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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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106.市役所


 それから十数分後。

 西野たちは無事に市役所に到着した。


(凄いな……)


 まず最初に目に付いたのは巨大なバリケードだ。

 市役所の周りを囲む様に、車やいす、テーブルなどを寄せ集めて、更にそれらを土で固めて作られている。

 高さは十分。

 しかも所々に掘も造られているではないか。

 モンスター相手でも十分防衛として機能するだろう。


(どう見ても人の手だけじゃ不可能だな……)


 モンスターがあふれる世界となってまだ五日。

 仮に初日から手を付けたとしても、ここまで見事な防衛を築くのは不可能だろう。

 となれば考えられる可能性は一つ。


(なんらかのスキルで作ったのか……)


 西野は、五十嵐会長の弟妹である双子を思い出す。

 彼らは手から炎や岩を作り出すスキルを持っていた。

 同じように、土を操るスキルを持っている者がいたとしてもおかしくはない。


「おーい、戻ったぞー」


 先頭を歩く藤田が手を振る。

 すると役場の屋上で誰かが手を振っているのが見えた。

 なにか合図を送っているようだ。

 

「よし、んじゃ、中に入るか」


 これは予想以上に規模が大きそうだ。

 そんな事を考えながら、西野たちは市役所に足を踏み入れた。

 



 バリケードを抜けると、駐車場が広がっていた。

 ただし車は一台も無く、代わりに仮設のテントや仮設トイレがいくつか建てられている。

 視界の端には、武器を持った男達が巡回しているのも見えた。

 

「よし、ここまで来ればもう大丈夫だ」


 煙草に火をつけながら藤田が言う。

 それを合図に、彼の周囲に居た男達がへなへなとその場にへたり込んだ。


「つ、疲れたー」「もう無理……マジしんどい」「ホント、歳とるとバテるの早いなー」「これ残業出るんっすかねー?」「出るわけねーだろ馬ー鹿」「そりゃそうだ、ははは」

 

 雑談しながら笑い合っているが、彼らも相当疲労しているのだろう。

 その顔には疲労感がありありと浮かんでいた。


 まあ、それは西野たちとて同じことだ。

 本音を言えば、立っているのもやっとの状態。

 後ろの二人―――柴田と五所川原も同じだろう。

 五所川原に関しては、もはや顔面蒼白で「ハァ……ハァ……丸太……」なんて呟いている。ちょっと別の意味でヤバいかもしれない。


(とはいえ、まだ気を抜ける状況じゃないな……)


 助けられたとはいえ、西野はまだ彼らを信用したわけじゃない。

 それに他の仲間とも合流しなきゃいけないし、六花に連絡を入れなくてはいけない。

  

(まずは『メール』で仲間に連絡、いや、先にメールリストで彼らの名前の確認か?六花へ連絡もしないといけないしやる事が多い……ああ、くそ、駄目だ。考えがまとまらない……)


 疲労と緊張で、まともに思考が働かない。

 視界もボヤけるし、このまま倒れると寝てしまいそうだ。

 そんな風に思っていると、入口の方から誰かがこちらへ向かってくるのが見えた。

 スーツを着て、眼鏡をかけた秘書風の女性だ。

 元々の顔立ちは美しいが、目の下のクマや漂う疲労感がそれを打ち消している、そんな印象を抱いた。


「おう、清水ちゃん、お疲れさん」


 煙草を吹かす藤田に一瞬顔を顰めつつも、清水と呼ばれた女性はすぐに笑顔になる。


「藤田さん、お疲れ様でした。どうだった、今回の成果は?」


「けっこうモンスターを倒したよ。蟻のモンスターが十二体。それとゴブリンが三体、ゾンビが五体だったかな。魔石はちゃんと全部拾って、この袋に入ってる。それとそっちのリュックには食料や生活用品が入ってる。手つかずのコンビニや商店がいくつかあったから拝借してきた」


「ありがとう。じゃあ、後で台車を持ってくるわね。それとどこのコンビニかも教えて。後で他の人にも行ってもらうだろうし」


 そう言って彼女は魔石の入ったコンビニ袋を貰う。

 食料は後でまとめて運ぶようだ。

 袋の中に有る魔石を見て、彼女は笑みを深くする。


「……かなりの量ね。本当にお疲れ様。じゃあ、これは市長に渡しておくわ。多分これでまたレベルが上ると思うし」


「ああ、頼む。そうすりゃ範囲も広まるし、他の施設も使えるようになるかもしれねぇ。他に探索に出た奴らは?」


「池田君と太田君のグループはもう戻って来たけど、かもめちゃ―――二条さんのグループがまだ戻って来てないわね。海岸の方を見に行くって言ってたわ。まあ、彼女の事だから心配はないと思うけど……」


