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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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113/274

113.五日目の終わり


 二人の話し合いは深夜にまで及んだ。


 結論として、彼らはまず主要メンバーにだけは条件の事を話そうという結論に至った。


 現在この市役所にいる避難民の数は市長、藤田を含め全部で76人。

 その内、モンスターを倒し、レベル1以上になった者は40人で、その中でも探索、モンスターとまともに戦闘を行えるものは藤田を含めても半数以下の17人だ。

 

「どのみち、彼らの協力が無ければ条件の達成は不可能だ」


 人員の確保、魔石の確保、そして―――指定モンスターの討伐。

 どう考えても彼ら二人だけで達成できるはずもない。

 他者の協力は不可欠。こと高レベルの者に関しては特に。


「明日の朝話そう」


 探索メンバーは毎朝ミーティングを行う。

 その席で今回提示された条件を話す。

 そう言う結論になった。


 だが当然、二人の顔は浮かない。


 魔石、住民の確保に加えて、強力なモンスターの討伐まで条件に加わったのだ。

 今までに比べて明らかに厳しすぎる条件。

 これが皆に受け入れられるかどうか、二人は不安で仕方がなかった。


(受け入れられないだけならまだいい……)


 最悪なのは、その主要メンバーがここを見限る事。

 それを機に、二度目(・・・ )の暴動が起きる事だ。

 一度目の暴動が起きたのは、世界が変わった最初の日。

 集団パニックが起こり、口にするのも憚られるようなたくさんの悲劇が起きた。


 そこからようやくここまで立て直したのに、これだ。

 心が折れる者が出てもおかしくはない。

 

「……このガーディアン・ゴーレムってのは、清水君たちの報告にあったあれか?」


「ええ、まず間違いないでしょう」


 藤田は煙草をふかしながら、彼女達に聞いたゴーレムの話を思い出す。

 ビルと見間違うほどの巨大な岩の巨人だと。

 指の一本一本が電柱ほどの太さもあり、ビルを砕いて飲み込んだとも、千切って投げつけたとも報告には書いてあった。

 特撮映画でもあるまいし、でたらめにも程がある。

 最初は冗談かとも思ったが―――いや、正確にはそう思い込みたかっただけなのかもしれないが、彼の仲間も何人も目撃している以上信じざるを得なかった。


「もう一体の女王蟻。これはお前たちが相手にしている奴らの親玉だろうな……」


「ええ、おそらくは」


 藤田にとってはゴーレムよりもこっちのモンスターの方がなじみが深い。

 アリのモンスターはこの市役所周辺に限って言えば、ゴブリンやゾンビよりも出現率が高い。

 殺虫剤―――正確にはハチやアブに使うマグナムブラスターが弱点だと気付いたのも彼だ。

 それにしても、と彼は続ける。

 

「モンスターにも名前ってあるんですね……」


「そうだな……」


 女王蟻 個体名アルパ。

 ガーディアン・ゴーレム 個体名ティタン。

 モンスターに名前があるなど初めて聞いた。


(アルパって聞きゃあぱっと思いつくのは弦楽器だが、もう一体ティタンってのはギリシア神話、ローマ神話に登場する巨人の名前だったよな……)


 意外とそう言った雑学に詳しい藤田である。

 岩の巨人のモンスター。その個体名がティタン。

 これは果たして偶然なのだろうか?

