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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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151.浜辺の攻防と新たなスキル


 浜辺より少し離れたビルの屋上。

 そこで一之瀬奈津は状況を見守っていた。


「……でっかいホイ◯スライムだ」


 浜辺に現れたそれは一言で言えばそんな外見をしていた。

 うねうねと触手を動かしカズト達を威嚇している。


「……相手がスライムじゃ、私の出番はなしかぁー……」


 スライムは物理攻撃が効きにくい相手だ。銃では効果が薄い。

 ティタン相手に使用した『一之瀬スペシャルver2.0』なら話は別だろうが、流石にあんな化け物ライフルをこんな状況で使う気にはなれない。


「そもそも手助けは必要ないみたいだしなぁ……」


 カズトから送られてきたメールを見る。

 文面はただ一言だけ。


 ――『キキをこちらへ』


 それだけだ。

 狙撃によるアシストやスキルの補助などは一切書かれていない。

 つまり逆を言えばそれだけで対処可能な敵という事だ。


「キキちゃんは『影渡り』で向こうに行っちゃったし……」


 もう自分がすべきことはない。

 せいぜいが周囲の監視くらいだ。

 せっかく彼と一緒に進化したのに、一緒に戦えないだなんて。

 ちょっと寂しいではないか。


「むぅー……」


 多少の不満を抱きつつも、一之瀬は周囲の監視を続けるのだった。




 ――視点は変わって浜辺へと移る。


 スライムクラゲは、己の触手を鞭の様にしならせ、俺たちに叩きつけた。

 パァンッ! と小気味良い風切り音が響き渡る。

 触手が叩きつけた場所は砂塵が舞い、深い溝が出来上がっていた。


(……かなりの威力だな。それに速い)


 あの浜辺でプカプカ浮かぶだけのスライムも、進化すればこれだけの力を得るのか……。

 いや、アカという実例がある以上この程度の進化は推して知るべしか。

 アカが『擬態』や『分裂』に特化して進化したスライムなら、コイツは逆――『捕食者』として真っ当に進化したスライムなのだろう。


「~~~~~(ぶるぶるぶるぶる)ッッ!!」


 俺が軽々と避けた事が気に食わなかったのか、スライムクラゲは再び触手を叩きつける。

 その数、十本。猛スピードで迫る鞭撃。

 

「――ふっ」


 俺はそれを紙一重で躱す。

 700オーバーの敏捷、そして『身体能力向上』による動体視力の強化、そして『予測』による見切り。

 それらを駆使すれば、この程度のスピードなら容易に躱せる。


「ッ!?」


 その捌きにスライムクラゲは驚いたように身を震わせる。

 まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。

 

(――単調で分かり易い)


 スライムクラゲの触手は確かに高速高威力だが存外に単調な攻撃だ。

 その軌道は読み易い。

 縦横無尽に変化し予測できないダーク・ウルフの『闇』や、全てを圧砕するティタンの拳に比べるまでもない。


(強さ的にはデス・ナイトと同等ってところか)


 ならば今の俺たちならば問題なく倒せる。

 だが今回は『倒す』のが目的ではない。

 あくまでアカの食事の為に『弱らせること』が目的だ。

 なのでせっかくだし色々と試させてもらおう。


「――アイテムボックス・オープン」


 手をかざし、俺は回収した消波ブロックの雨を前方に降らせる。

 ズドドドドドッッ!と白波が立ち、けたたましい水音が響く。

 そして水しぶきが上がる中から、スライムクラゲは『無傷』で現れた。


「……やっぱ物理攻撃は効果が薄いか」


 この場を埋め尽くすほどの質量攻撃でもどうしても『隙間』は生じてしまう。

 そしてスライムはその隙間を掻い潜ってしまう。

 なんともやりにくい相手だ。

 ならこれはどうだろう?


「――モモッ!」

「わんっ」


 俺の掛け声に応じて、スライムクラゲの『背後』に迫っていたモモが声を上げる。


「――ッ!?」


 ぶるん、とスライムクラゲは大きく震える。

 いつの間にか背後に迫っていたモモに驚いたのだろう。


 さっきの質量攻撃はただお前を潰す為だけに放ったわけじゃない。

 俺に注意を引きつけ、そしてモモの『足場』を作るためのモノでもあったのだ。


 モモは俺と違って水面を移動できない。

 そして浅瀬とは言え、水中じゃモモのスピードが生かせない。

 だから消波ブロックを使って即席の『足場』を作ったって訳だ。

 こうすればモモの機動力も十分に生かせる。


「――いけ、モモ」


 そしてモモは大きく息を吸い込み――叫ぶ。


「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!」


 モモの『咆哮』。

 進化したことでその威力はさらに増していた。

 かつてのハイ・オークと同等以上の大音量の叫びは衝撃波となって周囲に波及する。


「~~~~ッ!?(ぶるぶるぶるぶる)」


 そしてその衝撃に、スライムクラゲは耐えられなかった。

 踏ん張ろうとするも一歩及ばず、吹き飛ばされて砂浜へと打ち上げられる。

 

