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No.192:お弁当

ID:2118062様、本日も誤字報告有難うございました。いつも助かってます。引き続きよろしくお願いします。


 翌日のお昼休み時間。

 俺はいつも通り、6階の社員用休憩室にいた。


「はい、それじゃあいただきましょうか」 


 隣の明日菜ちゃんがそう言って、二人で小声でいただきますをする。

 そして二人同時に、お弁当のフタを開ける。

 両方とも明日菜ちゃんが作ってくれるので、当然中身も一緒だ。


「あらー、もー本当にご馳走さまー」

「もう、こっちは何食べても甘いわよ」

「ちょっと、冷房入れてよ。この辺暑すぎるわ」


 周りの女子社員数名が、いつものように囃し立てる。

 男子社員はほとんど外食か、あるいはコンビニで買ってきて自分のデスクで食べている。

 俺と明日菜ちゃんはフロアが違うので、こうして休憩室で一緒に食事をすることになる。

 最初はこの女子社員からの視線がたまらなく恥ずかしかったが、今ではもう慣れてしまった。


 そして席を一つ空けて食事をしている男子社員がもう一人。

 宮城君である。


「宮城君のお弁当は、お母さんが作ってくれるの?」


「え? は、はぃ」


 明日菜ちゃんの問いかけに、宮城君は小声で答える。

 ただ意外なのが、その弁当箱の大きさだ。

 俺の弁当箱の倍ぐらいの大きさがある。

 あの小さな体のどこにそれだけ入っていくのか。

 しかもそれだけ食べて、その声のボリュームなのか? 

 いろいろと謎の多い宮城君だった。


「自分のデスクで食べるのって、仕事の延長のような気がして……」


 そう言って宮城君も、この休憩室で昼食を食べるようにしているそうだ。

 その意見には、俺も賛成だ。


 昼食を食べながら、明日菜ちゃんはいつもいろんな話をしてくれる。

 最近小春ちゃんが、以前ほど自分の部屋にこもることが少なくなってきたこと。

 ご近所からブラックタイガーをたくさん頂いたらしく、だから今日のお弁当はエビフライだったこと。

 経理部長が差し入れに買ってきてくれたマカロンが美味しくて、女子社員全員に大好評だったこと。

 そんな話を聞いているだけで、俺はいつも気持ちがほっこりする。


 昼食を終えて、俺と宮城君は自分たちの部署に戻る。

 資料を見ながら、次回の発注のことを考えていたとき……


「仲代! あ、すいません……」


 声がでかいな……。

 うちの部全員からの視線を向けられて、怯んだ岡山が俺の横まで来ていた。


「おお、岡山。連絡があったのか?」


「ああ、連絡があった。いけるぞ! 一括してあの八王子倉庫へうちの会社から直接搬入することが可能だ! 本当はアイテムごとに送り先を変えないといけないんだけど、あのAzomanの八王子倉庫は規模も大きいし、うちの会社の事情を説明したら一括して自分たちで持ち込むことを認めてくれた!」


 岡山は興奮気味だ。


「本当か? やったな」


「ああ。うちの倉庫の人たちにはちょっと手間をかけちまうけど……その分運送費をカットできれば、赤字になる商品はなくなる!」


「よし。さっそく企画書、上げてくれるか?」


「ああ、すぐにやるよ。ドラフトができたら送るから、仲代も目を通してくれるか?」


「もちろんだ」


「二人とも、なんだか楽しそうな話をしているな。もうちょっと詳しく教えてくれないか?」

「うん、僕にも教えてよ」


 俺の横で話を聞いていた増田部長と、いつの間にか社長室から出てきていた社長が興味津津だ。


 俺たちは今までの経緯を話し始めた。

 いろいろと調べると、FBAではほとんどの商品でコスト負けをしてしまうこと。

 ネックになったのが、うちの倉庫からAzomanの倉庫への発送コストだったこと。

 しかし偶然、宮城君が八王子のAzomanの倉庫を見つけたこと。

 交渉の結果、自分たちで一括してその倉庫へ持ち込むことを認めてもらったこと。

 その結果、運送費をカットできて大半の商品で利益が出ること。


「すばらしいじゃないか。よくそんな発想ができたね」


「見つけてくれたのは、宮城君ですよ。彼のファインプレーです」

 

 俺は社長にそう答えた。

 宮城くんは顔を少し紅潮させ、はにかんでいる。


「それならできるだけ早く始めたいね。企画書を上げてもらう一方で、Azomanとの契約も進めてもらっていいからね。課長には僕から話しておくから」 


「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 そう言って岡山は社長に向かって90度のお辞儀をして、小走りに出ていった。


「いいじゃないか。アジアからの商品だけじゃなく、うちには既存のヨーロッパからの商品もある。ネタはたくさんあるから、当たればそれなりの売上になる可能性があるぞ」


「ええ、そうなるといいですよね」


 増田部長にそう答えた俺は、声がうわずっていた。

 自分でも興奮していることがわかった。


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