの自衛隊員の奇妙な発言。
それだけではない。自分や西野が考えていた住民の数の矛盾とも一致する部分が多い。
まさか、まさか、まさか、と彼女の中でつぎはぎだらけだった情報が繋がってゆく。
(……町の住民たちはこの木に食われていた。記憶や存在も奪われたとすれば辻褄も会う。なんてことなの……)
これは相当に厄介なモンスターだ。
おそらくは隣町に居る化け物もこのモンスターと同系統の存在であろう。
トレント。それが彼女の疑問の正体だったのだ。
(それに気になるスキルもいくつもある。特に最後のスキルはいったい……? スキルの効果も『鑑定』しなきゃ――って、早っ。もう倒しちゃったの……?)
そうこうしている間にも、カズトはフラワートレントを片付けてしまった。
早い。早すぎる。もうちょっと時間をかけても良いじゃないか。
(これじゃスキルの『鑑定』が出来ないじゃない……)
スキルやステータスの鑑定は、あくまでそのモンスターが生きた状態じゃなければ行えないのだ。
魔石になってしまえば、あくまで魔石についての鑑定が行われる。
(ていうか、倒す寸前に犬の叫び声が聞こえたわね……。もしかして西野君たちが飼ってたあの犬もスキルを持っているの……?)
ただの可愛くてモフモフな柴犬ではなかったという事だ。
全くどこまで予想外な人たちなのだろう。
でも、それ故に期待も膨らむ。
あれだけの強さ、一体どれだけのステータスなのだろうか。そんな彼を手に入れ、支配する事が出来ればどんなに素晴らしいだろうか。
(ふふ、考えただけでゾクゾクするわね……)
だが、彼女にとっての最大の失敗は己のスキルを過信しすぎたことだろう。
ある『裏ワザ』によって、『生徒会長』、『召喚士』、『魔法使い』、『指導者』の四つの職業を手に入れ、『魅了』や『精霊召喚』など二十以上の強力なスキルを手に入れた事で、彼女は慢心していたのだ。
(それじゃあ、アナタのステータスを見せて貰おうかしら)
そして彼女はカズトへ向けて『鑑定』を発動させ――
≪鑑定が失敗しました≫
「……は?」
頭に響くアナウンス。
そして、その直後――彼の、カズトの目がこちらを向いた。
「――そこに誰かいるのか?」
「ッ……!?」
馬鹿な……この距離で気付く?
ハッタリ? いや、違う。完全にこちらに気付いている。
あり得ない、一体どんなスキルを持っているのだ?
(い、いや……まだ大丈夫よ。顔は見られていない。今なら走って逃げ切れるわ)
そう。ここまでまだかなりの距離がある。
彼女とて六花には及ばないが、西野以上のステータスは持ち合わせているのだ。
まずはここから逃げる。
その後改めてカズトの情報を集めればいい。
そう、彼女が考えた直後だった。
カズトが目の前にいた。
「…………………………………………は?」
え? いや、なんで?
今まであそこにいたよね?
なんでここに居るの?
走ってきた?
いやいやいや、流石にありえないでしょ。
それ、どんな身体能力だよ?
(え、いや、あ……え?)
あまりにも彼女の理解の埒外にあった。
だからこそだろう。
彼女はテンパった。
基本的に五十嵐十香は慎重な性格だ。
何をするにも入念な準備と下ごしらえ、そして情報収集を行ってから行動を起こす。
結果の七割は『段取り』で決まると彼女は常々考えている。
だからこそ、予想外の一撃には余りに弱い。
構えていた部分とは別の所に攻撃が来れば、彼女は余りに弱いのだ。
「ま、待って! お願い、殺さないで!」
好奇心猫を殺す。
まさしくそのことわざの通り、彼女はあっさりと命乞いをした。
「……はい?」
そしてカズトは混乱した。




