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第三部

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【第三部】 開始   五章  絡む線と浮かぶ点 4


冬だった。


原沢が狩野学園の小学部に入学が決まり、新しいランドセルが届いた日。

誰よりも兄に見てもらいたくて、兄がランニングに出かけた後を、原沢は追いかけた。

いつもなら、信号のある横断歩道を渡っていた場所。

走る兄の背中を見つけたとたん、原沢は道路を横切った。


悲劇は直後に起こった。


「れん、危ない!」


スピードを出していた小型トラックに、原沢は跳ねられそうになる。

原沢をかばった兄が、代わりに轢かれた。


父も母も、原沢を責めなかった。

それよりも、意識不明の重体になった、兄の看護が急務だった。


桜咲く時期に、兄は退院した。


将来を嘱望されていた、ランナーとしての兄の人生は終わっていた。

原沢の入学式にも、両親は兄の世話で忙殺されていた。

原沢は、両親が自分を許していないと思った。

きっと

兄も。


原沢は一人、学校に通い始める。


裕福な子弟が通う小学部。

一年生の児童はみな、親が付き添って通学したり、車で送迎されたりしていた。

原沢には、眩しい光景だった。


特に同じクラスの藤影という児童は、翳りがまったくない表情をしていた。

原沢の父が勤める会社の、一番偉い人の息子だと父から聞かされた。

聞いた時から、原沢は藤影恭介が嫌いになった。


学校では、新堂侑太という少年が、よく恭介に絡んでいた。

侑太の目は、原沢と同じような昏さがあった。

原沢はすぐに、侑太とつるむようになる。


「なんで、僕のこと、嫌いだったの?」


原沢の脳裏に、小学一年生時代の恭介が語りかける。

くもりのない瞳は、あの時分そのままだ。

これは幻想なのだろう。

恭介はもう、海に消えたのだから。


幻想でもいいか、と原沢は思う。

すべてなくした。

自分で消した。


兄も

兄の未来も

原沢の未来も…


だから、少しだけ、脳内の幻想に付き合うことにした。


蹲っていた原沢は、顔を上げ、恭介を見つめる。


「だって、藤影、お前は幸せそうだったから」


恭介は、悲しそうな、どこか憐れむような顔をする。

その表情が兄に似ていた。

原沢に刺さる、棘のような痛み。


「俺はずっと不幸だった」

「君は、あんなに早く走ることが出来て、表彰もされていたのに?」


「あんなのはまやかしだ! 俺はにいちゃんみたいな才能はない!」


どんなに称賛されても、原沢の心は満たされなかった。

だから、もういい。

もう疲れた。

もう生きていく意味がない。


「藤影、俺も、じき死ぬよ」


恭介の脳に軽い衝撃が生じた。

「死ぬ」と言った原沢は、微かに笑っていた。


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