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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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166.好奇心は猫を殺す


 さて、レベルアップのステ振りはちゃっちゃと済ませてしまおう。

 スキルは『地形把握』をLV7まで上げる。トレントを倒した時の脆くなった地盤や地形の為の対策だな。現状のレベルでも『ある程度』は把握できるが、『ある程度』じゃ不安だ。用心しておくに越したことはない。残り2ポイントは温存しておこう。


 次は職業だ。

 現在の職業は忍頭LV3、追跡者LV2、漆黒奏者LV3、修行僧LV3。

 この中で上げるとしたら、やはり『忍頭』か『漆黒奏者』だろうか?

 それともまだ保留にしてる第五職業を取得してみるか……?


 いまだ空白のままになっている第五職業。

 取得できる職業は最大五つまでなので、最後の一つは慎重に選ぼうと今まで保留にしてきた。

 それを選ぶという選択肢もある。

 ちなみに選択肢はこんな感じだ。


 市民、冒険者、事務員、交渉人、引き籠り、ニート、料理人、騎手、密告者、火事場泥棒、魔物使い(LV3)、暗器使い、逃亡者、運び屋、役者、詐欺師、駆除人、祈祷師、指導者、清掃員、武道家、抹殺者

 

 初期獲得可能職業と、派生職として出現した計22個。

『魔物使い』だけはLV3から始められる状態になっている。

『職業強化』と組み合わせれば、俺もあの魔物使いの少女のようにネームドクラスのモンスターでも従える事が出来るようになるかもしれない。即戦力としては悪くない選択肢だ。


(でもモモたちの反応や、学校での出来事を考えるとあまりこれは取得したくないんだよなぁ……)


 彼女の凄惨な最期を考えるに、魔物を無理やり従わせるのは何かしらのデメリットがあるように思える。

 かといって、他の職業が魅力的かと言えば微妙だ。気になるのは『祈祷師』だけど、なんとなく得られるスキルがキキと被るような気がする。


(『質問権』は大まかな説明をしてくれるだけで、得られるスキルの詳細までは教えてくれなかったしなぁ……)


 やっぱりまだ第五職業は保留だな。

 なんとなくだが、『取るべき時』がある気がする。

 そして、それは『今』じゃない。そんな気がするのだ。


(第五職業取得に必要なポイントは残しておいて、あとは既存に割り振るか)


 新人アラビトに進化したおかげで、職業選択に必要なポイントも1ポイントになったしな。

 既存の分は『追跡者』をLV3に、『修行僧』をLV4に上げる。

『追跡者』はレベルを上げれば、付属スキルのレベルも上がる状態だし、今回はこの二つにしよう。残り3ポイントは温存しておく。

 これで今回のステ振りは完了だ。



 さて、次はキキの新スキルの検証だな。

 どんな効果なのかきちんと確認しないと。


「キキ、頼む」

「きゅーっ」


 キキは頷き、こちらを見つめる。

 すると額の宝石が赤く輝き、それに呼応するように俺の体も光った。

 

「これは……強化バフか?」

「きゅ、きゅぅー?」


 ふるふるとキキは首を横に振る。違うのか?

 ステータスを確認してみるが、確かに数値は変わっていない。

 いや、待てよ……、モモの『影』やアカの『擬態』も、元々その魔石を持っていたモンスターの特性を引き継いだスキルだ。とすれば、キキのこれもトレントの特性に則したスキルとか?

 試しに俺は周囲に生えていたトレントに目を向けた。

 すると『変化』が直ぐに実感できた。


「……『認識』出来てる」


 それまでは意識を集中させないと『認識』出来なかったトレントの存在感。

 それが今、ハッキリと『認識』出来るようになっていた。


「『認識阻害』の無効化? それがキキの新しく取得したスキルなのか……?」

「きゅー」


 キキはこくりと頷いた。

 

「凄い……! 凄いぞ、キキ! これならトレントの討伐がずっと楽になる!」

「きゅー、きゅきゅー♪」


 キキ、ドヤ顔だ。

 でもそれもそうだろう。

 トレントの脅威の大部分は『認識』出来ない点にある。

 それが解消されるのならば、トレントの討伐なんて他のモンスターを狩るのと変わらない。

 それにトレントが認識出来れば周囲への対応もおざなりにならなくて済む。

 なんて凄いスキルだ。キキ、優秀すぎだろ。

 

「んじゃ、早速次のトレントを狩りに行くか」

「きゅー」

 

 ああ、実戦と一緒に持続時間もチェックしておかないとな。

 ステ振りとスキル確認という名の休憩を終え、俺たちは再び行動を開始した。





≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪クドウ カズトのLVが3から4へ上がりました≫


 その後、俺たちは順調にトレントを狩る事に成功した。

 キキの新スキルの効果は凄まじく、効率が飛躍的に上昇した。

 トレントは俺たちが『認識できている』事に気付いてないらしく、至近距離まで近づいても反応が無かった。


(キキのバフの効果はおよそ一時間。十分な時間だ)