「そっか。悪いな、来て早々色々頼んじまって」


「それはこっちのセリフよ。押しかけたのは私達の方だし、いくらでも力になるわ。……あら?そう言えば、そっちの子達は?」


 そこで、彼女の視線が西野たちへ向く。

 ようやく彼らの存在に気付いたようだ。

 西野たちは、一瞬身構える。

 それを見て、藤田が苦笑した。


「見ての通り、学生とおっさんだよ。ここへ来る途中で保護した」


「そう……大変だったのね。よく頑張って生き延びたわね。もう大丈夫よ」


 清水は西野たちに近づき、その頭を労わるように優しく撫でた。


「あっ……」


 その仕草に、西野と柴田は思わずドキッとしてしまった。

 清水のそれは五十嵐会長の様な裏心有っての労りではなく、本心からの行動だ。

 それが伝わったのだろう。

 かぁっと顔が赤くなる。

 彼らだって思春期真っ盛りの高校生。

 年上の女性特有の母性は、彼らの脳を容易く溶かした。


「……いやぁ若いっていいねぇ……」


 そんな二人をしみじみと見つめるオッサン、五所川原八郎(55歳)。

 彼の持論は、『女性は四十を過ぎてから』である。


「ちなみに清水さん、そいつら全員ちゃんとスキル持ってるぞ?」


「えっ、本当なの?」


「え、いや、まあ……はい」


 西野は頷く。

 ここは別に隠さなくても問題ない。

 すると、ガシッと清水に肩を掴まれた。

 え?なに?と一瞬身構えてしまう。


「…………新たな労働力確保」


 え?今、なんて言ったこの人?

 なんかちょっと目が怖いんですけど。


「歓迎するわ。ようこそ、市役所へ」


「あ、はい……」


 とりあえず頷いた。


「さて、ここで立ち話もなんだ。とりあえず、中に入ろうぜ?コイツらにも、ここが『どういう場所』か、ちゃんと説明しないといけないしよ」


「そうね」


「んじゃ、三人とも俺たちについて来てくれ」


 藤田、清水に導かれて、西野たちは市役所に入る。

 中は予想よりも整然としていた。

 目に付く人々も活気があり、学校よりもずっと統制がとれている様に感じられた。




「ま、適当に座ってくれ」


 応接室に通され、西野たちはソファーに腰かける。


「ホントはお茶でも出せればいいんだがな。こんな状況だ。我慢してくれ」


「いえ、別に構いませんよ」


 飲み水は貴重だ。

 無駄使いは出来ないのは、西野たちも十分分かってる。


「そう言ってくれると助かる」


 「見た目の割にしっかりした子ね」と清水が呟くと、「さっきもおなじことを言われたな」と西野は苦笑した。

 その後、お互いに改めて自己紹介を済ませると、藤田が本題を切り出した。


「さて、単刀直入に聞きたいんだが、西野君、柴田君、五所川原さん。俺たちと一緒に行動するつもりはないか?」


 その問いかけは、西野のほぼ予想した通りのものだった。

 なので、西野も用意していた答えを返す。


「勿論ですよ。危ない所を助けて頂きましたし、藤田さん達のような強い人たちと一緒に行動できるなら、僕達としても心強いです」


「そうか、そりゃ良かった」


「ただ……ここへ来る途中に仲間と逸れてしまいまして。出来れば彼らの捜索を手伝ってほしいのですが……」


「ああ、そりゃ勿論だとも。こっちとしても人数は多い方がいいからな」


「ありがとうございます」


 西野は頭を下げる。

 それを手で制止しながら、藤田は煙草に火をつける。

 五所川原にも勧めるが、彼は煙草を吸わないらしく断った。


「さて、何から話せばいいか……そうだな、とりあえず一番大事な事から話すか」


 ふぅーっと煙を吐き出し、藤田は告げる。


「まず最初に言っておく。ここはモンスターが襲ってこない」


「……え?」


 一瞬、西野はその言葉の意味が分からなかった。


「……どういう意味ですか?」


 だから素直に質問した。


「言葉通りの意味だよ。ここは―――『市役所』はな、モンスターが襲ってこない『安全地帯』なんだ」

 

 その言葉に、西野たちはたっぷり十秒ほど固まり、そして一斉に驚きの声を上げた。


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― 新着の感想 ―
市役所より使役所が頭に浮かびました。
[一言] 「言葉通りの意味だよ。ここは―――『市役所』はな、モンスターが襲ってこない『安全地帯』なんだ」 ↑ 『牧場』って単語が浮かんできたけどナゼダロウ(>ω<) 『何故』安全地帯なのかが分からない…
[一言] インテリゾンビの彼は市役所に向かうって言ってたからもうダメそう
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