旦那ちゃんと嫁ちゃん〜日本一の石段にチャレンジする〜
50代の旦那ちゃん、嫁ちゃんが日本一の階段に挑むドキュメント。
その階段は熊本県美里町にあり、実に3333段という石段なのである。
12月中旬のある日、旦那ちゃんと嫁ちゃんは、山奥深いところにある、その日本一の階段を前にしていた。
この2人、実は40代の頃に登っており、今回は50代でのチャレンジとなるのであった。
かねてより、50、60、70代と年を重ねる毎に登ってみようという話をしていての今日である。
前日、旦那ちゃんは仕事、コンディションは普通、嫁ちゃんは友達と福岡市内でクリスマスマーケットを堪能し帰宅後は寝付けず調子はあまり良くない状態だった。
11時半より挑戦開始、100段登ったあたりでふたりとも、息があがってしまう。
そんな中、階段を降りてくる人を見て驚愕、ダンベルを両手に持つ、ムキムキおじさんが・・・。
「凄いですね」
「はははっ!みなさんも頑張ってください。私は家族に迷惑をかけないよう鍛えております」
「はあ」
颯爽と去っていくダンベルおじさん。
野球部のユニフォームを着た子どもたちは、元気に地獄階段を往復している。
そんな兵揃いのチャレンジャーたちにふたりは即自信を無くした(笑)。
200段目にあるトイレで用を足をたす、ふたりだが室内は照明がついてなく、ちょっとしたホラー感があった。
旦那ちゃんがトイレから戻ってくると、
「真っ暗で便器に座ったら頭がグラッときたんよ。私、全部のぼれんかもしれん」
と、弱気な嫁ちゃん。
「じゃあ、行けるとこまで行こうか」
「うん」
再びのぼりだす、ふたりだが、その足取りは重い。
500段目、
「駄目かも〜」
「とりあえず1000段は目指そうか」
「おっけー」
800段目、
「私、1000段のところで判断するね」
「分かった」
そして、1000段目、休憩所のベンチに腰をかけた嫁ちゃんは一言、
「勇気ある撤退をします」
「分かった。じゃあ、俺は登るね」
「勿論、せっかく来たんだもん」
「んじゃ、無事に降りたらラインで知らせて、こっちも現在地知らせるから」
「はい。メインは結婚10周年記念だから、この後、泊まる旅館の豪華ディナーでおえっ!てなりたくもないからね」
「・・・ゆっくり車の中で休んで」
「らじゃ」
こうしてリタイアおばさんこと嫁ちゃんは、ベンチにへたり込み、旦那ちゃんに手を振って見送るのであった。
旦那ちゃんは、ひとりぼっちとなった寂しさを感じつつ、頂上を目指し登り続ける。
12 月の生憎の曇り空、暖冬とはいえ高い場所は当然冷える。
寒風が吹き、旦那ちゃんは薄着で来たことを後悔した。
しかも、このやべぇ階段はそれだけではなく、所々斜路にもなっていて、そこには妙に厚みがあって幅のある石畳が点在しており、中年には絶妙にキツイのである、それを避けようと端の舗装されていない土の道を行こうとすると剥き出しの根っ子に足が引っ掛かるというトラップつきなのである。
旦那ちゃんは1500段を越えたあたりで、息があがり苦しくなる。
(ワシも無理かも)
と思い、途中でベンチに腰掛け、コンビニで買った、おにぎりとアクエリアスを飲み、リフレッシュをすると、少しだけ回復した。
あとは、一歩、一歩、踏みしめ足をあげるのみ。
2000段を越え、2900段まで来ると、嫁ちゃんからラインがあり、無事に降りたことが伝わる。
旦那ちゃんは了解のメールと2900段の石碑を写メして送り返す。
(あと、少し)
憂いも無くなり、ここまで来れば、自然と足も動く、旦那ちゃんは見事に3333段を踏破したのだった。
そこから旦那ちゃんはぽっくり寺(苦しまずぽっくり逝けるという伝えがある)の釈迦院まで歩くが、これまた結構離れており、いつ辿り着くのかと不安になりながら歩く。
標高も上がって、かなり寒く霧まで立ち込め、のぼり道に下り道、幟と看板を目印に歩く。
(こんなに離れてたっけ)
人通りも少なく不安になる旦那ちゃん。
階段をクリアして歩くこと15分、鬱蒼とした道から急に拓けたところに古びたお寺は前回と同じくあった。
おまいりをして御守りと御朱印げっとした旦那ちゃんは踵を返し、また来た道を戻る。
当然、登ったのなら降りなくてはならないので、今度は3333段下ることになる。
そろそろ膝も笑いはじめて、足がもつれないようにと慎重に足を動かす旦那ちゃん。
後続の人に抜かれようともセーフティNo.1なのだ。
しかも石段をよく見ると、薄っすら凍っている部分もあり、やべぇやべぇと下っていると、さっきからおしっこしたいと膀胱が限界突破に近づいていた。
旦那ちゃんは薄暗いトイレを見つけると、駆けこみ、ギリギリセーフで用を足すと、室内に灯りはついており、安心したのか便意まで訪れ、ぶりぶり〜と両出ししてしまう。
すると、壁の張り紙に気付く。
(バイオトイレだとう。便器内のおがくずで撹拌するだとう。なんという初体験の便所やん)
旦那ちゃんは、ちょいテンションが上がりつつ、全ての用を足して、スイッチボタンを押すと、うぃーんとおがくずがミキサーみたいに撹拌されていく。
(グッバイ、し◯こ&う◯ち)
身も心も軽やかになった旦那ちゃんは、ペースを少し上げつつ、残り100段まで来る。
すると、ラインで連絡をとっていた、リタイアおばさんこと、嫁ちゃんが旦那ちゃんを迎えに来てくれていた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
なんとなくほっとする旦那ちゃんと、
「これで私は1100段ね」
と、笑顔をみせる嫁ちゃん。
「これは嫁ちゃん、リベンジ案件だね」
「うん、また来よう」
時刻は14時半、およそ3時間の激闘であった。
・・・速い人は片道30分くらいで、登れることは内緒だぞ(笑)。
無事が一番。




