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雪柳に見る積雪風景

不思議なものだ。あれほど好きで、人生をかけていた、よっちゃんへの恋の道が塞がれても、素知らぬ顔で朝日は登るし、私の呼吸が突然止まることもないし、当たり前のように制服に着替えて一日を歩みだしてしまう。世界は私の恋に関知しないし、私は案外図太かったようだ。

普通に登校したが昼休みが近づくにつれてそわそわするようになってしまった。昼休みには約束があるからだ。


「どうしたの?野菊。そんなそわそわしちゃって。」


友人の絵梨えりちゃんが笑った。


「そわそわしてるわけじゃないけど…」


口籠る。


「ふふ。よっちゃんのことがあるから結構心配してたんだけど、案外大丈夫そうね。」

「……すっきりしたからかな。」


和泉先輩が疑似告白させてくれて、ちゃんとよっちゃんに思いを伝えさせてもらったような気がして、すっきりしている。心晴れやか!というわけにはいかないけれど、鬱々として究極に未練を引きずっているわけではない。まだよっちゃんを直視して笑うのは無理そうだけど、別の方向を見るくらいの余裕はある。


「初恋は重いわよねえ。」

「……絵梨ちゃんにも経験が?」

「小3の頃、片思いしていた男の子に『キモイな、ブス』って言われた。猛烈に悲しくて、悔しくて、情けなくて、お洒落するようになった。」


確かに絵梨ちゃんはお洒落さんだ。皆と同じセーラー服だけど、髪は綺麗に編み込んでみたりアレンジしているし、持っている筆記用具や鞄もお洒落だ。校則を飛び出ない範疇で綺麗にしてる。因みにとてもモテる。


「でも小3の頃の私、本当に笑っちゃうくらいブスなの。写真見る度『これはブスだわー』って思うよ。」


絵梨ちゃんと仲良くなったのは小5になってからだ。その頃は既に結構可愛かったけどね。


「小3の写真見せてよ。」

「ヤダ。」


絵梨ちゃんが笑った。

きちんと授業を受けて昼休み。教室の入り口にひょこっと和泉先輩が顔を覗かせた。私はお弁当と飲み物を持って駆け寄った。


「和泉先輩。」

「野菊ちゃん。準備は万端?」


和泉先輩が微笑んだ。


「勿論です。」

「じゃあ、レッツゴーだ。」


和泉先輩に連れられて中庭のベンチに行った。


「うわあ…」


これは確かにすごい。穴場だ。まるで一面の雪景色。中庭中に白い小花の咲いた低木が生えている。一面真っ白で、時々風に波打っている。柳のように枝垂れ状になった枝に白い花がみっちりとくっついているのだ。


「すごいでしょ?『雪柳ゆきやなぎ』っていうんだよ。白くて可愛らしい花だけど、すごく繁殖力が強いみたいでさ。あんまり綺麗だから、こっそり2,3本枝をもいで家に帰って庭に飾ったら、そこから繁殖しちゃって庭の3分の1くらいもうもうと雪柳が生えちゃって、庭の管理人の母さんに叱られた。」

「ふふ。」


ちょっと間抜けな和泉先輩がおかしくて笑った。


「やっぱり野菊ちゃんは笑ってる方が可愛いね。」

「……有難うございます。」


ちょっと照れた。二人でベンチに座ってお弁当を広げる。和泉先輩のお弁当は中々可愛いお弁当だった。鮭フレークとハムで星が描かれている。たこさんのウィンナーも入っている。


「和泉先輩のお弁当ってすごく可愛いですね。お母さんの作品ですか?」

「うん。結構凝るタイプみたいで色んなお弁当作ってくれるよ。一時期は『キャラ弁』?あれに凝ってて、図画工作かよ!って感じに切り絵の海苔でキャラクターが描かれたのり弁とか作られた。作ってもらってる身だから文句は言えないけど、人前でお弁当開くのには勇気が要るよ。」

「ふふ。」


ちょっと見てみたかったな。私のお母さんはあまりお弁当には凝らないタイプ。昨日の夕食の残り物と、適当に朝お肉焼いたり卵焼いたりしたやつと、冷凍食品でささっとおかずの面積を埋めて、後はご飯が敷かれて、ふりかけが同封されている。その代り手品かよ!っていうくらい作るのが早い。味も普通に美味しい。

授業でわかりにくかった部分の話をしたら「今度教えてあげようか?」と提案された。真面目そうな和泉先輩は見た目を裏切らず真面目らしく、成績はいいんだと言っていた。


「でも球技が苦手でねー…。走るのとかは案外早いんだけど、ボールを使う運動はあらかた苦手で…………ドッヂボールってボールを使ったただの暴力だと思わない?」

「……痛いですよね。」


私もドッヂボールは苦手だ。


「でも私、ボーリングは結構得意です。」

「ずるいんだー。」


和泉先輩はボーリングも苦手であるらしい。他愛ないお喋りが楽しくてクスクス笑った。


「本当にここ穴場ですね。」

「でしょ。あんまり人こないし。デートには最適。夏は暑いから勘弁だけど。」


で、デート…まさかと思うけど、違うと思うけど、これってデートなのかな…?お弁当デート…自意識過剰?というか振られたからっていきなりデートは他所に靡くのが早すぎるよ。

おろおろして先輩を見つめたら片手で頭をポンポンされた。


「野菊ちゃんの心が新雪で真っ白になったら……足跡つけさせて?」


そっと囁かれてドキドキと胸が高鳴る。これって婉曲な告白ではなかろうか。い、和泉先輩って結構惚れっぽいタイプなのかな?

和泉先輩…優しくて素敵だけど…今はまだ私の心にはよっちゃんが住んでいる。





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