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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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156.質問権は意地が悪い


「さて、と……」


 適当に民家に入った俺と一之瀬さんは、六花ちゃんや柴田君たちから事情を聞くことにした。

 相変わらず何故か柴田君は俺にはつっけんどんな態度だったが、それは置いておこう。

 とりあえず話をまとめれば、こんな感じだ。


 探索中にゴブリンと戦っている変わり果てた眼鏡君を発見した。

 事情を問いただそうと眼鏡君に話しかけたが、彼は自分達を見て逃げ出した。

 邪魔するゴブリン数匹を六花ちゃんが二秒で殲滅し、彼を追いかけた。

 そして市役所付近までやってきた所で、彼らは俺の索敵範囲内に入った。

 そこで俺たちがバイクで駆け付け、彼を拘束。今に至るという訳だ。


「……つまり詳しい事は何も分からないと?」

「うん、そーだね……」

「ああ、そうだ……」


 六花ちゃんと柴田君は頷く。

 二人の表情は暗く、他の学生メンバーも同じような表情を浮かべている。変わり果てた友人の姿は、彼らにとっても衝撃だったようだ。

 改めて気絶した眼鏡君を見る。

 白髪化した髪に、血が通ってるとは思えない土気色の肌。今は目をつぶっているので見えないが、確か黒目の部分が赤に、白目の部分が黒っぽくなっていたと思う。

 街で見かけたゾンビと同じような姿だ。とてもじゃないが人間とは思えない。

 一体何があったのか?


(考えられる可能性……一番高いのは『進化』か……?)


蜥蜴人リザードマン』や『機械人サイボーグ』のように、凡そ人間とは思えない見た目に変化するであろう進化先も存在した。

 もし眼鏡君が既にLV30に到達しており、その進化項目にゾンビの様な見た目になる種族が存在していたのなら、この姿にも辻褄は合う。


(でも、本当にそうなのか……?)


 だとしたら彼が俺たちを見た時のあの怯えようは何だ?

 なぜ六花ちゃん達を見て逃げ出した?

 眼鏡君は西野君たちとの間には確かな信頼関係があったように思える。アニメやラノベのテンプレ知識だって豊富だし、もし彼が本当に『ただ進化しただけ』ならば、再会した時にそう説明すれば良い。「そんな事信じられるか!」って感じに拒絶する西野君たちじゃない。少なくとも説明もなしに逃げる理由にはならないだろう。……何か後ろめたい事情でもない限りは。


(まさか偽物ってことは無いよな……?)


 一応、『メールリスト』で彼の名前を確認する。

『オオノ ケイタ』と表示された。間違いなく本人だ。

 ならば他に考えられる可能性は何だ?


「……」

「あれ? おにーさん、どこ行くの?」

「少々席を外します。彼が目覚めた際、俺が居てはまた混乱が生じるかもしれませんしね」

「え、でも……」

「大丈夫です。隣の部屋に居るので何かあれば呼んでください」

「あ、じゃあ、私も……」


 ついて来ようと、俺の服の裾を摘まもうとした一之瀬さんを手で制する。


「一之瀬さんはここに居て下さい」

「え……?」

「今の相坂さんには一之瀬さんが必要です。傍に居てあげて下さい」

「あ……はい、分かりました」

 

 一之瀬さんは頷き、六花ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 気にしないでよ。だからそんな泣きそうな顔しないで。


(さて……モモ、アカ、キキ、頼んだぞ)

(わんっ)

(……)ふるふるー

(きゅー)


 ここは一之瀬さんとモモたちに任せておけば大丈夫だろう。

 モモは一之瀬さんの『影』に潜んでいるし、服はアカの擬態だ。キキも一之瀬さんの膝の上で丸まってるし、何かあればすぐに対応出来る。

 彼らにその場を任せ、俺は隣の部屋へ移った。

 



