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214/220

No.214:考えてくれてなかったんですか?

ID:1897697様、本日も誤字報告有難うございました。とても助かります。引き続きよろしくお願いします。


 もちろんこのニュースは、日本でも話題となっている。

 日本のコンテストでも、あれだけ話題になった美少女だ。

 業界紙やネットニュースでも取り上げられていた。

 表彰式で緊張した面持ちで、楯を受け取っている小春ちゃんの写真が掲載されていた。


「またこの子か! マジ凄いな」

「世界の小春ちゃん、やっぱ可愛い!」

「ちょっとミラノまで、ドリア食いにいってくるわ」

「ミラノにドリアは無いんだよ!」

「この家具マジで欲しい! どこで買えるの?」


 ネット民がざわつく中、ようやく社長は「自分の娘は、実は天才だったのかもしれない」と理解するようになった。

 さすがにこのチャンスを見逃すわけにはいかない。

 社長はさっそくミラノの小春ちゃんにコンタクトを取った。


 小春ちゃんのもとには、世界中の家具メーカーからデザインの依頼が殺到しているらしい。

 ただ小春ちゃんはイタリアでもっとデザインと設計の勉強をしたいらしく、ビジネスには後ろ向きだった。

 しかしさすがに日本の父親からのお願いは、断りきれなかったようだ。

 小春ちゃんはうちの会社と、デザインと設計に関する契約書を締結したのだ。


 そして今、その新しいブランドのプロジェクトが進んでいる。

 ブランド名は、ずばり『KOHARU』だ。

 KOHARUブランドで例の折りたたみ式の机と椅子のセットと、日本のコンテストでグランプリを受賞した座椅子をベトナムの工場で生産する予定で準備を勧めている。


「KOHARUブランド、上手くいくといいですね」


「ああ、きっと上手くいくと思ってる。あれだけ話題になったし、一応うちの会社が独占で生産販売ができるわけだからね」


 なんとかこれで前回の失敗をカバーしたい……というのが社長の本音のようだ。



「ところで明日菜ちゃん……」


 俺は少し緊張した声で、そう語りかけた。

 俺は今日、ある事を明日菜ちゃんに話そうと心に決めていた。



「突然なんだけど……明日菜ちゃん、これから俺と……結婚を前提に付き合ってくれないか?」


「え?」


 明日菜ちゃんは一瞬、きょとんとした表情をした。

 それから一気にいつもの笑顔に戻った。


「はい。もちろんそれは嬉しいんですけど……ていうか、今までは結婚を前提に考えてくれてなかったんですか?」


「え? い、いや、そういうことじゃなくって」

 意外な明日菜ちゃんのツッコミに、俺はたじろぐ。


「いいんですけどね……でも私は瑛太さんと将来結婚するつもりでずっといましたよ。他の人と結婚するなんて、1ミリも考えられなかったです」


「そ、そっか。うん……実は俺も明日菜ちゃん以外の女性と結婚なんて、全然考えられないんだよ。だからとりあえず、意思表示はしておきたいなって思ってさ」


「もう……じゃあ、そういうことにしといてあげますね」

 

 いつもの柔らかい、俺を包み込むような笑顔で明日菜ちゃんはそう言った。

 ようやくここで機嫌を直してくれたようだった。


 俺がこんなことを言おうと思ったのには、理由がある。

 先日美桜と星野、それから吉川と4人で久しぶりに食事をした。

 そのときに、吉川と星野が婚約したことを知ったのだ。

 今二人で結婚式場を探している最中とのことだった。


 そして美桜も、今お付き合いをしている会社の先輩からプロポーズをされたらしい。

「いい人なんだけど……わたしはまだ入社して4年目だし、ちょっと早い気がして……」と、答えを保留しているとのことだった。


 26歳で結婚とか考えるのは早いんじゃないか?

 俺はそう考えていた。


「とりあえずさ、仲代もあの明日菜ちゃんだっけ? その……意思表示ぐらいはしておいたほうがいいんじゃないか?」

「そーだよね。あれだけの美少女なんだし」

「瑛太君、ぼやぼやしてたら明日菜ちゃんに逃げられちゃうかも」


 そんな感じで、俺は3人からはやし立てられてしまったわけだ。

 別に俺は焦ってはいない。

 むしろ奨学金とか生活のことを考えると、結婚する余裕があるのかさえ疑問だ。


 ただ……ひょっとしたら、明日菜ちゃんは不安に思っているかもしれない。

 だったらとりあえず「俺は明日菜ちゃんと結婚したいと思ってる」という意思表示は、する必要があるだろうと思ったのだ。


「社長にも挨拶に行きたいと思ってるんだ」


「そうですか。私も瑛太さんのご実家に、ご挨拶に伺いたいです」


「うん、まあそれは時間ができた時でいいと思う」


 俺は不思議な心地だった。

 明日菜ちゃんとこうして、二人の将来のことを語るようになった。

 俺自身がそんなことを考える年齢になったという事実に、驚きを感じている。

 

 俺は明日菜ちゃんを幸せにできるだろうか。

 社長は俺たちの結婚を、認めてくれるだろうか。

 俺はいつもとは少し違う、一抹の緊張と不安を感じていた。


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