 

「詳しい位置までは特定できないがどちらもこの近辺に居る。それだけは間違いない」


「なぜそう言い切れるんですか?」


「これを見ろ」


 上杉市長は手をかざす。

 すると彼の目の前に立体的な地図が表示された。

 イチノセが使用していたスキル―――『地図マップ』だ。

 彼女はガチャを使いこのスキルを手に入れたが、彼の場合は『市長』のジョブを選択した際にこのスキルを取得した。


 地図には市役所を中心に半径百メートル程を青い円が広がっており、更にそれを赤い円が囲っている。赤青の二重丸だ。


「『所有地』とは別に、新たに区切られた領域が表示された。名称は『討伐区域』と表示されている。おおよそ、この市役所を中心に直径一キロほどの範囲内だ」


 上杉市長の地図にはイチノセのそれとは違い、彼の『所有地』が表示されるようになる。

 そして、今回新たに別の領域が表示されたのだ。

 その領域の名が『討伐区域』。


「お優しいことだ。つまりこの領域内に居るから、探して殺せと―――そういう事なのだろうな」


「ははは、ますますゲームみたいですね……」


 藤田は思わず額を押さえる。

 一体この世界はどうなってしまったのか……。

 モンスター、経験値、レベル、スキルと来て今度は討伐クエストだ。

 まるで自分達がゲームの中にいるキャラクターにでもなったかのように感じる。


(いっそ頭がおかしくなったって思えればどれだけ楽だったんかなぁ……)


 頭上を照らす電気の輝き、肺をくすぐる煙草の煙、そして聞こえてくる人々の声。

 それらが紛れもない現実である事を藤田に突きつけてくる。


「ともかく、話は一旦終わりにしよう。お前も今日はもう休め。明日からはまた働いてもらわなければいかんからな」


「そうですね。ていうか、それを言うなら市長もでしょう。お年寄りはもうとっくに寝てる時間ですよ―――けん爺・・・


「生意気いうな、鼻垂れの小僧が」


 ハッと上杉市長は笑う。

 張りつめていた空気が若干和む。

 こうして彼らだけの密談はお開きとなった。




「……なるほどねぇ……」


 そんな彼らの話を聞いて、俺は先程感じていた違和感の正体が分かった気がした。

 あの市長は何か後ろめたい事を考えてたんじゃない。

 ただひたすらに、ここの住民たちの事を考えていたのだ。


 そりゃ悩むわ。

 せっかく電気も使えて安全地帯も拡張して、さあこれからだって時にこんな条件提示されたらそりゃあんな顔もするわな。


「しかし……聞いたところでどうするかな、これ……」


 現在、俺は彼らが居る部屋の隣に身を潜めて、彼らの話を盗み聞きしていた。

 この部屋にも鍵はかかっていたが、アナログ式の鍵なんて『影』で簡単にこじ開けられる。

 そこへ侵入、潜伏し、二人の話しを盗み聞きしていたという訳だ。


 まあ、聞いてたのは途中からだけどね。

 西野君たちを誤魔化して抜け出すのに結構時間が掛かったからな。

 六花ちゃんにも協力してもらって、なんとか一人になった俺は情報収集に動いた。


 んで、先程の演説の時の市長の態度が気になり、こうしてここへ来たわけだ。

 そしたら予想以上にヤバい話を聞くことになった。

 室内の様子は分からないが、会話の流れで大体『予測』が出来た。

 市長のスキル、そしてその拡張条件。


「ゴーレムと女王蟻の討伐、ねぇ……」


 馬鹿げてるにも程がある。

 蟻の方は西野君のメールでしか分からないが、あのゴーレムに関してははっきりと言える。

 あれは正真正銘の化物だ。

 あの巨体とパワーだけでも反則級なのに、出現直前まで感知も不可能ときたもんだから理不尽極まりない。

 水なしでハイ・オークを倒せと言われた方がまだマシだろう。……いや、それもきついけど。

 

 ともかく、そんな化け物を三日以内に討伐する?

 不可能だ。

 強力な爆弾かミサイルでもあれば話は別だろうけど、そんなのあるわけない。

 人手も戦力も何もかもが足りなさすぎる。


「そう言えば……仮にクリアできなかったらどうなるんだろ?」


 スキルのレベルがそこで頭打ちになるとか?

 もしくは最初からリセット?

 最悪、スキルそのものが消失するとか?


