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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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164.トレント討伐作戦


『安全地帯』から出た俺は町の中を歩いていた。

 市長の『町づくり』のレベルが上がったことで『安全地帯』の中は電気が復旧し、夜でも外を出歩く事が出来る位には明るくなった。

 だが、一歩そのラインを抜ければ再び夜の闇に閉ざされた世界が広がっている。

 

(『暗視』があってよかった……)


『暗視』があれば暗闇の中にあっても普段と変わらぬ視界が確保できる。

 視界に映るのは崩壊した街並み、そして――無数の巨木。

 進化した今であっても、きちんと『意識』しなければそこに在る事を忘れてしまいそうなほどその木々は風景に同化していた。


(それだけコイツらが厄介なモンスターだって事だ)


 木のモンスター――『トレント』を俺はきちんと『意識』しながら歩く。

 とりあえず木のモンスターなので暫定的に『トレント』と呼ぶことにした。

 時折、モンスターや鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 すると『索敵』に反応があった。


(これは……ゴブリンか)


 モンスターの気配はゴブリンだった。

 視線を向ければ、瓦礫の影で数匹のゴブリンが眠っているのが見える。

 どうやら休息中の様だ。

 一匹だけ見張り役なのか、瓦礫の上に座り周囲を警戒している。


(今更だけどモンスターもちゃんと休息を取るんだな……)


 ゲームのように無限に湧くわけでも、コンビニのように24時間稼働しているわけでもない。食事もするし、休息も取る『生き物』なのだ。


(ま、だからと言って見逃す理由は無いけど)


 アイテムボックスで潰しても良いが、むやみに音を立てたくはないな。


「……モモ」

「わんっ」


『影』の中に潜むモモに声をかける。

 すると足元の影が一瞬で伸び、ゴブリン達を絡め取った。

 暗闇の中であっても『影』のスキルは発動できる。いや、むしろ夜の方が威力は高まるようだ。


(どちらかといえば、『影』というより『闇』よりのスキルになってきてるのかもな)


 種族も『暗黒犬』だし、あのダーク・ウルフの様なスキルもその内覚えるのかもしれない。モモならそれくらいやってのけそうだ。

 ゴブリン達は声を上げる事も出来ずに影に締め付けられ、あっという間に絶命した。

 頭の中に経験値獲得のアナウンスが響く。


「よし、サンキューモモ」

「わんっ」


 影から顔を出したモモの頭を撫でて褒めてやる。

 すると嬉しそうに顔をほころばせた。

 

「さて、もう少しで目的の場所だな」


 今回、外に出たのは俺一人だ。

 一之瀬さんや六花ちゃん、西野君は拠点に残してきた。

 彼らはこの暗闇で自由に動けるスキルは持っていないし、仮にあったとしても今回彼らに出来る事は殆どない。

 西野君や六花ちゃんには悪いが、彼らの実力は俺や一之瀬さんとかなり離れているし、その一之瀬さんも今回は少々相性が悪い。


(トレントは一之瀬さんの天敵みたいなモンスターだもんなぁ……)


『質問権』が教えてくれたトレントの特性――『認識阻害』。

 スキル名称は一之瀬さんの持つそれと同じだが、その効果は少し異なる。

 トレントの『認識阻害』は周囲に自らを『敵』と認識させないスキルであり、その効果はトレントと『距離』を置くごとに増してゆくのだ。

 

――攻撃しようとしても、何を攻撃していいのか分からなくなる。


 狙撃の場合、そんな普通ならあり得ない状態になってしまうのである。

 かといって接近して狙撃しようものなら、今度は逆に一之瀬さんが敵に認識されてしまう。余りに相性が悪すぎるのだ。


(まあ、説得するのはかなり大変だったけど……)