 周囲を警戒する余裕も出来たので、安心して破城鎚パイルバンカーも使う事が出来る。

 開幕ズドンで即終了だ。

 ロマン兵器大活躍である。

 

(大分時間が経ったな……)


 外へ出てからすでに数時間が経過していた。

 周囲の景色もすっかり様変わりした。

 異様な木がひしめく光景が、今では穴だらけの廃墟地帯になっている。


(この辺で一旦戻るか……)


 向こうにまだトレントは大量に生えているが、今晩はこの辺で止めておいた方が良いだろう。

 まだイケる、もう少しだけは、もうやめた方が良いサインだ。

 レベルも上がったし、この辺が潮時だろう。


(そういやこの辺りは日中に清水チーフや二条が来てたっけ?)


 新しくレベルアップしたいって人たちのレベリングに同行していた筈だ。

 無事に全員レベルアップしたって西野君から聞いてたけど、『誰かが消えても気づかない』んじゃその情報も素直に信じられないよなぁ……。

 もしかしたら知らぬ間に誰かがトレントの餌食になっていたかもしれない。

 

(ま、記憶から消える以上、調べようがないけどな……)


 そんな風に思い、踵を返そうとした瞬間だった。

 俺はそのトレントを見つけてしまった。

 

「……マジかよ」


 吐き捨てるように俺は呟いた。

 コンクリートを突き破り、家屋を飲み込んでその存在を主張する一際巨大なトレント。

 その枝先に、『ソレ』はあった。


「……『花』が付いてやがる……」


 そのトレントには真っ赤な花が咲いていた。

 人の頭ほどの大きさの、血を思わせるような真っ赤な花が。




 花付きのトレント。

 それは『質問権』が教えてくれたトレントの上位種だ。

 人を襲い、経験値を得たトレントは『花』を咲かせる。

 その能力は通常のトレントよりも強化され、何より他のトレントとは明確に違う点がある。それは――、


「――『自分で動ける』、だったよな……」


 そう、花を付けたトレントは自分で動く事が出来る。

 通常トレントはその場から動かず、じっと獲物が近くを通るのを待ち構えるだけだ。

 だが、『花付き』はそうではない。

 自分で移動し、より多くの人間を捕食するのだ。

 しかも捕食対象はレベル0の人間だけでなく、レベルを上げた人間も含まれる。

 

『認識できないトレントが、誰にも気づかれずに移動し、捕食する』


 それがどれだけの脅威か一目瞭然だろう。

 ああ、畜生。なんで『今日はここまで』と決めたのに、最後の最後でこんな大物に出くわすんだ。


(清水チーフたちよく無事だったな……)


 この辺でレベリングをしていたとしたら、彼女達が『花付き』に襲われなかったのはまさしく幸運だろう。

 ともかくこうして見つけてしまった以上放置しておくわけにはいかない。


「キキ、頼む」

「きゅー」


 キキのバフの光が体を包み込む。

 その瞬間、『花付き』に変化があった。


『~~~~~~~~ッ!!』


 黒板をひっかいた様な金属音。

 何度も聴いたトレントの叫び声だ。

 どうやら向こうも俺たちに気付いたらしい。


(根の攻撃が来る――ッ!)


 そう警戒したが、『花付き』が取った行動は違った。

『花付き』は巨大な幹を動かし、枝を震わせ、同化していた建物から剥がれ――『逃げ出した』のだ。


「……は?」


 大きな体をえっちらおっちら動かして、『花付き』は俺たちから遠ざかってゆく。

『質問権』の情報を見たときは、どうやって移動するのかと疑問だったが、どうやら周囲の建物や地面を一時的に透過しているらしい。周囲の建物や地面を破壊する事無く移動している。

 あれもトレントの持つスキルなのだろう。

 木が移動するなんて、まさしくファンタジーな光景である。


「――って、そうじゃない。おい、ちょっと待てッ!」


 予想外の行動に一瞬面食らうも、すぐに『花付き』の後を追う。

 逃げられてたまるか。

 幸い『花付き』の移動速度は遅い。普通の人が走る程度の速さだ

 敏捷700超えの俺からすれば余裕で追いつけるスピードである。

 

『~~~~!?』


 あっという間に追いつかれて驚いたのか、再び『花付き』は奇声を上げる。

 そして逃げ切れないと悟ったらしい。

 今度は明確な『敵意』が伝わってきた。


(――来るっ)


 ボコボコと周囲の地面が隆起し、無数の根が現れる。

 それらは鞭の様にしなり、こちらへ向かって来る。


(攻撃手段は通常のトレントと一緒――いや、違うな)