 どれも普通にあり得そうだ。

 つーかこの世界の非情さから考えて最後のが一番あり得そうだ。


 もう一つ気になるのが、ここまで無茶な条件を出されても彼らは『逃げる』という選択肢を取る気配がない事だ。

 おそらく市長の『町づくり』は、場所の変更が出来ないのだろう。

 まあ簡単に変更出来たら、それこそ反則級のスキルだろうしな。

 デメリットはあるが、それでも十分に魅力的なスキルだ。


「……欲しいな」


 もしこのスキルを獲得し、場所を厳選して使用すれば、俺たちの安全はほぼ約束される。

 食料はそれこそ腐るほどあるんだ。腐らないけど。

 あとは安全な場所だけ。

 その為にこうして情報収集してるわけだし。


 ん、待てよ? そいえば俺の初期選択可能職業には『市民』というのがあったな。

 当初は意味の分からない職業だと思っていたが、もしかしたらこれを成長されば『市長』が上位職で出てくる可能性もある。

 試してみる価値はあるかもしれない。


 ただ、そのためにはもう一つ確認しておかなければならない事がある。

『町づくり』の条件が不達成になった場合のペナルティだ。

 レベルの頭打ちやリセットになる程度ならそれでも十分。

 だが、万が一スキルそのものが消滅するならばそれまでの苦労が無になる。

 だったら、いっそここの人達で―――。


「ッ……」


 と、そこまで考えて俺は我に返る。

 何を考えてるんだ俺は。

 よりにもよって、彼らに『失敗してほしい』だなんて。

 いくらなんでもそれはあんまりだろう。


「あー、くそ……心が荒んでるなぁ……モモが、モモが恋しい……」


 ガシガシと頭を掻く。

 こんな時は、モモをモフモフして癒されたい、

 自分で言い出した事だが、やっぱモモと離れるのは辛いなぁ……。


「……(ふるふる)?」


 アカがだいじょうぶ? と体を震わせる。

 ごめんごめん、心配させちゃったか。


 ともかくこれからどうするかを考えよう。

 ここに残るか、それとも離れるのか……。

 もしくは一定の距離を置いて監視するか。


≪メールを受信しました≫


「ん?」


 イチノセさんからメールが送られてきた。

 なんだろうか? とりあえず開いてみる。


『お疲れ様です。その後の進捗はどうですか? もしクドウさんお一人で行動されているのであれば、決してご無理はなさらないで下さい。学校でもそうでしたが、クドウさんは仲間の為だと結構無茶をしますので……。

アナタに何かあればと思うと私もモモちゃんも気が気でありません。あ、いや、あくまでパーティーメンバーって意味ですから。特に深い意味とかはありませんから。そこは勘違いしないで下さい。

でも何かあれば、私もモモちゃんもすぐに力になりますので連絡ください』


 イ、イチノセさん……。

 不覚にも、俺はそのメールに感動してしまった。

 そうだ彼女の為にも頑張らないと。


『追伸―――ちなみにモモちゃんは私の隣で寝てます。超モフモフです』


 こんちくしょうがっ! あのアマッ!

 ちょっと見直したらすぐこれだよ! ホントメールだとキャラ変わるな、この人。


 そう思っていると、未読メールが一件増えた。

 六花ちゃんだ。

 西野君たちを引き留めておくのが難しくなったら連絡を入れる様にお願いしておいたのだ。

 てことは、いったん戻らないとマズイか。


 まあ、今日はもう休むとしよう。

 問題は明日以降だな。ここに留まりどうなるかを見届けるか、それとも離れるか。

 疲れてるし、ゆっくり休んで、明日結論を出すとしよう。

 とりあえず俺はその場を離れ六花ちゃんの元へ向かうのだった。


 こうして五日目の夜は過ぎて行った―――……


























 ―――そして、全てが眠りに就く深夜。

 ハイアンデッド・ダーク・ウルフこと―――シュヴァルツはビルの屋上に佇んでいた。

 彼は遠く離れた一点を見つめる。

 その先に在るのは光。

 星と月だけが照らす美しい夜を鈍らせる人工的な光があった。


『フム……』


 多少不快ではあるが、彼の興味はそこにない。

 あるのはそこに居る一人の人間だけだ。

 クドウ カズト。

 彼が関心を寄せる人間のいる場所を彼はじっと見つめる。


『群レニ入ッタノカ……』


 その声には少しばかりの驚きの色があった。

 そう簡単に他人を信用する様な人物には見えなかったが何かが変わったのだろうか?