 それでも自分だけ留守番は嫌だったのか、一之瀬さんは自分も付いていくと言って聞かなかったのだ。

 服の裾をぎゅっと握りながら、頬を膨らまして、じーっとこちらを見てくる一之瀬さんは正直かなり可愛い――じゃない、迫力があった。

 何かあればモモの『影渡り』ですぐに駆けつけると言う事で納得してもらった。



 それからしばらく町を歩く。

 何度かモンスターとの戦闘になったが、全て危なげなく倒す事が出来た。

 遭遇するのがゴブリンやスケルトンと言った弱いモンスターばかりだったのも幸いだった。

 この状況でゴーレムやデス・ナイトクラスのモンスターとの戦闘は極力避けたい。

 それとアカの分身体を一定距離で置いていくことも忘れないでおく。何かあった時の脱出ルートは常に確保しておかなければね。


「さて、そろそろだな……」


 目的の場所はもうすぐそこだ。

 更に町の中を歩く事数分、俺は目的の場所に辿り着いた。

 そこはどこにでもあるような普通の公園だ。

 だが、その中央――そこには一本の巨木が生えていた。


(見た目は『質問権』に載っていた物と同じ……。てことは、コイツが『親』か)


『質問権』はトレントの特性のほかにその生態についてもいくつか教えてくれた。

 曰く、トレントは一本一本が独立したモンスターなのではなく、『群体』のモンスターであるらしいのだ。

 トレントには大元になる『親』と呼ばれる存在があり、その木の根から『子』が枝分かれし、数を増やしてゆく。

 成長した子は人知れず獲物を狩り、新たな『親木』となりさらに増えていくと言う訳だ。


 非常に厄介なモンスターだが、この『親』と『子』の関係にこそ、俺たちが付け入る隙がある。

 それは『子』が十分に成長するまでは『親木』と根が繋がっているという点だ。

 子の成長を助けるための栄養を送る管、いわば『へその緒』のようなものだな。

 子が成長しきってしまえば、この繋がりは切れてしまうのだが、成長しきる前ならばそれらは全て繋がっている。

 トレントの討伐はこれを利用するのだ。

 ちなみに『親木』と『子』の見分け方にはポイントがあるのだが、それはまあ、今は置いておこう。


(……『花』は付いていないな)


 もう一つの懸念事項だった部分もちゃんと確認する。

 どうやらこの親木はまだ『花』を付けていないようだ。

 

「んじゃ、とっとと始めるか」


 俺はアイテムボックスからある物を取り出し、トレントの『親木』に近づく。

 近づいてもトレントは一切反応しない。


(以前は確か傷つけようとしたらかなりやばい感じがしたはずだけど……)


 今はその感じが薄れている。

 レベルが上がった影響か、もしくは『進化』してトレントをきちんと『認識』出来るようになったからか……。

 まあ、どっちでも構わないか。


「――喰らえ」


 俺はポリタンクにたっぷりと入った液体をトレントの根元にかけた。

 注がれた液体はあっという間に地面に沁み込んでゆく。

 ちょうどポリタンクの中身が空になった頃だろうか。

 反応があった。


『~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!?』


 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!! と木がざわめきだしたのだ。

 太い幹が曲がり、そこから延びる枝が震え、木の葉が舞う。

 それはまるで人が頭を掻きむしりながら悶えているかのようだ。

 更にそれに連鎖して周囲の木々もざわめき始める。

 

(……まさか本当に効果があるなんて)


 ぶっちゃけ半信半疑だったのだが、どうやら本当だったようだ。

『質問権』が教えてくれたトレントの弱点の一つ。

 ポリタンクの中身はなんてことはない、ただの『除草剤』だ。

 市販されてる中でも多少強力なタイプを使ったのだが、まさかそれでここまで劇的な反応をするなんて予想外だった。


「……お」


『索敵』が反応した。

 今まで希薄だったトレントの気配。

 それがはっきりと『認識』出来るようになった。

 それはつまりトレントが俺を『敵』と認識したという事。


『~~~~~~~~ッ!!』


 周囲に響き渡る怪音。

 黒板をひっかいたかのようなこの不気味な音が、トレントの『声』なのだろうか?

 この親木だけでなく、周囲一帯から同じような音が響いてくる。


 ズズズズズ、と地面が揺れた。

 公園の芝生や舗装されたアスファルトを突き破って巨大な『根』が現れる。

 それは触手のように不気味に蠢きながら、こちらに向けられている。

 

「さて、ここからだ……」


 ここからがトレントの本格的な討伐。

 さあ、気合を入れていこう。


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