14.戦闘を眺める
結局、悩んだあげく、俺とモモはショッピングモールへ向かう事にした。
ここからだと、歩いて十五分くらいか。
でもアパートからコンビニに着くまでにかかった時間を考えれば、その倍以上は掛かると思った方が良いだろう。
道中は静かだった。
コンビニに向かう時よりも、モンスターとの遭遇が少なかった。
出会ったのはゾンビ一匹とゴブリン一匹のみ。
洗濯機でゴブリンを倒した時に、レベルが上がった。
やった。
路地裏に潜み、直ぐにポイントを割り振る。
前回と合せてJPは14ポイント。
当然『密偵』のレベルを9に上げる。
そして『忍び足』、『観察』、『聞き耳』、『隠密行動』のレベルも一つずつ上がる。
やはりジョブのレベルが3上がるごとに付属スキルのレベルも1上がるとみていいだろう。
次にレベルが上がれば、『密偵』はいよいよLV10だ。
LV10に上がれば、多分何かある。ワクワクするな。
次にSP。
こっちは前回のと合せて、23ポイント。
肉体強化、アイテムボックスをLV7に。
そして剣術をLV3に、潜伏をLV2にする。
残り2ポイントは温存だ。
クドウ カズト
レベル5
HP :22/22→27/27
MP :4/4→5/5
力 :38→46
耐久 :36→43
敏捷 :59→68
器用 :58→67
魔力 :0
対魔力:0
SP :23→2
JP :14→5
職業
密偵LV9
固有スキル
早熟
スキル
忍び足LV4、観察LV4、聞き耳LV4、隠密行動LV6
肉体強化LV7、剣術LV3、ストレス耐性LV2、恐怖耐性LV2、敵意感知LV3、危機感知LV4、潜伏LV2、アイテムボックスLV7
ステータスを確認し、再び移動を開始する。
ちなみに道中で良い武器が手に入った。
某ラノベで見て以来、ずっと使ってみたかった武器である。
問題なくアイテムボックスに入った。
そして二十分ほどをかけ、俺とモモはショッピングモールの近くまでやってきた。
「……戦闘音が聞こえるな」
「わん……」
移動している最中も聞こえていたが、ここまで近くに来ればよりはっきりする。
叫び声と発砲音。
それにモンスターの叫び声。
―――誰かがモンスターと戦っているのだ。
「あそこか……」
ショッピングモールまで、あと数十メートルの所まで来た。
俺とモモは茂みに隠れ、『潜伏』スキルを使う。
色々検証して分かったのだが、この『潜伏』スキルには、素敵なおまけ効果がある。
俺がモモを抱いた状態で隠れていれば、モモにもその効果が適用されるみたいなのだ。
便利で素晴らしいスキルだ。
何が素晴らしいって、モモを思いっきり抱く口実が作れることである。
モフモフして、温かい。気持ちいい。
しかも、モモのお腹の辺りを擦ってあげると、「わふぅ……」と気持ちよさげな声を漏らすのだ。なんて神BGM。
素晴らしいスキルである。
「さて、どんな状況なのかな……」
この距離なら双眼鏡はいらないか。
ショッピングモールの入り口付近では、人とモンスターの激しい戦いが繰り広げられていた。
入口の前には、バリケードに使ったのであろう車やトラック、イスやテーブルなんかがボロボロになって放置されている。
バリケードが破られた入口を守る様に戦っているのは、十名ほどの男性だ。
手には鉄パイプやさすまた、鉈を持って戦っている。
警官も二人ほど混じっていた。
警棒で戦っていた。銃は使わないのか?……いや、とっくに弾切れになったのか。
戦っている相手はオークだった。
屋上のSOSの旗を見るに、助けが来るまで籠城する構えだったが、モンスターにバリケードを突破されてやむなくって所か。
「改めてみると、デカいな、オークって……」
ゴブリンとは比べ物にならない程の巨体だ。
戦ってる男達と比較しても、二メートル以上はあるだろう。
その手には、巨大な肉切り包丁が握られていた。
数は全部で五匹。
倍以上の数の差があるのに、オークはそれを物ともせずに戦っていた。
強いな……。
間違いなくゴブリンよりも遥かに強い。
分厚い皮下脂肪のおかげか、警棒や鉄パイプと言った打撃武器が通じていない。
かといって鉈やサバイバルナイフも、オークの肉切り包丁に比べると、間合いの長さが全然違う。
なにより、明らかにオークの方が、戦闘慣れしている。
いい勝負をしてるのは警官の二人くらいか?
あの人達レベル上げしたのか?
「どう見ても、人間側が不利だよなー」
それに最も気になるのが、オークたちの後ろに控えている一体のオーク。
ソイツは、他のオークよりも一回り大きかった。
それに他のオークは黄色肌なのに対し、そのオークの肌は赤銅色をしている。
明らかに他のオークとは違う。
「オークの上位種か?」
ハイ・オーク。
そんな単語が頭に浮かぶ。
『危機感知』がビンビンに警鐘を鳴らしていた。
「どうするかねぇ……」
助けるべきだろうか?
「うーん……でもなぁ……」
ちょっと考えてみる。
仮に今ここで、俺があの人達を助ける為に、あの場に乱入したとしよう。
車や家電、モモによるスキルとのコンボによる不意打ちをすれば、あの場に居るモンスター相手にも、上手く立ち回る事が出来るかもしれない。
でも、あくまで『かもしれない』だ。
確実じゃない。いや、死ぬ可能性の方が遥かに高い。
これまで戦った事のあるゴブリンやゾンビはともかく、オークの強さは未知数だ。
それが複数体もいる上に、明らかに上位個体と思われるオークが一体。
この状況で、果たしてそこまでするメリットが、俺にあるのか?
経験値は手に入るだろう。多分レベルも上がるだろう。
助けた人々に感謝されるだろう。
彼らから様々な情報も得られるかもしれない。
では―――その後は?
きっと彼らは俺を頼る。
自分達の安全を確保する為の『戦力』として。
そして俺の戦法はアイテムボックスが手法だ。
きっとアイテムボックスについても、色々聞かれるだろう。
こんな性格だ。
尋問や口が上手い奴が居れば、俺は隠し通せる自信がない。
きっとあれこれと要求をされるだろう。
食料についても分けろと言われるだろう。
『こんな状況だ』、『困った時はお互い様だろ?』とか、そんな都合のいい方便を並べられて。
かといって、『助けてやったんだから、お前ら全員俺の言う事聞けよ、ひゃっはー』なんて、俺の性格的に絶対無理だし。
となれば、待っているのは、荷物持ちに用心棒。
元社畜な俺だ。きっとその流れに身を任せてしまうだろう。
どこか安全な場所に逃げ切るまでそれが続く。
碌に知りもしない赤の他人の為に。
……正直、面倒臭いな。