 

『マア、ソレモ良イカ……』


 どの様な方法であれ、強くなってくれるのであればシュヴァルツとしては文句はない。

 好敵手の姿勢に満足し、彼は踵を返す。


『我モソロソロ動カネバイカンナ……』


 向こうが群れを成すならば、自分もまた群れをつくらなければいけない。

 元々引き連れていた群れはあの人間達に全滅させられた。

 ならば新たに作るとしよう。

 あの人間を正面から叩き潰し、己の番いを迎え入れるための最高の群れを。


『フム……』


 そう考えれば、昼間に自分の下を訪れたあの屍騎士を倒したのは早計だったかもしれない。

 傘下に入るのは御免だが、向こうが降るのならば考える価値はあったやもしれん。 

 シュヴァルツはビルの屋上から身を乗り出し、クルクルと回転しながら地面に着地する。

 さて、どちらへ向かおうか。

 最高の群れをつくるのだ。

 ならばより強い者の気配のする方へ向かうとしよう。

 そう思い、歩き始めた矢先だった。

 不意に足元が揺れた。


『何ダ……?』


 シュヴァルツは足元に目をやる。

 揺れはさらに激しさを増した。

 アスファルトに亀裂が走り、地面が隆起する。

 そして大地がせり上がる様にして、岩の巨人が姿を現した。

 

『……何カ用カ?』


 大した驚きも無く、シュヴァルツは現れたそれに話しかける。

 返答はない。

 岩の巨人はジッと自分を見下ろしている。

 少しだけ、シュヴァルツは不愉快気に顔を歪ませる。


『用ガナイナラ失セルガイイ。土塊如キガ我ノ進路ヲ妨ゲルナ』


 警告。

 それは暗に今ならば見逃してやるという、シュヴァルツなりの慈悲だ。

 このまま去るのならよし。

 だが、もし去らぬというのならば―――。


 ジッと見つめ合う事数秒。

 

「―――ルォ……ルルルルルゥゥゥゥ……」


 岩の巨人は拳を振り上げた。

 それが答えだった。


『成程……所詮ハ土塊。力ノ差モ分カラヌカ……』


 昼間ならまだしも、自分の力が最も高まる夜に牙を剥くとは。

 その愚かさにシュヴァルツは呆れる。


『ナラバ、消エロ』

 

 シュヴァルツの足元より『闇』が溢れ出す。

 夜を塗りつぶす程のより深く黒い『闇』が。


「―――ルルルルルゥゥゥゥウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」


 岩の巨人が雄叫びを上げる。


 直後。

 巨人の拳と闇が―――激突した。

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【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
ツギクルバナー
書籍7巻3月15日発売です
書籍7巻3月15日発売です

― 新着の感想 ―
オオカミさんオオカミさんあなたも仲間におなりませんか???? 主人公が拒否しても読者は歓迎ですよー!!
[一言] ビルを投げておとしたら 距離が120kmぐらい離れていても、とんでもない音が聞こえるとおもうが? この世界は地球より音が届きにくいみたいですね 距離の算定は完全に適当です
[良い点] 一ノ瀬さんのメールへのツンデレぶり 最後の 直後。  巨人の拳と闇が―――激突した のくだり [一言] いつも楽しく読ませてもらってます。最初にマンガの方ちょっと見たんですが原作がこちらだ…
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