 隣の部屋に入った俺はすぐにステータスプレートを開く。

『質問権』を使い、情報を集めるためだ。

 別に調べ物をするだけならどこでも出来るのだが、なんとなく一人の方が集中できる気がした。

 それに得た情報をそのまま彼らに伝えるよりも、ある程度精査してからの方が良い。

 

(もし進化したのではないとすれば、考えられる可能性は一つだ……)


 おそらくは誰もが真っ先にその可能性を思いついたはずだ。

 でも、それを口に出す者は誰も居なかった。

 誰もが眼を背けていたのだ。認めたくなかったのだ。


 ――『人がモンスターに変わる』。


 その可能性、その事実を。


(だから、それを調べる……)


 俺の『質問権』ならそれが出来る。

 答えてくれるかは分からないが、なんとなく『この質問』には、答えてくれそうな気がした。

 カタカタと、『質問権』に質問内容を打ち込む、


 ――『人がモンスターに変る事はあるのか?』


 俺は目を瞑り、決定のボタンを押した。

 直ぐに答えは表示されるだろう。


「ふぅー……」


 ゆっくりと深呼吸をし、ゆっくりと目を開けた。

 そこに『答え』は表示されていた。




 ――『イエス』、と。




「――ッ」


 声にならない衝撃が脳を揺さぶった。

 ああ、本当にこのシステムは意地が悪い。

 こういう質問には、はっきりと答えてくれるのだから。


 じゃあ次だ。

 俺は更に質問を続ける。


 ――『人がモンスターに変わる条件は?』


 これにも『質問権』はあっさりと答えてくれた。

 条件は以下の通りだ。



・一定以上の魔石の摂取による変異

・特定スキルないし特定職業による副次効果

・特定スキルによる攻撃効果

・特定モンスターによる寄生

・特定領域への侵入

・特定種族への進化



 ずらりと並べられた様々な条件。

 人がモンスターに変わる条件……まさかこんなにあったのか……。

 気になる事だらけだが、特に気になるのは一番最初の条件だ。


「……一定以上の魔石の摂取ね」


 要するに魔石を食べれば、人はモンスターに変わるって事か?

 いや、でもあれを食べようと思う人間が居るのか?

 以前モモに魔石を与えた際、俺も口にしてみたが、とてもじゃないが食べる事は出来なかった。


「……もう一回試してみるか」


 もし食えそうなら、すぐに吐き出せばいい。

 俺はアイテムボックスから『ゴブリンの魔石(小)』を取り出し、口に入れる。

 ごりっと石の感触がした。


「……うぇ」


 硬い、かみ砕けない、メチャクチャ不味い。

 とてもじゃないが食えたもんじゃない。

 完全にただの石だ。


「……いや、でも考えてみればモモは美味そうに食ってたよな?」


 アレはてっきり人と動物の違いかと思ったけど、もしかして違うのか?

 俺は更に質問を打ちこむ。


 ――『どうすれば人間は魔石を摂取することが出来るのか?』


 答えはすぐに返ってきた。



 ――『特定条件の負の感情が一定値を超える事』

 


「……なんだそりゃ?」


 特定条件の負の感情……?

 負の感情っていうと、絶望とか悲しみとかか?

 もっと詳しく質問してみたが、これには答えは返ってこなかった。

 他の項目――特定のスキル、職業とは何か? 特定領域とはどこで、特定種族とは何か?についても質問してみたが、これにも答えは返ってこなかった。

 どうにも一度質問して、より明確な内容が知りたい場合にははぐらかされる場合が多い気がする。


「……まあ、とりあえず人がモンスターに変わる条件があるって分かっただけでも収穫か」


 その条件を満たさないように気をつけなきゃいけないな。

新人アラビト』は……一応、人間だ。モンスターではない。

 そこは『質問権』はきちんと答えてくれた。

 じゃあ次だな。続いて質問を打ちこむ。

 どうしてもこれだけは知っておかなければならない。


 ――『モンスターに変わった人間を元に戻す事は出来るのか?』


 さあ、これならどうだ?