「物理的な攻撃は躱せても、『衝撃』そのものはどうしようもないだろ?」


 かつてアカも同じ手でハイ・オークやティタンに苦しめられたからな。

 同じ手が効くと思ったよ。


「~~~~ッ(ぶるぶるぶる)!!」


 打ち上げられたスライムクラゲは起き上がろうとするが、すぐにバランスを崩し転倒してしまう。

 クラゲみたいな体型をしているから、もしかしたらと思ったが案の定だった。

 陸地じゃ自由に動けないらしい。

 さて、次だ。


「――キキ」

「きゅー」


 俺の肩で待機していたキキが前に出る。

 その額の宝石が怪しく光り輝く。

 それと同時にスライムクラゲの体も同じ光に包まれた。


「――ッ!?」


 ビクン、ビクンと震え、その動きが徐々に弱まってゆく。

 うん、どうやらきちんと効果はあるようだ。


「……ッ!(ぶるぶる)」


 得体のしれない光を不気味に思ったのだろう。

 慌てる様にスライムクラゲは俺たちへ向けて触手を振るう。

 だがその動きは先ほどに比べて明らかに遅く精彩を欠いていた。

 触手は軌道を大きく外れ、誰も居ない地面を叩きつける。


 これがキキの新しいスキル――『妨害魔法デバフ』だ。

 今まで使っていた『支援魔法バフ』とは真逆で相手のステータスをダウンさせる効果がある。

 試しにかけて貰ったが、凡そ二割~三割程ステータスが減少する。

 たかが二割と侮るなかれ。その威力は絶大だ。

 体は十全に動かず、キレは鈍る。

 スキル、ステータスがモノを言う今の世界においてこれは絶大な効果を発揮する。

 キキを仲間にして本当に良かったよ。


「……、…………(ぶるぶる)」

 

 ぐったりした様子のスライムクラゲ。

 陸に打ち上げられ、ステータスを弱体化させられ、もはや打つ手はない様だ。

 

「奥の手はないようだな。……でも念には念を入れておこうか」


 油断はしない。

 限界ぎりぎりまで弱体化させる。

 という訳で、最後に一つ、『アレ』を試してみよう。

 遂に取得したあの忍術を。

 自然と笑みがこぼれる。

 だって正直、忍者の職業を選んで以来ずっと『アレ』を使える日を夢見ていたんだから。

 俺は思いっきり息を吸い込み、『上級忍術』を発動させる。


「――『火遁の術』」


 ゴウッ!と。

 口から吐き出されるのは炎の渦。

 それは瞬く間にスライムクラゲを飲み込んだ。


「~~~~~~~~!!!」


 スライムクラゲが声にならない悲鳴を上げる。

 効果は抜群だ。


 ――スライムは火に弱い。


 いくら進化しようとも弱点は変わらないみたいだな。

 とはいえ、殺しちゃまずいから火加減には注意が必要だ。

 弱火でじっくり。


「うん、これぞまさに忍者って感じの能力だな……」


 感慨深い。

 忍者になったら使ってみたい術ランキングで『分身の術』と並ぶ程の超メジャー忍術――『火遁の術』。

 その効果は見ての通り対象に向けて炎を放つ忍術だ。

 MPの消費は変動で、MPを消費すればするほど高火力で複雑な炎を生み出す事が出来、例えば炎弾だけでなく、炎の壁なんかも作り出すことが出来る。

 今回消費したMPは3。

 それでもこの威力だから、大したものだってばよ。


「さて、こんなもんか……」

 

 忍術を解除する。

 炎が消え、そこには死にかけたスライムクラゲの姿があった。

 触手は全て無くなり、傘の部分も萎んだ水風船のようになっている。

 これならもう大丈夫だろう。


「よし、アカ。食べていいぞ」

「~~~♪(ふるふる~)」

 

 アカはスライムクラゲに近づき、体の一部を伸ばした。


「……」

 

 スライムクラゲは抵抗しようとしなかった。

 完全に身をゆだねている。

 

「……(ふるふる)?」

「……(ぶるぶるぶる)」


 アカが体を震わせると、それに合わせてスライムクラゲも体を震わせた。

 俺にはそれが二匹が会話をしているように見えた。

 最後に何を話したのか? それは分からない。

 次の瞬間――ちゅるん、とアカはスライムクラゲを飲み込んだ。


≪経験値を獲得しました≫

≪クドウ カズトのLVが1から2に上がりました≫


 その瞬間、俺の頭の中に声が響いた。

 どうやら今の戦闘で経験値が入ったらしい。

 進化してから初のレベルアップだ。


「アカ、調子はどうだ?」

「……ッ!!(ふるふる)」


 ばいん、ばいんと物凄く元気よく飛び跳ねている。

 どうやら絶好調の様だ。

 

「よし、それじゃあ一之瀬さんと合流するか」


 アカの力も回復したし、俺もレベルが上がった。

 この辺りが潮時だろう。

 戦闘に使った消波ブロックを回収して俺たちはその場を後にするのだった。

 

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