13.コンビニ泥棒
「よし、入るか……」
「わん」
周囲にモンスターの姿が無い事を確認して、俺とモモはコンビニに入る。
店内の電気は消えていた。
床には砕けたウィンドウガラスや商品が散らばっており、モンスターが暴れたというよりかは、人が火事場泥棒を働いたという感じの荒れ方をしていた。
「意外と物が残ってるなー……」
持ちきれなかったのか、結構な数の食い物や飲み物が店内には残されていた。
俺は片っ端からアイテムボックスに収納していく。
でも流石に量が量だ。
これ全部収納するのには、かなり時間が掛かるかもな。
物品を収納しながら、店内を歩き回る。
すると、気になる物を見つけた。
「……ん?」
無造作に床に転がっていた『それ』に手を伸ばす。
それは青い小石だった。
「これ……まさか魔石か?」
色といい、形といい、俺が今まで倒したゴブリンの魔石にそっくりだった。
収納してみると、案の定『ゴブリンの魔石(極小)×1個』と表示された。
「ここで戦闘があったのか……?」
でも、だとしたらどうしてここに魔石が落ちたままになってるんだ?
「……慌てて逃げたからとか?」
例えば、火事場泥棒をしている最中に、偶然ゴブリンに出くわし、何とか倒して慌てて逃げたとしたら、そんなの確認してる暇もないだろう。その後に聞こえるアナウンスも含めれば、とてもその場にいようだなんて思えないだろうし。
「ま、これはありがたく頂戴しておこう」
俺はそれをモモに渡す。
モモは嬉しそうに魔石を食べた。
見つかった魔石はアレ一つだけだった。
次にコンビニの裏側に回る。
「へぇーコンビニの裏側ってこうなってるんだな」
店内にあるスタッフ用の出入り口から奥へ入り、中を見渡す。
コンビニの裏側って初めて見るな。こんな感じになってるんだ。
お、ペットボトルの隙間から店内が見える。
なんか新鮮だな、こういうの。ちょっとわくわくする。
幸いこっちの方は荒らされていなかった。
殆どの物が手つかずのまま残されていた。
俺にとってはありがたい話である。
「箱ものが多いんだな」
コーヒーやお茶、酒なんかはダンボールで置いてあったが、食べ物、特に弁当系はあんまし置いてなかった。
まあ、コンビニだし、賞味期限とか厳しいから、素早く時間で捌いていくために、在庫は余りおいてないのかな?
お、発売前の雑誌も置いてある。
ありがたく頂戴しておこう。
「モモ、お待たせー……あれ?」
モモからの返事がない。
どうしたんだろうかと、思って店内を見渡すと、モモが口に何かを咥えてこちらへ向かってきた。
その口にはしっかりと小袋のドッグフードが咥えられていた。
「……ほしいのか?」
「わん」
欲しいらしい。
でも返事をした瞬間、ドッグフードが床に落ちた。
慌てて再び口にくわえるモモ。
「……モモ、それが欲しいのか?」
「わん」
ポトッ。
また落とした。
モモは慌てて咥える。
可愛い。
もう一回聞いて、慌てるモモを見てみたいけど、あんまり意地悪しちゃ可哀そうだ。
俺はモモから小袋タイプのドッグフードを受け取り、アイテムボックスに収納した。
「くぅーん?」
えーしまっちゃうの?たべちゃだめなの?とモモが訴えてくる。
「駄目だ。さっきあんなにドッグフード食べたじゃないか。後でちゃんと食べさせてやるから、我慢しなさい」
「……わふん」
ちょっと自信ない返事だった。
……駄目だよ?あげないよ?
そんなキラキラした目をしたって、駄目なものは駄目です!
心を鬼にして、俺はモモの視線に耐えた。
ようやくモモは諦めてくれた。
ふっ、やれやれ。厳しい戦いだったぜ……。
それから数分後。
「ふぅー…。これで大体全部か……」
ようやく収納作業を終えた。
結局、店内に在った在庫はアイテムボックスに収まってしまった。
リストも物凄い量になってる。
これだけで少なくとも半年は食い繋げるだろうな。
あくまで俺一人でなら、という前提だが。
さて、これからどうするか?
腕時計を見ると、時間は既に午後の三時を回っていた。
おやつの時間だな。いや、違うか。
日が暮れるまでには、なんとか安全な場所を確保したいな。
夜行性のモンスターなんて居たら厄介だ。
今日はもう捜索は諦めて、一旦アパートに戻るべきか?
最悪、モモと交代で番をすれば、体を休める事は出来るだろうし。
「ん?」
そんな風に俺が考えていると、ふと、遠くの方に妙なものが見えた。
遠くにある建物。そこの屋根から白い布がひらひらとなびいていたのだ。
「なんだありゃ?」
あっちには確か、大型のショッピングモールがあったな。
俺もたまの休日にはよく利用していた。
収納リストから『双眼鏡』を取り出す。
それを使って、白い布を拡大して見て見る。
そこにはかすれてはいるが、SOSと書かれていた。
「もしかして生存者か?」
どうする?行ってみるべきか?
でも、あっちの方からはなんか嫌な感じがするんだよな……。