『―――』



 答えは、出なかった。

 

「くそがっ……!」


 ドンッ! と思わず俺は床を叩く。

 以前の時と同じだ。まるで意図的に情報を遮断されているかのような錯覚さえ覚えてしまう。いや、もしかしたらその通りなのかもしれない。


「舐めやがって……!」

 

 何度か質問内容を変えてみたが、答えは一緒だった。

『答え』が無い――すなわち元に戻す手段が無いのか、それとも今の俺では答える事が出来ないのか……。

 ともかくこれ以上の情報は得られそうになかった。


 ちなみに『動物は魔石を摂取しても大丈夫なのか?』という質問もしてみたが、答えは『問題ない』ときちんと返ってきた。

 むしろ動物の場合、生存本能から積極的に魔石を食べようとする傾向があるらしい。人間は生存本能働いてないのかよ、と思ったがその辺はシステム的に違うのだろう。

 考えてみれば、動物やモンスターには『種族』はあっても、『職業』は存在しなかった。

 おそらく同じシステムでも、人とそれ以外の生物とでは明確に違いがあるのだろう。


(分かった事はこれくらいか……ん?)


 隣の部屋に意識を向ける。

 どうやら眼鏡君の意識が戻ったようだ。


(とはいえ、俺が行ったらまた怯えられる可能性が高いな……)


『聞き耳』があるから、会話を聞く分には問題ない。

 ちょっとあれだが、このまま盗み聞きするとしよう。


「――ん? ここは……ッ! な、なんだこれ!?」

「あ、大野ん、目が覚めたんだね」

「り、六花……? それニ柴田君や他の皆モ……」


 気絶から目覚めた眼鏡君は体が石化したアカでガチガチに拘束されているのに気付いたようだ。

 ていうか眼鏡君、何気に六花ちゃんの事は呼び捨てなのね。


「悪いけど、拘束させてもらったよ。また逃げ出されちゃ敵わないからねー」

「ッ……」

「さあ、今度は話してもらうぜ、大野。その姿はどうしたんだよ? なんで、俺らを見て逃げ出した?」

「ちょ、近い……近いって柴田君……!」

「あ゛ぁ゛? それがなんだ――って、いたっ。なにすんだよ、六花?」

「だーかーらー、柴っちは顔怖いんだから、もう少し離れなって。それじゃあ、話す事も話せないじゃん」

「お、おぅ……え、俺そんなに顔怖い? マジ?」

「前にも言ったじゃん。ナッつんだって、柴っちの事いまだに怖がってるんだよー?」

「ぐっ……」


 気配や言葉で何となく分かる。

 柴田君が眼鏡君に詰め寄って、ぐいっと顔を覗き込んでいるのだろう。メンチ切った感じで。んで、それを六花ちゃんに注意されて落ち込んでる。


(確かに柴田君は顔が怖い……)


 目つきも悪いし、ガラも悪いし、言葉使いも悪い。そのくせ職業『医者』で頭が無駄にいいし、仲間想いだ。なんなの、ホント。


「それで……話してくれるかな、大野ん。私達と再会するまで何があったかをさ」

「そ、それは……」


 眼鏡君の思案する気配。

 やがてぽつりと、彼は口を開いた。


「ぼ、僕は……みんなと一緒にいる資格はないんだ」

「なにそれ?」

「意味分かんねぇよ、俺らは必死こいててめえを探してたんだぞ?」

「そ、それは僕だって同じだよ!」


 柴田君の言葉に、眼鏡君は心外だと言わんばかりに叫んだ。


「会いたかったさ! 僕だってずっと皆に会いたかったんだよ! でもこんな姿になっちゃって……それでも皆に会いたいって気持ちがあった。でも、いざ皆の顔を見たら……もう、僕は違う存在なんだって確信したんだ。そう思ったら体が勝手に動いたんだよ。だから逃げて………それに僕はもうこの手でアイツらを……」