 根だけじゃない。

『花付き』はその体を大きく揺らし、『葉』を飛ばしてきた。

 回転しながら猛スピードで迫りくる無数の葉は一枚一枚が巨大な手裏剣のようだ。


(くそ、忍者みてーな技使いやがって)


 足元と空中からの多重攻撃。

 流石にこれを全部避けるのは無理だ。


(ならばこちらに届く前に潰す)

 

 手を合わせ、俺は大きく息を吸い込む。


「――火遁の術」


 生み出されたのは極大の火球。

 あのドラゴンほどの威力は無いが、それでも葉っぱ程度なら十分に焼き尽くせる。

 そして空いた前方にアイテムボックスで足場を造り、空中を移動し、根の攻撃を回避する。


『!?』


 あっさりと自分の攻撃が防がれたことが意外だったのだろう。

『花付き』は驚いたように体を揺らす。


「驚いてる暇があるのか?」


 接近。

『花付き』のすぐ目の前まで俺は距離を詰めた。

 体を揺らし、葉を放とうとするがいかにも遅い。

 

「――破城鎚パイルバンカーッ!」


 ズドンッッ!! と大地を揺らす程の衝撃が走る。

 木の葉が舞い、メキメキと幹が軋み、『花付き』の体が大きく揺れる。


(一発じゃ無理か……)


 耐久も並みのトレントよりも上だが、それだけじゃない。

 コイツ、破城鎚を喰らう寸前、自分から体を『揺らし』やがった。

 衝撃の拡散。

 それは破城鎚パイルバンカーがどういう武器かを理解したということ。

 

(高い知能も持ってるってわけか……)


 俺を見て即座に逃げ出したのも、その知能の高さゆえか。

 流石、上位種だ。通常のトレントとは格が違う。


「なら、もう一発だ」


 一発で仕留められないなら何発でも放てばいい。

 再び破城鎚を構えた瞬間、『花付き』はまた体を揺らし、衝撃を拡散させようとした。

 だが、


「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!」 

 

 モモの『叫び』が木霊した。

 

『~~~ッ!?』


 油断したな。

 俺に『意識』を集中したせいで、背後に回り込んでいたモモに気付かなかったのだろう。

 モモの『叫び』をまともに喰らい、『花付き』は完全にその体を硬直させた。


「――終わりだ」


 再び破城鎚を発射させる。

 轟音、そしてミキミキと木が折れる音が響き渡る。

 今度こそ、『花付き』はその体を崩壊させた。


≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪クドウ カズトのLVが4から5へ上がりました≫


 レベルアップを告げるアナウンス。

『花付き』は体を消滅させ、魔石が地面に転がった。


「ふぅー……」


 どうにか勝てたか……。

『花付き』の魔石をアイテムボックスに収納すると、『トレントの魔石(大)』と表示された。(大)か。かなりの強さだったし、それもそうか。

 

(この葉っぱも使えそうだな……)


 周囲に散らばる『花付き』が放った葉。

 それも消えずに残った。

 アイテムボックスに収納すると、こちらは『トレントの葉(上物)』と表示されていた。

 上物か……。これはいい素材になりそうだな。俺の『忍具作成』や一之瀬さんの『武器職人』で加工できそうだ。


(レベルも上がった……。順調すぎてなんか怖いな)


 それだけ俺たちが強くなったって事なんだろうけど……、まあ油断しないでおこう。

 慢心駄目、絶対。


「さて、今度こそ帰るか……ん?」


 帰ろうと思ったその瞬間、『索敵』に反応があった。

 これは……人の気配か? こんな深夜に?

 目を向ければ、建物の隅に誰かが隠れているのが分かった。


(……こっちを見ている)


 視線を感じた。

 その直後だった。


≪熟練度が一定に達しました≫

≪鑑定妨害がLV6から7へ上がりました≫


 頭に声が響いた。

『鑑定妨害』が上がった? このタイミングで?

 

「……まさか」


 思い出すのは昼間に遭遇したあの人型ゾンビだ。

 あれとは気配が違うが、もしかしてその仲間か?

 ゴーレムを仲間にしていたんだし、人間も仲間にしていたのか?

 俺はすぐに動いた。

『視線の主』が動揺する気配が伝わってくる。

 動き出そうとしているが、遅い。

 あっという間に、その人物の隠れている場所まで距離を詰める。


「ひぃっ」


 俺に見つかり、その人物は軽く悲鳴を上げる。

 さて、一体誰が――って、え?

 

「ま、待って! お願い、殺さないで!」

「はい……?」


 涙目でそう懇願してくる人物には見覚えがあった。

 というか、思いっきり顔見知りだ。

 なんで彼女がここに居るんだ?

 

「アナタは……五十嵐さん、ですよね?」


 そこに居たのは生徒会長五十嵐十香だった。


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