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平凡な恋の終わり

もう一作の胸キュン賞への応募作品が微妙に主題とずれてる気がして、ガッツリ学園物を書いてみようと試みました。頑張ったけど疲れたー

平凡な恋の話をしよう。

私と洋平よっちゃんは幼馴染だった。幼稚園から一緒の。よっちゃんは平凡な男の子だ。頭の出来は普通。運動はやや得意。性格はちょっとやんちゃだけど、面倒見がいい。小さな頃から私はよっちゃんが大好きで、よっちゃんの後ろをついて回っていた。すごく仲が良くて、毎日一緒に遊んだ。

よっちゃんは小学生になった頃から少しよそよそしくなったけど、それでも私は大好きだったし、家も近くだったので一緒に登下校した。よっちゃんはすぐ私のことを「泣き虫!」と苛める。でもその後「嫌いじゃねーけど。」と付け足す。子供特有の曖昧な距離感。私はお調子者のよっちゃんとは逆で少々内向的。お調子者のよっちゃんを見ている内気な幼馴染。

成長はやってくるもので小学校高学年になると私の身体も少し丸みを帯びた。その性差が心を頑なにさせるのか、よっちゃんとの距離はもっと広がった。小学校高学年ではよっちゃんは男友達と下校するようになった。

それでも休み時間にふざけ合ったり、たまには一緒に下校してくれていたので、相変わらず私はよっちゃんが大好きだった。

よっちゃんと私は中学生に上がった。よっちゃんはやんちゃだった面影を残しつつもちょっと格好良くなって、私の胸はときめきっぱなしだ。

ただ悩んでいた。いつ告白するか。

このままよっちゃんが格好良くなり続ければ、いずれはよっちゃんをただのお調子者だと思っていた女の子たちもよっちゃんの魅力に気づくかもしれない。

私はじりじりと告白の機会を待ち構えつつ待機…………しているうちによっちゃんには可愛い彼女が出来ましたとさ。

笑顔で私のことも紹介してくれた。


「こいつ俺の妹みたいなもんの早川野菊はやかわのぎく。野菊、こっち、俺の彼女の羽生彩美はにゅうあやみ。羨ましかろ?」


妹みたいなもん……朗らかなアウトオブ眼中発言に私の心は抉れた。

よっちゃんは私の気も知らずに羽生さんを紹介してくれた。羽生さんは可愛い子だった。ふわふわの栗毛に大きな榛色の瞳の色白の美少女。思わず守ってあげたくなるような小動物的な女の子。


「おめでと。よっちゃん…洋平に春が来るなんて天変地異の前触れかな。」

「ふっ。明日槍が降っても彩美は俺が守る。」


よっちゃんは相変わらず調子に乗っている。


「はいはい。御馳走様。爆散しろ。」

「ははは。」


よっちゃんと軽口をたたき合って、小走りに立ち去ると階段の踊り場で蹲って泣いた。体育座りで延々とセーラー服のスカートに涙を吸わせた。

本当に平凡な恋。

山も谷もない物語にすらならないような平凡で平坦でつまらない……失恋。

そう思ったらますます泣けた。

毎年あげていた心のこもった手作りチョコレートも、きっとよっちゃんの中では惰性で貰っている義理チョコであったのだろう。小さい頃は「大好き」などと無邪気に言っていたが、自我がはっきりしてくると次第に言わなくなった非が私にもある。

もっと好きだと言い続けていたら何か変わったのだろうか。『妹』じゃなくて『異性』として見てもらえたのだろうか。

ほんの小さな幼稚園くらいの頃はよっちゃんのお嫁さんになれるって信じて疑ってなかったのにな…ばかみたい。スカートはますます濡れた。


「使う?」


すっと水色のチェック模様のハンカチが目の前に差し出された。


「……有難うございます。」


私はハンカチを受け取ってあふれ出る涙を拭った。ハンカチの持ち主は私の隣に腰掛けた。ずっと黙って座っている。私はハンカチに涙を吸わせながら嗚咽を上げた。

相手は私の一学年上の先輩だ。上履きのラインの色でわかる。中一が臙脂。中二が青。中三が緑。先輩は青いラインの上履きを履いている。ただ何も言わず傍にいてくれるので、私はぽつりぽつりと平凡な恋の平凡な失恋の話を語って聞かせた。結局全員死んでしまったよっちゃんと内緒で公園で飼っていた3匹の子猫。よっちゃんと競い合った自転車の練習。上達していった手作りチョコレート。みんなみんなよっちゃんとの思い出。他の人にとって、他愛なくつまらない日常。でも私にはきらきらした日常。


「今は今だけしか見えてないから辛いんだよ。いつか将来、ちっちゃい頃はあんな恋してたっけ…って懐かしく思う時代が来るのさ。それにはこれから先、色んな体験をして、成長して、大人にならなきゃならないけれどね。失恋に効くのは時間と新しい恋だよ。今は君の心はよっちゃんの足跡で踏み場がないけど、時間という新雪が降ればまた新しい足跡がつくものだよ。」

「先輩も失恋したことがありますか…?」

「去年まさに。僕の場合、告白して玉砕だったけれどね。『いいお友達でいたいな』なんて言われて、無理に決まってるのにね。今僕の心には新雪が降っているところ。ゆっくりと彼女の足跡を覆い隠して、新しい足跡をつけてくれる人を待ってる。」


よっちゃん、よっちゃん…私の心にもよっちゃんの足跡を覆い隠す新雪が降ったらいいのに。


「でも、君はずっと想ってたなら先んじて告白くらいするべきだったね。」

「後悔してます。」

「なんだかスッキリしないでしょ。」

「はい。」

「目を閉じて僕をよっちゃんだと思って告白してみる?」

「……。」


私はそっと目を閉じた。

瞼の裏側に描くのは戸惑った表情のよっちゃん。


「……『よっちゃん。私ね、ずっとずっと前からよっちゃんが好きなんだ。よっちゃんとの思い出は沢山ありすぎて語り切れないけど、よっちゃんのおかげで毎日きらきら輝いてたよ。出来ればこの先も、ずっとずっとよっちゃんの隣できらきらを味わっていきたいです。好きです、よっちゃん。』」

「『……ゴメン。想ってくれてありがとう。』」


先輩の声はよっちゃんとは全然違ったけど、よっちゃんに言われてるみたいな気がしてちょっとすっきりした。私はまた少し涙が出たけど、前に進めそうな、そんな気がした。


「あの…ハンカチ、洗濯して返します…」


私の涙を吸ってぐっしょりなのだ。


「そのハンカチは君が取っておいて。いつか使うべき時使って。僕は2-1の和泉東吾いずみとうごだよ。宜しく。」

「私は1-4の早川野菊です。」

「うん…目が大分腫れぼったいね。家に帰ったら冷やすと良いよ。」

「はい。」


それが私と和泉先輩の出会いだった。




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