「アイツら?」


 震えるような声。

 その瞬間、彼の『気配』がどこか変わった。


「そ、そうだよ、僕は悪くないんだ。全部、アイツらが悪いのに……なんで僕ばっかこんな目に! ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけんなよくそ!」

「お、おい、大野、どうしたんだ?」

「大野んっ!?」


『聞き耳』を止め、俺は即座に隣の部屋へ向かう。

 マズイ、これは駄目だ。

『曖昧だった気配』がどんどん『モンスターの気配』に近づいてる。

 隣の部屋へ駆けこもうとした、その瞬間だった――



 

「――――そうだね。君はなにも悪くない」




 不意に、声が聞こえた。

 背筋に怖気が走る。誰だ? 何かがすぐ近くにいる。

 どういう事だ? 索敵には一切反応が――いや、まて? 反応が無い・・・・・

 

「ッ――、くそっ!」


 俺はすぐにその可能性に気付き呆れた。

 馬鹿か俺は! 完全に失念していた。

 部屋へ駆けこむとすぐに『スキル』を発動させた。


「――『影檻カゲオリ』!」


 その瞬間、俺の足元から一気に『影』が広がり、部屋を覆い尽くした。


「お、おにーさん!?」

「ちょ、なんだよコレ!?」

「体が沈んで……」


 動揺する学生たち。

 ええい、今は説明する時間も惜しい。

 

「俺のスキルです! 害はありません! そのままじっとして下さい!」


 スキル『影檻カゲオリ』。

 その名の通り、対象を『影の檻』の中に閉じ込めるスキルだ。

 対象が影の中でも自由に動けるかどうかという違いはあるが、効果としてはモモが『影』の中に潜るのと一緒だ。

 本来はモンスターを拘束して動けなくするスキルだが、今回はそのスキルを逆に利用する。

 ズブズブと『影』に飲み込まれる学生たちと眼鏡君。

 それを横目に、俺は次のスキルを発動させる。


「――土遁の術」


 一之瀬さんや学生たちが『影』に飲み込まれると同時に、今度は俺が地面に潜る。

 それとほぼ同時に、巨大な『何か』が家を押しつぶした。

 ズドンッ!!! と破砕音が鳴り響き、衝撃波が大気を揺らす。

 地中に居てもなお伝わるビリビリとした振動。


「ッ――何、が……?」


 少し離れた場所から俺は地上に出る。

 そこには朦々と土煙が立ち込め、僅かに見える隙間からは破壊された家と周囲の建物が見えた。

 そして、その中に佇む巨大なシルエット。


「嘘だろ……」


 俺たちの居た家を潰した存在――それは紛れもなくゴーレムだった。

 ティタン? いや違う。サイズ的にはティタンの半分。それに細部も違う。


(別の個体が居たのか……)


『索敵』に反応が無い。それは周囲に気配が無いと言う事だが、一部のモンスターにはそれが適用されない。

 例えばミミックやスライム、そしてゴーレム。

 特にゴーレムは出現する直前まで反応が一切ない。


 ティタン以外の、別の個体ゴーレムが居る可能性。


 それを完全に失念していた。

 そもそもあんな個体が他にも居るだなんてありかよ……。 


「素早い反応だね。それに良いスキルを持っている」


 再び、あの声が聞こえた。

 今度はゴーレムの頭上からだった。


「誰だ……?」


 ……人? 

 いや、感じる気配は人とは真逆――紛れもないモンスターの気配だ。

 そこに居たのは黒い髪に地味な服装、凡そ平凡と言っていい容姿の青年。

 その腰には容姿には不釣り合いな禍々しい長剣を携えている。


「初めましてになるのかな。会えて嬉しいよ、『早熟』の保有者さん」


 そう言ってそいつは――『彼』は嗤った。


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書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうしても気になるんだが、飲み込めばいいじゃん。なんで飲み込まないんだ?なんで噛むことにこだわるんだ? 粉々にでもしてから食べればいいんじゃないの? そこら辺の設定甘い気がします。
[良い点] 何でこいつは早熟持ちって分かったんだろうか
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